お待ちください。宰相閣下!!

cyaru

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進化したエリック

そして迎えた休日。前の夜に「明日のお召し物はこちらに」と順番に並べてくれてあった通りに服を着て、クラリスの部屋の扉をノックする。

コンコン

返事がない。もう一度ノックをするが返事がない。
今日はクラリスも休日である。まだ寝ているかもと思ったが時間は昼の10時過ぎ。
おかしいなと思っていると扉が開く。

「おはようクラリス‥‥あれ?どうした?」

まだ寝間着のままで厚手のガウンを羽織り、顔色が悪い。まるでバルゼー提督である。
ふと額に手をやると【熱い】手も握ってみると【熱い】

「おはようございます‥‥申し訳ございません。本日は…」
「すまないっ!我慢してくれ!」

フラフラになりながら、寝台から起きて扉を開けにきたのであろう。
エリックはクラリスを横抱きにする。

「お、おまちください…宰相‥閣下…」
「何も言うな。直ぐに医者を呼んでくる」
「いえ、ご迷惑をおかけするわけには…」
「迷惑ではない。すまない。寝台から出て寒かっただろう?」

クラリスを寝かせると、エリックは医務課に走る。廊下は走ってはいけないが走る。
医者を連れてくると、【過労】と【粉塵の吸い込みで気管支炎に炎症あり】と言われてしまった。

「3,4日はゆっくり休ませてやって、栄養のあるものを食べるように」

医者はエリックに告げると帰っていく。
栄養のあるもの…そう考えてエリックは馬車を出し市井に向かった。
市場で一通り思いつくままに食材を買い込んでいく。

「これを王宮に届けてくれないか」

久しぶりの宅配を頼んでしまうほどにエリックは焦ってしまっている。
だが、市場のおばちゃんにあっさり断られる。

「この牛は売り物じゃないよ。荷物を引く大事な牛だから売れないよ」

まさかの牛車。
しかしエリックはめげない。病人に必要だと思うものを片っ端から買っていく。
1個じゃ配達は無理と言われると必殺の大人買いである。

しかし、この買い物。吉と出るか凶と出るか。


2人は休日なので食堂を担当する係も早々と帰ってしまった19時過ぎ。

「あっ…クラリス。気分はどうだ?」
「すみません。今は何時でしょうか」
「19時を少し過ぎたくらいだ。今週いっぱいは休んでいいからね」
「それは出来ません。明日から仕事は致します」
「それは上司として許可できない。君の療養休暇は出してあるから休むんだ」

食堂の係から「熱があるなら水分を取らせて」と言われたエリックは早速果実水を作り始める。

「確か…レモンを入れて…蜂蜜だったな」

しかし、レモンを半分にしたり輪切りにするという事を知らないエリック。

「フンッ!!」 グジャッ!! ボトトト‥‥。

思い切りレモンを握り潰し、間違いなく果汁100%のレモン果汁を製作。
そこに蜂蜜をお玉で3回瓶からかきだす。

激甘の蜂蜜にレモン風味のシロモノが出来上がる。
クラリスの寝台の周りはレモンの果汁が飛び散り、蜂蜜も零れてベトベトである。

「おかしいな…もっと水っぽかったと思ったんだが」

そう言って厨房に行くと水を持ってくる。
先ほどの【蜂蜜レモン風味】の中に水を注ぎこむ。

さながら、目隠しをして水遊びをしている状態になってしまう。
そして、水分をよくとるようにと言われていた。

「よし出来た。クラリス。水分補給は大事だ」

【お待ちください!!宰相閣下!】

「どうした?」

「ピッチャーでは飲めません!!」

確かに。ピッチャーでは飲めない。
エリックは「コップを持ってくる」と厨房に走る。
しかし、厨房にコップはない。エリックは周りを見渡す。

あった!

