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VOL.14 そこをケチっちゃダメ!
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オリビアとクーヘンはゴミを掻き分けた。
――これは菓子作り以前の問題だわ――
気取ってなんかいられないし、第1王子の婚約者も侯爵令嬢だった事も捨てたオリビアに捨てる物はない。だが、目の前に積み上げられたゴミは捨てねばならない。
オリビアはクーヘンの耳を抓んで「調理場に行きましょう」と声を掛けた。
何故かと言えばちゃんと立って話が出来そうなのは調理場だけだったからである。
調理場に行くと、椅子代わりにしていたと思われる木箱を指さしオリビアは「座って」と告げた。
「何だよ…」
「何だよじゃありません!貴方ね、お菓子を作って売るんでしょう?このゴミは何?」
「片付けてるだろう?売り場にも調理場にもゴミはないし」
「そういう問題じゃありません!作るだけじゃなく、作る前、作った後、作るのに必要な環境!全てを掃除しないと意味がないでしょう!」
王宮でレスモンドの婚約者だった時、各国との折衝をするのに膨大な資料を纏めねばならない。
「もしも」に備えて人を観察する癖がついていたオリビアは、折衝のテーブルである事に気が付いた。
折衝の場でもデスクの上が片付いている者ほど仕事が早いし丁寧。
ごちゃごちゃにしている者は説明をさせても要点を得ない。
日常業務を観察してもデスクの上に物が溢れかえっている事に見かねて整理をしようとすると「触らないで!どこに置いたか判らなくなる」と言う者は訂正が多い。
仕事を病気で長期で休むとなった時、誰かが引き継がねばならないのに本人しか解らないように書類を積み上げていたら周りが困る事に気が向いていない。
備品だって「また?」と何度も発注しなければならない。
片付けてみたら山に積まれた書類の中から何十本もペンが出てきたこともあるし、隣国に頼み込んで貸してもらった資料が数年ぶりに発見出来た事もある。
事象は違っても共通するのは…。
――何事も整理整頓よ!――
オリビアは息巻く。
整理整頓して、清潔を保ってこそ食べ物を作るためのスタートになる。
「クーヘンさん。お菓子を作る前にここを片付けます」
「え?なんで?」
「なんでですって?!汚いからですっ!お菓子よね?人の口に入るものよね?この家の隅から隅まで清潔にして作るのはそれからの話よ!」
余りの剣幕だったのだろうか。
オリビアの気迫に押されてクーヘンは「は、はい」出会って初めて殊勝な返事を返した。
「幸いにして、店を畳もうと思っていたんだから片付けて掃除をする間は休業したってなんの問題もないでしょう?」
「な…ないかな?」
「ないの?あるの?家賃でも払ってるの?」
「家賃はないよ。この家は買ったし…」
「なら固定費の支払いは光熱費なんかの最小限で済むわね。卵もミルクも使い切ってるのよね?」
「あ、あぁ…小麦も塩もないよ」
「よろしい。では日頃このゴミは…違うわね。本来このゴミは何処に捨ててるの?」
「しゅ、週に1回回収の日があるから皆そこに出してる。でも…」
「でも何?」
「文句を言われたんだ」
「文句?ゴミを出して文句を言われたの?」
「うん…店をするのに金が必要だから区域費を払ってなくて、払ってない者は捨てるなって言われて」
「呆れた。そこをケチってどうするのよ」
市井のゴミ問題はオリビアが政務に携わるようになる以前から問題になっていた。
ゴミの集積場にしていた土地はもう満杯なのに捨てるところがないので詰みあがって行く。
なので国は焼却をする事にした。
そして民衆には道で区画をしてその区画ごとに回収処分費を区域費で徴収し財源とすると公布した。
すると不法にゴミを捨てる者が出て来た。今まで無料でゴミを捨てていたのに区域費を払わねばならない。年間で銅貨12枚が区域費。
パン1個が銅貨1枚なので、パン12個分が年会費のようなもの。
それすら守らない者は懲役刑を科すとゴミを不法に捨てる者は激減した。
それはそうだろう。懲役は兵士も志願者の少ないかつての塹壕を埋め戻しに行く作業。武術に長けた騎士ですら理不尽に領民から恨み、辛みを向けられて命を狙われる場だ。
命と銅貨12枚を天秤にかけて銅貨12枚を惜しむ者などいない。
が…いたのだ。ここに!!
