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執事のつぶやき
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宿屋の食堂に向かう王太子殿下。
突然の貸し切り状態の宿屋は昨日の夕方、大慌てでございました。
高級の部類に入るこの宿屋は通常は予約客でおもてなしを致します。
ですが昨日は様相が違っておりました。
なんせ朝から多くのご令嬢たちが飛び込みで宿泊をしたいと押しかけておりました。
その原因が新規OPENの店だと知ると、ちょっと割高なお値段で交渉をしようとしたところに王太子殿下の部下が早馬でやってきて宿泊をすると・・・。
流石に王族を断る事は出来ませんが、ちゃっかり者の女将は通常料金の2.5倍で宿屋を貸し切りにし、王太子殿下を迎えます。
ブーイングのご令嬢たちは親類が経営している宿屋に案内をして仲介手数料を取る女将。
商魂たくましいですね。
「ジェームス、ここの街は若い女性が多いんだね」
「いえ…どちらかと言えば高齢者が人口の6割を占めておりますので若い子は少ないはずです」
「ふーん…君、何か知ってる?」
王太子殿下は食事を運んできた女中にニコリと問いかけます。
「本日はこの近くにアイドルグッズを取り扱うお店がOPENするのです。年配者向けには王都の物産展もありますのでここ3日ほどは人が多くなっております」
「なるほど。で?君は行かないのかい?」
「わたくしは、仕事がございますし、どちらかというと…」
ポっと頬を赤らめる女中さん。
ジェームスはあぁ、この娘も王太子殿下に…っと思いますが
「わたくしは、詩吟のイブーシルバー様が好きなのでアイドルには興味がないのです」
ジェームスは思わず渋すぎる女中に魅入ってしまいます。
イブーシルバーと言えば、詩吟の申し子と言われもう50年以上詩吟界のトップに君臨しています。
その容姿はまさにニャポン瓦のようないぶし銀。渋すぎる趣味に思わす唸ります。
「でも凄いね。そんなに有名なアイドルなんだね」
「隣国のショターズという事務所に所属する男の子達ですわ」
「そうなんだね。名前は聞いた事はあるよ」
「女性だけでなく、男性の方にもファンが多いようですよ。殿下も覗かれてみては?」
「わたしは遠慮しておくよ。もっと会いたい人がいるのでね」
「そうですか。嬉しい号外が出るのを楽しみにしております。では、ごゆっくり」
女中の言葉に気をよくした王太子殿下。
特産の野菜をふんだんに使った朝食に舌鼓を打ちましたよ。
「今日はチョイス伯爵の元に書簡が届くと思うんだが大丈夫だろうか」
「ここのところ天候も良かったですし、昼には届くかと」
「いよいよ明日だね。びっくりするかな」
「そりゃするでしょう。返事を出す前に殿下が来たら心臓止まるかも知れません」
「それは困るね。変装でもしようか。あのアイドルにでも」
「おやめください。勘違いしたご令嬢を侮ってはいけませんよ」
ですが、どんどん増えてくるご令嬢たちが宿屋の窓を見る殿下の好奇心をくすぐります。
「ちょっとそのアイドルを見てみたいね」
「ご当人は来ないと思いますよ」
「来ない?どうしてご令嬢たちはあんなに?会いに来たんじゃないのか?」
「グッズですよ。なかなか販売許可を経営認可課がおろしませんでしたからね」
「へぇ…本人が来なくてもこんなに集まるんだね」
「そうですね。彼女たちにとっては心の恋人でもありますしペンの一つでも喜びますから」
「そうだね。僕もローゼ嬢とのあの日の思い出だけで胸がいっぱいになるよ」
思わず手が止まるジェームス。ポツリと呟きます。
「殿下は単に拗らせて、どんどん美化してる気もしますけどもね」
ジェームスの淹れてくれたお茶の香りを愉しみながら王太子殿下は決めました。
「ちょっと行ってみよう。どうせ今日はまだエール領なんだ。父上に土産話になるかも知れない」
「承知いたしました。ですが、危険なのでご令嬢には近づかれませんよう」
「そうだね。僕を見つけたら騒ぎになるからね」
「いいえ、今日に限っては殿下を見つけて騒ぐのはご年配の方でしょう。年若いご令嬢は違うと思います」
「えっ?そうなの??」
「おそらく開店になるとご令嬢は本能をむき出しにして突進すると思われます。危険ですので」
「突進?」
「はい、売り場まではヌーの大群が走り抜けるでしょう」
