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VOL.17 ハンスのお悩み相談
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桶に水を汲み、オリビアとクーヘンはブラシで床を磨く。
長年染みついた汚れは頑固。その上、生もののゴミを置いてあった辺りは限定的だがかなりしつこい汚れと臭いが染みついていた。
ごしごし…ジャッジャッ…ごしごし。
黙々と作業を進めて3日目の事だった。
道路に面した建付けの悪い扉をコツを使って開け、入ってきたのはハンスだった。
「どうしたんだ?ハンス」
「クーヘン…どうしよう。俺、俺…もう一家で夜逃げするしかない」
<< えっ?! >>
オリビアとクーヘンはブラシを手に動きを止めて顔を見合わせた。
「一体どうしたの?何かあったの?詐欺?」
「詐欺じゃないんだ。でも…やっちまったぁ!!うわぁぁ!」
髪を掻きむしって叫ぶハンスだが、2人にはどうしてそうなったか意味が判らない。
「落ち着いて。何があったか聞かせてくれない?力になれる事ならなりたいし。ね?クーヘンさんもいるから。聞かせて?」
「ハンス。何があったんだ?」
「それが…今日市場で新種の野菜が売り出されてな。大根だと思ったんだよ。すごく安い値段でずっと卸してくれるって言うからさ…。契約したんだけど…大根じゃなかった上に俺…単位を間違ってたんだ」
<< た、単位を?! >>
大問題だ。ハンスは何時ものように大根だと思って毎日仕入れるんだからと10kg分を契約したらなんとkgではなく「籠」だった。
1籠には30kgほど入っている。10kgと思ったら10籠。つまり300kg。それが毎日となればちょっと平民相手の青果店が捌ける量ではない。
「どういう事だ?野菜なんだろう?売れるんだろう?」
「それがダメなんだ…こんなの誰も買ってくれないよ。それを5年契約…馬鹿なことをしちまった」
「何の野菜を契約したのです?」
オリビアの問いにハンスは小さな声で答えた。
「甜菜だよ」
「甜菜?なんだそれ。初めて聞いたな」
新種の野菜と聞いて、籠に入った甜菜を見たハンスは「大根じゃないか」と通常の大根の20分の1の価格が提示されていたので、これはお買い得!と契約をしてしまったのだ。
しかし甜菜は通常食卓には登場しない。
生で食べる、煮て食べる、焼いて食べる。どれをとっても感じるのはエグ味と臭み。食べて害になる訳ではないが、食べられたものではない。
姿かたちは短めの大根で短い分少し不格好。
お手頃サイズで使いやすいかなとハンスは思ってしまったのだという。
クーヘンも甜菜は聞いたことがなく食べ方も知らなければ調理方法も知らない。
落ち込むハンス、励ますクーヘン。
だが、オリビアは違った。
――どこかで聞いた気がするのよね…どこだったかしら――
諸外国との折衝も担当せざるを得なかったオリビアは記憶の中で甜菜という名を聞いた気がするのだ。
「ハンスさん。その甜菜は新種なんでしょう?国内産?」
「違います。ポティト王国産です」
「ポティト王国?!ってことは…思い出した!あの甜菜!!」
<< 何、何、何~? >>
ハンスもクーヘンも突然オリビアが発した言葉に驚いた。
「ハンスさん、その甜菜はいつ入荷するの?」
「今日の分は‥もう運んだけど…明日も来るよ」
「グッジョブ!」
「は?」
驚く2人にオリビアは親指をグッと立ててサムズアップ。
「いい?甜菜はね、そのまま食べるんじゃないの。これは砂糖の代替品っていうか砂糖ね。蜂蜜も蓮華蜂蜜、アカシア蜂蜜とかってあるでしょう?砂糖にも種類があるのよ。甜菜の砂糖は甜菜糖って言うの」
「そうなんだ…」
「そうなのよ!実は他国では売られているのよ。ビーツって聞いたことない?」
「俺はないな…ハンスは知ってるのか?」
「聞いたことがあるな…赤い奴だよな。ボルシチに使ってたような気がする」
「ボルシチってなんだ?」
菓子作りにしか興味のないクーヘンは知らないが、ボルシチはロッシャー王国の民族料理。野菜を扱うハンスは滅多に入荷しないので数回しか見たことがないがビーツを知っていた。
「昔からビーツはあったんだけど、改良して出来たのが甜菜よ。食べられない事はないけど敢えて食べようとは思わないわね。でも砂糖の原料だからお役立ち野菜なのよ」
「とはいっても…」
ハンスは甜菜をどうにかしないとこの先5年。僅かな利益が飛んでしまい赤字になるのだ。
「何とかなりませんかね…」
