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VOL.28 早朝の脱走
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「行きましょう!」
「えぇ…。もし何かあっても…助けない。シェイラ、良いわね?」
「勿論よ。ロゼッタ」
1日で一番気温が下がる時間帯。
宮の壁の前、そして向かいの道の端には退かした雪が積まれ、舗装もない小石を含んだ土も芯から凍っている道。
命を賭して素足で駆けていく2人の令嬢がいた。
★~★
レスモンドとディチ子爵の会話を聞いてしまった2人の令嬢。
名を1人はロゼッタ、あの日先に気絶をしていた。
もう1人はシェイラ。国王の従者を見て気を飛ばした。
2人とも、家族は行方知れず。親族すら何処にいるかも判らない。
自業自得だとは解っている。
逃げたところで生きていく術はないが、それでもレスモンドから遠くに逃げよう。
思いを同じくしてチャンスを伺っていた。
なかなかそのチャンスは訪れなかったが、ついに決行することにした。
ただ、2人の思いは「逃げる」のではない。
逃亡の成功を考えるのなら今ではないのは解っているが事は急を要していた。
ディチ子爵の口車に乗せられたレスモンドは週に1度やって来る国王からの使いに書類を渡してしまったのだ。
「誰かにこの事を知らせて、ディチ子爵の手の者が火を放つのを止めなければ」
「えぇ。そうよ。やるしかないわ」
宮から出る事が出来ないように宮の周囲には張り込んでいる兵士がいる。
その兵士に告げればいいのではないか。そう考えたがやめた。
護衛兵士は2人の令嬢の事を蛇蝎の如く嫌っていて、訴え出たところで「宮から逃げる口実」としか受け取ってくれない。恐ろしいのはそうなった時にレスモンドに知られてしまい、誰にも伝えることが出来ず果てるかも知れない事だった。
宮に来た時、いいや、その前からだ。兵士たちが令嬢2人を見る目は冷たい。
それはそうだろう。
ずっとレスモンドと一緒になってやりたい放題をしてきた。
兵士の中には家族が逃げたと聞かされた時に「ざまぁねぇな」と罵った者もいた。
親族も行方知れずと聞かされた時に「お前の蒔いた種だ。満足か?」と追い打ちをかけた者もいた。
兵士を憎んだり、恨んだりする気持ちは全くない。
自分たちはそう思われても仕方のない事をしてしまったのだから、受け入れるしかないと耐えて来た。
しかし、全く関係ない人たちの住まう場所にレスモンドがもう一度返り咲くために火を放つと知った以上、安全な場所から事が起きる、起きた、そんな報告を耳にして「お気の毒」と思う。そんな事はしたくなかった。
逃げるチャンスを伺っていた時に、23時過ぎと午前4時過ぎの2回。裏木戸に立つ兵士が2、3分いなくなることがある事に気が付いた。
しかし「だけど2、3分じゃ何もできない」と別の方法を探したが結局見つけられないまま今に至る。
部屋から裏木戸までは5分かかる、部屋で見ていて「今だ」と急いでも間に合わない。
それならその時まで裏木戸の反対で兵士の気配を伺えばいいのだ。
22時を過ぎてロゼッタは部屋を抜け出そうとしたのだが、そんな日に限ってレスモンドがやって来た。
――なんで今日来るのよ!――
そう思いつつ動きやすい服に着替える前で良かったと胸を撫でおろした。
することがなくても性欲は溜まるらしく、時折やって来る。
どうして今日なのだ!昨日は来なかったのに!悔しがっても相手をせねばレスモンドは暴れ出してしまう。1日、いや1秒でも惜しい今、暴れられて朝になれば間に合わないかも知れない。
仕方なく相手をしようとしたが、ロゼッタの体を見てレスモンドは「興が削がれた」と自分の部屋に戻って行った。
ロゼッタの体には薄い明かりでも判る痣が沢山ある。全てレスモンドの暴行によるものだ。
