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VOL.36 深夜の凶行
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どやどやと住民が寄り合い所から出て行く。
西地区には全部でハンスのように区域を纏める会長が35人いる。
班に分かれていて35班まであるが全員が参加をしてくれていた。
「解ってるな?」
「解ってるさ」
頬と鼻の頭を外気の寒さで赤くした住民が引けていくとオリビアとクーヘンも寸胴と一緒に帰路につく。寄り合い所から最後に出てきたのはハンスで寄り合い所の出入り口を施錠すると店のある方向に歩いて行った。
その様子を家の前に置かれた樽の陰に身を潜めてじっと伺っている男がいた。
西地区は人が多い事もあるが、比較的寄り合いを持つ機会は多い。
だが、そこで話し合われるのは商店街もある事から「スリに注意をしよう」「戸締りをしっかり」などよくある題材を繰り返し説明するようなもの。
「決行だな。朝まで皆でキャンプファイヤーで楽しめばいいさ」
だが、その時は今ではない。まだ風があって火を放ては風に乗って火は広がって行くだろうが寄り合いがあると就寝時間までまだ時間がある。
就寝する頃には風が今よりは収まる。
火を放つ時は男も火種を作らねばならないが風の中には雪も混じっているので湿気てしまうし、直ぐに消えてしまうのだ。
空を見上げて、「深夜がいいかな」と一旦男は引き上げて行った。
★~★
寄り合い所に集まった住民はいつもなら帰宅をすると湯を浴びて体をほぐし、寝る前に一杯ひっかけてから寝台に潜り込む。
寄り合いは時間にして18時から始まって19時過ぎには終わった。
住民は帰宅をすると家の中にある桶とロープを引っ張り出し、寄り合いでの申し合わせの通りに準備をした。
「寒いなぁ…でもまぁ…備えあれば憂いなしっていうからな」
「あんた、準備は終わったのかい?」
「あぁ。でも…クーヘンもやる時はやるもんだな」
「どうしたんだい?クーヘンさんに何かあったのかい?」
「あったなんてもんじゃねぇよ。実はな…」
その日は多くの家で留守番をしていた奥方の「えぇーっ?!」驚愕の声が街のあちこちから聞こえて来た。
オリビアは自身の出自、経歴を明かした上で住民に説明をしたからである。
住民は文句も言わずに準備を済ませ、寝台に潜り込んだのは日付を跨いだ頃だった。
オリビアの考えた手法は功を奏すのか。
その答え合わせは直ぐに判明することになった。
★~★
雪が止み、風もない真夜中の2時過ぎ。
明かりのついている家はまばらで雪を降らせていた雲が流れて行っても新月なので月明りもない。
そんな中、西地区の一画が明るくなった。
パチパチと木が弾ける音と共に煙が空に登っていく。
住民の住まう家は扉や窓はしっかり閉じていても隙間風が入ってくる。
焦げ臭い香りに気が付いた住民が窓を開け、暗闇を照らす炎を見て大声で叫んだ。
「火事だ!火が出てるぞ!!」
声だけでは足らないと思ったのか、家人を起こし「鍋を叩け」と叫んで気が付いた者が大きな音を立てていく。騒々しさに目を覚ました住民が窓の向こうが明るい事に気が付き、更に騒ぎ出した。
火元となった家屋に住んでいた住民は近所の住民と共に消火を始めていて井戸から汲みあげた水をバケツリレーで運んでいくが家屋そのものが古く、火は隣の家を温めて燃え移って行く。
「オリビア様!!」
騒ぎは少し離れたクーヘンの店の周辺にも波及していてシェイラとロゼッタは「間に合わなかった」と項垂れながらも「私たちも手伝います」とオリビアに懇願した。
しかし、たった1時間少しと言っても真冬の凍てついた道を素足で歩き、時に川に落ちて水分が付いたまままた歩いた2人の足は凍傷の手前。足の裏はまだ酷い炎症を起こしていて歩ける状態でもない。
「大丈夫。貴女達が教えてくれたおかげで対策はしてあるの。貴女達は十分に役目を果たしてくれたわ。それにその足で行っても…ごめんなさい。邪魔になるだけよ。ここにいる事が一番の手伝いにもなるわ」
「でもっ!!」
「オリビア!行くぞ!」
クーヘンの声と一緒に飲み屋ミナミの女将がやって来て「ここは任せな」と言ってくれる。
オリビアはシェイラとロゼッタに「大丈夫」もう一度声を掛けて外に飛び出していった。
「早速だな。よっぽど慌ててるんだろうな」
「そうね。焼け残ってしまったらまた火を放つわ。中途半端に残るとそのまま再建を始めるから、そうされちゃ困るのよ。波状的に仕掛けて来るわ。1か所消火したら皆がホッとするでしょう?で、日をおけば見回りも強化する。そこが奴らの狙いよ」
「これだけやってるからっていう安心を逆手に取るのか。汚いやつらだ!」
「同じ日に起こすなら皆火が出てる方に行っちゃうでしょう?そっちの消火に全力だから手薄になる場所を狙ってくるわ」
オリビアとクーヘンが向かったのは現在炎を上げている家屋ではない。
今夜は風がないので、炎は風で運ばれる事はない。転々としながら別の場所に火を放たれる可能性の方が高いのだ。
「危険なのは外から内側に向かって火を放たれる事よ。外環を火で囲まれたら逃げ場がなくなるわ」
