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第12話 現地解散です
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街の中を走り回ってデリックはサリアを探した。
2時間ほどかけて50人以上に声を掛けたけれど「また貴方ですか?しつこいですよ」と同じ人に何度も声を掛けてしまう始末。
顔立ちや背丈は違うし、明らかに髪の色や髪型が違う女性もいたのだがお洒落をしている女性ならではのトリッキーな出来事にも遭遇してしまった。
「わっ。ズレちゃった」
立ち止まった女性が髪に手をあてるとスポンと髪が取れた。
「え?髪が?!なんでだ?」
「いきなりなんなの?失礼な人!」
「すまない。でもなんで髪が取れるんだ?!」
「ウィッグよ。知らないの?」
「ウィ??もしかしてズラの事か?!」
「なにその言い方…オッサン臭っ」
「オッサ…失礼だろう!」
「失礼なのソッチでしょ?なんなの?さっきからウロウロして!もしかして連れ込みやすそうな子、探してんじゃないの?誰かぁ!こいつ憲兵に突き出すの手伝って!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。人を探しているだけなんだ!」
女の子が騒ぎ始めてしまい、デリックは「人を探している」と訴えたけれど、同じ服を着た多くの女性が一堂に会するなど前例もない。デリックは不審者としてやってきた憲兵に事情を聞かれるという醜態をさらす事になってしまった。
街を混乱させているのは彼女たちだ!と訴えたけれど…。
「何を言ってるんです?彼女たちは商店街で買い物をして金を落としてるんだ。何か問題が?」
「あ、ありません…」
「アルサール公爵家の方ですから?間違いはないと思いますけども、同じように彼女たちに手当たり次第声を掛けている助平男も数人捕縛しているんです。紛らわしい行動は控えて頂けますか」
「すっ、助平男っ?!」
「いいですか?これだけ声を掛け回っているんですから痴漢だと騒がれたらほぼ退路はないと思ってください。最近はね、イケメンだから痴漢はしないなんて都市伝説を信じてる人はいないんですよ。イケメン、ブサメン、僕フツメン関係なくやる奴はやりますからね」
ただサリアを探しているだけなのに痴漢と間違われてしまったら大変なことになる。
協議書にサインをしてしまった以上、放っておけば監査員がサリアの元に行く。
その時にサリアが努力をしていても足りないと判断をされてしまったら婚約は解消になってしまう。
もっと困るのはサリアが「もう無理です」と監査員の前で匙を投げることだ。
マストで困るのはそれをサリアがやり兼ねない事だ。
「すまない!サリアを探してくれないか。どうしても彼女に会わねばならないんだ」
「サリアと言うと…シリカ伯爵令嬢ですか?」
「そうだ!何処にいる?」
「どこって…公園のお祭り広場で踊ってますが?」
「踊ってる?!」
デリックはサリアと夜会でワルツを数回踊ったことはあるけれど、サリアが夜会の始まりで時折踊られるポルカなど軽快なリズムのダンスは踊っているのを見たことはないし、自分以外と踊っていいと許可したのはサリアの父と兄だけ。
だから憲兵が言う「踊っている」という言葉が理解も想像も出来なかった。
「ご案内しましょうか」と言うので、ついて行った先で今度は目の前の光景が信じられなかった。
「キャッハー!!リンボー!!」
そこにはサリアがいて、商店街の店主たちが手で打ち鳴らすジャンベのリズムに合わせて火こそ点けられていないけれど、棒の高さが段々と低くなるその下を体をのけ反らし、両手をグイグイとリズムに合わせて振ってリンボーダンスをしていた。
「何をしてるんだッ!」
駆け寄ってサリアの腕をデリックが掴むと棒が落ちてしまった。
「ブーブー!!ブーブー!」
「何するんですか!あ~。折角1位を独走してたのに!」
「そうだそうだ!割り込みもダメだが、潜っている最中に手を出したらダメだろう!」
周囲から盛大なブーイングが飛び、サリアもデリックの手を腕を振って振り払った。
「ご、ごめん」
「ごめんで済んだら憲兵要らないわ。どうしてくれるのよ!」
「どうするって‥」
「1位になったら景品がもらえたのよ?言ったでしょう?独走だったのよ!」
「解った。解ったから。その景品と同じものを買ってやるよ」
「買えないわよ!」
「買うと言ってる!ごちゃごちゃ言うなッ!‥‥ハッ!!」
デリックはごくりと生唾を飲んだ。
サリアはジト目でデリックを見ている。これは見慣れた光景だが周囲の視線が痛すぎる。
リンボーダンス中に割り込んで邪魔をし、声を荒げ難癖を付けているとしか思えない言動にジリッジリと周囲の観客が間合いを詰めてきた。
「あ、いや…これは…」
「はぁーっ。もういいわ。景品。弁済してくれるんでしょう?」
「うん。何でも言ってくれ」
「聞く前に1位の景品を確認されては?」
「そ、そうだったな」
デリックは1位の景品を確認したのだが、またもや目を疑った。
「い、1位は城の3本塔で綱渡り?!死にたいのか!?」
「死ぬためじゃないわ。皆を楽しませるためよ」
「はぁっ?!君は馬鹿なのか?こんなもので――」
「協議書項目10番目。 ”公爵家の人間になる覚悟があるのなら民衆に楽しみの1つでも与えろ” ですけども、どうやら過ぎた思いだったようですわ。残念♡」
