わたしの王子様

cyaru

文字の大きさ
8 / 33

遠くに行きたい

しおりを挟む
知恵をフル動員してクリスティナは考えています。

「う~ん‥‥どうするべきか」
「どうされたのですか?随分お悩みのようですね」

図書資料庫で悩んでいると読んでいる本の内容だと思ったのか執事のロクサーヌが覗き込んできます。

「ねぇロクサーヌ」
「なんでございますか?」
「しばらくどっかに引っ越しするとか予定はないのかしら」
「御座いませんね」
「領ってあそこしかないのかしら」
「御座いませんね」
「うーん‥‥困ったなぁ」

執事のロクサーヌはクリスティナの頭を優しくポンポンと撫でるようにします。

「お嬢様はどこか遠くに行きたいのですか?」
「そうね。出来れば18歳いや、19歳の誕生日まででいいんだけど」
「10年計画でございますか。なかなか壮大な計画で御座いますね」

飲みかけのオレンジティーを温かいローズティーとそっと入れ替えながらロクサーヌはクリスティナが書いたメモに目線を落としています。

「ねぇロクサーヌ」
「何でございましょうか」
「王子様とさぁ…」
「ご縁を持たれたいのですか?」
「逆よ!ブチっと切りたいの。何があっても交わらないように」
「おや?お嬢様は王子様は嫌いなのですか」
「大っ嫌い。顔も見たくない。死んじゃえばいい」
「その発言は聞かなかった事にしますね」

そっとクリスティナにローズティーを差し出しながら読み終わった本を纏めて本棚に戻しているロクサーヌを見てクリスティナは小さくため息を吐きます。

「どっか遠くに行きたいなぁ」
「それはご旅行に行きたいと?」

本棚にタイトルを見ながら本を戻していくロクサーヌ。
ローズティーをそっと口に含むクリスティナを見て微笑みます。

「お嬢様の所作は本当に優雅になりましたね」
「えっ??」

やはり意識をしていなくてもカップを持つ角度や飲み方、置き方どれもが前世の賜物状態です。

「大奥様に相談をされてみてはどうでしょうか」
「大奥様‥‥お婆様??」
「でも、お婆様はとっても厳しいんだもの」

クリスティナの母方の祖母はとても厳しい女性で前世では叱られた記憶しかありません。

「今のお嬢様の所作、マナーなら何も言われないと思いますよ」
「そんなわけない。お婆様は‥‥厳しいもの」
「ですが、行ってみる価値はあるとこのロクサーヌは思いますよ」
「そうかなぁ」
「えぇ。それにしばらくお顔も見せてはおられないでしょう?」

頭の中で思い浮かべる祖母はいつも怒っているのでブンブンと首を振ります。
しかし、祖母のある言葉を思い出します。

「王立女学院!!」

ガタンっと椅子を倒して立ち上がるクリスティナに思わず驚くロクサーヌですが、早速何かを始めようと片づけを始めるクリスティナを優しい目で見つめています。

☆~☆~☆~☆

ガタゴトと揺られる馬車に乗っているのはクリスティナ1人。
同じ貴族街に住んでいるので歩いてでも行けるのですが、前世の経験からどんなに近くても馬車を使います。
勿論訪問する1週間前には手紙を出して、許可の返事を受け取っての行動です。

「お婆様は本当に細かいのよね」

歩いて15分。馬車なら30分という逆転してしまう時間です。
何故か?それは歩けば馬車の通れない近道を通りますが馬車はそうもいきませんからね。

祖父母の住む屋敷はもう現役を引退しているので使用人は多くありません。
ですが、庭園の手入れが好きな祖父がいつも手入れをしているので門道には花が咲き誇っています。

ガタンと馬車が止まり、小窓を見ると祖父母と2人の使用人が立っています。
ゆっくり扉を開けて、ステップを静かに下り、その場で軽めのカーテシーをします。
その後、ゆっくりと歩いて祖父母の前に行き、先程よりも深いカーテシーをするのです。

「お爺様、お婆様ご機嫌麗しゅうございます。この度は突然の訪問を許可頂きクリスティナ。誠に嬉しゅうございます」

「おぉクリス!少し見ない間に立派なレディになったね」
「えぇ。クリス。とても良かったですよ。さぁあなたの好きなお菓子を用意しているわ」
「はい。お爺様、お婆様。ありがとうございます」

うんうんと頷く祖母を見て、心でグっとガッツポーズを決めるクリスティナ。
祖父母の後をついて屋敷の中に入っていきます。

出されたお茶も前世の賜物。優雅に決めると祖母は何も言わないどころか目を丸くして驚いています。

「クリス?講師の先生を変えたの?」
「いいえ?以前からのジョゼ先生ですわ」
「そう…それにしても…その所作なら何処に出ても恥かしくなくてよ」
「褒めすぎですわ。お婆様(よっし!いい感じぃ)」
「今日は何かあったの?突然1人で来るだなんて」
「実は、お婆様にお願いがあるのです」

クリスティナはカップを置き、手を膝の上にギュっと握って祖父母を真っ直ぐに見つめます。

「わたくし、お婆様と同じ王立女学院に進みたいのです」
「えっ?で、でもそれでは王族の方との交流は持てないぞ?」
「そうよ。特にあなたは第一王子殿下と年齢が同じ。見初めて頂ければ‥」
「いいえ。わたくしはそれよりも王立女学院のほうが魅力的なのです」
「で、でも今のあなたの所作や話し方などならわざわざ学ばなくても…」

王立女学院はいうなれば王女様専用の学校です。
一般の貴族の令嬢であれば言うなれば花嫁修業をする場のようなもの。
女学院とあって当然男子生徒はいませんし、講師も全て女性講師です。
通学は馬車のみと決められており、放課後の寄り道も禁止されています。
厳格な学院なので、生徒のほとんどは婚約者が決まっている令嬢が通います。

前世で行っていたのは王立学園。こちらは共学です。
女学院ほど高度ではありませんが淑女科があります。
婚約者同士で通学できたり、騎士科もあるので婚約者を探す事もしやすいですね。
女学院ほど校則は厳しくはありません。

「ねぇクリス?あなたは第一王子殿下と同じ年齢よ?多分その年の女学院は入学者は少ないと思うわ」
「そうだよ。クリスにはまだ婚約者もいないだろう?」
「婚約者ではなのです。より洗練されたマナーを厳しい環境で学びたいのです」
「そうなの‥‥でもお父様、お母様には話をしたの?」
「いいえ。反対されると思います。なのでお爺様、お婆様に助けて頂きたいのです」

変な事を言い出す娘だわとでも言いたげな祖母。
でもまぁ、変な男には引っ掛からないだろうと頷く祖父。
クリスティナはその後も熱弁し、祖父母を味方に取り付けました。
しおりを挟む
感想 82

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...