あなたと私の嘘と約束

cyaru

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#14  呼び出し

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マティアスの計画を聞き、更に1週間後。

ヴァレリアの住まう離れの近くまでイエヴァとアルフレードが庭を散策していた。

「ねぇ、なんで人があんなにいるのかしら?離れにあんな人数必要?」
「子供だから遊び相手でも探してるんじゃないか?」
「使用人も大変ね。ままごと遊びに付き合わなきゃいけないなんて」

失笑しながらイエヴァが「気の毒だわ」と使用人を気遣う言葉を発するとアルフレードは「君は誰にでも優しいんだな」と目尻を下げた。

イエヴァの指がアルフレードの頬を撫でる。

「あら?私が優しくしたいのはアルだけよ?知ってるくせに」

アルフレードはその指を軽く握って指先にキスをした。

「君は嘘吐きだな。俺がこんな気持ちになるのを楽しんでる」

イエヴァのもう片方の手がアルフレードの太ももを這う。見つめ合ったまま唇を重ねると2人は来た道を戻って行った。

その様子を薪割しながら偶然見てしまったジャンは「オェェェ~」胃液が逆流しそうになった。



☆~☆

「えぇっとお名前は?」
「スピカです。出身は隣国なんですけど大丈夫ですか?」
「隣国と言う事はこの国と合わせて2か国語話せるの?」
「そうですね。あの…採用してもらえますか?国にいる弟妹に仕送りもしなきゃいけなくて」


侯爵夫人のリストにあったランク付けの低い者には共通点があった。
他国の出身若しくはこの国のものでも地方の訛りが言葉に感じられる事と、おべっかなどが咄嗟に出来ないという事が共通点だった。

確かに綺麗な発音は大事だが、仕事の内容として評価の基準とするのは違う。
ヴァレリアは単に職務怠慢なモノは論外として先ずは夫人のリストにあった男女合わせて26名の使用人を離れで採用する事を決めた。


「あら?こんな者ばかりでいいの?使えない子ばかりじゃない」

離れに迎え入れる使用人の名簿を渡したヴァレリアに侯爵夫人の第一声がそれだった。

「私はまだ子供ですからこれも経験です」

ついでにヴァレリアは侯爵夫人に「これは・・・と感じたら侯爵家を辞めさせても良いか」と聞いた。

「勿論。貴女が侯爵家には相応しくないと思えばクビにしていいわ」
「判りました。ではお手を煩わせても仕方御座いませんので、人数分の雇用契約書を頂けますか?」
「いいわよ。首にしたら教えて頂戴。給金の支払いを止めなきゃいけないから」

侯爵夫人はお気に入りの侍女に髪を梳いて貰いながら近くにいた執事にヴァレリアの持ってきたリストにある使用人の雇用契約書を渡すようにと命じた。

この執事もまた侯爵夫人のお気に入り。
言われた事はこなすし見栄えは良いが、応用が利かない。

ヴァレリアに書類の束を渡すと、そこから抜いていけといい婦人の部屋に戻っていく。

「片付けは誰がするのよ」

夫人がBランクと評価した従者に「この書類はどうすればいいか」と聞けば「担当じゃないので判らない」と他の者に聞く事もしない。

「まぁ、夫人から言われた仕事だけはしてるから良いって事かしら?」

26名の雇用契約書を持ってヴァレリアは離れに戻ろうとした時、玄関からバタバタと従者が1人走ってきた。


「ここにいた。良かった」

本宅でヴァレリアに用がある従者がいたとはヴァレリア自身も驚きだったが、従者から手渡された1枚の紙。描かれていた内容はここ数年でヴァレリアを一番驚かせるものだった。


――どうして騎士団から私に?――

手渡された書面にはヴァレリアに騎士団へ出向いてほしいと書かれていた。
何のために出向かねばならないか。それは記載されておらず王都に来てまだ1カ月ほど。悪い事で目をつけられるような事はしていないのだが、ヴァレリアは急ぎ離れに戻って支度をした。


「何でしょうね」

グレマンは用件が書かれていない事に訝し気に声を出す。
こんな時に限ってレフリーはハップルス伯爵家に最後の仕事で出向いているし、マシューはヴァレリアが夫人の元に行く時にエドウィンの元に出掛けてしまっている。

「ジャンに行かせましょう。万が一の時に役には立つでしょうから」
「物騒な事を言わないで。万が一なんてあっちゃいけないのよ」


厩舎で先日、毎日のミルク用にと市場で買ってきたヤギの世話をしていたジャン。

「えぇーっ。今やっと子ヤギのミルクタイムが終わってこれから搾る所なんですよ?」
「お願い!ジャンしかいないのよ」
「お嬢、なんかすごく俺を頼りにしてみたいな言い方ですけど、物理的に俺しかいないんでしょ」
「バレた?」
「俺は今日、マシューの為にヤギの乳を搾りたいんですよ!チーズが作れませんよ?夜のホットミルクも今夜はないですからね?いいですね?」

背に腹は代えられぬとヴァレリアは夕食のチーズを諦めてジャンを連れて騎士団に出向いた。

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