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第19話 愛しい君を繋ぎとめるため
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待てど暮らせど執事は戻ってこない。
そんなハリソンだが、もう1つする事があった。
アレイシャを妻に迎えるために秘策を練った。
残念な事にアレイシャは可愛くて、綺麗で、アチラの技は他に類を見ないのだが侯爵夫人として振舞えるかと言えばNOとしか言いようがない。
決してアレイシャを下卑ているのではなく、人には向き不向きがある。そう言う事だ。
重婚は認められていないのでアレイシャと結婚をするにはルツィエと離縁をせねばならない。
「ここは大芝居を打たないとな。だがルツィエは何処にいるんだ。領地に手紙も出さねばならないじゃないか。本当に手間ばかりかけさせる女だな」
ハリソンはまず被害届を騎士団に出し、当面の金をルツィエの実家であるガッセル公爵家に出して貰う事を考えた。なので、直ぐに離縁は出来ない。
離縁をするのはガッセル公爵家から金が入った後にしなければ、他人となるガッセル公爵が金を出すはずがない。むしろアレイシャの事を嗅ぎつけられて慰謝料を払う事にでもなれば何をしているか判らない。
その後は離縁し、アレイシャを正式な妻とし、ルツィエを地下牢にでも監禁し執務と領地の世話をやらせる。
ガッセル公爵家が何か言ってくるかも知れないが、家を飛び出してまで嫁いできたルツィエなのだからハリソンへの愛情がそう簡単に無くなるはずがない。
そう、無くなっているのならとっくに離縁をされているはずなのだ。
――ルツィエは一生飼い殺しにしてやる――
屋敷の全てを任せたのに手を抜いた罰を与えねばならないとハリソンは息巻くが、部屋に入って来たアレイシャが怒り狂っていた。
「どう言うこと?!この家はアタシのものでしょう!」
「そ、そうだ。いったいどうしたんだ?」
「どうしたもこうしたも!リビングに来てよ!」
何事かと思えば強面の男達を連れた優男が突然やって来て調度品の値踏みを始めたというのだ。
「何の真似だ!家の中にあるものに一切触れるな!」
「馬鹿言っちゃ困りますよ。俺たちはね、何にも悪いことはしてないんですがね」
「勝手に入って来て。不法侵入だ!」
「可笑しなことを仰るご仁だ。そちらこそ不法侵入…いや不法占拠ですかね」
優男はハリソンの目の前に不動産の買い取り書を突きつけた。
バッと奪い取ったのは良かったが、そこにはアレイシャとの住み家とするこの屋敷がつい今しがた「ハリソン」によって中にある家具も全て込みで売られ、その代金も支払い済みとなった受け取りも兼ねていた。
「こんなの知らない!私はずっと屋敷にいたんだ」
「そうですか?でも‥‥ここにある書類。ランフィルって余計な文字はありますけどハリソンって文字は…跳ねる部分も止める部分も似てますがね。騎士団の筆跡鑑定にでも出してみますか?」
優男が言う通り、サインされた文字は姓がないだけでハリソンのサインに酷似していた。
「だとしてもだ!なら尚の事だ。こんなの筆跡を真似た詐欺だろう!私はランフィル侯爵家当主なんだぞ!」
「へぇ、そりゃ大層な肩書がおありで。ですがね、だとしたらなんでここが個人名なんです?侯爵家の持ち物としていればなぁんの問題もなかったはずだ。安全を考えるのなら当主ならどうすべきかくらいは考えるまでもないと私はッ!お・も・い‥‥ますがね」
個人名としたりするのは平民や低位貴族ならごく当たり前に行っている行為で、彼らであれば違法ではない。しかし公爵家や侯爵家という高位貴族になると違う。
権力もある分、厳しく制限を受けているため結婚をすれば妻の個人資産も全て国に登録する必要があるのである。全ての持ち物に対して課税をされるので、個人名で不動産を取得したハリソンの行為は脱税となる。
脱税は民からも広く税を徴収しているとあって、議会での決定された事項を承認するのは公爵家と侯爵家の当主たち。その後国王の元に回って国王印が入れば広く発布される。
その時に1つの家が反対をすればどんな法案であっても差し戻しになる。
税を決定する権利も持つ侯爵家当主としては絶対に明るみに出てはならない事だった。
両親に反対をされて身一つで嫁いできたルツィエには持参金もなかったが、親から受け継ぐ不動産や動産も無かった。関係を認めてもらえれば何かあったかも知れないし、もしかすればハリソンの両親も認めたのだからガッセル公爵家も認めたかも知れない。
優男はハリソンにそっと囁いた。
「侯爵様でしたか。なら出るとこ、出ましょうか」
ハリソンは震えあがった。この家は間違いなくハリソンの個人名義。だからこそランフィルという姓を使わずに手に入れたのだ。
――二択…立場を取るか、この家を捨てるか――
迷うハリソンだったがアレイシャは違う。自分の持ち物なのだから何とかしろと隣で喚き散らした。
本宅に戻ってもいいのだ。ただ、今はとても住めるような状態ではないし何より金がない。
今日の夕食ですらありつけるかどうかも判らない。
迷った末にハリソンが出した結論は‥‥。
「すまなかった。勘違いをしていたよ。どうぞ、この家は売ったものだから君たちのものだ」
「何言ってるの!ここはアタシにっ!」
「アリィ。ここよりも広くて大きくて立派な侯爵家の本宅をあげるよ。君にはこんな狭い家は似合わないからね」
