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第09話 愛は消えていない
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ルツィエがベージェ伯爵領に向かったのは離縁をして3カ月が経った頃。
それからさらに2か月経った頃、ハリソンも何かおかしい気がした。
誰もいない屋敷に戻ってきたのは3週間の旅行から帰った翌日だったが、それから2カ月の間、週に1回のペースで金を取りに本宅にやって来ているが一度も使用人に合っていない。
この日はそのまま歌劇に行こうと思い、アレイシャと共にやって来た。
時季も春から初夏に移る頃で、来るたびに門道の脇に植えられた草木が門道にせり出してきていた。父の代から勤める庭師は頑固で見えない部分にまで気を使う男だった。
雑草がせり出し、その根っこで門道を仕切る縁石が所どころ崩れている事など今まであり得なかった。
「庭師を解雇したのか?」と首を捻ってみるが答えは出なかった。
――庭を整備しとけと置き手紙をしておくか――
全てを任せたのにこんな手抜きをするなんて、どうやってルツィエに仕置きをしようか。そんな考えも頭を過る。
玄関前で馬車が止まるが、この日も出迎えはない。
――門番にも休暇。出迎えも無し。ハッ。何処まで使用人に媚びを売る気だ――
これもルツィエの怠慢だとハリソンは怒りすら覚えた。
「馬車で待っててくれ」
「えぇーっ。アリィも行きたいんだけど?」
「意地悪な使用人に会いたくないだろう?」
「それはそうだけど…早くしてよ?アリィ、待つの大っ嫌いだから」
「判っているよ」
馬車にアレイシャを残し、御者に「直ぐ戻る」と声を掛けたハリソンは屋敷の中に1人で入って行った。
来るたびに屋敷の中には埃も積もり始めていて、清掃も行き届いていないのか黴臭い臭いが鼻を突く。
「やはりおかしい」と声を出した時は宝飾品を仕舞ってある棚も触れた部分だけが綺麗な木目を覗かせていた。
前回来た時に引き出しをきちんと閉めず、少しずれた状態だったのがそのままで誰かが足を踏み入れた形跡が全くなかった。
慌ててルツィエの私室、そして執務をしていた部屋に向かったが整然と片付けられていて空気もひんやりと冷えていた。
「何時からだ?何時からいない?」
片っ端からルツィエの執務机の引き出しを開けてみるが、筆記用具が綺麗に並べられているだけで、直ぐに執務はできそうなのにそこに人間だけがいない現実。
クローゼットにも飛び込んでみれば結婚した当初にハリソンの母親が「何もないのは不憫だ」と作ったドレスが真っ先に目に入った。
ハンガーに吊られて並べられているのは前から順に母親に作って貰ったドレス、そしてハリソンが付き合っている頃から結婚して半年頃までにルツィエに贈ったドレス。
その足元にはドレスに合わせた小物や靴、帽子が箱に入って置かれていた。
しゃがみ込んで箱をあければ、こちらもドレスに合わせた髪飾りや宝飾品。
そして違和感に気が付いた。
「ルツィエが持ってきた物がない?!」
ここにあるのはルツィエが嫁いでから侯爵家の金で買ったものと、結婚する前でもハリソンがルツィエに贈ったもので、ルツィエ個人が所有していた物はハンカチに至るまで何一つなかった。
「ペンだ。確か…ガラスペン!」
もう一度執務室に戻り、引き出しを開けるとガラスペンはあった。
「ない…ガラスペンがない」
引き出しに並べて入っていたガラスペンは2本。結婚前にハリソンが贈ったガラスペンと、結婚した後にハリソンの父親が「執務を頑張ってくれているから」と領地の収益が倍増した結婚5カ月目にルツィエに贈ったもの。
『お兄様が隣国で買ってきてくださったの』
微笑んたルツィエがハリソンに見せた兄に買ってもらったガラスペンだけが無かった。
「ルツィエの物だけがない…まさか?!いやあり得ない」
3年ほど前にルツィエに突き付けた離縁状の事を思い出したが、直ぐにそんなものを残しているはずがないとハリソンは首を横に振った。
離縁をするのなら、不貞はもうとっくにバレていたのだからその時に離縁状を使うはず。
ルツィエはハリソンを愛しているという自負がハリソンにはあった。
ルツィエの愛がそう簡単に消えるはずがない。
そう思うのに離縁状を叩きつけた時のルツィエがハッキリと思い出せない。
――ルツィエはどうしていた??――
ここ2、3年は金が無くなれば戻るだけだったので、ルツィエと話をした記憶がない。
思いだすのは言い合いをした事は思いだせるがルツィエがどんな顔をしていたのか全く思いだせない。
「うあぁぁーっ」
髪をぐしゃぐしゃに掻き毟るも、ハッと思い出した。
「そうか、勝手に離縁届を出してもこちらに知らせず…なんて無理だ。王宮から問い合わせが僕に来るはずなんだ」
そんな物は届いていないし、この2、3か月は偶々自分が来る時は使用人達も休暇だったんだろうとハリソンは自分に言い聞かせるように声に出す。
――本当に問題ないのか?――
自問自答を頭の中で繰り返す。
――うん。大丈夫だ――
そうでなければ執務が滞っているはずだし、爵位に対しての税金は毎月支払わねばならない。
――何も問題ないんだ。でもならどうして誰もいない?――
