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VOL.39 捕縛された男
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オリビアは手で髪を触れた。
――あ、切ったんだったわ、どうしよう――
髪が長い時は留め具が暗器でもあったのだがボブヘアーになった今、留め具は不要である。
――代わりになるもの…あれでいいかな――
キョロキョロと見まわして雪の中に半分ほど埋もれている細い枝を掴んだ。
「あ…おまけが。まぁいいかな」
そう思いつつ「おまけ」が付いたままの細い枝を持ち、男の前にしゃがんだ。
「今なら言い訳もセットで聞いてさしあげますわ。どうされます?」
「そうだな。寝台で散々啼かせた後にもう一度とアンタが縋るなら考えてもいいな」
「そう。じゃぁ考えなくていいわ。知ってることだけ話をしてもらいましょう…ねッ!」
「ヒッヒィィーッ!!」
「動くと刺さっちゃう。唇以外は動かなくていいの。考える必要もないわ。知ってることを話せばいいだけだもの」
「おまっ…お前…」
「目を閉じてもダメよ?瞬きしたら瞼が串肉のトッピングになってしまうわ」
==どこからそんなものを?!==
クーヘンは男の目の前、本当に目の前。瞬きをしたら閉じた瞼が刺さりそう。そんな至近距離に突きつけられた先端に犬の糞が刺さった細い枝。男に「うりゃ!」突きつけているオリビアを見て頭の中に疑問符が飛ぶ。
「誰に頼まれたの?」
「し、知らねぇ…俺はタバコ…」
「この辺り禁煙区域なの。それに犬の糞は飼い主がちゃんと処理しなきゃダメなのよ。知らなかった?」
「禁煙?!犬っ?そんなの知らねぇよ」
「そうよね?今、私が決めたもの。糞の後始末は前からだけど」
「ふざけてっ…ハゥッ!!」
「さっきも言ったけど動くと刺さるわよ?それに今日は寒いでしょう?私もこの姿勢…何時まで持つかしら。手がかじかんできたわ。言っておくけど、刺さっても不可抗力ね。注意喚起したのに動いた貴方が悪いし、寒いのに時間を取らせる貴方が悪いんだもの」
「待て!待ってくれ‥言う!言うから!」
男が頭部を後ろに引いても至近距離にある枝の先端の距離は変わらない。
隣国の諜報部隊にいた男でもこの距離を保ってくる者を見たことがない。
何より恐ろしいのは糞の刺さった枝よりもその後ろにある瞳に温度の無いオリビアの顔。口調は優しくてもその言葉は機械的に発せられているようで抑揚も無い。
やるとなれば迷いすらなくトドメを指してくるタイプだ。
喉元でないのは諜報にもいた男。白状することは死に値するため自分から喉元に突きつけられた剣やナイフに刺さればいい。喉をやられればもう喋ることも出来ないのだから。
しかしオリビアが先端を向けたのは喉ではなく目。
目は潰されても声が出ればいいのだ。鼻でもないので鼻血で窒息する心配もない。
「お前…どこの諜報だ」
「諜報?使った事はあるけどした事はないわ」
「使った?」
男はオリビアの顔を部分的に視界を塞がれながらも見た。
「お、お前っ…まさか…オリビア・ポ――」
「あら、ご存じだったの?自己紹介が省けて何よりだわ。ふふっ習った事って体が覚えてるわよね」
男は観念した。
後の王妃と言われたオリビア。
放逐をされた令嬢が生きているという事は、囲っている人間がいると言うこと。
オリビアの後ろに誰かが付いているのなら自身の家族が命と隣り合わせの日々を送ることになってしまう。白状するまで手を緩めてくれる事はない。だんまりを決め込めば家族の命が消える。
迷いのある男の瞳にオリビアは「落ちるわね」と心で思う。
オリビアには何の力もないが、男はそこまでは知らないし教えてやる義理もない。
今だってカスのような昔の肩書を「使えるなら使った方がいいかな?」的なノリだ。今も昔の身分のままで振舞ったり自己紹介すれば詐称になるが、オリビアはそこには踏み込まない。相手が勝手に思ってくれるだけ。