急いでクラリスの部屋に戻り、手渡す。

【お待ちください!!宰相閣下!】
「どうした?」
「これは計量カップです。コップでは御座いません」

起き上がってコップを取りに行こうとするクラリスを必死に止めるエリック。

「クラリスっ。大丈夫だ僕しか見てない。これで飲むんだ」

――ピッチャーで飲めと?ゴフっと被ってしまいますよ!――

「大丈夫だ。僕がちゃんと支えるから」

計量カップで飲むよりはマシかなと熱で浮かされていたのだろう。クラリスは折れた。
人生初の底に蜂蜜が沈んだ酸っぱさが際立つ水をピッチャーで飲む。

「ゴホッゴホッ…」
「だ、大丈夫か?…」
「え、えぇ…酸っぱいだけなので」

間違いではない。レモンを直接齧らないだけまだ酸っぱさは控えめだ。
せめてマドラーで蜂蜜を掻きませてくれれば‥‥いや。ダメだ。

マドラー探しで厨房がとんでもない事になる

クラリスは蜂蜜の甘さを感じるまでには2リットルほどを飲み干さねばならない。
その上、実験が失敗したようになった寝台の周り。
必死になっているエリックを見て思わず笑ってしまった。

――可愛い人だなぁ――

病んでいるのではない。いや、病んでいるのだが、病み違いである。

「お掃除が大変ですが…ありがとうございます」
「いや…えっ?掃除?‥‥」

周りを見渡すエリック。確かに酷い惨状である。
少し考えて、その夜はクラリスを自分の寝台に寝かせるとエリックはソファで眠った。


翌日、目が覚めたエリックは寝台ですやすやと眠るクラリスを起こさないように一人で準備を始めた。
人類が猿人類からの進化を遂げたかのようである。

滅茶苦茶な装いであったため、次官から注意を受けてしまった。

「閣下、ちゃんとしないとルテシア女官、休めないですよ」

と言われエリックは一念発起したのである。手には一冊の本を持っている。
休憩時間に熟読するエリック。

【ぼく!ひとりでできたよ!】

幼児用の教本である。1人で歯磨き。1人で湯あみ。1人で着替え。
エリックの奮闘が始まったのである。

ひとえに【クラリスを休ませる】のが目標である。
今は休む時。自分の為にクラリスを呼んではいけないのだ。


「あの、閣下。ボタンが掛け違えておられます」
「えっ?どこのボタンだ?」
「シャツのボタンが…」

「閣下、上着は背中が隠れるように着ないといけません」
「やはりそうか…腕が動かしにくいと思ってたんだ」

「閣下、靴下の色が違いませんか?」
「履くだけではだめなのか」

「閣下、書類はファイルに閉じてください」
「頭に入れたが‥‥そうだったな。ファイルに閉じるんだったな」


湯あみも一人で行うため、湯殿は水浸しになってしまったり、シャンプーで歯磨きをしたりとしてしまう始末である。

「クラリス!ちゃんと湯あみもした。髪も洗えてると思う」
「ちゃんと乾かさないといけないですよ。風邪を引いてしまいます。この傷はどうされたのです?」

【軽石で擦ったら血が出た】

――軽石で洗顔をしようとするその心意気はどこから?――


「大丈夫だ。風邪は引いた事がない。それと!ちゃんと服も自分で用意を出来るぞ」
「そうですね…ですがワイシャツにスエットズボンはどうかと‥‥」
「そうか?難しいな。着るだけではダメなのか」

クラリスが寝込んでしまって休んでいる間にエリックは少しだけ成長をしたのだ。

復帰したクラリス。
進化を遂げたエリックに就業後、食事に誘われる。

「クラリス。快気祝いに食事をご馳走したいんだが…いいだろうか」
「そうですね。コースは無理ですが軽めのものなら」
「ホントに!行ってくれるの?」
「いいですよ。非常の鐘の音がならないうちに参りましょうか?」


エリックはクラリスに手を差し出し、エスコートをする。
仲良く出かける2人だが‥‥あの2人と遭遇する事になろうとは今は知る由もない。
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