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VOL:18 押してダメなら
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「ミっくん。あなた変じゃない?」
「何がですか?お婆様」
「こそこそ様子を伺うくらいなら一緒にお出掛けするなり、お茶するなりすればいいじゃない。今朝も調理長の仕事を奪ってフゥちゃんの朝食だけ作って。食べてる様子を見てたミっくん…キモかったわよ?」
「キモっ?!キモいってどっ、どっ、どういう事ですか!」
「見たまんまよ?今だって本を読む振りして30分全然ページが進んでないし、視線はフゥちゃんだし」
「違います!ちゃんと読んでました!」
「本が逆さなのに?」
言われて本に目を落とすと確かに本の向きが逆。
これが表紙との逆なら気が付いたのに文字が逆だなんて!
しかも開いていたのはストレッチの本だったので、本来「脚を開いてしっかり地面を踏みしめる感じで!」という文字の下にある挿絵が天に向かって足を大きく開いている状態。
「こっこれは!逆さ読み!そう、逆さ読みを訓練してるんです」
苦しい言い訳をするがジト目になった祖母クラリスは誤魔化せない。
「それはそうと、先日フゥちゃんは有給の申請をして退職までの期間休むようにしたそうなんだけど、そうなると貴方が帰国をするのに出国許可が遅れるかも知れないわ。退職願を出していても有給期間中なら一応王宮の職員でもあるし、退職願が受理されないって可能性はゼロじゃないのよ?」
「いえ、元々短期の派遣から更新を重ねてなので大丈夫だと言ってましたが」
「本当に無能なら大丈夫でしょうけど、知ってる?フウちゃん7か国語いけるのよ?」
「えっ?嘘でしょう?本当なら大臣秘書官クラスじゃないですか」
「そうよ?大臣秘書官は4か国語ですら数人。しかもね?フゥちゃん世界最難解と言われるアフスタン語もイケるのよ?そんな人材、プリースト陛下が手放すと思うぅ~うりうり~ぐりぐり~」
クラリスのアイアンクローがミクマのこめかみを程よい力で刺激する。
渾身のクラリスだが、相手が痛がらないどころか「もうちょっと…指一つ分下‥かな」っと気持ち良さを感じる事もあるって事までは気が付かない。
「ジュータス様に贈り物もあげるって言われたんでしょ?貰ってきなさい」
「その贈り物ってまさか…」
「お爺様から言われなかった?皇帝なんてそのためにいるって」
「言われましたけど…本当にそんな事に使っていいんですか?!」
「いいのよ?っていうか…お爺様はジュータス様を顎で使ってたわよ?今頃・・・根回しと言いながら直接ヤホーヤホーって人事課にいるかもね?」
「マジですか…」
「旧世代はね、良くも悪くも行動が早いの。人にやらせるより自分が動いた方が早いから。そうだ!ミっくん、知ってる?」
「何をですか?」
「押してダメなら‥‥の続き♡」
「引いてみなですか?」
「若いわね~。残念。答えは自分の心の中にあるでしょ?」
祖母クラリスが何を言いたいのかは判るミクマ。
ミクマもこの気持ちに言葉をつけるとすれば…。判っているのだ。
しかし「隣国に行くのに支障があるから」と自分に言い聞かせた。
ミクマは今日も刺繍をするフランソワールの元に走った。
侍女やメイドとキャッキャウフフと小鳥の爽やかな囀りに似た声、光よりも眩しい笑顔がミクマの心をグッサグッサと突き刺して鷲掴みにする。
――だめだ…誤魔化しなんかもう無理だ――
声を聞けば一言一句逃さぬように神経を研ぎ澄ませてしまう。
姿が見えなければ探してしまう。
視界に捕えれば…気恥ずかしさから俯いてしまう。
――これが世に言う一目惚れというやつなのか――
バーでも、その翌日も何とも思わなかったし、買い物に行って瞳を褒められるまでミクマの気持ちにはさざ波すらなかったのに今は大時化である。
数十メートルの高波を受けて航行する船に乗った気分。
この船を無事に港に停泊させるには、障害を取り除かねばならない。
【押してダメなら、もっと押せだ!!】
ミクマはフランソワールに声を掛けた。
「フランソワール」
「あら?ミクマ様、どうされたんです?」
「王宮の人事課に行こうか。付き添うよ」
「人事課に?でもそのままでも退職になると思いますが」
ミクマはソファに腰掛けるフランソワールの隣に腰を下ろし、背凭れに片腕を伸ばした。いちいちカッコつけないといけないのがミクマの悪い癖でもあるが、実は父がそうしていたので「こうするもの」と刷り込まれているだけ。
侍女やメイドが空気を読んで「あとは若いお二人で」な場を演出するため引いていく。