「ディチ子爵だ。頼まれた…今夜の報酬は金貨3枚だ」
「そう?で?貴方は何を頼まれたの?」
「火を付けろと‥‥。目立つところに先ず1か所。その後は仲間と散って住民を内側ににしか逃げられないように火で囲うようにしろと」
「やめようって言ってあげなかったの?もっと穏やかな話し合いをしてみたら?とか言ってあげなかったの?」
「俺は…俺たちは…金さえもらえれば…」
「諜報崩れが傲慢ね。で?ディチ子爵にも理由はあるわよね?ここにいないのにキャンプファイヤーでマイムマイムは踊れないしリンボーダンスをするには寒いしね?」
「レ、レスモンドだ。あの王子を使って一儲けすると言ってた。言われた通りに動く馬鹿だからどうとでもなると」
「部分的に認めるところはあるわね。その一儲けって?」
「開発だ。ここを焼き払って更地っ!更地にすれば王子の功績になって開発に絡むことが出来るとっ!」
「でも、そしたら貴方、仕事がなくなるわよね?綺麗になったら何かを探る必要もないでしょう?」
男はオリビアを見た。
そこまで聞かれるとは思っていなかったのだ。
「開発に関わる貴族の弱みを握り恐喝に使うんだ。それで食えると言われた」
「情報屋さん?そんな就活も絡んでたの。呆れた。弱みは皆隠したいものよ。大きな金額が動く開発だからちょっとならって魔が差しちゃう人もいるものね。そこまで見越して食い物にしようとしてたのね」
「全部言っただろう?助けてくれ…あんたならなんとかできるだろ?な?な?」
オリビアは男の目の前から枝を引き、立ち上がった。
「だ、そうよ。後ろの憲兵さん。自白調書でさっきと違う事を言うならもう一度私が問い質―――えっ?転職されてましたの?」
「覚えていてくださいましたか。光栄です。はい。レスモンド殿下が宮に幽閉…いえ蟄居…いえ過ごされる事になったので配属が変わりまして。今は憲兵してます」
「そうでしたの。お役目ご苦労様ですわ」
「いいえぇ♡オリビア様に会えるなんて。やってて良かった憲兵っ♡って感じです」
その憲兵はオリビアがレスモンドに婚約破棄だ!と婚約解消の書類にサインをされた時に扉の前に立っていた兵士。「キャッハー!」と飛び跳ねて教皇の元に行くオリビアの背に「良かったですね」と心で呟いた兵士だった。
――あ、切ったんだったわ、どうしよう――
髪が長い時は留め具が暗器でもあったのだがボブヘアーになった今、留め具は不要である。
――代わりになるもの…あれでいいかな――
キョロキョロと見まわして雪の中に半分ほど埋もれている細い枝を掴んだ。
「あ…おまけが。まぁいいかな」
そう思いつつ「おまけ」が付いたままの細い枝を持ち、男の前にしゃがんだ。
「今なら言い訳もセットで聞いてさしあげますわ。どうされます?」
「そうだな。寝台で散々啼かせた後にもう一度とアンタが縋るなら考えてもいいな」
「そう。じゃぁ考えなくていいわ。知ってることだけ話をしてもらいましょう…ねッ!」
「ヒッヒィィーッ!!」
「動くと刺さっちゃう。唇以外は動かなくていいの。考える必要もないわ。知ってることを話せばいいだけだもの」
「おまっ…お前…」
「目を閉じてもダメよ?瞬きしたら瞼が串肉のトッピングになってしまうわ」
==どこからそんなものを?!==
クーヘンは男の目の前、本当に目の前。瞬きをしたら閉じた瞼が刺さりそう。そんな至近距離に突きつけられた先端に犬の糞が刺さった細い枝。男に「うりゃ!」突きつけているオリビアを見て頭の中に疑問符が飛ぶ。
「誰に頼まれたの?」
「し、知らねぇ…俺はタバコ…」
「この辺り禁煙区域なの。それに犬の糞は飼い主がちゃんと処理しなきゃダメなのよ。知らなかった?」
「禁煙?!犬っ?そんなの知らねぇよ」
「そうよね?今、私が決めたもの。糞の後始末は前からだけど」
「ふざけてっ…ハゥッ!!」
「さっきも言ったけど動くと刺さるわよ?それに今日は寒いでしょう?私もこの姿勢…何時まで持つかしら。手がかじかんできたわ。言っておくけど、刺さっても不可抗力ね。注意喚起したのに動いた貴方が悪いし、寒いのに時間を取らせる貴方が悪いんだもの」
