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離宮にて
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ビーチェの部屋を後にしたハロルドは離宮に向かった。
離宮までは歩いていくことも出来るが、馬車を使うのが常の距離である。
王宮の部屋から見えるのは屋根についた煙突が木々のあいだから見える距離。
数代前の国王が異国の側妃を召し上げた際に建設した建物で白磁の美しさが際立つ。
日に当たると反射して光って見える事から「光宮」「輝の宮」と呼ばれフランセアには良く似合っているが、当時の王妃は酷くその美しさを悔しがったと言う。
王妃の嫉妬があり、当時の国王は王宮の敷地内にも関わらず、頑丈な城壁で離宮を囲み王宮の門と同じくらいの門兵を待機させるための小屋まで設置している。
途中、荷を乗せたままなのに引き返していく荷馬車とすれ違う。
余程に荷物があったのだろうとハロルドは苦笑をした。
公爵家ともあって、荷物もかなりの量だとは聞いていたがあまりの多さにフランセアが頬を膨らませて「全く、お父様ったら!」と言っているのが目に見えるようだとハロルドは思う。
側妃の件を言い出す前までハロルドとフランセアは非常に仲が良かったと周りもハロルドも思っている。ハロルド自身も何を置いてもフランセアを優先していた所もある。
2人でこっそりと市井におりて皆を困らせた事もあったし、遠出で馬を走らせ競争をした事もある。思いのほか馬の扱いの上手いフランセアに驚いた事だった。
「騎乗用の服であればもっと身軽に手綱をさばけますのよ」
微笑むフランセアに胸が高鳴った。
美しいドレスの中の肢体を何度想像した事だろうか。
それまで線が細いと思っていたが、昨年の夏に避暑に行った際、薄着のフランセアに目が釘付けになったのである。いつも首元まで布のあるドレスで、胸元もウエストも強調しないデザインのものが多かったフランセアの胸は大きくたわわに実っており、縊れたウェストの反動のような腰回りは煽情的だった。
それまで夜会へのエスコートも手を添えるだけだったのを、ハロルドは腕を組みたいと申し出た程だった。しかし【適切な距離は臣下への見せしめになる】とフランセアが腕を組む事はなかった。
一度だけ給仕に接触しそうになったフランセアを引き寄せた時に腕を腰に回した。
直ぐに離れたがハロルドはしばらくその感触が頭から離れなかった。
離宮の玄関ではフランセア付の執事が出迎える。
「殿下、ようこそおいで下さいました」
「うん。フランは中に?」
「はい、先程サロンのほうに。ご案内いたします」
フランセアがこの離宮に来るとなった時から、若干の工事があったが元々の良さを壊さないよう当時の造形をそのままにほとんどが清掃で一部だけ補修をしたという離宮。
中庭も生え放題になっていた木々も選定され、ローダンセやマーガレットが咲いている。
決して主張をするような配置ではなく癒されながら廊下を歩く。
片付けの終わったフランセアは侍女たちと共にサロンでキャッキャと茶を楽しんでいた。
「フラン。楽しそうだね」
声を掛けると、侍女たちは席を立ちテーブルからサッと身を離していく。
数歩歩く間に、テーブルの上には菓子の籠とフランセアの目の前の茶器のみとなった。
フワフワとした雰囲気だったサロンの室温が少し寒くなったようにも感じる。
スッと席をたったフランセアは熟れきる前の少しまだ青みを感じるが男であれば思わず触手を伸ばしたくもなるような体のラインがよく感じさせるドレスを着ていた。
カっと全身が熱くなり頬を染め、滾る思いを押えるハロルド。
明日、その肢体をどうとでも出来ると思えばなんとか堪える事も出来そうだ。
「どうなさいましたの?このようなところへ」
「このようなって…謙遜をしないで欲しいな。困っている事はないか」
「突然の訪問には聊か困っておりますわね」
「悪かったと思っているよ。約束はきちんと守る」
「えぇ。是非」
陽が落ちれば明日の結婚式まで会う事は許されない。
明日からは夫婦。他人である最後の時を過ごそうとやってきたのであるがフランセアは明らかに不機嫌になっている。きっと結婚式を目前に控え緊張しているのだろうとハロルドは優しく語りかける。
「やっと明日だね。長かったよ」
「えぇ、明日ですわ。早く夜が明けないかと今から楽しみですの」
「そう言ってくれると嬉しいよ」
「えぇ。わたくしも嬉しくてたまりませんわ」
部屋を見たいと言えば、フランセアが案内をしてくれると言うので後を歩く。
どの部屋も落ち着いた色合いの壁紙に、窓から見える景色がよく映えるような家具の配置。
ビーチェの部屋とは真逆の落ち着く空間の広がる部屋だった。
「この部屋で寛いだら、昼寝ばかりになりそうだ」
「まさか。殿下はそのような暇はございませんでしょうに」
ひと廻りしてくると、サロンに寄るかと思ったがそのまま玄関に案内をされる。
「もう少し、一緒に居る時間はあるよ」
「申し訳ございません。女には色々とあるのですわ」
「あぁ、そうか。それはすまなかった。では明日」
フランセアの手にキスをしようと思ったが、フランセアは軽くカーテシーを取る。