それを見て「萎えた」と殴られる事もあった。
レスモンドが引いた後、ロゼッタの部屋にシェイラがやって来た。
小さな声で問いかける。
「いけそう?」
「朝まで待った方がいいわ。さっきヤツが来たの」
「最悪ね。仕方ないわ。じゃぁ3時半くらいにまた来るわ」
明け方になると宮の中も外と同じくらいに冷え込んでくる。
ドアノブもこんな時間にうっかり素手で触れてしまうと手の皮がドアノブから離れなくなることもある。
「ロゼッタ…起きてる?」
「起きてるわ。何時でも行けるわよ」
「交代の兵士…居なくなるといいんだけど」
兵士の見張りが切れる2、3分は毎日ではない。
2人は「いませんように」「いなくなる日でありますように」と祈りながら裏木戸までくるとしゃがみ込み、扉の向こう側に神経を集中させた。
「うぇ~寒っ。交代まで…あとちょっとか…うぅ~寒っ」
兵士の独り言なのか言葉が扉の向こうから聞こえてくる。
――お願い!いなくなって――
ロゼッタとシェイラは祈った。
「だめ。もう我慢できない。漏れそう」
「仕方ねぇな。でも俺も行きたいと思ってたんだ。交代まで5分もないし行こうぜ」
「あぁ…ホント、やってらんねぇな。こっちはこんな寒い中突っ立ってるのにアイツらは寝具に包まってさぁ」
「そう言うな。仕事だと割り切るしかないだろう」
兵士の声と足音が遠ざかって行く。
直ぐにでも扉を開けて飛び出したいが、扉を開ける音で気付かれるとそこで終わる。
じっと耐えて、音が無くなった時シェイラはゆっくりと裏木戸を開けた。
シェイラはきょろきょろと視界の中に誰もいない事を確認するとロゼッタと共に宮の外に出て、静かに裏木戸を閉じた。
「行きましょう!」
「えぇ…。もし何かあっても…助けない。シェイラ良いわね?」
「勿論よ。ロゼッタ」
見つかってしまってもお互いを助けるために立ち止まらないこと。
誰かにレスモンドの企みを伝えること。
この2つを約束し、2人は凍てついた道を走り出した。
「えぇ…。もし何かあっても…助けない。シェイラ、良いわね?」
「勿論よ。ロゼッタ」
1日で一番気温が下がる時間帯。
宮の壁の前、そして向かいの道の端には退かした雪が積まれ、舗装もない小石を含んだ土も芯から凍っている道。
命を賭して素足で駆けていく2人の令嬢がいた。
★~★
レスモンドとディチ子爵の会話を聞いてしまった2人の令嬢。
名を1人はロゼッタ、あの日先に気絶をしていた。
もう1人はシェイラ。国王の従者を見て気を飛ばした。
2人とも、家族は行方知れず。親族すら何処にいるかも判らない。
自業自得だとは解っている。
逃げたところで生きていく術はないが、それでもレスモンドから遠くに逃げよう。
思いを同じくしてチャンスを伺っていた。
なかなかそのチャンスは訪れなかったが、ついに決行することにした。
ただ、2人の思いは「逃げる」のではない。
逃亡の成功を考えるのなら今ではないのは解っているが事は急を要していた。
ディチ子爵の口車に乗せられたレスモンドは週に1度やって来る国王からの使いに書類を渡してしまったのだ。
「誰かにこの事を知らせて、ディチ子爵の手の者が火を放つのを止めなければ」
「えぇ。そうよ。やるしかないわ」
宮から出る事が出来ないように宮の周囲には張り込んでいる兵士がいる。
その兵士に告げればいいのではないか。そう考えたがやめた。
護衛兵士は2人の令嬢の事を蛇蝎の如く嫌っていて、訴え出たところで「宮から逃げる口実」としか受け取ってくれない。恐ろしいのはそうなった時にレスモンドに知られてしまい、誰にも伝えることが出来ず果てるかも知れない事だった。
宮に来た時、いいや、その前からだ。兵士たちが令嬢2人を見る目は冷たい。
それはそうだろう。
ずっとレスモンドと一緒になってやりたい放題をしてきた。
