わたしの王子様

cyaru

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失念していたお茶会

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月日は流れ、無事に11歳で女学院の入学試験に合格したクリスティナ。

屋敷に届いたばかりの制服に袖を通して鏡の前でクルクルと回っております。

「ねぇ!ベス。お友達は沢山できるかしら?」
「そうですねぇ。お嬢様はすこし下がるところが御座いますからグイグイとまではいかなくても一歩を踏み出してみれば良いと思いますよ」
「やってみるわ!お友達が出来たら招待してもいいかしら」
「えぇ。その時はシェフに美味しいお菓子を沢山作ってもらいましょう」
「そうね!マドレーヌにフィナンシェにマカロン!!」
「さぁさぁ、皺になってしまいます。入学式までかけておきましょうね」

制服を脱ぎ、ワンピースに着替えると家族の待つ食堂に向かいます。
そこにはニコニコ顔の伯爵が食堂の前で待っていましたね。

「クリスティナ!来週はうーんと着飾ろうな」

(来週?入学式は再来週だけど??)

変だなと思いつつもテーブルを囲う家族が食事を始めます。

前菜が運ばれてくると父である伯爵が満面の笑みで言葉を発します。

「クリスティナ。明日と明後日はいっぱい買い物をしよう」
「何故ですの?入学式に煌びやかなものは禁止ですわ」
「違う違う~うーん。今日の夕食も美味いなぁ」
「なんですの?‥‥お母様ご存じなの?」

ワインを一口飲んだ夫人がクリスティナの方を向きます。

「来週は…」

夫人の言葉を遮るように、嬉しそうな父、伯爵が得意げに言います。

「来週は王宮でお茶会だ。2人の王子殿下の婚約者選びという噂があるぞ」

思わずカトラリーを落としてしまうクリスティナ。
突然の事でしたがすっかり忘れていました。
無意識に体がブルブルと震えます。指先からの震えはあっという間に全身に伝わっていきます。
ハッハッハっと息が出来なくなり、テーブルに突っ伏し、食器が落ち割れます。

「ど、どうしたんだ!!クリスティナ!!」

慌てて隣にいた次兄のジルドがクリスティナを抱えます。
しかし過呼吸状態になったクリスティナはハッハッハっと胸を押さえるのがやっと。

長兄のヨハンが慌てて叫びます。

「ロクサーヌ!医者を呼べ!」
「はいっ」
「どうしたの?クリスティナ!!大丈夫なのっ!!」
「クリスティナ!ゆっくり息をするんだ!ゆっくりだ。意識しろ!」

ジルドが抱きかかえ、ヨハンが両手でクリスティナの口を覆うようにしています。

「ハッハッハッハ…ハッハ‥‥ハッハ…」
「そうだ。上手だぞ。ゆっくりだ。ゆっくりでいいぞ」

芯の太い声ですが、敢えて耳元でより大きくジルドはクリスティナに言います。
「ゆっくり吸うんだ‥‥そうだ‥‥次はゆっくり吐くんだ‥‥うまいぞ…」
「スゥゥゥゥ~‥‥‥ハァァァァ~‥‥」

「どうしたと言うの…こんな…お医者様はまだなのっ!あぁ~クリスティナ!!」

力なくへたり込み泣き出す夫人を伯爵が肩を支えます。
クリスティナの様子をヨハンとジルドは観察をします。

「脈は異常はないようだな」
「あぁ、呼吸も落ち着いてきた…いったいどうしたんだ」
「お兄様…」
「良いんだよ。さぁベッドに行こう。運んであげるからね」

クリスティナをベッドに運び、少しするとお抱え医師が来ます。
どうやら過呼吸だったようで、一同ほっとしますがヨハンとジルドは険しい顔をしています。

クリスティナをベスに頼み、他の面々は食堂に戻ります。

「父さん、過呼吸の原因を知っているか」
「いや…知らん」
「ストレスだよ。極度に緊張をするほどのストレス」
「やはり女学院がそうなのかしら」
「いや、制服を嬉しそうに着ていたそうだし、その時は何もなかったようだ」
「だとすると…お茶会??」

むう~っと腕を組んで考え込むヨハン。
ジルドは気にかかった事があったのか家族に問います。

「突然言い出しだろう。女学院の事」
「そうねぇ…あの時はびっくりしたけど」
「女学院に行きたいんだろう程度に思ったが、お茶会で過呼吸。父さん、王宮にクリスティナは行った事があるのかい?」
「いや、クリスティナは行った事はないはずだ。デヴュタントも来年だし」
「だよなぁ。だが変に王宮関係を避けていると思わないか」
「そう言われればそうだな。父さん、お茶会は欠席できるのか?」
「ま、まぁ体調が悪ければいけないだろうが…」
「だけど主催が王妃様だから病状次第ではわからないわね」

ジルドは気にかかると納得するまで動かないタイプです。
落ち着いたらクリスティナと話をしてみようと思うのでした。

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