婚約破棄を強要されたら甘い日々が始まりました

cyaru

文字の大きさ
10 / 45

VOL.10  その先に光がない

しおりを挟む
オリビアが出て行き、約1時間。
ようやく打ち付けた腰の痛みも引いたレスモンドは暴れた。

「どうしてくれるんだ!取り返しのつかない事になったじゃないか!」

「お許しくださいませ!こんなことになるとは考えもしておらずっ」

「考えなしだからこうなったと許して貰えるとでも思っているのか!」


つい先ほどまで勝ち誇ったようにレスモンドの傍に侍っていた令嬢は床に突っ伏し、怒り狂うレスモンドの怒りを浴びていた。

いつもは優しく撫でてくれる髪は乱れ、靴で踏みつけられていた。

――あたしだってこうなるとは思ってなかったわよ!――

心で毒吐くも安易に提案をしてしまったのは事実。

令嬢やレスモンドの予想に反してオリビアは嬉々として部屋を出て行った。
残された者は茫然とするしかなかった。

その茫然とした中にレスモンドもいたのに、事の重大さに気が付くと火が点いたように暴れ、一緒に甘えていた令嬢は鼻血を出し、壁に背を預け白目を剥いて気絶している。

夜会や茶会で散々レスモンドと一緒に虐め抜き、同じように白目を剥いて気絶した子息や令嬢を笑い飛ばしてきたが、今は笑える状況ではなかった。

頭を踏みつけていた足が退かされると安堵する暇もなく、乱暴に髪を掴まれて顔をあげさせられた。

「ポルトー家から支払われていた金。貴様の家がこれから出してくれるんだな?」

「そ、それは…父に…」

「父も何も貴様が言い出した事だ。ハダキメ伯爵家の決めた事だろうが!」

「ち、違いますっ。家は、家は関係あり…ぎゃっ!!」

「黙れ売女。いいか?これからはお前の家が出すんだ。迷惑料として倍額貰ってやってもいいぞ?」

「お許しっお許しください!!」

令嬢もポルトー家が幾ら金を出していたか知っている。莫大な金額で令嬢もレスモンドが「買ってやるぞ?」というので宝飾品などを買ってもらい、おこぼれに肖って来た。

その額は領地を売り、王都の屋敷も土地も売って全財産をかき集めて1年払えるかどうか。

とても両親や間もなく子供が生まれる兄夫婦に払ってくれと頼める額ではない。だが払わねばこの場でレスモンドは首と胴体を切り離してしまう。そんな勢いで凄んできた。

涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしてレスモンドに詫びていると従者が駆け込んできた。腕章から国王付きの従者だと直ぐに解る。令嬢は息を飲み万事休すと悟ると体から力が抜けた。