「そうね…」
オリビアは考えた。そのままでは使えないし腐らせてしまうだけ。
――どうしたらいいかしら――
うーん…顎に手を当てて考えていると「あ!!」オリビアは閃いた。
長年染みついた汚れは頑固。その上、生もののゴミを置いてあった辺りは限定的だがかなりしつこい汚れと臭いが染みついていた。
ごしごし…ジャッジャッ…ごしごし。
黙々と作業を進めて3日目の事だった。
道路に面した建付けの悪い扉をコツを使って開け、入ってきたのはハンスだった。
「どうしたんだ?ハンス」
「クーヘン…どうしよう。俺、俺…もう一家で夜逃げするしかない」
<< えっ?! >>
オリビアとクーヘンはブラシを手に動きを止めて顔を見合わせた。
「一体どうしたの?何かあったの?詐欺?」
「詐欺じゃないんだ。でも…やっちまったぁ!!うわぁぁ!」
髪を掻きむしって叫ぶハンスだが、2人にはどうしてそうなったか意味が判らない。
「落ち着いて。何があったか聞かせてくれない?力になれる事ならなりたいし。ね?クーヘンさんもいるから。聞かせて?」
「ハンス。何があったんだ?」
「それが…今日市場で新種の野菜が売り出されてな。大根だと思ったんだよ。すごく安い値段でずっと卸してくれるって言うからさ…。契約したんだけど…大根じゃなかった上に俺…単位を間違ってたんだ」
<< た、単位を?! >>
大問題だ。ハンスは何時ものように大根だと思って毎日仕入れるんだからと10kg分を契約したらなんとkgではなく「籠」だった。
1籠には30kgほど入っている。10kgと思ったら10籠。つまり300kg。それが毎日となればちょっと平民相手の青果店が捌ける量ではない。
「どういう事だ?野菜なんだろう?売れるんだろう?」
「それがダメなんだ…こんなの誰も買ってくれないよ。それを5年契約…馬鹿なことをしちまった」
「何の野菜を契約したのです?」
オリビアの問いにハンスは小さな声で答えた。
「甜菜だよ」
「甜菜?なんだそれ。初めて聞いたな」
新種の野菜と聞いて、籠に入った甜菜を見たハンスは「大根じゃないか」と通常の大根の20分の1の価格が提示されていたので、これはお買い得!と契約をしてしまったのだ。
しかし甜菜は通常食卓には登場しない。
生で食べる、煮て食べる、焼いて食べる。どれをとっても感じるのはエグ味と臭み。食べて害になる訳ではないが、食べられたものではない。
姿かたちは短めの大根で短い分少し不格好。
お手頃サイズで使いやすいかなとハンスは思ってしまったのだという。
クーヘンも甜菜は聞いたことがなく食べ方も知らなければ調理方法も知らない。
落ち込むハンス、励ますクーヘン。
だが、オリビアは違った。
――どこかで聞いた気がするのよね…どこだったかしら――
諸外国との折衝も担当せざるを得なかったオリビアは記憶の中で甜菜という名を聞いた気がするのだ。
「ハンスさん。その甜菜は新種なんでしょう?国内産?」
「違います。ポティト王国産です」
「ポティト王国?!ってことは…思い出した!あの甜菜!!」
<< 何、何、何~? >>
ハンスもクーヘンも突然オリビアが発した言葉に驚いた。
「ハンスさん、その甜菜はいつ入荷するの?」
「今日の分は‥もう運んだけど…明日も来るよ」
「グッジョブ!」
「は?」
驚く2人にオリビアは親指をグッと立ててサムズアップ。
「いい?甜菜はね、そのまま食べるんじゃないの。これは砂糖の代替品っていうか砂糖ね。蜂蜜も蓮華蜂蜜、アカシア蜂蜜とかってあるでしょう?砂糖にも種類があるのよ。甜菜の砂糖は甜菜糖って言うの」
「そうなんだ…」
「そうなのよ!実は他国では売られているのよ。ビーツって聞いたことない?」
「俺はないな…ハンスは知ってるのか?」
「聞いたことがあるな…赤い奴だよな。ボルシチに使ってたような気がする」
「ボルシチってなんだ?」
菓子作りにしか興味のないクーヘンは知らないが、ボルシチはロッシャー王国の民族料理。野菜を扱うハンスは滅多に入荷しないので数回しか見たことがないがビーツを知っていた。
「昔からビーツはあったんだけど、改良して出来たのが甜菜よ。食べられない事はないけど敢えて食べようとは思わないわね。でも砂糖の原料だからお役立ち野菜なのよ」
「とはいっても…」
ハンスは甜菜をどうにかしないとこの先5年。僅かな利益が飛んでしまい赤字になるのだ。
「何とかなりませんかね…」
「そうね…」
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