侯爵令嬢のお届け便☆サビネコ便が出来るまで☆

cyaru

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生涯を誓い合った日

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大勢の観客が集まっている。
いつもの発表会よりも警備の兵士が若干多めなのはペ・テイグリ国の第二王子の結婚式が行われるからである。一応の検査はあるものの、基本が無礼講。

騒ぎを起こそうとするものは一人としていない。
何故なら参列者の中に国のほとんどを牛耳る裏の組織ケスマコシファミリーのガルシアとその夫人ラーグドルも参列をしているからである。
ここで騒ぎを起こせば、普通に裁判されて絞首台に上がる方がずっと良い処遇になる事は間違いない。ポリスマンから逃げるのも難しいが、マフィアから逃げるのはもっと難しいからだ。


結婚式に先立って、ハインリヒとトーティシェルは第四王子メイフェルトと話をした。
元はと言えば、メイフェルトが結婚式を控えていると判っていて妊娠するような行為をした事が発端である。妊娠は女性だけの責任ではない。男性にも同じいや、女性以上に責任があるのだ。
妊娠をすれば体調も、体形も変わってしまうのは当たり前である。
融通の利かない有名店を選んでしまったのは婚約者の令嬢だとしても、そこでいいよとメイフェルトが了解をしたから王宮からドレスの仕立て屋に金も払われている。
少し調べれば融通が利かない事は調査で判ったはずなのだ。

「メイフェルト。ご令嬢だって体系を維持する努力はしても自然の摂理には逆らえない。それでも悩んだ挙句の行為だ。学生たちのケアは終わっている。令嬢も反省をしている。お前がしなくてはいけない事はなんだ?」

「俺はそんな事は気にしない。腹が出てる事の何が気にくわないのか判らない」

「メイフェルト様、女性にとっては生涯に一度の結婚式なのです。少しでも綺麗に、スレンダーに見せたいという気持ちがあるのです。それだけ貴方にそう思って欲しいと考えたんだと思いますわ」

「判った。ホワイティと会ってくる」

「怒るなよ?妊娠中は精神的にも不安定だ。支えるのは夫でありお腹の子の父であるメイフェルトだけなんだからな。貸し借りはもう存在しない。だから怒るような事ももうないんだからな」

「判ってる。兄上…それから…イヴェル侯爵令嬢。恩にきる」

「あら?ではわたくし達、メイフェルトに貸しを作ったのかしら?」

「何かあれば兄上とイヴェル侯爵令嬢の力になろう。約束する。それでチャラだ」


メイフェルトとしては妊娠してお腹が出てても良いじゃないかと思っていただけに婚約者のホワイティの気持ちが今一つ判らなかったようである。
綺麗に見せたいという女心までは理解が及んでいなかった。

結果は、ドレス工房と話がついてドレスをリメイクという形態をとってもらい落ち着いたのだ。
後日、拠点としている孤児院に大量の「アボガド、オクラ、ニンニク」が送られてきた。
婚約者のホワイティの実家であるビータワン伯爵家の特産物だが精力アップに効果のある食べ物ばかりである。何を意図しているか。一目瞭然だった。



「続いて私達の卒業制作です。本年は第二王子殿下、そしてイヴェル侯爵家トーティシェル様のご結婚の衣装をご依頼頂き、精一杯心を込めてひと針ひと針縫わせて頂きました。ランウェイはお2人のヴァージンロードにもなります。皆様、盛大な拍手で2人をお迎えくださいませ!」

舞台の下となるゲートで幕が上がるのを待つ2人。

ハインリヒはトーティシェルの手をそっと握る。
浅いヴェールで隠れてはいるが、トーティシェルの髪色を隠すことなく引き立たせるようなデザイン。ドレスもシンプルな中に優雅さが見え隠れする。

「トーティ。幕が開いたら新しい人生の始まりだ」
「はい。ハインツ様」
「えっ??さっき…なんて?」
「ハインツ様、幕が開きますわ」

ヴェールで隠れてはいるけれど、少しだけトーティシェルの頬が赤く見えた気がした。
ハインリヒは前を向いて、開けた道をトーティシェルの手をしっかりと握って歩いていく。

