婚約破棄を強要されたら甘い日々が始まりました

cyaru

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VOL.21  決めつけてない?②―②

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オリビアが手にしていたのは芋だった。

「は?芋?無茶言うなよ」

「無茶?何を言うのです。無茶を可能にすれば無茶ではありませんわ。早速今日の夕食で試食しましょう」

片付けもほぼ終わって掃除中のクーヘンの店。
調理場は整然としていて、いつでも調理が出来る。

クーヘンはオリビアの言う通りに先ずは2つ芋を湯がいた。
全ての芋を湯がくのではなくもう2つ手に取り蒸気を使ってふかす。
そして別に2つは鉄串を指して竈の中で焼いた。

「どれが一番甘みが出ているかしら」

「そうだなぁ…煮たのは…ダメだな。ダメって事はないけど焼いた物よりも甘みが薄いよ」

「(もぐもぐ)…焼いたのと蒸したのだと蒸したほうかしら」

「そうだな…でも薄い。ジャガイモだからかな。塩気が欲しくなるな」

「バターも欲しくなるわね…(はふはふ)」

「じゃがバターか。旨いよな(もしゃもしゃ)」


3つの方法でジャガイモを食べ比べてみたが、菓子という感じは程遠い。
そして流石に1人で3つもジャガイモを食べると満腹感が凄い。試食の限界が直ぐにやって来る。

「次もまた食べたいと思うかな…俺は次は…かなり間を置きたいよ」

「そうねぇ。毎日じゃがバターも飽きちゃうのと同じかしら」

「これってさ…」

クーヘンは最後に1口分残ったふかし芋を口の中に放り込み、モグモグと食べながら考えた。


「何か思いついたの?」

「なんとなく。明日ハンスの店に行ってちょっと買って来たいモノがある。オリビアさ…オリビアにも頼んでいいかな」

「何かしら」

「試してみたいものがあるんだ。ミルクと卵を買ってきてくれないかな。量は多くなくていいよ」

「ミルクと卵ね。判ったわ」


★~★

その夜、売り場だった場所に仮で置かれた寝台に横になったクーヘンはずっと考えていた。
今までクーヘンは菓子を作るのに小麦粉無しの菓子は考えた事もなかった。

ベースがパン作りのクーヘンは飾りパンを見て菓子を作りたいと思ったので小麦粉を卵やミルク、バターなどと混ぜ合わせ捏ねて焼く。重曹は膨らませるために使う。フルーツなどは生やドライ物を飾り付け。それが菓子だと思って来た。

『小麦粉と重曹を使わなかったら』とオリビアに言われて出来るはずがないと答えたが『決めつけてない?』と言われてハッとした。

==確かに決めつけてたよな==

コロっと寝返りをすると部屋の逆の壁側にはオリビアが静かな寝息を立てて寝ている姿が見えた。

クーヘンは平民として生まれ、平民として育ってきた。
パン屋に奉公に出る前、腹を空かせたクーヘンを祖母は山に連れて行ってくれた。何をするかと言えば木の実を拾うのだ。

クルミやシイの実を拾って来て殻の中から実を取って炒る。
それを潰して少しの水を加えて練って広げて焼く。
それがオヤツ替わりだった。

祖母は焼き立てを差し出してクーヘンに言った。

「はい。ばぁちゃん特製のお菓子よ」

==小麦粉と重曹どころか卵もバターもミルクも使ってねぇよ==

いつから自分は「菓子とはこういうもの」と思い込んでしまったのだろうかと考える。
確かに木の実のおやつは菓子としては仲間入りさせて貰えないかも知れないが、クーヘンの中ではお菓子なのだ。

そしてオリビアと共に煮る、ふかす、焼くとした芋を食べた。

素材の味を確かめるわけではないが、何も味付けをしない3つの芋。

==味、違ってたよな==

これもまた「芋は芋」と決めつけていた自分がいる事に気が付いた。
手を加えるまでは全て同じジャガイモ。でもどんな方法を取るかで甘みも舌触りも全く違った。

==どうして客が買わないのか。こういう事か==

クーヘンは教会でオリビアが言った言葉の意味がよく判った。

『客のせいにしてはダメ!買わないには買わない理由がある。そこを突き詰めたのかと聞いてるの』

考えた事もなかった。
客が買わないから売れ残る。それだけだと思って諦めていたのだ。

==買わない理由か…そりゃそうだ。何もしてないんだから==

クーヘンはふかし芋の最後の1口を食べる直前で閃いた。
その閃きは正解なのか、間違いなのかまだ判らない。

だが、ジャガイモを食べて「もしかすると?」と思ったのだ。
そう思えたのは『決めつけてない?』とオリビアに問われた言葉。

その言葉で目の前がパーッと開けた気がした。
きっと問われなかったら気付きもしなかっただろう。


「よし、試してみよう」

つい声が出てしまい、ハッとしてオリビアを見ると起きてはいなかった。

==危ねぇ。起こすところだった==

深夜、やっとクーヘンは考えが纏まり目を閉じた。

「おやすみ。オリビア」

「うぅーん…」

==やべっ!今度こそ起きた?!==

閉じた目をもう一度開き、オリビアを見れば寝返りを打っただけだった。
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