フランソワールから漂う香りが脳内に浸潤するともう気持ちを抑える事など出来ない。ミクマは2人きりになったところでフランソワールの顎に手を伸ばした。
――ンニャァ!!久しぶりの至近距離イケメンっ!――
フランソワールの頬が引き攣るが、ミクマはそれすら「食べてしまいたい」感情が沸き上がり、理性をフル動員する。そもそもでその態勢を取らねばいいだけなのだが、気が付かない。
「Che bella sei!」※なんて美しいんだ
――今度はイタリアーノ?!――
「Je ne peux pas vivre sans toi」※君の存在は僕が生きる全ての意味を持つ
――次はどうしてOHフランスなのよ?!――
クリステルなら甘く見つめられるだけのこのシチュエーションでコロっと行くだろうが、フランソワールはその言葉の意味が瞬時に理解できるため、ミクマの精神状態を疑った。
「あ、あの…どうされたんです?」
「どうもしない、些細で重要な問題が起こったんだ。Te amo」※最愛の人
――なんで今度はポルトガル語なの?!――
――些細で重要?どっちよ?!――
「有給なんかいらないだろ?僕がいるんだから」
「いえいえ、有給とミクマ様は同じじゃないですから!」
「そんな冷たい事を言って困らせるなんてな。この可愛い口を塞ぐよ?」
「へっ?」
――やっぱりどこかおかしい!食あたりが脳に来たの?――
「じゃ、行こうか。手を握っても?」
「あの…手を握られる前に抱きしめているのは何故ですか」
「離れたくないから。と言えば判ってくれるか?」
「わ、判りました!行きますので離してくださいっ」
幾ら契約結婚だからと屋敷の中まで演技力全開にしなくていいのにと思いつつ一緒の馬車に乗った2人。さも当たり前のように膝の上を勧められたが、隣に腰を下ろした。
「揺れるから」
そんな理由で肩に手を回して引き寄せているのは何故なんだろう。
ふと見上げると真っ赤な顔をしたミクマと目が合った瞬間に顔ごと逸らされた。
――なんなの?いったい――
そう思ったフランソワールの耳に小さくミクマの声が聞えて来た。
「破壊力半端ないな…自覚するとホント…抑えが利かない」
「どういう事です?」
「今は答えられない…すまないがどこか抓ってくれないか。力いっぱい」
「は?抓る?」
「そう…君の手で思い切り抓られたい」
馬車の中に沈黙が流れた。
「何がですか?お婆様」
「こそこそ様子を伺うくらいなら一緒にお出掛けするなり、お茶するなりすればいいじゃない。今朝も調理長の仕事を奪ってフゥちゃんの朝食だけ作って。食べてる様子を見てたミっくん…キモかったわよ?」
「キモっ?!キモいってどっ、どっ、どういう事ですか!」
「見たまんまよ?今だって本を読む振りして30分全然ページが進んでないし、視線はフゥちゃんだし」
「違います!ちゃんと読んでました!」
「本が逆さなのに?」
言われて本に目を落とすと確かに本の向きが逆。
これが表紙との逆なら気が付いたのに文字が逆だなんて!
しかも開いていたのはストレッチの本だったので、本来「脚を開いてしっかり地面を踏みしめる感じで!」という文字の下にある挿絵が天に向かって足を大きく開いている状態。
「こっこれは!逆さ読み!そう、逆さ読みを訓練してるんです」
苦しい言い訳をするがジト目になった祖母クラリスは誤魔化せない。
「それはそうと、先日フゥちゃんは有給の申請をして退職までの期間休むようにしたそうなんだけど、そうなると貴方が帰国をするのに出国許可が遅れるかも知れないわ。退職願を出していても有給期間中なら一応王宮の職員でもあるし、退職願が受理されないって可能性はゼロじゃないのよ?」
「いえ、元々短期の派遣から更新を重ねてなので大丈夫だと言ってましたが」
「本当に無能なら大丈夫でしょうけど、知ってる?フウちゃん7か国語いけるのよ?」
「えっ?嘘でしょう?本当なら大臣秘書官クラスじゃないですか」
「そうよ?大臣秘書官は4か国語ですら数人。しかもね?フゥちゃん世界最難解と言われるアフスタン語もイケるのよ?そんな人材、プリースト陛下が手放すと思うぅ~うりうり~ぐりぐり~」
クラリスのアイアンクローがミクマのこめかみを程よい力で刺激する。
渾身のクラリスだが、相手が痛がらないどころか「もうちょっと…指一つ分下‥かな」っと気持ち良さを感じる事もあるって事までは気が付かない。
「ジュータス様に贈り物もあげるって言われたんでしょ?貰ってきなさい」
「その贈り物ってまさか…」
「お爺様から言われなかった?皇帝なんてそのためにいるって」
「言われましたけど…本当にそんな事に使っていいんですか?!」