不法投棄をせずに家に貯め込むという荒業を炸裂させてはいるけれど目の前にいた。
「区域費。立替えてあげるわ」
「だとしても無理だよ」
「どうして?」
口籠るクーヘン。
オリビアも見落としていた事実がそこにあった。
「ゴミは週に2個までなんだ。ここに有る全部は1年かけても出せない」
「・・・・」
見渡せば軽く500以上はあるゴミの袋。袋に入っていないゴミもある。確かにクーヘンの言葉通りこれから週に2個纏めて出して何年かかるのだろう。
――生きている間に出し切れないわ――
そうなれば店の再開も出来ない。
「解ったわ。ゴミは回収業者に有料で処分してもらいましょう」
「無理だよ…そんな金、ないんだ」
「それも立て替えるわ」
「そこまでしてもらうのは…悪いよ」
ショボンと項垂れるクーヘンだったがオリビアはにこりと笑って言った。
「お菓子作りの大変さを教えてくれるんでしょう?授業料として相殺してあげる。さ、片付けるわ。回収業者も呼ばないとね」
「あ、あの…」
申し訳なさそうにクーヘンがまた小さく声を出した。
「まだ何かあるの?」
「た、頼んだことがあるんだ。金がある時に…それで、その…言われたんだ」
「何を言われたの?」
「分別してないゴミは回収できないって」
「え・・・」
オリビアに人生初。ゴミの分別という使命が課せられたのだった。
――これは菓子作り以前の問題だわ――
気取ってなんかいられないし、第1王子の婚約者も侯爵令嬢だった事も捨てたオリビアに捨てる物はない。だが、目の前に積み上げられたゴミは捨てねばならない。
オリビアはクーヘンの耳を抓んで「調理場に行きましょう」と声を掛けた。
何故かと言えばちゃんと立って話が出来そうなのは調理場だけだったからである。
調理場に行くと、椅子代わりにしていたと思われる木箱を指さしオリビアは「座って」と告げた。
「何だよ…」
「何だよじゃありません!貴方ね、お菓子を作って売るんでしょう?このゴミは何?」
「片付けてるだろう?売り場にも調理場にもゴミはないし」
「そういう問題じゃありません!作るだけじゃなく、作る前、作った後、作るのに必要な環境!全てを掃除しないと意味がないでしょう!」
王宮でレスモンドの婚約者だった時、各国との折衝をするのに膨大な資料を纏めねばならない。
「もしも」に備えて人を観察する癖がついていたオリビアは、折衝のテーブルである事に気が付いた。
折衝の場でもデスクの上が片付いている者ほど仕事が早いし丁寧。
ごちゃごちゃにしている者は説明をさせても要点を得ない。
日常業務を観察してもデスクの上に物が溢れかえっている事に見かねて整理をしようとすると「触らないで!どこに置いたか判らなくなる」と言う者は訂正が多い。
仕事を病気で長期で休むとなった時、誰かが引き継がねばならないのに本人しか解らないように書類を積み上げていたら周りが困る事に気が向いていない。
備品だって「また?」と何度も発注しなければならない。
片付けてみたら山に積まれた書類の中から何十本もペンが出てきたこともあるし、隣国に頼み込んで貸してもらった資料が数年ぶりに発見出来た事もある。
事象は違っても共通するのは…。
――何事も整理整頓よ!――
オリビアは息巻く。
整理整頓して、清潔を保ってこそ食べ物を作るためのスタートになる。
「クーヘンさん。お菓子を作る前にここを片付けます」
「え?なんで?」
「なんでですって?!汚いからですっ!お菓子よね?人の口に入るものよね?この家の隅から隅まで清潔にして作るのはそれからの話よ!」
余りの剣幕だったのだろうか。
オリビアの気迫に押されてクーヘンは「は、はい」出会って初めて殊勝な返事を返した。
「幸いにして、店を畳もうと思っていたんだから片付けて掃除をする間は休業したってなんの問題もないでしょう?」
「な…ないかな?」
「ないの?あるの?家賃でも払ってるの?」
「家賃はないよ。この家は買ったし…」
「なら固定費の支払いは光熱費なんかの最小限で済むわね。卵もミルクも使い切ってるのよね?」
「あ、あぁ…小麦も塩もないよ」
「よろしい。では日頃このゴミは…違うわね。本来このゴミは何処に捨ててるの?」
「しゅ、週に1回回収の日があるから皆そこに出してる。でも…」
「でも何?」
「文句を言われたんだ」
「文句?ゴミを出して文句を言われたの?」
「うん…店をするのに金が必要だから区域費を払ってなくて、払ってない者は捨てるなって言われて」
「呆れた。そこをケチってどうするのよ」
市井のゴミ問題はオリビアが政務に携わるようになる以前から問題になっていた。
ゴミの集積場にしていた土地はもう満杯なのに捨てるところがないので詰みあがって行く。
なので国は焼却をする事にした。
そして民衆には道で区画をしてその区画ごとに回収処分費を区域費で徴収し財源とすると公布した。
すると不法にゴミを捨てる者が出て来た。今まで無料でゴミを捨てていたのに区域費を払わねばならない。年間で銅貨12枚が区域費。
パン1個が銅貨1枚なので、パン12個分が年会費のようなもの。
それすら守らない者は懲役刑を科すとゴミを不法に捨てる者は激減した。
それはそうだろう。懲役は兵士も志願者の少ないかつての塹壕を埋め戻しに行く作業。武術に長けた騎士ですら理不尽に領民から恨み、辛みを向けられて命を狙われる場だ。
命と銅貨12枚を天秤にかけて銅貨12枚を惜しむ者などいない。
が…いたのだ。ここに!!
不法投棄をせずに家に貯め込むという荒業を炸裂させてはいるけれど目の前にいた。
「区域費。立替えてあげるわ」
「だとしても無理だよ」
「どうして?」
口籠るクーヘン。
オリビアも見落としていた事実がそこにあった。
「ゴミは週に2個までなんだ。ここに有る全部は1年かけても出せない」
「・・・・」
見渡せば軽く500以上はあるゴミの袋。袋に入っていないゴミもある。確かにクーヘンの言葉通りこれから週に2個纏めて出して何年かかるのだろう。
――生きている間に出し切れないわ――
そうなれば店の再開も出来ない。
「解ったわ。ゴミは回収業者に有料で処分してもらいましょう」
「無理だよ…そんな金、ないんだ」
「それも立て替えるわ」
「そこまでしてもらうのは…悪いよ」
ショボンと項垂れるクーヘンだったがオリビアはにこりと笑って言った。
「お菓子作りの大変さを教えてくれるんでしょう?授業料として相殺してあげる。さ、片付けるわ。回収業者も呼ばないとね」
「あ、あの…」
申し訳なさそうにクーヘンがまた小さく声を出した。
「まだ何かあるの?」
「た、頼んだことがあるんだ。金がある時に…それで、その…言われたんだ」
「何を言われたの?」
「分別してないゴミは回収できないって」
「え・・・」
オリビアに人生初。ゴミの分別という使命が課せられたのだった。
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