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第10話 拗れに拗れた恋心
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第三者視点です
☆~☆
ブレン伯爵家は1カ月もしないうちに様相が変わった。
使用人たちはリオーナを女主人として扱い、リオーナも女主人として振る舞い始めた。
アンドリューは許していた訳ではなく、アンドリューとしては何も変わらない日常だと思っていた。
「ねぇ。リュー。キスして?」
「おいで」
ビビアンの部屋の目の前。庭の一画にあるガゼボでアンドリューは膝の上にリオーナを横抱きして角度を変えて何度も深い口づけを交わした。
その様子は愛し合っている2人の様子を見せつけるよう。
アンドリューはビビアンの事を愛しすぎていて、どうしても触れることが出来なかった。
用があって警備隊に出向いた際、父親に夜食を届けに来たビビアンを一目見て恋に落ちた。
見た目も声も、仕草の1つまでアンドリューの好みのど真ん中。
警備隊長の娘だと知り、外堀を埋めるべく先ずは父親を攻略した。
時代は進んでもいきなり娘に思いを伝えたりするのは順番が違うと結婚まで到達してもその後が棘の道になる。
アンドリューはセオリー通り。周囲の目も考えて慎重にビビアンを妻にする道を構築していった。
住んでいた区画が火災で焼失した時は、私財をなげうって復興に尽力した。
『君のような男なら娘を嫁がせてもいいんだけどなぁ』
待望の1言を逃すはずもなく、警備隊を編成している筆頭公爵家に話を持ち込んで結婚にこぎ着けた。
そこまでは良かったけれど、リーフ子爵とその子息が領地に住まいを移すと聞いてどうしていいか判らなくなった。
『ビビアンの事は頼んだよ』
『お任せください』
そう約束はしたけれど、結婚までにビビアンと会話をしたり出掛けたのは片手の数。
貴族同士の結婚なのでそれでも多い方だ、絵姿だけで本人に会うのは結婚の同日、それが当たり前だったので嫁いできたビビアンを前にすると趣味嗜好は全て頭の中に入っているのに気の利いた会話が続かない。
向かい合って食事をすると、ビビアンが口の中に入れる肉や野菜になりたいと食事どころではなかった。
当然初夜も扉の向こうにビビアンが待っていると解っていたけれど、扉の前で立ち尽くし終ぞ扉を開けることは出来なかった。
感情が拗れたのはその翌朝。
初夜、捨て置かれたのにビビアンはアンドリューを詰る事も無く食事をして部屋に戻って行った。
アンドリューはビビアンが怒って詰ったり、喚いたりした時の対処だけを考えていて何も言わない事に「他に好いた男がいるのでは?」と思い込んでしまった。
『何故彼女は私を詰らないんだ!?』
『そう言われましても。奥様なりに旦那様は酔いつぶれたとか思われたのでは?』
『そんなに酒は飲んでない!』
『酔ったかどうか。他人には判りませんよ』
『もしかして彼女には好いた男がいるんじゃないのか?』
『そのような事は報告に上がっておりませんが』
『調査に手心を加えたんじゃないのか?ちゃんと調べろ!』
従者がどんなに調べてもビビアンには男の影がない。
しいて言えば父親と兄が出て来るだけで、家族の域を超えるものではない。
その報告に「どうあっても隠したい男がいるようだ」とアンドリューは自分自身を追い詰めた。
アンドリューは体の関係がない事にビビアンが怒らないのはビビアンには心に思う男がいるのだと勝手な妄想に憑りつかれてしまっていた。
女性を侍らせたのも離縁届を都度渡すようになったのも、ビビアンがアンドリューを夫として認め、自分がアンドリューの妻なのだと自覚する姿を見たかったからに他ならない。
アンドリューが道を踏み外した行為をすればビビアンは「貴方は伯爵家の当主なんでしょう?」「いったい何を考えているの?自重して」と執務室に踏み込んできた。
どんなに冷たくしても伯爵夫人として振舞ってくれるのはアンドリューの事を思っているからこそ。
堪らなく心地よかった。
池に落ち溺れかけたと聞いた時は心臓が止まるかと思ったが、怪我もないし翌日には普段通りと報告を聞いてアンドリューは安堵した。
いつもならこうやってリオーナとキスをして体を絡めあい、あわや!まで行っていると窓がバタンと閉じる音がする。
はずなのに…。
(何故今日も窓を閉じる音がしないんだ?)
