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遠くに行きたい
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知恵をフル動員してクリスティナは考えています。
「う~ん‥‥どうするべきか」
「どうされたのですか?随分お悩みのようですね」
図書資料庫で悩んでいると読んでいる本の内容だと思ったのか執事のロクサーヌが覗き込んできます。
「ねぇロクサーヌ」
「なんでございますか?」
「しばらくどっかに引っ越しするとか予定はないのかしら」
「御座いませんね」
「領ってあそこしかないのかしら」
「御座いませんね」
「うーん‥‥困ったなぁ」
執事のロクサーヌはクリスティナの頭を優しくポンポンと撫でるようにします。
「お嬢様はどこか遠くに行きたいのですか?」
「そうね。出来れば18歳いや、19歳の誕生日まででいいんだけど」
「10年計画でございますか。なかなか壮大な計画で御座いますね」
飲みかけのオレンジティーを温かいローズティーとそっと入れ替えながらロクサーヌはクリスティナが書いたメモに目線を落としています。
「ねぇロクサーヌ」
「何でございましょうか」
「王子様とさぁ…」
「ご縁を持たれたいのですか?」
「逆よ!ブチっと切りたいの。何があっても交わらないように」
「おや?お嬢様は王子様は嫌いなのですか」
「大っ嫌い。顔も見たくない。死んじゃえばいい」
「その発言は聞かなかった事にしますね」
そっとクリスティナにローズティーを差し出しながら読み終わった本を纏めて本棚に戻しているロクサーヌを見てクリスティナは小さくため息を吐きます。
「どっか遠くに行きたいなぁ」
「それはご旅行に行きたいと?」
本棚にタイトルを見ながら本を戻していくロクサーヌ。
ローズティーをそっと口に含むクリスティナを見て微笑みます。
「お嬢様の所作は本当に優雅になりましたね」
「えっ??」
やはり意識をしていなくてもカップを持つ角度や飲み方、置き方どれもが前世の賜物状態です。
「大奥様に相談をされてみてはどうでしょうか」
「大奥様‥‥お婆様??」
「でも、お婆様はとっても厳しいんだもの」
クリスティナの母方の祖母はとても厳しい女性で前世では叱られた記憶しかありません。
「今のお嬢様の所作、マナーなら何も言われないと思いますよ」
「そんなわけない。お婆様は‥‥厳しいもの」
「ですが、行ってみる価値はあるとこのロクサーヌは思いますよ」
「そうかなぁ」
「えぇ。それにしばらくお顔も見せてはおられないでしょう?」
頭の中で思い浮かべる祖母はいつも怒っているのでブンブンと首を振ります。
しかし、祖母のある言葉を思い出します。
「王立女学院!!」
ガタンっと椅子を倒して立ち上がるクリスティナに思わず驚くロクサーヌですが、早速何かを始めようと片づけを始めるクリスティナを優しい目で見つめています。
☆~☆~☆~☆
ガタゴトと揺られる馬車に乗っているのはクリスティナ1人。
同じ貴族街に住んでいるので歩いてでも行けるのですが、前世の経験からどんなに近くても馬車を使います。
勿論訪問する1週間前には手紙を出して、許可の返事を受け取っての行動です。
「お婆様は本当に細かいのよね」
歩いて15分。馬車なら30分という逆転してしまう時間です。
何故か?それは歩けば馬車の通れない近道を通りますが馬車はそうもいきませんからね。
祖父母の住む屋敷はもう現役を引退しているので使用人は多くありません。
ですが、庭園の手入れが好きな祖父がいつも手入れをしているので門道には花が咲き誇っています。
ガタンと馬車が止まり、小窓を見ると祖父母と2人の使用人が立っています。
ゆっくり扉を開けて、ステップを静かに下り、その場で軽めのカーテシーをします。
その後、ゆっくりと歩いて祖父母の前に行き、先程よりも深いカーテシーをするのです。
「お爺様、お婆様ご機嫌麗しゅうございます。この度は突然の訪問を許可頂きクリスティナ。誠に嬉しゅうございます」
「おぉクリス!少し見ない間に立派なレディになったね」
「えぇ。クリス。とても良かったですよ。さぁあなたの好きなお菓子を用意しているわ」
「はい。お爺様、お婆様。ありがとうございます」