「あ…」
「では、現地解散ですのでお花を摘んでそのまま私はお暇致しますわ」
やっちまった顔になったデリックを残し、サリアは颯爽と帰って行った。
2時間ほどかけて50人以上に声を掛けたけれど「また貴方ですか?しつこいですよ」と同じ人に何度も声を掛けてしまう始末。
顔立ちや背丈は違うし、明らかに髪の色や髪型が違う女性もいたのだがお洒落をしている女性ならではのトリッキーな出来事にも遭遇してしまった。
「わっ。ズレちゃった」
立ち止まった女性が髪に手をあてるとスポンと髪が取れた。
「え?髪が?!なんでだ?」
「いきなりなんなの?失礼な人!」
「すまない。でもなんで髪が取れるんだ?!」
「ウィッグよ。知らないの?」
「ウィ??もしかしてズラの事か?!」
「なにその言い方…オッサン臭っ」
「オッサ…失礼だろう!」
「失礼なのソッチでしょ?なんなの?さっきからウロウロして!もしかして連れ込みやすそうな子、探してんじゃないの?誰かぁ!こいつ憲兵に突き出すの手伝って!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。人を探しているだけなんだ!」
女の子が騒ぎ始めてしまい、デリックは「人を探している」と訴えたけれど、同じ服を着た多くの女性が一堂に会するなど前例もない。デリックは不審者としてやってきた憲兵に事情を聞かれるという醜態をさらす事になってしまった。
街を混乱させているのは彼女たちだ!と訴えたけれど…。
「何を言ってるんです?彼女たちは商店街で買い物をして金を落としてるんだ。何か問題が?」
「あ、ありません…」
「アルサール公爵家の方ですから?間違いはないと思いますけども、同じように彼女たちに手当たり次第声を掛けている助平男も数人捕縛しているんです。紛らわしい行動は控えて頂けますか」
「すっ、助平男っ?!」
「いいですか?これだけ声を掛け回っているんですから痴漢だと騒がれたらほぼ退路はないと思ってください。最近はね、イケメンだから痴漢はしないなんて都市伝説を信じてる人はいないんですよ。イケメン、ブサメン、僕フツメン関係なくやる奴はやりますからね」
ただサリアを探しているだけなのに痴漢と間違われてしまったら大変なことになる。
協議書にサインをしてしまった以上、放っておけば監査員がサリアの元に行く。
その時にサリアが努力をしていても足りないと判断をされてしまったら婚約は解消になってしまう。
もっと困るのはサリアが「もう無理です」と監査員の前で匙を投げることだ。
マストで困るのはそれをサリアがやり兼ねない事だ。
「すまない!サリアを探してくれないか。どうしても彼女に会わねばならないんだ」
「サリアと言うと…シリカ伯爵令嬢ですか?」
「そうだ!何処にいる?」
「どこって…公園のお祭り広場で踊ってますが?」
「踊ってる?!」
デリックはサリアと夜会でワルツを数回踊ったことはあるけれど、サリアが夜会の始まりで時折踊られるポルカなど軽快なリズムのダンスは踊っているのを見たことはないし、自分以外と踊っていいと許可したのはサリアの父と兄だけ。
だから憲兵が言う「踊っている」という言葉が理解も想像も出来なかった。
「ご案内しましょうか」と言うので、ついて行った先で今度は目の前の光景が信じられなかった。
「キャッハー!!リンボー!!」
そこにはサリアがいて、商店街の店主たちが手で打ち鳴らすジャンベのリズムに合わせて火こそ点けられていないけれど、棒の高さが段々と低くなるその下を体をのけ反らし、両手をグイグイとリズムに合わせて振ってリンボーダンスをしていた。
「何をしてるんだッ!」
駆け寄ってサリアの腕をデリックが掴むと棒が落ちてしまった。
「ブーブー!!ブーブー!」
「何するんですか!あ~。折角1位を独走してたのに!」
「そうだそうだ!割り込みもダメだが、潜っている最中に手を出したらダメだろう!」
周囲から盛大なブーイングが飛び、サリアもデリックの手を腕を振って振り払った。
「ご、ごめん」
「ごめんで済んだら憲兵要らないわ。どうしてくれるのよ!」
「どうするって‥」
「1位になったら景品がもらえたのよ?言ったでしょう?独走だったのよ!」
「解った。解ったから。その景品と同じものを買ってやるよ」
「買えないわよ!」
「買うと言ってる!ごちゃごちゃ言うなッ!‥‥ハッ!!」
デリックはごくりと生唾を飲んだ。
サリアはジト目でデリックを見ている。これは見慣れた光景だが周囲の視線が痛すぎる。
リンボーダンス中に割り込んで邪魔をし、声を荒げ難癖を付けているとしか思えない言動にジリッジリと周囲の観客が間合いを詰めてきた。
「あ、いや…これは…」
「はぁーっ。もういいわ。景品。弁済してくれるんでしょう?」
「うん。何でも言ってくれ」
「聞く前に1位の景品を確認されては?」
「そ、そうだったな」
デリックは1位の景品を確認したのだが、またもや目を疑った。
「い、1位は城の3本塔で綱渡り?!死にたいのか!?」
「死ぬためじゃないわ。皆を楽しませるためよ」
「はぁっ?!君は馬鹿なのか?こんなもので――」
「協議書項目10番目。 ”公爵家の人間になる覚悟があるのなら民衆に楽しみの1つでも与えろ” ですけども、どうやら過ぎた思いだったようですわ。残念♡」
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