ちらりとビビアンの部屋を横目で視界にとらえるが、窓は閉じられたまま。
昼間だからカーテンは引かれていないので奥の壁が見えるが人の影は見えない。
「もぉ。何処を見てるの?リューが見るのは私だけ。でしょ?」
「あ、あぁ…」
リオーナの手がアンドリューの頬を包み、もう一度口づけを交わすが、アンドリューは胸の奥がざわついてリオーナの体を押して距離を取った。
「今日はもう帰ってくれ。仕事があるんだ」
「帰らないわよぉ?」
「帰らない?何を言ってるんだ」
「私も仕事があるんだもーん。ね?サロンの家具。新調していい?」
「家具を?なんでだ」
「ババ臭くて気に入らないんだもの。ねぇ、いいでしょう?」
リオーナの甘えた声にアンドリューは声を大きくして答えた。
「あぁ、リオーナの好きなようにすればいい。この屋敷はリオーナのものだからな」
アンドリューの大きな声は窓を閉じていても部屋にいるビビアンには聞こえているはず。
きっと「何を考えているの!」ビビアンが何時ものように目を吊り上げて執務室にやってくるだろう。
ニヤリと口角をあげアンドリューは執務室に戻ったが、ビビアンがやってくる事はなかった。
☆~☆
ブレン伯爵家は1カ月もしないうちに様相が変わった。
使用人たちはリオーナを女主人として扱い、リオーナも女主人として振る舞い始めた。
アンドリューは許していた訳ではなく、アンドリューとしては何も変わらない日常だと思っていた。
「ねぇ。リュー。キスして?」
「おいで」
ビビアンの部屋の目の前。庭の一画にあるガゼボでアンドリューは膝の上にリオーナを横抱きして角度を変えて何度も深い口づけを交わした。
その様子は愛し合っている2人の様子を見せつけるよう。
アンドリューはビビアンの事を愛しすぎていて、どうしても触れることが出来なかった。
用があって警備隊に出向いた際、父親に夜食を届けに来たビビアンを一目見て恋に落ちた。
見た目も声も、仕草の1つまでアンドリューの好みのど真ん中。
警備隊長の娘だと知り、外堀を埋めるべく先ずは父親を攻略した。
時代は進んでもいきなり娘に思いを伝えたりするのは順番が違うと結婚まで到達してもその後が棘の道になる。
アンドリューはセオリー通り。周囲の目も考えて慎重にビビアンを妻にする道を構築していった。
住んでいた区画が火災で焼失した時は、私財をなげうって復興に尽力した。
『君のような男なら娘を嫁がせてもいいんだけどなぁ』
待望の1言を逃すはずもなく、警備隊を編成している筆頭公爵家に話を持ち込んで結婚にこぎ着けた。
そこまでは良かったけれど、リーフ子爵とその子息が領地に住まいを移すと聞いてどうしていいか判らなくなった。
『ビビアンの事は頼んだよ』
『お任せください』
そう約束はしたけれど、結婚までにビビアンと会話をしたり出掛けたのは片手の数。
貴族同士の結婚なのでそれでも多い方だ、絵姿だけで本人に会うのは結婚の同日、それが当たり前だったので嫁いできたビビアンを前にすると趣味嗜好は全て頭の中に入っているのに気の利いた会話が続かない。
向かい合って食事をすると、ビビアンが口の中に入れる肉や野菜になりたいと食事どころではなかった。
当然初夜も扉の向こうにビビアンが待っていると解っていたけれど、扉の前で立ち尽くし終ぞ扉を開けることは出来なかった。
感情が拗れたのはその翌朝。
初夜、捨て置かれたのにビビアンはアンドリューを詰る事も無く食事をして部屋に戻って行った。
アンドリューはビビアンが怒って詰ったり、喚いたりした時の対処だけを考えていて何も言わない事に「他に好いた男がいるのでは?」と思い込んでしまった。
『何故彼女は私を詰らないんだ!?』
『そう言われましても。奥様なりに旦那様は酔いつぶれたとか思われたのでは?』
『そんなに酒は飲んでない!』
『酔ったかどうか。他人には判りませんよ』
『もしかして彼女には好いた男がいるんじゃないのか?』
『そのような事は報告に上がっておりませんが』
『調査に手心を加えたんじゃないのか?ちゃんと調べろ!』
従者がどんなに調べてもビビアンには男の影がない。
しいて言えば父親と兄が出て来るだけで、家族の域を超えるものではない。
その報告に「どうあっても隠したい男がいるようだ」とアンドリューは自分自身を追い詰めた。
アンドリューは体の関係がない事にビビアンが怒らないのはビビアンには心に思う男がいるのだと勝手な妄想に憑りつかれてしまっていた。
女性を侍らせたのも離縁届を都度渡すようになったのも、ビビアンがアンドリューを夫として認め、自分がアンドリューの妻なのだと自覚する姿を見たかったからに他ならない。
アンドリューが道を踏み外した行為をすればビビアンは「貴方は伯爵家の当主なんでしょう?」「いったい何を考えているの?自重して」と執務室に踏み込んできた。
どんなに冷たくしても伯爵夫人として振舞ってくれるのはアンドリューの事を思っているからこそ。
堪らなく心地よかった。
池に落ち溺れかけたと聞いた時は心臓が止まるかと思ったが、怪我もないし翌日には普段通りと報告を聞いてアンドリューは安堵した。
いつもならこうやってリオーナとキスをして体を絡めあい、あわや!まで行っていると窓がバタンと閉じる音がする。
はずなのに…。
(何故今日も窓を閉じる音がしないんだ?)
ちらりとビビアンの部屋を横目で視界にとらえるが、窓は閉じられたまま。
昼間だからカーテンは引かれていないので奥の壁が見えるが人の影は見えない。
「もぉ。何処を見てるの?リューが見るのは私だけ。でしょ?」
「あ、あぁ…」
リオーナの手がアンドリューの頬を包み、もう一度口づけを交わすが、アンドリューは胸の奥がざわついてリオーナの体を押して距離を取った。
「今日はもう帰ってくれ。仕事があるんだ」
「帰らないわよぉ?」
「帰らない?何を言ってるんだ」
「私も仕事があるんだもーん。ね?サロンの家具。新調していい?」
「家具を?なんでだ」
「ババ臭くて気に入らないんだもの。ねぇ、いいでしょう?」
リオーナの甘えた声にアンドリューは声を大きくして答えた。
「あぁ、リオーナの好きなようにすればいい。この屋敷はリオーナのものだからな」
アンドリューの大きな声は窓を閉じていても部屋にいるビビアンには聞こえているはず。
きっと「何を考えているの!」ビビアンが何時ものように目を吊り上げて執務室にやってくるだろう。
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