わたしの王子様

cyaru

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陛下の謝罪

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閉じているはずの目ですが、周りが明るい事に瞼をあげるクリスティナ。
手が握られることに気が付きます。

「気がついた!ティナ!!あぁ…良かった…良かった」

握られてる手に何か雫がついた気がします。

「シ…ンザ‥ン様」
「うん…うん…良かった…」
「シンザ…ン…様…泣いて…る」
「うん‥‥うん…」

アマダの街の学院長先生のお兄様の屋敷だと知ったのはその数分後。
クリスティナは馬から落ちた衝撃で色々な所を打撲していて、左腕も骨折しています。
滑る体を止めようとした指は爪もボロボロになり痛いと言う感触しかありません。

「シンザン…様…怪我は…」
「俺は何ともない。矢が刺さって斬られただけだ」

いや、十分に大怪我だと思いますけどね。
普通、矢が刺さっただけとかあり得ませんから!!

体を起こせるようになるまで5日、指の痛みがなくなるまでさらに10日。
お屋敷に御厄介になる事になってしまいました。

大急ぎで駆け付けた兄2人と姉2人に大説教と鉄拳をくらったシンザンですが、それ以外は片時もクリスティナからは離れません。

食事もいつぞや兄2人が世話をしてくれた以上にシンザンが介助をします。

「シンザン様。パンは自分で千切れます」
「ダメだ。まだ指に力をいれるのは禁止だ」

「シンザン様、スープはもう自分で飲めます」
「ダメだ。スプーンを落として火傷したら大変だ」

「シンザン様、お水はもう自分で飲めますわ」
「これは俺の楽しみだからダメ」

快方に向かっても一向に自分では何もさせてくれません。

「シンザン様、お願いがありますの」
「お願い?どんな?」
「わたくし、トイレに行きたいですわ」
「いいよ‥‥って・・トイレ??」
「えぇ。トイレですわ」
「えーっと‥‥あの…ちょっと待ってて」

流石にコレは無理だったようです。連れてきた侍女に事情をはなすと大笑いされてしまいます。

そのまま辺境へ行く予定が一旦王都の屋敷に戻りなさいと連絡が来たのは2か月後。
すっかり傷も癒えて、骨折の木の板が外れた頃でした。

屋敷に戻ると、兄のヨハンが待っていました。
(エヴェリーナは赤ちゃんが生まれたので実家に戻っています)

「クリスティナ。飛んだことになったな」
「えぇ。ビックリしましたがもうケガも良くなりましたわ」
「一応お前には言っておかねばと‥‥あと陛下からの言葉もある」
「陛下から?」

ヨハンはクリスティナとシンザンに話をします。

第一王子の所業については目を背けてきたことが一番の原因で、影からも報告が来ていたにも関わらず、その一部を除けば王の器であった第一王子ゆえに暴走を止められなかった事。

街道で襲ってきた輩はレジーナの策略で生き残った野盗の証言もあり、レジーナは出産後毒杯を賜る事となった事。
そして公爵家は領地を没収された上に、伯爵家になること。

そして、多大な迷惑をかけたチェルシー伯爵家だけでなく、クリスティナ本人にも見舞金の他に慰謝料の支払いをする事

最期に、陛下が直々に謝罪をする事を受けて欲しいという事

「どうする?ウチとしては見舞金やらは不要だと思ってるだが」
「そうね…わたくしとしてもお金も…陛下の謝罪もいらないわ」
「それは無理だと思うよ。実際ケガもしているし」
「うーん…どうしよう。困ったなぁ」
「いいんじゃないか?ごめんって言いたいんだから言わせてやろう。それだけなんだから相手もスッキリするだろ」
「シンザン様…そうね。ごめんって言いたいなら言ってスッキリしてもらったほうがいいわね」

「あと、金はもらっとけ」
「どうして?」
「貰ったうえで寄付すればいいじゃないか?」
「寄付?どこに?」
「王様んとこ」
「ぷっ‥‥それじゃ意味ないじゃない」
「だってそれで数日は笑えるだろう?」
「ふふっ。それもそうね」

後日陛下が直々に来て、深く深~く頭を下げていきました。
勿論非公式ではあります。

そして辺境の地に今度こそ旅立ったクリスティナとシンザン。

最終話に続きます。
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