「待て!待ってくれ‥言う!言うから!」
男が頭部を後ろに引いても至近距離にある枝の先端の距離は変わらない。
隣国の諜報部隊にいた男でもこの距離を保ってくる者を見たことがない。
何より恐ろしいのは糞の刺さった枝よりもその後ろにある瞳に温度の無いオリビアの顔。口調は優しくてもその言葉は機械的に発せられているようで抑揚も無い。
やるとなれば迷いすらなくトドメを指してくるタイプだ。
喉元でないのは諜報にもいた男。白状することは死に値するため自分から喉元に突きつけられた剣やナイフに刺さればいい。喉をやられればもう喋ることも出来ないのだから。
しかしオリビアが先端を向けたのは喉ではなく目。
目は潰されても声が出ればいいのだ。鼻でもないので鼻血で窒息する心配もない。
「お前…どこの諜報だ」
「諜報?使った事はあるけどした事はないわ」
「使った?」
男はオリビアの顔を部分的に視界を塞がれながらも見た。
「お、お前っ…まさか…オリビア・ポ――」
「あら、ご存じだったの?自己紹介が省けて何よりだわ。ふふっ習った事って体が覚えてるわよね」
男は観念した。
後の王妃と言われたオリビア。
放逐をされた令嬢が生きているという事は、囲っている人間がいると言うこと。
オリビアの後ろに誰かが付いているのなら自身の家族が命と隣り合わせの日々を送ることになってしまう。白状するまで手を緩めてくれる事はない。だんまりを決め込めば家族の命が消える。
迷いのある男の瞳にオリビアは「落ちるわね」と心で思う。
オリビアには何の力もないが、男はそこまでは知らないし教えてやる義理もない。
今だってカスのような昔の肩書を「使えるなら使った方がいいかな?」的なノリだ。今も昔の身分のままで振舞ったり自己紹介すれば詐称になるが、オリビアはそこには踏み込まない。相手が勝手に思ってくれるだけ。
「ディチ子爵だ。頼まれた…今夜の報酬は金貨3枚だ」
「そう?で?貴方は何を頼まれたの?」
「火を付けろと‥‥。目立つところに先ず1か所。その後は仲間と散って住民を内側ににしか逃げられないように火で囲うようにしろと」
「やめようって言ってあげなかったの?もっと穏やかな話し合いをしてみたら?とか言ってあげなかったの?」
「俺は…俺たちは…金さえもらえれば…」
「諜報崩れが傲慢ね。で?ディチ子爵にも理由はあるわよね?ここにいないのにキャンプファイヤーでマイムマイムは踊れないしリンボーダンスをするには寒いしね?」
「レ、レスモンドだ。あの王子を使って一儲けすると言ってた。言われた通りに動く馬鹿だからどうとでもなると」
「部分的に認めるところはあるわね。その一儲けって?」
「開発だ。ここを焼き払って更地っ!更地にすれば王子の功績になって開発に絡むことが出来るとっ!」
「でも、そしたら貴方、仕事がなくなるわよね?綺麗になったら何かを探る必要もないでしょう?」
男はオリビアを見た。
そこまで聞かれるとは思っていなかったのだ。
「開発に関わる貴族の弱みを握り恐喝に使うんだ。それで食えると言われた」
「情報屋さん?そんな就活も絡んでたの。呆れた。弱みは皆隠したいものよ。大きな金額が動く開発だからちょっとならって魔が差しちゃう人もいるものね。そこまで見越して食い物にしようとしてたのね」
「全部言っただろう?助けてくれ…あんたならなんとかできるだろ?な?な?」
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「だ、そうよ。後ろの憲兵さん。自白調書でさっきと違う事を言うならもう一度私が問い質―――えっ?転職されてましたの?」
「覚えていてくださいましたか。光栄です。はい。レスモンド殿下が宮に幽閉…いえ蟄居…いえ過ごされる事になったので配属が変わりまして。今は憲兵してます」
「そうでしたの。お役目ご苦労様ですわ」
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