今まで出席した結婚式で入場時に歓声が上がったのは聞いた事がない。
だが、2人を迎えたのは大勢の観客の祝福の声と拍手だった。

教会からやってきた神父の前で誓いの言葉を述べる。

「ハインリヒ・カナガーン・ペ・テイグリ。汝は妻を愛し、慈しみ、健やかな時も病める時も共に支え合い、手を携えて温もりを生涯分かち合う事を誓いますか」

「はい、誓いますッ」

「トーティシェル・チャオ・イヴェル。汝は夫を愛し、慈しみ、健やかな時も病める時も共に支え合い、手を携えて温もりを生涯分かち合う事を誓いますか」

「はい、誓います」

「2人に神の祝福を与える。誓いの口付けを」

ヴェールを挙げると、微笑んでいるトーティシェルが見える。やっとこの日が来た!ハインリヒの全身に力が漲るのは仕方がない。
そっとトーティシェルの頬に手を添えると、ちゅ♡とキスをして、2人は鼻をコツンと当てた。

わぁぁぁ!

大きな歓声が上がると、ハインリヒとトーティシェルは皆に手を振りながら退場する。



「妃殿下!綺麗でしたよ」

学生が顔を涙でグシャグシャにしながら話しかけてくる。

「すっごい綺麗でした。こんな私でも力になれたかと思うと…うぅっ」

学生の方をトントン優しく叩いてハインリヒは声をあげた。

「ありがとう。皆さんのおかげで素敵な結婚式が出来ました。これからの皆さんの未来にも大きな幸せが訪れるよう僕らも力を尽くしていきます」

「殿下、こんなにカッコよかったんですね…もっと派手にしたらよかった」
「そうですよ!こんなカッコいいなんてズルいですよ」
「え?…もっとって‥どういう‥」
「ハインツ様、これ以上カッコよくなったらダメです。今のままがいいんです」
「あはっ♡トーティがそう言うならいいかぁ」

タワーマンションはまだ建設中であるが完成すれば1棟あたり350世帯が入居できる。
今までの生活とは違ってレバー一つでそのまま飲める水が出る上、湯殿も御不浄も完備。
全ての棟の2階部分には入院設備もあり、医師も3人が交代制で常駐する病院もある。
1階部分は半分がコミュニティスペース、もう半分は学問を教える教室でこの街の住民ならパスを提示すれば誰でも無料で使える。

孤児院に視察に来て10カ月でそれを知った住民たちは早々に住民登録を済ませて、真面目に仕事に励むようになった。街を歩いてゴミを捨てる者もいない。ボウフラが沸いていた水瓶は植木鉢代わりになり、底に穴があいて今は草木が植えられている。

ヘドロだらけだった用水路は底が見えるほど透き通った水がいつも貯められていて、太陽光を動力源とした風車が回ってタワーマンションの最上階に水を送り続けるように考えられている。

住民たちが仮住居としているかつて学園だった建物や教会、公会堂は移住後には取り壊されて新しく街立学校として住民が無料で利用できるセミナーや習い事の教室が始まる。

まだ7支店しかないアンモニャイト社とニャルシスト社の合弁会社であるサビネコ社だが、一般の人たちの送りたいという荷物の多さは予想以上だった。
違う街に移り住んだ息子や娘、学生時代の同級生、親戚、会社の同僚や上司、部下。色んな人が色んな人に荷物を送りたかったけれど自分で運ぶしか方法がなかったのだ。

業績はうなぎのぼりで1回目の確定申告を前にしても、おそらくワースト3いや、どん底と呼ばれたかつてスラムだった地区は今年はトップも狙えるかも知れないと言われるほどである。

ガルシアの目を盗んで住民から給金などをピンハネしていた者もいなくなり、住民たちの給金はイヴェル侯爵家の管轄下の元で適正賃金になった事も大きかった。

その影で、この地域に領を持っていたトーティシェルのかつての婚約者ユベルの実家であるゲッスール伯爵家は借金が払えず、抵当に入っていたこの地を手放した。勿論それを購入したのはイヴェル侯爵家である。
この街の95%を買い取ったイヴェル侯爵家はトーティシェルに持参金としてこの地を持たせた。

残りの5%は国有地であったため、国王は結婚祝いだとして隣接する国王所有の領と共にその5%の土地も合わせてハインリヒに譲渡した。

だが、2人におそらくこれからの人生を合わせても最大と思われる大きな試練が訪れるのだ。
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