愛なんて要りません

cyaru

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第09話  一番弟子に押しかけろ

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「儲かる商売?そんなのは自分に話が来た時に破綻してる話だ。帰れ、帰れ」

確かに。
ネズミ儲け話とか「儲かるわよ?やってみない?」とお誘いが来た時点で終わっている儲け話だ。

この手の話に兄が何度騙されそうになった事か。
5人に商品を紹介し買ってもらう。その5人がまた別の5人に同じように品を紹介し買ってもらう。

代で言えばひ孫くらいまで買ってもらった商品のマージンが入るので5人と言わず10人、20人と紹介し買って貰えば人生ウハウハ。
兄が勇んで友人に買ってもらうんだと出掛けそうになったのを私は必死に止めた。

『馬鹿じゃないの?1ルル倍貯金と一緒よ!』
『そんな事ない。儲かるんだって!』
『じゃぁ計算してみなさいよ。1日目1ルル、2日目は2ルル、3日目は4ルルって前日の倍になる金額を貯金してみなさいよ。25日あたりで1億超えるから!ルルって通貨単位を人数にしてみなさいよ』
『で、でもだな?』
『デモじゃない!スタートを5ルルにして計算してみなさいよ!』

1人が5人。その計算で行くと王都の人口が700万人なので、兄に話が来た時「これで半年も働いてないんだ」と言ってきた詐欺師に「そこまで人間はいない」と論破してやった。

別口の紹介で所謂”子”になったんだと詐欺師は言ったけれど、だったら架空の”子”を作り自爆営業した方が自分への実入りは大きくなる。

きっとジョシュアさんもその手の詐欺だと思っている様でなかなか首を縦には振ってくれない。
だったら、私の取るべき手段は1つ。

がばっ!!

「お願いです。一緒に事業をしてもいいかどうか弟子にして見極めてくださいっ!」

必殺の土下座。
女の子だったら目に涙を貯めてウルルとさせながら手を祈りの形に組めばいい、そんなタイプもいるけれど残念な事に私はそこまで役者ではないので涙が自由自在に零せるわけもなく。

「ちょ、おい!!やめろって。皆が見てるだろう?」
「見られても構いません!低姿勢万歳!一緒にやろうと言ってくれるなら頭の1つや2つ下げてみせます」
「判った。判ったから。やめてくれって」
「そうですか?」

起き上がった私の耳に「変わり身の早さよ」とジョシュアさんの呟きが聞こえた気がするけれど、ちらっとジョシュアさんを見ると溜息を吐いていたので気のせいにしておこう。

弟子となった以上は師匠の元で教えを乞うのは当然のこと。
どうせ赤字なんだし、だったら足掻けるだけ足掻いてみてもいいだろうと私は翌日からマリエンさんたち4人でジョシュアさんの元に日参する日々が始まったのだった。


☆~☆

「痛たたた…優しくしてぇ」
「ダメですよ。はい、左足もです」
「ウニャァーッ!!」

ジョシュアさんの所に弟子入りをしたは良いけれど、来る日も来る日も空っぽだった窯に拾ってきた端材を積み上げる作業が続いた私は筋肉痛で体がキシキシ。

初めての作業は気分がハイテンションになっていた事もあって張り切ったはいいけれど、翌朝地獄の痛みが全身に走ってしまった。

でも、体が痛いので今日はいけませんなんて言えばやっぱり続かなかったと呆れられてしまうので意地になって「這ってでも行く」と通っているのだ。

「明日は休みませんか?」
「いいえ、行くわ」

そう言って2週間目。今日は端材を積み込んだ窯にいよいよ火を入れる日と思い勇んで行ってみると…。

「え?どうして?」

目の前にあったのは折角窯の中に運び込んで積んだ端材が無雑作に放り出されていた光景だったのよ。

クワっとジョシュアさんを見ると仁王立ち。

「積み方がなってない。あれじゃ炭になる前に全部が灰になる」
「そんなぁ…。言われた通りに積んだんですよ?」
「言い訳をするな。ダメなものはダメだ。積み直し」
「嘘でしょ?2週間が無駄――」
「あのまま窯に火を入れたら冷ますまで2カ月が無駄になる。そうなった時は端材も無駄になるんだ。いいか?これは遊びじゃない。商売なんだ。売れる品が作れないのに何を売るんだ?そんなんだから万年赤字を叩き出してものほほんとしていられる王様商売だったんだ」

ぐ・や・じ・い~!!キィィ!!

私の周囲には口の悪い男しかいないんじゃないかとすら思えるわね。
なんだか、どうしてあんなに冷遇されていたのにブレン伯爵家に居続けたのか。答えが見えた気がしたわ。

(私って…多分、負けず嫌いなんだわ)

言われっぱなし、やられっぱなしは昔から嫌だったからきっとブレン伯爵の鼻っ柱をベキッと折ってやろうと伯爵夫人の仕事をしつつ、落ち穂事業をしていたんだろうなと。

「解りました。積み直します」
「夕方までにやってくれ。これ以上火を入れる時間を遅らせる事は出来ないからな」

(ぐぅぅ!!こんにゃろぉぉ!)

そう思うけれど、ここに来た日に炭を取り出していた窯はもう空っぽ。
本当ならとっくに次の炭を作るために窯に火を入れ、冷ましているはず。

ジョシュアさんも生きるために炭を焼いて売っている。

「私も手伝いますよ」
「みんな…ありがとう」

マリエンさんたちの優しさが心に染み入る。

絶対に儲けて、儲けは4等分じゃなく3等分にするんだから!
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