うんうんと頷く祖母を見て、心でグっとガッツポーズを決めるクリスティナ。
祖父母の後をついて屋敷の中に入っていきます。
出されたお茶も前世の賜物。優雅に決めると祖母は何も言わないどころか目を丸くして驚いています。
「クリス?講師の先生を変えたの?」
「いいえ?以前からのジョゼ先生ですわ」
「そう…それにしても…その所作なら何処に出ても恥かしくなくてよ」
「褒めすぎですわ。お婆様(よっし!いい感じぃ)」
「今日は何かあったの?突然1人で来るだなんて」
「実は、お婆様にお願いがあるのです」
クリスティナはカップを置き、手を膝の上にギュっと握って祖父母を真っ直ぐに見つめます。
「わたくし、お婆様と同じ王立女学院に進みたいのです」
「えっ?で、でもそれでは王族の方との交流は持てないぞ?」
「そうよ。特にあなたは第一王子殿下と年齢が同じ。見初めて頂ければ‥」
「いいえ。わたくしはそれよりも王立女学院のほうが魅力的なのです」
「で、でも今のあなたの所作や話し方などならわざわざ学ばなくても…」
王立女学院はいうなれば王女様専用の学校です。
一般の貴族の令嬢であれば言うなれば花嫁修業をする場のようなもの。
女学院とあって当然男子生徒はいませんし、講師も全て女性講師です。
通学は馬車のみと決められており、放課後の寄り道も禁止されています。
厳格な学院なので、生徒のほとんどは婚約者が決まっている令嬢が通います。
前世で行っていたのは王立学園。こちらは共学です。
女学院ほど高度ではありませんが淑女科があります。
婚約者同士で通学できたり、騎士科もあるので婚約者を探す事もしやすいですね。
女学院ほど校則は厳しくはありません。
「ねぇクリス?あなたは第一王子殿下と同じ年齢よ?多分その年の女学院は入学者は少ないと思うわ」
「そうだよ。クリスにはまだ婚約者もいないだろう?」
「婚約者ではなのです。より洗練されたマナーを厳しい環境で学びたいのです」
「そうなの‥‥でもお父様、お母様には話をしたの?」
「いいえ。反対されると思います。なのでお爺様、お婆様に助けて頂きたいのです」
変な事を言い出す娘だわとでも言いたげな祖母。
でもまぁ、変な男には引っ掛からないだろうと頷く祖父。
クリスティナはその後も熱弁し、祖父母を味方に取り付けました。
「う~ん‥‥どうするべきか」
「どうされたのですか?随分お悩みのようですね」
図書資料庫で悩んでいると読んでいる本の内容だと思ったのか執事のロクサーヌが覗き込んできます。
「ねぇロクサーヌ」
「なんでございますか?」
「しばらくどっかに引っ越しするとか予定はないのかしら」
「御座いませんね」
「領ってあそこしかないのかしら」
「御座いませんね」
「うーん‥‥困ったなぁ」
執事のロクサーヌはクリスティナの頭を優しくポンポンと撫でるようにします。
「お嬢様はどこか遠くに行きたいのですか?」
「そうね。出来れば18歳いや、19歳の誕生日まででいいんだけど」
「10年計画でございますか。なかなか壮大な計画で御座いますね」
飲みかけのオレンジティーを温かいローズティーとそっと入れ替えながらロクサーヌはクリスティナが書いたメモに目線を落としています。
「ねぇロクサーヌ」
「何でございましょうか」
「王子様とさぁ…」
「ご縁を持たれたいのですか?」
「逆よ!ブチっと切りたいの。何があっても交わらないように」
「おや?お嬢様は王子様は嫌いなのですか」
「大っ嫌い。顔も見たくない。死んじゃえばいい」
「その発言は聞かなかった事にしますね」
そっとクリスティナにローズティーを差し出しながら読み終わった本を纏めて本棚に戻しているロクサーヌを見てクリスティナは小さくため息を吐きます。
「どっか遠くに行きたいなぁ」
「それはご旅行に行きたいと?」
本棚にタイトルを見ながら本を戻していくロクサーヌ。
ローズティーをそっと口に含むクリスティナを見て微笑みます。
「お嬢様の所作は本当に優雅になりましたね」
「えっ??」
やはり意識をしていなくてもカップを持つ角度や飲み方、置き方どれもが前世の賜物状態です。
「大奥様に相談をされてみてはどうでしょうか」
「大奥様‥‥お婆様??」
「でも、お婆様はとっても厳しいんだもの」
クリスティナの母方の祖母はとても厳しい女性で前世では叱られた記憶しかありません。