嫌な汗が首筋を幾度となく伝う。
ハリソンはゆっくりと時系列に記憶を辿った。
それからさらに2か月経った頃、ハリソンも何かおかしい気がした。
誰もいない屋敷に戻ってきたのは3週間の旅行から帰った翌日だったが、それから2カ月の間、週に1回のペースで金を取りに本宅にやって来ているが一度も使用人に合っていない。
この日はそのまま歌劇に行こうと思い、アレイシャと共にやって来た。
時季も春から初夏に移る頃で、来るたびに門道の脇に植えられた草木が門道にせり出してきていた。父の代から勤める庭師は頑固で見えない部分にまで気を使う男だった。
雑草がせり出し、その根っこで門道を仕切る縁石が所どころ崩れている事など今まであり得なかった。
「庭師を解雇したのか?」と首を捻ってみるが答えは出なかった。
――庭を整備しとけと置き手紙をしておくか――
全てを任せたのにこんな手抜きをするなんて、どうやってルツィエに仕置きをしようか。そんな考えも頭を過る。
玄関前で馬車が止まるが、この日も出迎えはない。
――門番にも休暇。出迎えも無し。ハッ。何処まで使用人に媚びを売る気だ――
これもルツィエの怠慢だとハリソンは怒りすら覚えた。
「馬車で待っててくれ」
「えぇーっ。アリィも行きたいんだけど?」
「意地悪な使用人に会いたくないだろう?」
「それはそうだけど…早くしてよ?アリィ、待つの大っ嫌いだから」
「判っているよ」
馬車にアレイシャを残し、御者に「直ぐ戻る」と声を掛けたハリソンは屋敷の中に1人で入って行った。
来るたびに屋敷の中には埃も積もり始めていて、清掃も行き届いていないのか黴臭い臭いが鼻を突く。
「やはりおかしい」と声を出した時は宝飾品を仕舞ってある棚も触れた部分だけが綺麗な木目を覗かせていた。
前回来た時に引き出しをきちんと閉めず、少しずれた状態だったのがそのままで誰かが足を踏み入れた形跡が全くなかった。
慌ててルツィエの私室、そして執務をしていた部屋に向かったが整然と片付けられていて空気もひんやりと冷えていた。
「何時からだ?何時からいない?」
片っ端からルツィエの執務机の引き出しを開けてみるが、筆記用具が綺麗に並べられているだけで、直ぐに執務はできそうなのにそこに人間だけがいない現実。
クローゼットにも飛び込んでみれば結婚した当初にハリソンの母親が「何もないのは不憫だ」と作ったドレスが真っ先に目に入った。
ハンガーに吊られて並べられているのは前から順に母親に作って貰ったドレス、そしてハリソンが付き合っている頃から結婚して半年頃までにルツィエに贈ったドレス。
その足元にはドレスに合わせた小物や靴、帽子が箱に入って置かれていた。
しゃがみ込んで箱をあければ、こちらもドレスに合わせた髪飾りや宝飾品。
そして違和感に気が付いた。
「ルツィエが持ってきた物がない?!」
ここにあるのはルツィエが嫁いでから侯爵家の金で買ったものと、結婚する前でもハリソンがルツィエに贈ったもので、ルツィエ個人が所有していた物はハンカチに至るまで何一つなかった。
「ペンだ。確か…ガラスペン!」
もう一度執務室に戻り、引き出しを開けるとガラスペンはあった。
「ない…ガラスペンがない」
引き出しに並べて入っていたガラスペンは2本。結婚前にハリソンが贈ったガラスペンと、結婚した後にハリソンの父親が「執務を頑張ってくれているから」と領地の収益が倍増した結婚5カ月目にルツィエに贈ったもの。
『お兄様が隣国で買ってきてくださったの』
微笑んたルツィエがハリソンに見せた兄に買ってもらったガラスペンだけが無かった。
「ルツィエの物だけがない…まさか?!いやあり得ない」
3年ほど前にルツィエに突き付けた離縁状の事を思い出したが、直ぐにそんなものを残しているはずがないとハリソンは首を横に振った。
離縁をするのなら、不貞はもうとっくにバレていたのだからその時に離縁状を使うはず。
ルツィエはハリソンを愛しているという自負がハリソンにはあった。
ルツィエの愛がそう簡単に消えるはずがない。
そう思うのに離縁状を叩きつけた時のルツィエがハッキリと思い出せない。
――ルツィエはどうしていた??――
ここ2、3年は金が無くなれば戻るだけだったので、ルツィエと話をした記憶がない。
思いだすのは言い合いをした事は思いだせるがルツィエがどんな顔をしていたのか全く思いだせない。
「うあぁぁーっ」
髪をぐしゃぐしゃに掻き毟るも、ハッと思い出した。
「そうか、勝手に離縁届を出してもこちらに知らせず…なんて無理だ。王宮から問い合わせが僕に来るはずなんだ」
そんな物は届いていないし、この2、3か月は偶々自分が来る時は使用人達も休暇だったんだろうとハリソンは自分に言い聞かせるように声に出す。
――本当に問題ないのか?――
自問自答を頭の中で繰り返す。
――うん。大丈夫だ――
そうでなければ執務が滞っているはずだし、爵位に対しての税金は毎月支払わねばならない。
――何も問題ないんだ。でもならどうして誰もいない?――
嫌な汗が首筋を幾度となく伝う。
ハリソンはゆっくりと時系列に記憶を辿った。
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