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結婚式は忘れ物だらけ

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「うぅ~お腹が空いて倒れそうですわぁ」

「何を言ってるの。わたくしの可愛い義妹♡」

「妃殿下、ちょーっと娘の化粧を直しますので!」

「あら?ジゼル。直さなくても十分可愛いわよ?」

「念には念を入れる!鉄則で御座います」


今日はわたくしとクリス様の結婚式で御座います。結局任せておくと全てに我が強い方ばかりですので、しまいにはクリス様の衣装にも及んでしまって、クリス様が決めたのです。

最初からそうして下さればいいのですけども。

皆さんには年に2回、日の出と日の入りに合わせて行う水の神の儀式に使うドレスをデザインして頂く事に致しました。お日様とお月様を2つづつ描いた紙をそれぞれに一斉に引いて頂き決定をしましたので、苦情もなくよろしゅうございました。


国王陛下のご成婚式にも来られなかったのに、今日祭壇でわたくしとクリス様を待ってくださるのは大教会の教皇様。御年94歳ですのに3カ月かけて各地で信者の皆さんに教えを説きながら来て下さいました。

「帰り道で干物になるんじゃねぇか?」

――クリス様!!言い方!!――

「しかし…この美しさはちょっと破壊力が半端ないな」

「何の事ですの?そう言えば聖堂のステンドグラスは入れ替えたそうです」

「そうではなくて…めちゃくちゃ綺麗だ。エル‥新しいエルを見つけた気分だ」

「言っておきますが、結婚式用なので今日限定です。日頃からウェディングドレスを着るなんて痛すぎますし、お掃除するのに邪魔ですから。だから沢山堪能してくださいね」

「そりゃもう。暫く寝かせるつも――」

「時間ですわ。先に入場くださいませ」


先にクリス様が入場し、祭壇まであと少しと言うところで待ってくださっております。わたくしはそこまでお父様と一緒に歩くのです。

「エルシー。父さん、生きてて良かったと心から感じているよ。殿下に会っていなければお前のドレス姿は見れなかったし‥‥一緒に…歩け‥なんて‥」

「お父様、今日のドレスはハンカチーフがありませんの。泣くにはまだ早いですわ。お持ちではないですの?」

「うん…うん…わかっ…る…わかって‥うぅっ。ハンカッチ…忘れっうぅぅ」


お父様はこんなに涙もろかったかしら。わたくしは涙を滝のように流しながら号泣するお父様と入場したのです。泣きたいのはわたくしのほうですのよ?

ゆっくりと歩いていくのですが、お父様はクリス様の目前まで来ると声をあげて更に泣きだされてしまったのです。それを見てクリス様がこちらに歩み寄ってくださいました。

「お義父上。男手一つでこんな立派な淑女に育ててくださり…ありがとうございました。これからは息子が1人増えたと思ってください」

「うん…はい‥エルシーをお願いいたし…ます」

「確かに。必ず幸せにします。エルも、みんなも」

添える手をお父様からクリス様に移し、2人で祭壇に歩いていきます。
ここでも大丈夫かしら?と思ってしまいました。御年94歳の教皇様。聖書を持つ手がブルブル震えております。おまけに誓いの言葉を先に聖書から朗読くださるのですが…。


――何を言ってるか全然わからない!――


後ろにおられる補佐の神官さんの手にはハンカチに包まれた入れ歯!
やはり肝心な時に、肝心なモノを忘れられたようです。
持ってきても、使わなければ意味がないのですよ!!

ファフィフゥフェフォのように全く聞き取れない聖書朗読。
クリス様と繋いだ手もブルブル震えております。ちらりとヴェール越しにクリス様を見れば必死に笑いを堪えておられて肩まで震えているのです。

やっと朗読が終わり、わたくしとクリス様に何か問い掛けているのですが‥。


「フォフィフォファフィファフィファフュハ?」

――困ったわ…なんて言ったの?どっちに何を問うたの?――

「面倒だな」

「えっ?」


嫌な予感が致します。おそらくクリス様も教皇様が何を言ったのか判っておられません。何をするのかと思えばクリス様はわたくしのヴェールをあげて…

ちゅっ♡

「ふぁふぁふぁっ!」

あ、何を言ったか判りましたわ。教皇様「まだだ」で御座いますね?
しかし、クリス様、何を思ったかもう一度今度は角度を変えて・・・。

ちゅっ♡

「ファーフェン…フォォォ」

慣れました。教皇様「アーメン…おぉぉ」で御座いますね?

ですがクリス様まで真っ青になっておられます。


――まさか、クリス様もそのお年で入れ歯ですの?――


「エル・・・ごめん。あとで渡すから」

「何をですの?」

「緊張し過ぎて指輪を控室に忘れてきたのを今思い出した」

――わたくし、新郎の存在を忘れてもよろしいかしら――


アクシデント?は御座いましたが無事に終わった結婚式。
わたくしは遂にクリス様の妻となったのです。

控室に戻ったクリス様は「これから選んでいいぞ」と屋敷にある宝石箱とはまた違う宝石箱をパカっと開かれました。

――クゥゥっ!眩しいっ!!結婚指輪用の指は1本ですのよ――

宝石箱いっぱいに詰まった指輪。1つ頂きましたが【買い物は一緒に行く】と仰っておりましたのに、もうお忘れのようです。お仕置きは忘れませんわよ。





結婚式にはルレイザ国王もアブレド新国王も参列くださっておりますし、クリス様のお兄様ですので当然トマフィー国の陛下もいらっしゃいます。そして入れ歯さえすれば間違いなくお言葉が聞き取れる教皇様もいらっしゃいます。ニレイナ夫人も参列くださいましたので、全員が揃っているのです。

ニレイナ夫人には既にお話をしており、賛同くださっております。
わたくしとニレイナ夫人の向かいに4人がいらっしゃいます。

クリス様はわたくしの後ろの椅子に腰を下ろされました。

「今日は結婚式に参列頂きありがとうございました。集まって頂いたのは今後の件をお伝えするためで御座います」

少し手が震えますが、背中から「大丈夫」と温かい空気がわたくしを包みました。
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