「今のお嬢様の所作、マナーなら何も言われないと思いますよ」
「そんなわけない。お婆様は‥‥厳しいもの」
「ですが、行ってみる価値はあるとこのロクサーヌは思いますよ」
「そうかなぁ」
「えぇ。それにしばらくお顔も見せてはおられないでしょう?」
頭の中で思い浮かべる祖母はいつも怒っているのでブンブンと首を振ります。
しかし、祖母のある言葉を思い出します。
「王立女学院!!」
ガタンっと椅子を倒して立ち上がるクリスティナに思わず驚くロクサーヌですが、早速何かを始めようと片づけを始めるクリスティナを優しい目で見つめています。
☆~☆~☆~☆
ガタゴトと揺られる馬車に乗っているのはクリスティナ1人。
同じ貴族街に住んでいるので歩いてでも行けるのですが、前世の経験からどんなに近くても馬車を使います。
勿論訪問する1週間前には手紙を出して、許可の返事を受け取っての行動です。
「お婆様は本当に細かいのよね」
歩いて15分。馬車なら30分という逆転してしまう時間です。
何故か?それは歩けば馬車の通れない近道を通りますが馬車はそうもいきませんからね。
祖父母の住む屋敷はもう現役を引退しているので使用人は多くありません。
ですが、庭園の手入れが好きな祖父がいつも手入れをしているので門道には花が咲き誇っています。
ガタンと馬車が止まり、小窓を見ると祖父母と2人の使用人が立っています。
ゆっくり扉を開けて、ステップを静かに下り、その場で軽めのカーテシーをします。
その後、ゆっくりと歩いて祖父母の前に行き、先程よりも深いカーテシーをするのです。
「お爺様、お婆様ご機嫌麗しゅうございます。この度は突然の訪問を許可頂きクリスティナ。誠に嬉しゅうございます」
「おぉクリス!少し見ない間に立派なレディになったね」
「えぇ。クリス。とても良かったですよ。さぁあなたの好きなお菓子を用意しているわ」
「はい。お爺様、お婆様。ありがとうございます」
うんうんと頷く祖母を見て、心でグっとガッツポーズを決めるクリスティナ。
祖父母の後をついて屋敷の中に入っていきます。
出されたお茶も前世の賜物。優雅に決めると祖母は何も言わないどころか目を丸くして驚いています。
「クリス?講師の先生を変えたの?」
「いいえ?以前からのジョゼ先生ですわ」
「そう…それにしても…その所作なら何処に出ても恥かしくなくてよ」
「褒めすぎですわ。お婆様(よっし!いい感じぃ)」
「今日は何かあったの?突然1人で来るだなんて」
「実は、お婆様にお願いがあるのです」
クリスティナはカップを置き、手を膝の上にギュっと握って祖父母を真っ直ぐに見つめます。
「わたくし、お婆様と同じ王立女学院に進みたいのです」
「えっ?で、でもそれでは王族の方との交流は持てないぞ?」
「そうよ。特にあなたは第一王子殿下と年齢が同じ。見初めて頂ければ‥」
「いいえ。わたくしはそれよりも王立女学院のほうが魅力的なのです」
「で、でも今のあなたの所作や話し方などならわざわざ学ばなくても…」
王立女学院はいうなれば王女様専用の学校です。
一般の貴族の令嬢であれば言うなれば花嫁修業をする場のようなもの。
女学院とあって当然男子生徒はいませんし、講師も全て女性講師です。
通学は馬車のみと決められており、放課後の寄り道も禁止されています。
厳格な学院なので、生徒のほとんどは婚約者が決まっている令嬢が通います。
前世で行っていたのは王立学園。こちらは共学です。
女学院ほど高度ではありませんが淑女科があります。
婚約者同士で通学できたり、騎士科もあるので婚約者を探す事もしやすいですね。
女学院ほど校則は厳しくはありません。
「ねぇクリス?あなたは第一王子殿下と同じ年齢よ?多分その年の女学院は入学者は少ないと思うわ」
「そうだよ。クリスにはまだ婚約者もいないだろう?」
「婚約者ではなのです。より洗練されたマナーを厳しい環境で学びたいのです」
「そうなの‥‥でもお父様、お母様には話をしたの?」
「いいえ。反対されると思います。なのでお爺様、お婆様に助けて頂きたいのです」
変な事を言い出す娘だわとでも言いたげな祖母。
でもまぁ、変な男には引っ掛からないだろうと頷く祖父。
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