あなたと私の嘘と約束

cyaru

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#10  執事レフリー

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「あんた、誰だよ」

イエヴァと対面したアルフレードは頭のてっぺんからつま先まで舐めるようにイエヴァを見ながらそう言った。

「え?知らない女なのか?」
「って言うか…この女、父上の何?」

イエヴァとは初見の素振りをするアルフレード。
てっきり父親の愛人と思ってしまったのだった。

フルボツ侯爵は「ならば追い出せる」と弾んだ声をあげた。が、イエヴァは素っ気ないアルフレードに「寂しかった」と抱き着き、ほろほろと涙を溢した。

イエヴァはアルフレードを見た時、少しだけ緊張をしたようにも見えた。
だが多くの人が見れば、「それって突然だったからじゃないか」と思えるほどの間。
アルフレードに抱き着いたあと、涙は本物なので大した女優。

その上アルフレードはカフスについては持ち出した気もするがうろ覚えで、持ち出しとしても誰かにやったか、金にする為に買い取り屋に持ち込んだと思うとあっけらかんと言い放った。

「お前・・・家紋入りなんだそ!」

激昂するフルボツ侯爵だが、イエヴァはアルフレードの好みでもあるのか、「妻はこっちで良いんじゃないか」と言い出す始末。

「すまないね。その・・・まぁ白い結婚でも生涯を終える女性もいる。どうだろう。好きにしていいから出ていくと言う事だけはしないでくれるとありがたいんだが」


フルボツ侯爵が気にしているのはあくまでも外向けの体裁。

そんな三文芝居に付き合わねばならなくてウンザリしたヴァレリアだったが、来訪者がいると従者の声にこの場から去れるのであればと部屋を出て行った。





イエヴァが本宅に来る前、フルボツ侯爵夫妻はアルフレードヴァレリアとの結婚はもう覆せない事を話して聞かせた。ハップルス伯爵家にはまだ金は払っていないものの、届けは既に国王から承認も貰っていて侯爵家と言う立場から「なかった事」には出来ない。

両親の意向を受け入れたアルフレードはヴァレリアに告げた。

「結婚はする気はなかったが、まぁこうなったら仕方がない。俺は健全な男だから正妻と言えど抱けるようになるまでは外で発散をしても文句は言えない。それも判ってここ侯爵家に来たんだろう?」


ヴァレリアはいろんな本を読んできた。その中には勿論恋愛小説もある。
「君の事を愛する事は出来ない」と恋人がいる男と結婚をせざるを得なくなった話はあるが、結婚した後で年齢を盾に「外で女と遊びます」と宣言する男の話は読んだ事が無かった。

「ご安心を。白い結婚となりますがその後もここ侯爵家で夫人をしようとは思っておりません」

「急いで決めなくてもいいだろう。閨が出来る年齢になればお前も体だけはいい女になるかも知れないし、俺も若い女のほうがどっちかと言えば好きだからな」

アルフレードがヴァレリアを大嫌いなタイプと言ったが、ヴァレリアこそアルフレードは生理的に無理なタイプだと改めて確信した。




そんなやり取りもあり、ヴァレリアは「ならば好きにさせてもらおう」と従者について応接室に向かうと、そこにいたのはもう何年ぶりか。領に戻ってくるのも久しかったレナードがハップルス伯爵家に派遣した執事レフリーがいた。

「レフリー!久しぶりだわ!」

ヴァレリアの幼少期、6歳までヴァレリアの講師をしていたのがレフリー。
年齢はもう51歳だが、ヴァレリアが使用人の中で一番気を許しているのがレフリーだった。

「お嬢様、淑女がこのような事をしてはいけませんね」
「だって久しぶりなのよ?お爺様の葬儀にも来られなかったでしょう?あら、その方は?」

レフリーに会えたことが嬉しくて周りが見えていなかったが、レフリーは1人の男性と共に訪れていた。

「彼はマティアスと言います。こちらでお嬢様が暇をしないよう色々な手伝いをしてくれるはずですよ」

「マティアス・バッハマンです。家は男爵家ですがレフリーさんには事業の事で色々とご教授頂いておりまして。こちらは共同経営者といいましょうか。エドウィンです」

「はっはっ初めまっしって。エドウィン・ヘンケルと申ぉしまぁす」

緊張で声が上ずったエドウィンに思わず笑いが零れてしまい、場が和んだ。



レフリーがレナードに送った書簡は輸送中に何度がハップルス伯爵の妨害にあった。
使い込む金が無くなると、屋敷にあった調度品などを売りに出し金にしていた事を知られるのをハーゲンが恐れたためである。

ハーゲンが幾つかの金融商会から借り入れをしている事もレナードは知っていた。
事業の予算を削減し、その支払いに回した事もある。経営ではなく個人的な金の流れについてはレナードもヴァレリアには心配を掛けまいとしないのだろう、ヴァレリアには初耳だった。

「彼は困窮しているのかしら」
「困窮とまでは。ですが領地については今月分はいつも通りにハップルス伯爵家に売り上げが支払われますが、各商会も来月からはハップルス伯爵家には支払いを致しません。そのため王都に到着された当日でお疲れかと思いますが彼らを連れてきたのです」

「締め日ね。判ったわ。ここではなんだから私の部屋に。ついでにだけどこの屋敷じゃなくこれからの活動は外で行ないたいと思っているの。適当な広さのある家でもアパートメントでもいいわ。探しておいて頂戴」

「早速で御座いますか。相変わらずのお嬢様で御座いますね。安心しました」

レフリーはレナードの死でヴァレリアがふさぎ込んでいるのではないかと心配もしていたが杞憂だったと笑う。


ヴァレリアにあてがわれた部屋は西側の部屋で余り日当たりも良くない。
棟続きではあるけれど、隔離されたようにも感じる部屋には閉塞感があって息が詰まる。

マティアスとエドウィンはそれぞれが頭の中で何処が相応しいか候補を思い浮かべた。
別の事を考えると、意識がそちらに全て向いてしまうエドウィンは部屋を行き過ぎて壁に顔から直撃した。
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