ドレスを抓んだ手をとるわけにはいかず、ハロルドは離宮を後にした。
離宮までは歩いていくことも出来るが、馬車を使うのが常の距離である。
王宮の部屋から見えるのは屋根についた煙突が木々のあいだから見える距離。
数代前の国王が異国の側妃を召し上げた際に建設した建物で白磁の美しさが際立つ。
日に当たると反射して光って見える事から「光宮」「輝の宮」と呼ばれフランセアには良く似合っているが、当時の王妃は酷くその美しさを悔しがったと言う。
王妃の嫉妬があり、当時の国王は王宮の敷地内にも関わらず、頑丈な城壁で離宮を囲み王宮の門と同じくらいの門兵を待機させるための小屋まで設置している。
途中、荷を乗せたままなのに引き返していく荷馬車とすれ違う。
余程に荷物があったのだろうとハロルドは苦笑をした。
公爵家ともあって、荷物もかなりの量だとは聞いていたがあまりの多さにフランセアが頬を膨らませて「全く、お父様ったら!」と言っているのが目に見えるようだとハロルドは思う。
側妃の件を言い出す前までハロルドとフランセアは非常に仲が良かったと周りもハロルドも思っている。ハロルド自身も何を置いてもフランセアを優先していた所もある。
2人でこっそりと市井におりて皆を困らせた事もあったし、遠出で馬を走らせ競争をした事もある。思いのほか馬の扱いの上手いフランセアに驚いた事だった。
「騎乗用の服であればもっと身軽に手綱をさばけますのよ」
微笑むフランセアに胸が高鳴った。
美しいドレスの中の肢体を何度想像した事だろうか。
それまで線が細いと思っていたが、昨年の夏に避暑に行った際、薄着のフランセアに目が釘付けになったのである。いつも首元まで布のあるドレスで、胸元もウエストも強調しないデザインのものが多かったフランセアの胸は大きくたわわに実っており、縊れたウェストの反動のような腰回りは煽情的だった。
それまで夜会へのエスコートも手を添えるだけだったのを、ハロルドは腕を組みたいと申し出た程だった。しかし【適切な距離は臣下への見せしめになる】とフランセアが腕を組む事はなかった。
一度だけ給仕に接触しそうになったフランセアを引き寄せた時に腕を腰に回した。
直ぐに離れたがハロルドはしばらくその感触が頭から離れなかった。
離宮の玄関ではフランセア付の執事が出迎える。
「殿下、ようこそおいで下さいました」
「うん。フランは中に?」
「はい、先程サロンのほうに。ご案内いたします」
フランセアがこの離宮に来るとなった時から、若干の工事があったが元々の良さを壊さないよう当時の造形をそのままにほとんどが清掃で一部だけ補修をしたという離宮。
中庭も生え放題になっていた木々も選定され、ローダンセやマーガレットが咲いている。
決して主張をするような配置ではなく癒されながら廊下を歩く。
片付けの終わったフランセアは侍女たちと共にサロンでキャッキャと茶を楽しんでいた。
「フラン。楽しそうだね」
声を掛けると、侍女たちは席を立ちテーブルからサッと身を離していく。
数歩歩く間に、テーブルの上には菓子の籠とフランセアの目の前の茶器のみとなった。
フワフワとした雰囲気だったサロンの室温が少し寒くなったようにも感じる。
スッと席をたったフランセアは熟れきる前の少しまだ青みを感じるが男であれば思わず触手を伸ばしたくもなるような体のラインがよく感じさせるドレスを着ていた。
カっと全身が熱くなり頬を染め、滾る思いを押えるハロルド。
明日、その肢体をどうとでも出来ると思えばなんとか堪える事も出来そうだ。
「どうなさいましたの?このようなところへ」
「このようなって…謙遜をしないで欲しいな。困っている事はないか」
「突然の訪問には聊か困っておりますわね」
「悪かったと思っているよ。約束はきちんと守る」
「えぇ。是非」
陽が落ちれば明日の結婚式まで会う事は許されない。
明日からは夫婦。他人である最後の時を過ごそうとやってきたのであるがフランセアは明らかに不機嫌になっている。きっと結婚式を目前に控え緊張しているのだろうとハロルドは優しく語りかける。
「やっと明日だね。長かったよ」
「えぇ、明日ですわ。早く夜が明けないかと今から楽しみですの」
「そう言ってくれると嬉しいよ」
「えぇ。わたくしも嬉しくてたまりませんわ」
部屋を見たいと言えば、フランセアが案内をしてくれると言うので後を歩く。
どの部屋も落ち着いた色合いの壁紙に、窓から見える景色がよく映えるような家具の配置。
ビーチェの部屋とは真逆の落ち着く空間の広がる部屋だった。
「この部屋で寛いだら、昼寝ばかりになりそうだ」
「まさか。殿下はそのような暇はございませんでしょうに」
ひと廻りしてくると、サロンに寄るかと思ったがそのまま玄関に案内をされる。
「もう少し、一緒に居る時間はあるよ」
「申し訳ございません。女には色々とあるのですわ」
「あぁ、そうか。それはすまなかった。では明日」
フランセアの手にキスをしようと思ったが、フランセアは軽くカーテシーを取る。
ドレスを抓んだ手をとるわけにはいかず、ハロルドは離宮を後にした。
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