兵士の中には家族が逃げたと聞かされた時に「ざまぁねぇな」と罵った者もいた。
親族も行方知れずと聞かされた時に「お前の蒔いた種だ。満足か?」と追い打ちをかけた者もいた。
兵士を憎んだり、恨んだりする気持ちは全くない。
自分たちはそう思われても仕方のない事をしてしまったのだから、受け入れるしかないと耐えて来た。
しかし、全く関係ない人たちの住まう場所にレスモンドがもう一度返り咲くために火を放つと知った以上、安全な場所から事が起きる、起きた、そんな報告を耳にして「お気の毒」と思う。そんな事はしたくなかった。
逃げるチャンスを伺っていた時に、23時過ぎと午前4時過ぎの2回。裏木戸に立つ兵士が2、3分いなくなることがある事に気が付いた。
しかし「だけど2、3分じゃ何もできない」と別の方法を探したが結局見つけられないまま今に至る。
部屋から裏木戸までは5分かかる、部屋で見ていて「今だ」と急いでも間に合わない。
それならその時まで裏木戸の反対で兵士の気配を伺えばいいのだ。
22時を過ぎてロゼッタは部屋を抜け出そうとしたのだが、そんな日に限ってレスモンドがやって来た。
――なんで今日来るのよ!――
そう思いつつ動きやすい服に着替える前で良かったと胸を撫でおろした。
することがなくても性欲は溜まるらしく、時折やって来る。
どうして今日なのだ!昨日は来なかったのに!悔しがっても相手をせねばレスモンドは暴れ出してしまう。1日、いや1秒でも惜しい今、暴れられて朝になれば間に合わないかも知れない。
仕方なく相手をしようとしたが、ロゼッタの体を見てレスモンドは「興が削がれた」と自分の部屋に戻って行った。
ロゼッタの体には薄い明かりでも判る痣が沢山ある。全てレスモンドの暴行によるものだ。
それを見て「萎えた」と殴られる事もあった。
レスモンドが引いた後、ロゼッタの部屋にシェイラがやって来た。
小さな声で問いかける。
「いけそう?」
「朝まで待った方がいいわ。さっきヤツが来たの」
「最悪ね。仕方ないわ。じゃぁ3時半くらいにまた来るわ」
明け方になると宮の中も外と同じくらいに冷え込んでくる。
ドアノブもこんな時間にうっかり素手で触れてしまうと手の皮がドアノブから離れなくなることもある。
「ロゼッタ…起きてる?」
「起きてるわ。何時でも行けるわよ」
「交代の兵士…居なくなるといいんだけど」
兵士の見張りが切れる2、3分は毎日ではない。
2人は「いませんように」「いなくなる日でありますように」と祈りながら裏木戸までくるとしゃがみ込み、扉の向こう側に神経を集中させた。
「うぇ~寒っ。交代まで…あとちょっとか…うぅ~寒っ」
兵士の独り言なのか言葉が扉の向こうから聞こえてくる。
――お願い!いなくなって――
ロゼッタとシェイラは祈った。
「だめ。もう我慢できない。漏れそう」
「仕方ねぇな。でも俺も行きたいと思ってたんだ。交代まで5分もないし行こうぜ」
「あぁ…ホント、やってらんねぇな。こっちはこんな寒い中突っ立ってるのにアイツらは寝具に包まってさぁ」
「そう言うな。仕事だと割り切るしかないだろう」
兵士の声と足音が遠ざかって行く。
直ぐにでも扉を開けて飛び出したいが、扉を開ける音で気付かれるとそこで終わる。
じっと耐えて、音が無くなった時シェイラはゆっくりと裏木戸を開けた。
シェイラはきょろきょろと視界の中に誰もいない事を確認するとロゼッタと共に宮の外に出て、静かに裏木戸を閉じた。
「行きましょう!」
「えぇ…。もし何かあっても…助けない。シェイラ良いわね?」
「勿論よ。ロゼッタ」
見つかってしまってもお互いを助けるために立ち止まらないこと。
誰かにレスモンドの企みを伝えること。
この2つを約束し、2人は凍てついた道を走り出した。
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