旦那様に離縁をつきつけたら

cyaru

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隠居したい侯爵①

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コンコン

抱き合ったままの二人の世界が現実に戻される。
そっと開いた扉から侯爵家の家令が申し訳なさそうに顔を出す。

「お取込み中大変申し訳ないのですが、
旦那様のお部屋までよろしいでしょうか」

シャロンとシリウスは顔を見合わせて真っ赤になる。
直ぐに行きますと返事をする。

家令に案内されてドレーユ侯爵の待つ部屋にいくと
ソファに座り読んでいた本を侯爵は閉じる。
シャロンとシリウスは横に並び侯爵の向かいに座る。

「さて、再会は問題なく終わったようですね」
「旦那様、それは野暮と言う物でございます」

家令に言われて、侯爵は失敬と口にする。

「さて、今後の事だけども」
「あのっ…」

失礼を承知でシャロンは侯爵の言葉を遮った。

「どうしたのかね?」
「あの…彼の右手が…」

ドレーユ侯爵はちらりとシリウスの右手を見る。
ふむと一つ頷くとシリウスに目くばせをする。

「それは私から言うよりも、君から言った方が良いのではないかね?」

話をふられたシリウスは苦悶の表情を浮かべるが、
「うん」と小さく呟くと覚悟を決めた。

「この手は汚れてしまった。この手で…人を…殺めたのだ。
そんな手で君を抱く事は出来ない…そうずっと思っていた」

「そんな…」

目を見開き、シャロンはシリウスの顔と右手を交互に見る。
パンパンとドレーユ侯爵は手を鳴らした。

「全く、オディーン神は罪作りです。
気にしなくてもよかったのですがね。
まぁ、愛する妻を泣かせてしまった代償として受け取ればよろしいでしょう。

先に言っておきましょう、カリナは存在しません。
それは今も、昔もです。汚れた魂と肉体は冥府神ヘウデスの怒りを招き
輪廻の環から外され消滅したのです」

「そ、それではソティスは?ソティスも生まれなかった事になるのですか」

「ソティス?あぁ‥‥ニキティスの事ですね」

「ニキティス?誰です?僕の言ってるのはカリナの子、ソティスです」

「判りやすく言えばソティスはニキティスとなりました。
わたくしの保護下にある子供です。今後は西の国にいる姉の元で暮らします。
罪のない子羊を贄とするのは誰であろうと看過できません。
説明をする前に少しカリナについて教えましょう」

ドレーユ侯爵は足を組み替えた。
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