婚約破棄を強要されたら甘い日々が始まりました

cyaru

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VOL.22  潮が引くように

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オリビアが姿を消し、1か月半が過ぎた。

ポルトー侯爵家ではオリビアの父親が使用人を怒鳴りつける姿が連日のものになりつつあった。

「まだ見つからないのか!」

「はい。人を増やしこれまで探さなかった王都郊外にも向かわせていますが良い知らせを報告できず申し訳ございません」

「見当違いの所を探しているんじゃないのか!アリの子も全て確認をしてから報告をしろ!」


★~★

オリビアに出て行け!と言ったその30分後。
家令から「お嬢様が出て行ってしまったようだ」とポルトー侯爵は報告を受けたが「放っておけ」と吐き捨てた。


ポルトー侯爵はオリビアに出て行けとは言ったが、上げ膳下げ膳、使用人に世話をしてもらっている貴族が放り出されれば生きていく術を知らないので本当に出て行くとは思わなかった。

歌劇などで娼館に身売りをしたり売り飛ばされたりする設定があるが実際の所、確かに娼館に売られる場合もないとは言えない。その程度の確率だ。

何故なら貴族令嬢を娼婦として客を取らせていると見つかった時に面倒をみている女将など捕縛されてしまうからである。

誘拐などで行方が知れなくなった時、ほぼ100%、身につけている物を身ぐるみ奪い取られ物言わぬ骸となって見つかる。

頭のどこかで最悪を想像しながらも家令からと報告を受けた後もポルトー侯爵は友人の令嬢の元に身を寄せているだろうと安易な考えをしていた。


翌日には国王から正式に「婚約解消」の書簡が届き、更にその翌日には迷惑料も含んだ莫大な慰謝料がポルトー侯爵家に支払われた。

使者は「オリビア様に面会をしたい」と言ったが、オリビアはいない。

「突然の事に心を痛め、部屋に引きこもっている」と会わせずに済んだのだが…。



レスモンドの言動は日頃から問題視をされていたので婚約が解消になった事でオリビアの名誉被害は最小限。
莫大な慰謝料目当てなのか。それとも本当に慕っていたのか。

婚約解消を知った3つの国の大使は「是非我が国の王子との婚約を」と申し出て来た。

塩を輸入に頼るしかない国。足元を見てかなり高額で買わされているが話を持ち込んできた3つの国はどれも裕福な国。

オリビアを嫁がせ、ついでに家は息子にくれてやってオリビアについて行った方が余生が楽に過ごせそう。そう思える国だった。


次の縁談は問題がなさそうだ。しかし直ぐに許してやるのも腹立たしい。そう思いつつ2週間経ち「そろそろ詫びを入れて来るだろう」と思ったが音沙汰がない。

おかしいと思い、オリビアと時折茶を楽しんでいた令嬢の家に使いをやれば「来ていない」と言われる。

驚いたのはポルトー侯爵が考えていたほどオリビアと懇意にしている令嬢はいなかった。

「確かに娘は茶会で何度かお話はしたようですが、それだけです」

「え?仲が良かったのでは?」

「とんでもございません。こう言ってはなんですが…」

オリビアの友人だと思い込んでいたのはポルトー侯爵だけ。
「オリビアが滞在していないか」と問い合わせると知らない事実を聞かされた。

「懇意にしておりますとレスモンド殿下に嫌がらせをされるのでオリビア様が付き合いは最小限にと守ってくださっていたのです」

「本当ですか?そんな事…」

「ご存じかと思いましたが?」

「知りません。殿下は本当に嫌がらせを?」

「はい。殿下はオリビア様を孤立させようとされていたのでは?と娘からは聞いております。オリビア様を慕っていたベーデ伯爵家の令嬢は殿下に呼び出され、池に突き落とされ溺れてあわやの事態だったそうですし、妹の現状を殿下に直接苦情を申し立てた子息は気を飛ばすまで殿下になぶり者にされたそうですよ。泡を吹いて失神した子息を取り巻きの令嬢と殿下は笑い飛ばしたとか」

「そんな事が…」

あったのかと言いそうになってポルトー侯爵は思い出した。

貴族子息の暴行被害事件は報告に有ったのだが、いつの間にか騎士団が捜査や調査をすることも打ち切られていた。
有耶無耶にしようと目に見えない力が働いた、つまり身分のある者が主犯だという事だ。

自分には関係ないと気にも留めず報告に「そうか」とだけ返した事を思い出した。

仲良くすればレスモンドに何をされるか解らない。オリビアは当たり障りない程度の挨拶や決められた茶会に顔を出す程度に留めていたので、懇意にしている令嬢はいないと思うと言われてしまった。

気を利かせたのか、それともトドメなのか。当主は言った。

「ですが良かったですね。レスモンド殿下は宮に幽閉となりましたし、ポルトー侯爵も…言葉は悪いですが不良債権を押し付けられずに済んだようなものでしょう。第2王子殿下はまだ4歳。15年は我々もまだ引退は出来そうにありませんな」

ポルトー侯爵は言葉が返せなかった。
それがオリビアがいなくなって2週間後のこと。

その頃からポルトー侯爵に媚び諂ってきた貴族の数が潮が引くように減り始めた。

婚約解消になったし、第2王子は4歳。現在17歳のオリビアは王妃に相応しいと言われても第2王子が18歳、19歳になるにはあと15年。そうなればオリビアは32歳だ。間違いなく妃候補から外れる。

中枢権力を持たないポルトー家と繋がりを持ったところで何の得にもならないと判断した家が手を引き始めたのである。

こうなったら話を持ち込んできた3つの国の王子の何れかにオリビアを嫁がせねばならない。

ポルトー侯爵はオリビアを探すように使用人に命じたが、オリビアに「出て行け」と怒鳴って間もなく1か月半。

金に困って手持ちの宝飾品を買い取りに出すのではと買い取り店にも問い合わせ、見張らせたがオリビアの情報はいなくなった当日に「おそらくそうじゃないかな」とあやふやな証言が得られただけで後はさっぱり。

おそらくと言うのも、やって来た女性の服装はとても貴族令嬢には見えなかった上に、買い取ってくれと言ったブローチは他の客が買っていったので現物もない。

髪色だけが一致している心許ない証言にしか過ぎなかった。
その髪色も珍しい色かと言えば国民のほとんどが似た色なので決め手とするには弱すぎたのである。

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