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VOL:17 デキたのはなぁんだ?
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ミクマとエリックが挨拶回りを終えた翌日。
クリステルはいつものように人事課に菓子を持ってやってきた。
「こんにちは~」
だが、明らかに雰囲気が違う。席空きになったデスクが散見していてそこにいる職員もクリステルを見る目が冷たい。話しかけても相槌にならない溜息を返されてしまった。
「今日は会議が集中してるんですかぁ?」
暢気な声を出すが、誰もクリステルを見ようとしない。
今までは来れば皆が集まって来たのに。
もう一度問いかけると面倒そうに1人が返事を返してくれた。
「監察官に1人づつ呼ばれてるだけ。で?何の用件?」
「何の用件って、やだぁ。皆でお菓子を食べようと思ってぇ。ね?見て。新作の焼き菓子なの。今回も侍女に並んで買って来てもらいましたー!持つべきものはデキる後輩って言ってくれたじゃないですかぁ♡」
「はぁーっ」長めの溜息を吐きながら言葉を返してくれた職員は立ち上がった。
「アンタがデキたのは子供だけでしょ!どんだけ周りに迷惑かけたと思ってんの」
全員に先ず聞き取り調査をされるのだが、完全に個別。
そして持ちかけられるのだ。「今、本当のことを言えば減免されなくもない」と魅惑のワードを。
虐めはなかった事にしよう。業務の失態は課長とフランソワールに着せて、クリステルには騙されたとしておこう、口裏を合わせていたのだが、36人全員が個別に聴き取りをされるので、周りには聞かれていない。皆、自分の生活がある。
それぞれが自分の保身をする為に「やらされていた」「一緒に虐めないと何をされるか判らず怖かった」と口にするものの、謝罪をしたものは1人もいなかった。
人事課のスペースにいる者は全て聴取が終わっている。
自分が何を言ったのかは誰にも言えない。誰が残るか判らないのに裏切った自分がバレてしまうのが怖いのだ。
そこに暢気にやってきたクリステルに甘い対応をしていたら居残れるチャンスがなくなる。冷たい対応になるのも仕方のないことだった。
「あれ?クリス来てたのか」
更に暢気に拍車がかかった男、アルベールがやってきた。
「差し入れをね、持ってきたの」
「1人で?危ないだろ?」
「ううん。侍女も一緒。でもね、なんかみんな冷たくって。デキたの子供だけとか言われちゃってぇ。酷くない?」
アルベールは「酷いなぁ」とクリステルの頭を胸に押し付けて髪を撫でてやるとクリステルが指先を脇腹に這わせて来る。安定期に入るまではダメだと窘めるが「今晩の誘い」である事は間違いない。
生理的に無理かなと思ったが、久しぶりの情事の上腹の中に自分の子がいるという背徳感のようなものも合わさってアルベールは「なんだ、射精たじゃん」と二度目からは何も思わなくなった。
いちゃいちゃし始めた2人。
この後、どん底への坂道を転がり始めるとは露とも思わなかった。
★~★
アルベールはフランソワールに頬を張られ、女性用品店の前で暫く待ったのだが出て来ないので引き上げた。1晩1人で考えたのだが、クリステルとの結婚に文句があるわけではない。
クリステルの両親はクリステルには甘いので、クリステルが頼めばすぐに金も出してくれる。だがフランソワールの事は本当に愛していた。金と言う問題がこの世になければ間違いなくフランソワールだけがアルベールの運命の女性であり、真実愛する女性。
でも生きていくには食べねばならないし、仕事をするには服も着なければならない。人間だから息抜きはしたいし遊びたい。それを叶えてくれるのがクリステルだった。
クリステルと行く場所でアルベールは財布を開けた事がない。全てクリステルについてくる従者が支払う。2人きりになれるのは恋人同士が使う宿くらい。
情事の後、クリステルが汗を流しに湯殿に行った時、脱ぎ捨てた衣類の下にあったカバンを開けたアルベールは驚いた。支払いは従者がしているのに札で閉じない財布があったのだ。
アルベールは数枚を抜き取り、自分の財布の中に入れた。
その後も会うたびにクリステルの財布から金を抜く。アルベールには「必要経費」だった。
