婚約破棄を強要されたら甘い日々が始まりました

cyaru

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VOL.33  使い道が他にある

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オリビアとクーヘンは先ずハンスの店に立ち寄った。

ハンスの店のある通りはクーヘンの店の前の路地の幅よりも道幅があるので商いをする者が店を構えている通りでもある。ブータコマの肉屋やカジーキの魚屋もこの通りにあるのだ。

日々の食材を買う客もやってくるので、王都公園ほどではないにしても人が集まる。

「どうしたんだ?寒いのにアツアツなお2人さん♡」

「ハンス、ふざけている場合じゃないんだ。大事な話がある。ちょっといいか?」

「大事な話?結婚してくれって言う前に子供が出来たとか?」

<< 違うっ! >>


店番を妻に頼んだハンスは店の奥にオリビアとクーヘンを招き入れると「なんだ?」と問う。何も知らないハンスなので緊張感がないのは仕方のない事だ。

オリビアはシェイラからの話をハンスに伝えた。

「ガセの話って訳じゃなさそうだな」

「えぇ。嘘みたいな話だから信じられないかも知れないけどディチ子爵が絡んでいるなら最大限の注意をした方が良いと思うのよ」

「信じるよ。思い当たることがあるんだ」

「何かあったの?」

思い当たることがあるというハンスにオリビアは驚いた。シェイラとロゼッタはレスモンドが国王に渡るように書類を従者に託して3日後には宮を抜け出してきている。

可能な限り急いだはずなのに、もうディチ子爵は何かしていたのだろうかと、ここ2,3日に何か騒ぎがあったかなと考えた。


「最近の話じゃない。俺がまだガキだった頃に婆さんが愚痴ってたのを覚えているだけだ」

「お婆さんが?」

「あぁ、母ちゃんの方の婆さんなんだが実は南地区にあったらしいんだ」


らしいというのはハンスが話を聞いた時にはもう母親の実家は西地区に住まいがあったからで、覚えているのは南地区に家があったというのなら、なんでわざわざ環境の整った南地区からスラムのような西地区に引っ越したのかと子供心に疑問に思ったからである。

ハンスやクーハン、オリビアも2人との年齢差は4歳なので同年代と言えば同年代。
子供の時から南地区と東地区は「住んでいるだけで安心」と言われる美観区域。

街並みも整然としていて、飲み屋ミナミの女将の息子夫婦も東地区の端っこでちょっとお洒落なダイニングバーを営業している。

客層も全く違い、居酒屋だけど客の方がそれなりな格好をして来店する。食事と一緒に少量のお酒を楽しむ感じ。
飲み屋ミナミの客は‥‥仕事帰りに一杯ひっかけていく客が半数なので大きな違いだ。

ちなみにオリビアはミナミの女将に「隠れ家的なお店ですよね?」と隣の店の事を問うたことがあるが、隠れ家的な飲み屋ではなく「隠れ家なんてお洒落じゃない、例えるならアジトよぅ。アッハッハ」と返された。


南地区で飲食店を経営していたようだが、ある日地上げ屋がやってくるようになって立ち退きを迫られた。拒否をすると嫌がらせが始まり、ガラの悪い客が「何を頼もうかな~」と注文もせずに延々と居座り続ける。

結局常連客も逃げてしまい、経営を諦め僅かな立ち退き料を貰い住める場所を探したら西地区くらいしかなく引っ越しをしてきた。ハンスの両親は母親が引っ越しをしてきて一家で軽食屋をしていたので、給仕をする母を見初めて結婚をし、ハンスが生まれたのだ。

「婆さんの話に ”ディチの野郎” ってよく出て来たんだよ。立ち退きをさせるために嫌がらせをする破落戸を雇ってたのがディチ子爵家らしくてさ。でも子爵でも貴族だ。確実な証拠も無しに訴える事は出来ないし 「この土地が欲しいので売ってくれと交渉している」 と言われたら役人も何にも出来なかったらしくてさ。解ってたとは思うよ?でも役人だって破落戸とは関わりたくないだろうしさ。その後も立ち退かずに粘ってた人もいたようだけど…」


ディチ子爵の子飼いの嫌がらせは続き、立ち退いた隣の家を解体する時に当時の南地区は今の西地区と同じように家が境界ギリギリで立っていたので「ごめーん。壁が壊れちまったよ」と半壊させたり。
解体後のゴミを玄関前に「出来るだけ急いで搬出しようとはしている」と積み上げたりで嫌がらせを続けたのだ。

「元々婆さんたちが住んでた家。今は半分が道で半分が公園だよ」

「そうなのね。酷い話だわ」

「だからディチ子爵家が絡んでるならやりかねないな。立ち退きさせるって言っても南地区や東地区からその時に流れて来た住民で西地区は人口がメッチャ多いし、立退料を払うくらいなら当時とは物価も違う。焼いて追い出せって考えても不思議じゃないさ」


ゴミの処分で区画費を住民は支払っているが、ハンスは小さな区画を纏める班長をさらに纏める自治会の役員もしている。大至急対応策を立てるために班長を呼び出すようにすると言ってくれた。

「でね…もし放火をされた時なんだけど、この雪が使えないかと思ったの」

「雪?無理じゃねぇの?」

「水のように使うのは無理。雪は空気を含んでいるから余計に燃えてしまう可能性もあるわ。でも水であることは変わらないでしょう?応急措置にしかならないけどやってみる価値はあると思うの」

オリビアは区域の班長達との話し合いに参加をさせてほしいとハンスに頼み込んだ。


「いいよ。ディチ関連だ。今夜話し合いの場を設けるから来てくれ。場所はすぐそこの寄り合い所。クーヘンが連れてきてくれるよ。な?クーヘン」

「それはいいけど…オリビア、何をする気なんだ?」

「色々。クーヘンさん。急いで店に戻ってロープを探しましょう」

「ロープ?!何を縛るんだ?」

ハンスは自分を抱くように体を捩じってクーヘンを見た。

「そんな趣味ねぇから!!」

ジト目になったオリビアに2人はビクッと体を震わせて直立不動の姿勢になる。

「ロープは縛るためだけの道具じゃないわよ」

「え?」「は?」

2人は何かを縛る以外の用途がロープにあったのか?と考えたが判らなかった。
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