「ヌー‥‥そうか、彼女たちは予備軍なんだね」
かの日のオバちゃんの群れを思い出す王太子殿下でした。
突然の貸し切り状態の宿屋は昨日の夕方、大慌てでございました。
高級の部類に入るこの宿屋は通常は予約客でおもてなしを致します。
ですが昨日は様相が違っておりました。
なんせ朝から多くのご令嬢たちが飛び込みで宿泊をしたいと押しかけておりました。
その原因が新規OPENの店だと知ると、ちょっと割高なお値段で交渉をしようとしたところに王太子殿下の部下が早馬でやってきて宿泊をすると・・・。
流石に王族を断る事は出来ませんが、ちゃっかり者の女将は通常料金の2.5倍で宿屋を貸し切りにし、王太子殿下を迎えます。
ブーイングのご令嬢たちは親類が経営している宿屋に案内をして仲介手数料を取る女将。
商魂たくましいですね。
「ジェームス、ここの街は若い女性が多いんだね」
「いえ…どちらかと言えば高齢者が人口の6割を占めておりますので若い子は少ないはずです」
「ふーん…君、何か知ってる?」
王太子殿下は食事を運んできた女中にニコリと問いかけます。
「本日はこの近くにアイドルグッズを取り扱うお店がOPENするのです。年配者向けには王都の物産展もありますのでここ3日ほどは人が多くなっております」
「なるほど。で?君は行かないのかい?」
「わたくしは、仕事がございますし、どちらかというと…」
ポっと頬を赤らめる女中さん。
ジェームスはあぁ、この娘も王太子殿下に…っと思いますが
「わたくしは、詩吟のイブーシルバー様が好きなのでアイドルには興味がないのです」
ジェームスは思わず渋すぎる女中に魅入ってしまいます。
イブーシルバーと言えば、詩吟の申し子と言われもう50年以上詩吟界のトップに君臨しています。
その容姿はまさにニャポン瓦のようないぶし銀。渋すぎる趣味に思わす唸ります。
「でも凄いね。そんなに有名なアイドルなんだね」
「隣国のショターズという事務所に所属する男の子達ですわ」
「そうなんだね。名前は聞いた事はあるよ」
「女性だけでなく、男性の方にもファンが多いようですよ。殿下も覗かれてみては?」
「わたしは遠慮しておくよ。もっと会いたい人がいるのでね」
「そうですか。嬉しい号外が出るのを楽しみにしております。では、ごゆっくり」
女中の言葉に気をよくした王太子殿下。
特産の野菜をふんだんに使った朝食に舌鼓を打ちましたよ。
「今日はチョイス伯爵の元に書簡が届くと思うんだが大丈夫だろうか」
「ここのところ天候も良かったですし、昼には届くかと」
「いよいよ明日だね。びっくりするかな」
「そりゃするでしょう。返事を出す前に殿下が来たら心臓止まるかも知れません」
「それは困るね。変装でもしようか。あのアイドルにでも」
「おやめください。勘違いしたご令嬢を侮ってはいけませんよ」
ですが、どんどん増えてくるご令嬢たちが宿屋の窓を見る殿下の好奇心をくすぐります。
「ちょっとそのアイドルを見てみたいね」
「ご当人は来ないと思いますよ」
「来ない?どうしてご令嬢たちはあんなに?会いに来たんじゃないのか?」
「グッズですよ。なかなか販売許可を経営認可課がおろしませんでしたからね」
「へぇ…本人が来なくてもこんなに集まるんだね」
「そうですね。彼女たちにとっては心の恋人でもありますしペンの一つでも喜びますから」
「そうだね。僕もローゼ嬢とのあの日の思い出だけで胸がいっぱいになるよ」
思わず手が止まるジェームス。ポツリと呟きます。
「殿下は単に拗らせて、どんどん美化してる気もしますけどもね」
ジェームスの淹れてくれたお茶の香りを愉しみながら王太子殿下は決めました。
「ちょっと行ってみよう。どうせ今日はまだエール領なんだ。父上に土産話になるかも知れない」
「承知いたしました。ですが、危険なのでご令嬢には近づかれませんよう」
「そうだね。僕を見つけたら騒ぎになるからね」
「いいえ、今日に限っては殿下を見つけて騒ぐのはご年配の方でしょう。年若いご令嬢は違うと思います」
「えっ?そうなの??」
「おそらく開店になるとご令嬢は本能をむき出しにして突進すると思われます。危険ですので」
「突進?」
「はい、売り場まではヌーの大群が走り抜けるでしょう」
「ヌー‥‥そうか、彼女たちは予備軍なんだね」
かの日のオバちゃんの群れを思い出す王太子殿下でした。
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