ある程度纏まった金でクリステルに指輪を買った。
クリステルは喜んでくれた。
アルベールはクリステルの心の底にあるドロドロした気持ちには薄々気が付いていた。
フランソワールとの関係は公にしていないものの、何かとフランソワールを引き合いに出す。少しだけ後ろめたい気持ちもあったけれどフランソワールを妻に出来ず愛人にすれば贅沢な暮らしをさせてやれる。
「これが男の甲斐性というものだ」
2人の女性に愛される喜び。
クリステルは妻にしてやるんだし、フランソワールとの関係を知っていて割り込んできたのだからある程度の事に目を瞑るのは当然のこと。そう考えていた。
そして今朝、出勤をする前にフランソワールが住んでいた家の前を通りかかり、驚いた。
住人が引っ越しをしていて、「何事だ?」と聞けば家屋が取り壊しになるという、フランソワールが住む家がなくなる?そう思ったが、新しく建て替えられたら優先的に戻って来られるんだと笑いながら話す住人に安堵した。
建て替えられたあとは、今の倍以上の広さになって今まで共同だった湯殿、不浄、台所もそれぞれの部屋に専用で設けられるという。
フランソワールの家に転がり込んで同棲出来なかったのは湯殿や不浄がないというのも大きな理由だった。
――なんだか俺・・・幸せ過ぎないか?――
新しくなれば思う存分フランソワールを抱ける。
汗を掻いてもわざわざ外に行く必要もないし、何より愛し合うためだけの宿は回数が重なればボディーブローのように財布を薄くするのだ。
――もう1年半以上は抱いてないな――
クリステルで発散はするが、体としての相性が良いとは言えない。
娼婦のように大きな声で喘がれると途中で萎えてしまう事もしばしば。
なによりクリステルは恥じらいがない。もう何度も肌を重ねたとしても恥ずかしがっているという素振りが大事なのだ。いきなり秘部を大公開されて喜ぶのは変態爺くらい。
――そこが違うんだよなぁ。ただ出せばいいってもんじゃないんだよな――
とは言っても性欲はある。
脇腹を這うクリステルの指に「出すだけ出すか」と思いながらクリステルの髪を撫でるアルベール。
「数日ぶりで御座います」
聞き覚えのある声が耳をそよ風のように吹き抜けた。
クリステルはいつものように人事課に菓子を持ってやってきた。
「こんにちは~」
だが、明らかに雰囲気が違う。席空きになったデスクが散見していてそこにいる職員もクリステルを見る目が冷たい。話しかけても相槌にならない溜息を返されてしまった。
「今日は会議が集中してるんですかぁ?」
暢気な声を出すが、誰もクリステルを見ようとしない。
今までは来れば皆が集まって来たのに。
もう一度問いかけると面倒そうに1人が返事を返してくれた。
「監察官に1人づつ呼ばれてるだけ。で?何の用件?」
「何の用件って、やだぁ。皆でお菓子を食べようと思ってぇ。ね?見て。新作の焼き菓子なの。今回も侍女に並んで買って来てもらいましたー!持つべきものはデキる後輩って言ってくれたじゃないですかぁ♡」
「はぁーっ」長めの溜息を吐きながら言葉を返してくれた職員は立ち上がった。
「アンタがデキたのは子供だけでしょ!どんだけ周りに迷惑かけたと思ってんの」
全員に先ず聞き取り調査をされるのだが、完全に個別。
そして持ちかけられるのだ。「今、本当のことを言えば減免されなくもない」と魅惑のワードを。
虐めはなかった事にしよう。業務の失態は課長とフランソワールに着せて、クリステルには騙されたとしておこう、口裏を合わせていたのだが、36人全員が個別に聴き取りをされるので、周りには聞かれていない。皆、自分の生活がある。
それぞれが自分の保身をする為に「やらされていた」「一緒に虐めないと何をされるか判らず怖かった」と口にするものの、謝罪をしたものは1人もいなかった。
人事課のスペースにいる者は全て聴取が終わっている。
自分が何を言ったのかは誰にも言えない。誰が残るか判らないのに裏切った自分がバレてしまうのが怖いのだ。
そこに暢気にやってきたクリステルに甘い対応をしていたら居残れるチャンスがなくなる。冷たい対応になるのも仕方のないことだった。
「あれ?クリス来てたのか」
更に暢気に拍車がかかった男、アルベールがやってきた。