野次馬たちが出火した方向に走って行く。オリビアとクーヘンはまだ暗闇となっている方向に寄り合いに参加していた住民と合流しながら走っていった。
西地区には全部でハンスのように区域を纏める会長が35人いる。
班に分かれていて35班まであるが全員が参加をしてくれていた。
「解ってるな?」
「解ってるさ」
頬と鼻の頭を外気の寒さで赤くした住民が引けていくとオリビアとクーヘンも寸胴と一緒に帰路につく。寄り合い所から最後に出てきたのはハンスで寄り合い所の出入り口を施錠すると店のある方向に歩いて行った。
その様子を家の前に置かれた樽の陰に身を潜めてじっと伺っている男がいた。
西地区は人が多い事もあるが、比較的寄り合いを持つ機会は多い。
だが、そこで話し合われるのは商店街もある事から「スリに注意をしよう」「戸締りをしっかり」などよくある題材を繰り返し説明するようなもの。
「決行だな。朝まで皆でキャンプファイヤーで楽しめばいいさ」
だが、その時は今ではない。まだ風があって火を放ては風に乗って火は広がって行くだろうが寄り合いがあると就寝時間までまだ時間がある。
就寝する頃には風が今よりは収まる。
火を放つ時は男も火種を作らねばならないが風の中には雪も混じっているので湿気てしまうし、直ぐに消えてしまうのだ。
空を見上げて、「深夜がいいかな」と一旦男は引き上げて行った。
★~★
寄り合い所に集まった住民はいつもなら帰宅をすると湯を浴びて体をほぐし、寝る前に一杯ひっかけてから寝台に潜り込む。
寄り合いは時間にして18時から始まって19時過ぎには終わった。
住民は帰宅をすると家の中にある桶とロープを引っ張り出し、寄り合いでの申し合わせの通りに準備をした。
「寒いなぁ…でもまぁ…備えあれば憂いなしっていうからな」
「あんた、準備は終わったのかい?」
「あぁ。でも…クーヘンもやる時はやるもんだな」
「どうしたんだい?クーヘンさんに何かあったのかい?」
「あったなんてもんじゃねぇよ。実はな…」
その日は多くの家で留守番をしていた奥方の「えぇーっ?!」驚愕の声が街のあちこちから聞こえて来た。
オリビアは自身の出自、経歴を明かした上で住民に説明をしたからである。
住民は文句も言わずに準備を済ませ、寝台に潜り込んだのは日付を跨いだ頃だった。
オリビアの考えた手法は功を奏すのか。
その答え合わせは直ぐに判明することになった。
★~★
雪が止み、風もない真夜中の2時過ぎ。
明かりのついている家はまばらで雪を降らせていた雲が流れて行っても新月なので月明りもない。
そんな中、西地区の一画が明るくなった。
パチパチと木が弾ける音と共に煙が空に登っていく。
住民の住まう家は扉や窓はしっかり閉じていても隙間風が入ってくる。
焦げ臭い香りに気が付いた住民が窓を開け、暗闇を照らす炎を見て大声で叫んだ。
「火事だ!火が出てるぞ!!」
声だけでは足らないと思ったのか、家人を起こし「鍋を叩け」と叫んで気が付いた者が大きな音を立てていく。騒々しさに目を覚ました住民が窓の向こうが明るい事に気が付き、更に騒ぎ出した。
火元となった家屋に住んでいた住民は近所の住民と共に消火を始めていて井戸から汲みあげた水をバケツリレーで運んでいくが家屋そのものが古く、火は隣の家を温めて燃え移って行く。
「オリビア様!!」
騒ぎは少し離れたクーヘンの店の周辺にも波及していてシェイラとロゼッタは「間に合わなかった」と項垂れながらも「私たちも手伝います」とオリビアに懇願した。
しかし、たった1時間少しと言っても真冬の凍てついた道を素足で歩き、時に川に落ちて水分が付いたまままた歩いた2人の足は凍傷の手前。足の裏はまだ酷い炎症を起こしていて歩ける状態でもない。
「大丈夫。貴女達が教えてくれたおかげで対策はしてあるの。貴女達は十分に役目を果たしてくれたわ。それにその足で行っても…ごめんなさい。邪魔になるだけよ。ここにいる事が一番の手伝いにもなるわ」
「でもっ!!」
「オリビア!行くぞ!」
クーヘンの声と一緒に飲み屋ミナミの女将がやって来て「ここは任せな」と言ってくれる。
オリビアはシェイラとロゼッタに「大丈夫」もう一度声を掛けて外に飛び出していった。
「早速だな。よっぽど慌ててるんだろうな」
「そうね。焼け残ってしまったらまた火を放つわ。中途半端に残るとそのまま再建を始めるから、そうされちゃ困るのよ。波状的に仕掛けて来るわ。1か所消火したら皆がホッとするでしょう?で、日をおけば見回りも強化する。そこが奴らの狙いよ」
「これだけやってるからっていう安心を逆手に取るのか。汚いやつらだ!」
「同じ日に起こすなら皆火が出てる方に行っちゃうでしょう?そっちの消火に全力だから手薄になる場所を狙ってくるわ」
オリビアとクーヘンが向かったのは現在炎を上げている家屋ではない。
今夜は風がないので、炎は風で運ばれる事はない。転々としながら別の場所に火を放たれる可能性の方が高いのだ。
「危険なのは外から内側に向かって火を放たれる事よ。外環を火で囲まれたら逃げ場がなくなるわ」
野次馬たちが出火した方向に走って行く。オリビアとクーヘンはまだ暗闇となっている方向に寄り合いに参加していた住民と合流しながら走っていった。
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