「いいのよ?っていうか…お爺様はジュータス様を顎で使ってたわよ?今頃・・・根回しと言いながら直接ヤホーヤホーって人事課にいるかもね?」
「マジですか…」
「旧世代はね、良くも悪くも行動が早いの。人にやらせるより自分が動いた方が早いから。そうだ!ミっくん、知ってる?」
「何をですか?」
「押してダメなら‥‥の続き♡」
「引いてみなですか?」
「若いわね~。残念。答えは自分の心の中にあるでしょ?」
祖母クラリスが何を言いたいのかは判るミクマ。
ミクマもこの気持ちに言葉をつけるとすれば…。判っているのだ。
しかし「隣国に行くのに支障があるから」と自分に言い聞かせた。
ミクマは今日も刺繍をするフランソワールの元に走った。
侍女やメイドとキャッキャウフフと小鳥の爽やかな囀りに似た声、光よりも眩しい笑顔がミクマの心をグッサグッサと突き刺して鷲掴みにする。
――だめだ…誤魔化しなんかもう無理だ――
声を聞けば一言一句逃さぬように神経を研ぎ澄ませてしまう。
姿が見えなければ探してしまう。
視界に捕えれば…気恥ずかしさから俯いてしまう。
――これが世に言う一目惚れというやつなのか――
バーでも、その翌日も何とも思わなかったし、買い物に行って瞳を褒められるまでミクマの気持ちにはさざ波すらなかったのに今は大時化である。
数十メートルの高波を受けて航行する船に乗った気分。
この船を無事に港に停泊させるには、障害を取り除かねばならない。
【押してダメなら、もっと押せだ!!】
ミクマはフランソワールに声を掛けた。
「フランソワール」
「あら?ミクマ様、どうされたんです?」
「王宮の人事課に行こうか。付き添うよ」
「人事課に?でもそのままでも退職になると思いますが」
ミクマはソファに腰掛けるフランソワールの隣に腰を下ろし、背凭れに片腕を伸ばした。いちいちカッコつけないといけないのがミクマの悪い癖でもあるが、実は父がそうしていたので「こうするもの」と刷り込まれているだけ。
侍女やメイドが空気を読んで「あとは若いお二人で」な場を演出するため引いていく。
フランソワールから漂う香りが脳内に浸潤するともう気持ちを抑える事など出来ない。ミクマは2人きりになったところでフランソワールの顎に手を伸ばした。
――ンニャァ!!久しぶりの至近距離イケメンっ!――
フランソワールの頬が引き攣るが、ミクマはそれすら「食べてしまいたい」感情が沸き上がり、理性をフル動員する。そもそもでその態勢を取らねばいいだけなのだが、気が付かない。
「Che bella sei!」※なんて美しいんだ
――今度はイタリアーノ?!――
「Je ne peux pas vivre sans toi」※君の存在は僕が生きる全ての意味を持つ
――次はどうしてOHフランスなのよ?!――
クリステルなら甘く見つめられるだけのこのシチュエーションでコロっと行くだろうが、フランソワールはその言葉の意味が瞬時に理解できるため、ミクマの精神状態を疑った。
「あ、あの…どうされたんです?」
「どうもしない、些細で重要な問題が起こったんだ。Te amo」※最愛の人
――なんで今度はポルトガル語なの?!――
――些細で重要?どっちよ?!――
「有給なんかいらないだろ?僕がいるんだから」
「いえいえ、有給とミクマ様は同じじゃないですから!」
「そんな冷たい事を言って困らせるなんてな。この可愛い口を塞ぐよ?」
「へっ?」
――やっぱりどこかおかしい!食あたりが脳に来たの?――
「じゃ、行こうか。手を握っても?」
「あの…手を握られる前に抱きしめているのは何故ですか」
「離れたくないから。と言えば判ってくれるか?」
「わ、判りました!行きますので離してくださいっ」
幾ら契約結婚だからと屋敷の中まで演技力全開にしなくていいのにと思いつつ一緒の馬車に乗った2人。さも当たり前のように膝の上を勧められたが、隣に腰を下ろした。
「揺れるから」
そんな理由で肩に手を回して引き寄せているのは何故なんだろう。
ふと見上げると真っ赤な顔をしたミクマと目が合った瞬間に顔ごと逸らされた。
――なんなの?いったい――
そう思ったフランソワールの耳に小さくミクマの声が聞えて来た。
「破壊力半端ないな…自覚するとホント…抑えが利かない」
「どういう事です?」
「今は答えられない…すまないがどこか抓ってくれないか。力いっぱい」
「は?抓る?」
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馬車の中に沈黙が流れた。
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