「差し入れをね、持ってきたの」
「1人で?危ないだろ?」
「ううん。侍女も一緒。でもね、なんかみんな冷たくって。デキたの子供だけとか言われちゃってぇ。酷くない?」
アルベールは「酷いなぁ」とクリステルの頭を胸に押し付けて髪を撫でてやるとクリステルが指先を脇腹に這わせて来る。安定期に入るまではダメだと窘めるが「今晩の誘い」である事は間違いない。
生理的に無理かなと思ったが、久しぶりの情事の上腹の中に自分の子がいるという背徳感のようなものも合わさってアルベールは「なんだ、射精たじゃん」と二度目からは何も思わなくなった。
いちゃいちゃし始めた2人。
この後、どん底への坂道を転がり始めるとは露とも思わなかった。
★~★
アルベールはフランソワールに頬を張られ、女性用品店の前で暫く待ったのだが出て来ないので引き上げた。1晩1人で考えたのだが、クリステルとの結婚に文句があるわけではない。
クリステルの両親はクリステルには甘いので、クリステルが頼めばすぐに金も出してくれる。だがフランソワールの事は本当に愛していた。金と言う問題がこの世になければ間違いなくフランソワールだけがアルベールの運命の女性であり、真実愛する女性。
でも生きていくには食べねばならないし、仕事をするには服も着なければならない。人間だから息抜きはしたいし遊びたい。それを叶えてくれるのがクリステルだった。
クリステルと行く場所でアルベールは財布を開けた事がない。全てクリステルについてくる従者が支払う。2人きりになれるのは恋人同士が使う宿くらい。
情事の後、クリステルが汗を流しに湯殿に行った時、脱ぎ捨てた衣類の下にあったカバンを開けたアルベールは驚いた。支払いは従者がしているのに札で閉じない財布があったのだ。
アルベールは数枚を抜き取り、自分の財布の中に入れた。
その後も会うたびにクリステルの財布から金を抜く。アルベールには「必要経費」だった。
ある程度纏まった金でクリステルに指輪を買った。
クリステルは喜んでくれた。
アルベールはクリステルの心の底にあるドロドロした気持ちには薄々気が付いていた。
フランソワールとの関係は公にしていないものの、何かとフランソワールを引き合いに出す。少しだけ後ろめたい気持ちもあったけれどフランソワールを妻に出来ず愛人にすれば贅沢な暮らしをさせてやれる。
「これが男の甲斐性というものだ」
2人の女性に愛される喜び。
クリステルは妻にしてやるんだし、フランソワールとの関係を知っていて割り込んできたのだからある程度の事に目を瞑るのは当然のこと。そう考えていた。
そして今朝、出勤をする前にフランソワールが住んでいた家の前を通りかかり、驚いた。
住人が引っ越しをしていて、「何事だ?」と聞けば家屋が取り壊しになるという、フランソワールが住む家がなくなる?そう思ったが、新しく建て替えられたら優先的に戻って来られるんだと笑いながら話す住人に安堵した。
建て替えられたあとは、今の倍以上の広さになって今まで共同だった湯殿、不浄、台所もそれぞれの部屋に専用で設けられるという。
フランソワールの家に転がり込んで同棲出来なかったのは湯殿や不浄がないというのも大きな理由だった。
――なんだか俺・・・幸せ過ぎないか?――
新しくなれば思う存分フランソワールを抱ける。
汗を掻いてもわざわざ外に行く必要もないし、何より愛し合うためだけの宿は回数が重なればボディーブローのように財布を薄くするのだ。
――もう1年半以上は抱いてないな――
クリステルで発散はするが、体としての相性が良いとは言えない。
娼婦のように大きな声で喘がれると途中で萎えてしまう事もしばしば。
なによりクリステルは恥じらいがない。もう何度も肌を重ねたとしても恥ずかしがっているという素振りが大事なのだ。いきなり秘部を大公開されて喜ぶのは変態爺くらい。
――そこが違うんだよなぁ。ただ出せばいいってもんじゃないんだよな――
とは言っても性欲はある。
脇腹を這うクリステルの指に「出すだけ出すか」と思いながらクリステルの髪を撫でるアルベール。
「数日ぶりで御座います」
聞き覚えのある声が耳をそよ風のように吹き抜けた。
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