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VOL.38 励みはフレンチトースト
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翌日、ディチ子爵は昼前に起きて優雅に遅い朝食をとっていた。
今まで子飼いとしている男たちが失敗したことはない。軽微な失敗はあるが口を割るような人間は使っていないので仮に捕縛をされても騎士団から事情聴取されたことも一度もなかった。
良い知らせが舞い込んでくると疑いもしなかった。
口元をナプキンでメイドに拭いてもらうとメイドの手を握る。
「今日は気分がいい。大きな仕事の幕開けだからな。お前の献身に、何か褒美を買ってやろうか」
「し、仕事ですから」
「お前は仕事だからと恋人でもない男の口元を拭くのか?正しい媚び方を教えてやってもいいぞ?」
「申し訳ございません。まだ仕事がありますので!!失礼いたします」
ディチ子爵の手を振り払ったメイドは小走りになって食事室から出て行った。
60歳を過ぎても精力的に自らが行動をするディチ子爵はまだ未婚。
若い頃には縁談も幾つかあったが、好みの女性ではないのでディチ子爵が断った。
「女は金があればいくらでも融通が利く」
「女は21歳まで」と豪語する。
その言葉通り、妻を持たないディチ子爵には愛人は何人かいたが、全員21歳でお役御免。縋ろうと泣き叫ぼうと切って来た。
メイドも侍女も全員が平民か低位貴族の女性だが21歳未満。
40歳を過ぎたころから募集をしても集まりが悪くなったが、給金を弾めば若い女性は応募してくる。
女性たちの間で「若い子好きの変態毒ガエル」と呼ばれている事は知らない。
昼を過ぎ、子飼いからの知らせが遅いな?と葉巻を吸っていると執事が真っ青な顔をして震える声でディチ子爵に「お客様です」と告げた。
「客?今日は誰とも会う予定はしていないが?」
「あ、あの…」
「へぇ。女に対してはオヤジ丸出しだが、内装は年相応だな」
びくびくする執事の後ろから顔を出したのは重大な犯罪を犯した犯罪者を捕縛する担当の騎士団。憲兵団の団長だった。
「は?どうして…」
「どうして?ふーん。何故お前がここにいるとでもいいたそうだな」
ディチ子爵も目の前の男たちに喧嘩を売るつもりは全くない。
憲兵団はレスモンドや国王の権力が及ばないところに位置する組織でどうにかしてくれと頼んだところで無力なのだ。
憲兵団を組織するようにと通達したのは正教会。
かの戦争でポルトー家に婿入りをした王子の大失策で数千人の命が失われた事から、王族と言う身分を振りかざし周囲を従わせることの無いよう、王族ですら一目置く組織を編成するよう命令をしたのだ。
国の在り方にも関わることに正教会が口を出す。あの砦の陥落はそれだけの事態だったのである。
「私は貴方がたに連行されるような事は何も…」
「茶でも飲みに来たと思うか?わざわざ来てやったのはレスモンドにも関係するからだ。媚びる人間を間違ったな?」
「わ、私は…レスモンド(うぐっ)殿下とはなにも…」
「関係ないとでも言いたいのか?我々がただ闇雲にお前の元に来たとでも?」
「ですがっ!!」
「安心しろ。お前がこれから口から吐ける言葉は供述だ。言い訳はする必要がない。協力的な子飼いを飼っているご主人様は本当にやりやすいよ。連れて行けッ!」
「待って、待ってください!私は何もっ!」
憲兵に捕縛をされたディチ子爵の腹を憲兵団の団長はパンパーン!2回叩いた。
「ダイエットも必要だな。この腹では自分のつま先も見えないだろう?まぁ…絞首台で抜けた床の底も見えない事はお前にとって幸せかも知れないがな」
「こ、絞首?!なんで私がっ!離せっ!離せぇーッ!」
暴れるディチ子爵。太った体も鍛え上げている憲兵に抗ったところで効果もない。叫び声だけを残し連行されていった。
★~★
深夜の内に住民に取り押さえられた放火犯は全部で11人。
あれから3人が住民に取り押さえられて、後ろ手に縛られ寄り合い所に連れてこられた。
「何も話したくないって顔だな。お前!放火がどんな刑になるかくらいは知ってるだろうが!」
「ハッ。知らないね。俺はタバコを吸おうと思っただけだ。そっちこそ冤罪の慰謝料!覚悟しとけ!女房を娼館に売るならいい娼館を紹介してやるぜ?」
「なんだとぉ!!」
「そうだ、そうだ、10人も間違いでした~で済むと思うなよゴラァ!