「殿下。陛下が直ちに来るようにと仰せです」

「チッ!!…こうなったのもお前のせいだ!」

気を飛ばした令嬢を掴んだ髪ごと放り投げ、レスモンドはフーフー荒い息のまま部屋を出て行った。


国王の待つ部屋に入ると、挨拶をする前に花瓶がレスモンドに飛んできた。
あたりはしなかったが、投げたのは父である国王だと直ぐに解った。

王妃も機嫌は最高潮に悪い様で、テーブルにリズムを取るように叩きつけている扇子は歪んでいた。

「何という事をしてくれたんだ」

「冗談だったんです」

「冗談だと?冗談でお前は王子印をどこでも押しまくるのかッ!」

「そ、それは…」

言い訳で時間稼ぎをしよう。

その間に王子印を使った書類を作ったことを「なら仕方ない」と思わせる弁明の文言を考える時間にしようとしたが、真っ先に王子印の事を言われレスモンドは答えに窮した。

目の前の国王、そして睨みつけて来る王妃からは何時ものように庇ってくれる気配は感じなかった。


「どっちだ」

「は?え?あの…どっちとは…」

「傍に2人の女を侍らしていただろうが!望み通りお前の妃に据えてやる。どっちを正妃にするかと問うているんだ!」

「嘘でしょう?あんな股を開く以外に脳がない女、私の妃になれる訳が――」

「してやると言ってるんだ!片方は正妃、本来なら国王以外は側妃を持つことは許されんが、余った方は側妃に特別に許してやる」

「違うんです。あれはそういう女じゃなく、遊びのっ」

「言い訳はどうでもいい。2人もいれば暫くは宮も維持できるだろう。女遊びも弁えていると思ったから何も言わなかったがオリビアを切るとは…。どうせ女に枕元で囁かれて下らぬ知恵でも働かせた結果だろうが。教皇が認めた以上どうにもならん。本当にお前と言う奴はどうしようもないッ!生きている間、宮から一歩も出るな!妃にしてやる女と一緒なら退屈もせんだろうが!」

「あ、あの…父上…立太子――」

「出来るわけがないだろう!それが嫌ならお前は王族から籍を抜くッ!子が出来ぬよう処置をした後、放逐してやるからどこにでも好きなところに行け!」


王族でいたければ一生宮から出る事も許されず、それが嫌なら物理で去勢し放逐。
レスモンドは究極の2択を突き付けられた。

ちょっとした脅しのつもりだった。
冗談だとまたいつもの日常になるだけだった。

大きく想定とは違う方向に進路を取った人生。
レスモンドはその先に光がない事を悟った。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

離婚するはずの旦那様を、なぜか看病しています

鍛高譚
恋愛
「結婚とは、貴族の義務。そこに愛など不要――」 そう割り切っていた公爵令嬢アルタイは、王命により辺境伯ベガと契約結婚することに。 お互い深入りしない仮面夫婦として過ごすはずが、ある日ベガが戦地へ赴くことになり、彼はアルタイにこう告げる。 「俺は生きて帰れる自信がない。……だから、お前を自由にしてやりたい」 あっさりと“離婚”を申し出る彼に、アルタイは皮肉めいた笑みを浮かべる。 「では、戦争が終わり、貴方が帰るまで離婚は待ちましょう。   戦地で女でも作ってきてください。そうすれば、心置きなく別れられます」 ――しかし、戦争は長引き、何年も経ったのちにようやく帰還したベガは、深い傷を負っていた。 彼を看病しながら、アルタイは自分の心が変化していることに気づく。 「早く元気になってもらわないと、離婚できませんね?」 「……本当に、離婚したいのか?」 最初は“義務”だったはずの結婚。しかし、夫婦として過ごすうちに、仮面は次第に剥がれていく。 やがて、二人の離婚を巡る噂が王宮を騒がせる中、ベガは決意を固める――。

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

魔法が使えなかった令嬢は、婚約破棄によって魔法が使えるようになりました

天宮有
恋愛
 魔力のある人は15歳になって魔法学園に入学し、16歳までに魔法が使えるようになるらしい。  伯爵令嬢の私ルーナは魔力を期待されて、侯爵令息ラドンは私を婚約者にする。  私は16歳になっても魔法が使えず、ラドンに婚約破棄言い渡されてしまう。  その後――ラドンの婚約破棄した後の行動による怒りによって、私は魔法が使えるようになっていた。

呪いを受けたせいで婚約破棄された令息が好きな私は、呪いを解いて告白します

天宮有
恋愛
 伯爵令嬢の私キャシーは、夜会で友人の侯爵令息サダムが婚約破棄された場面を目撃する。  サダムの元婚約者クノレラは、サダムが何者かの呪いを受けたと説明をしていた。  顔に模様が浮き出たことを醜いと言い、呪いを受けた人とは婚約者でいたくないようだ。  サダムは魔法に秀でていて、同じ実力を持つ私と意気投合していた。  呪いを解けば何も問題はないのに、それだけで婚約破棄したクノレラが理解できない。  私はサダムの呪いを必ず解き、告白しようと決意していた。

処理中です...