捕縛をされても開き直り、認めようとしない男たち。
オリビアは「はぁ」溜息を1つついてクーヘンを見た。
「どした?」
「うん…。これから先、挨拶くらいするのは許してほしいわ」
「どういうことだ?」
「彼らにお話をしてもらうんだけど…クーヘンさんに嫌われちゃうと思うから」
「き、嫌ったりしないぞ?」
「本当?朝も朝食…作ってくれる?」
「勿論だ!朝はハムとチーズを挟んだ豆乳で作るフレンチトーストだ!甘さは控えめだが…愛はマシマシで入れとく!」
――トッピングの愛こそ少な目でいいけど、聞くだけで美味しそうだわ――
オリビアの脳裏に挟まれたチーズがしっとりとしたトーストの中からとろりと出て来る光景が浮かぶ。
嫌われても取り敢えず朝食はある。
その事だけを励みにオリビアは捕縛をされても動揺すら見せない男の前にしゃがみ込んだ。
今まで子飼いとしている男たちが失敗したことはない。軽微な失敗はあるが口を割るような人間は使っていないので仮に捕縛をされても騎士団から事情聴取されたことも一度もなかった。
良い知らせが舞い込んでくると疑いもしなかった。
口元をナプキンでメイドに拭いてもらうとメイドの手を握る。
「今日は気分がいい。大きな仕事の幕開けだからな。お前の献身に、何か褒美を買ってやろうか」
「し、仕事ですから」
「お前は仕事だからと恋人でもない男の口元を拭くのか?正しい媚び方を教えてやってもいいぞ?」
「申し訳ございません。まだ仕事がありますので!!失礼いたします」
ディチ子爵の手を振り払ったメイドは小走りになって食事室から出て行った。
60歳を過ぎても精力的に自らが行動をするディチ子爵はまだ未婚。
若い頃には縁談も幾つかあったが、好みの女性ではないのでディチ子爵が断った。
「女は金があればいくらでも融通が利く」
「女は21歳まで」と豪語する。
その言葉通り、妻を持たないディチ子爵には愛人は何人かいたが、全員21歳でお役御免。縋ろうと泣き叫ぼうと切って来た。
メイドも侍女も全員が平民か低位貴族の女性だが21歳未満。
40歳を過ぎたころから募集をしても集まりが悪くなったが、給金を弾めば若い女性は応募してくる。
女性たちの間で「若い子好きの変態毒ガエル」と呼ばれている事は知らない。
昼を過ぎ、子飼いからの知らせが遅いな?と葉巻を吸っていると執事が真っ青な顔をして震える声でディチ子爵に「お客様です」と告げた。
「客?今日は誰とも会う予定はしていないが?」
「あ、あの…」
「へぇ。女に対してはオヤジ丸出しだが、内装は年相応だな」
びくびくする執事の後ろから顔を出したのは重大な犯罪を犯した犯罪者を捕縛する担当の騎士団。憲兵団の団長だった。
「は?どうして…」
「どうして?ふーん。何故お前がここにいるとでもいいたそうだな」
ディチ子爵も目の前の男たちに喧嘩を売るつもりは全くない。
憲兵団はレスモンドや国王の権力が及ばないところに位置する組織でどうにかしてくれと頼んだところで無力なのだ。
憲兵団を組織するようにと通達したのは正教会。
かの戦争でポルトー家に婿入りをした王子の大失策で数千人の命が失われた事から、王族と言う身分を振りかざし周囲を従わせることの無いよう、王族ですら一目置く組織を編成するよう命令をしたのだ。
国の在り方にも関わることに正教会が口を出す。あの砦の陥落はそれだけの事態だったのである。
「私は貴方がたに連行されるような事は何も…」
「茶でも飲みに来たと思うか?わざわざ来てやったのはレスモンドにも関係するからだ。媚びる人間を間違ったな?」
「わ、私は…レスモンド(うぐっ)殿下とはなにも…」
「関係ないとでも言いたいのか?我々がただ闇雲にお前の元に来たとでも?」
「ですがっ!!」
「安心しろ。お前がこれから口から吐ける言葉は供述だ。言い訳はする必要がない。協力的な子飼いを飼っているご主人様は本当にやりやすいよ。連れて行けッ!」
「待って、待ってください!私は何もっ!」
憲兵に捕縛をされたディチ子爵の腹を憲兵団の団長はパンパーン!2回叩いた。
「ダイエットも必要だな。この腹では自分のつま先も見えないだろう?まぁ…絞首台で抜けた床の底も見えない事はお前にとって幸せかも知れないがな」
「こ、絞首?!なんで私がっ!離せっ!離せぇーッ!」
暴れるディチ子爵。太った体も鍛え上げている憲兵に抗ったところで効果もない。叫び声だけを残し連行されていった。
★~★
深夜の内に住民に取り押さえられた放火犯は全部で11人。
あれから3人が住民に取り押さえられて、後ろ手に縛られ寄り合い所に連れてこられた。
「何も話したくないって顔だな。お前!放火がどんな刑になるかくらいは知ってるだろうが!」
「ハッ。知らないね。俺はタバコを吸おうと思っただけだ。そっちこそ冤罪の慰謝料!覚悟しとけ!女房を娼館に売るならいい娼館を紹介してやるぜ?」
「なんだとぉ!!」
「そうだ、そうだ、10人も間違いでした~で済むと思うなよゴラァ!
捕縛をされても開き直り、認めようとしない男たち。
オリビアは「はぁ」溜息を1つついてクーヘンを見た。
「どした?」
「うん…。これから先、挨拶くらいするのは許してほしいわ」
「どういうことだ?」
「彼らにお話をしてもらうんだけど…クーヘンさんに嫌われちゃうと思うから」
「き、嫌ったりしないぞ?」
「本当?朝も朝食…作ってくれる?」
「勿論だ!朝はハムとチーズを挟んだ豆乳で作るフレンチトーストだ!甘さは控えめだが…愛はマシマシで入れとく!」
――トッピングの愛こそ少な目でいいけど、聞くだけで美味しそうだわ――
オリビアの脳裏に挟まれたチーズがしっとりとしたトーストの中からとろりと出て来る光景が浮かぶ。
嫌われても取り敢えず朝食はある。
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