「え?あの家‥‥要らないんだけど」
「そう言うなよ。住めば都、愛の巣は大きいほどいいだろう?」
「じゃ、今度はちゃんと権利証を見せて。アタシの名前になってないなら別れるわ」
「そんな酷い事を言わないでくれよ。手続きには時間がかかる」
「何とかしなさいよ!侯爵でしょう!」
ハリソンはアレイシャを宥めながら、なんとか「これは彼女の私物」として優男に取られそうになったアレイシャの荷物だけは守る事が出来た。
そうでもしなければ愛しいアレイシャを失ってしまう。
屋敷で雇っていた使用人達に「先に行って掃除をしておくように」と命じるとアレイシャのドレスなどをトランクや麻袋に詰め込み、馬車は後で返すと優男に約束をして馬車に積み込んだ。
馬車は侯爵家の本宅で荷物を降ろせば優男の持ち物になる。
暗澹とした気持ちになりながらも愛の住処となるはずだった家を後にし、本宅に向かったのだった。
そんなハリソンだが、もう1つする事があった。
アレイシャを妻に迎えるために秘策を練った。
残念な事にアレイシャは可愛くて、綺麗で、アチラの技は他に類を見ないのだが侯爵夫人として振舞えるかと言えばNOとしか言いようがない。
決してアレイシャを下卑ているのではなく、人には向き不向きがある。そう言う事だ。
重婚は認められていないのでアレイシャと結婚をするにはルツィエと離縁をせねばならない。
「ここは大芝居を打たないとな。だがルツィエは何処にいるんだ。領地に手紙も出さねばならないじゃないか。本当に手間ばかりかけさせる女だな」
ハリソンはまず被害届を騎士団に出し、当面の金をルツィエの実家であるガッセル公爵家に出して貰う事を考えた。なので、直ぐに離縁は出来ない。
離縁をするのはガッセル公爵家から金が入った後にしなければ、他人となるガッセル公爵が金を出すはずがない。むしろアレイシャの事を嗅ぎつけられて慰謝料を払う事にでもなれば何をしているか判らない。
その後は離縁し、アレイシャを正式な妻とし、ルツィエを地下牢にでも監禁し執務と領地の世話をやらせる。
ガッセル公爵家が何か言ってくるかも知れないが、家を飛び出してまで嫁いできたルツィエなのだからハリソンへの愛情がそう簡単に無くなるはずがない。
そう、無くなっているのならとっくに離縁をされているはずなのだ。
――ルツィエは一生飼い殺しにしてやる――
屋敷の全てを任せたのに手を抜いた罰を与えねばならないとハリソンは息巻くが、部屋に入って来たアレイシャが怒り狂っていた。
「どう言うこと?!この家はアタシのものでしょう!」
「そ、そうだ。いったいどうしたんだ?」
「どうしたもこうしたも!リビングに来てよ!」
何事かと思えば強面の男達を連れた優男が突然やって来て調度品の値踏みを始めたというのだ。
「何の真似だ!家の中にあるものに一切触れるな!」
「馬鹿言っちゃ困りますよ。俺たちはね、何にも悪いことはしてないんですがね」
「勝手に入って来て。不法侵入だ!」
「可笑しなことを仰るご仁だ。そちらこそ不法侵入…いや不法占拠ですかね」
優男はハリソンの目の前に不動産の買い取り書を突きつけた。
バッと奪い取ったのは良かったが、そこにはアレイシャとの住み家とするこの屋敷がつい今しがた「ハリソン」によって中にある家具も全て込みで売られ、その代金も支払い済みとなった受け取りも兼ねていた。
「こんなの知らない!私はずっと屋敷にいたんだ」
「そうですか?でも‥‥ここにある書類。ランフィルって余計な文字はありますけどハリソンって文字は…跳ねる部分も止める部分も似てますがね。騎士団の筆跡鑑定にでも出してみますか?」
優男が言う通り、サインされた文字は姓がないだけでハリソンのサインに酷似していた。
「だとしてもだ!なら尚の事だ。こんなの筆跡を真似た詐欺だろう!私はランフィル侯爵家当主なんだぞ!」
「へぇ、そりゃ大層な肩書がおありで。ですがね、だとしたらなんでここが個人名なんです?侯爵家の持ち物としていればなぁんの問題もなかったはずだ。安全を考えるのなら当主ならどうすべきかくらいは考えるまでもないと私はッ!お・も・い‥‥ますがね」
個人名としたりするのは平民や低位貴族ならごく当たり前に行っている行為で、彼らであれば違法ではない。しかし公爵家や侯爵家という高位貴族になると違う。
権力もある分、厳しく制限を受けているため結婚をすれば妻の個人資産も全て国に登録する必要があるのである。全ての持ち物に対して課税をされるので、個人名で不動産を取得したハリソンの行為は脱税となる。
脱税は民からも広く税を徴収しているとあって、議会での決定された事項を承認するのは公爵家と侯爵家の当主たち。その後国王の元に回って国王印が入れば広く発布される。
その時に1つの家が反対をすればどんな法案であっても差し戻しになる。
税を決定する権利も持つ侯爵家当主としては絶対に明るみに出てはならない事だった。
両親に反対をされて身一つで嫁いできたルツィエには持参金もなかったが、親から受け継ぐ不動産や動産も無かった。関係を認めてもらえれば何かあったかも知れないし、もしかすればハリソンの両親も認めたのだからガッセル公爵家も認めたかも知れない。
優男はハリソンにそっと囁いた。
「侯爵様でしたか。なら出るとこ、出ましょうか」
ハリソンは震えあがった。この家は間違いなくハリソンの個人名義。だからこそランフィルという姓を使わずに手に入れたのだ。
――二択…立場を取るか、この家を捨てるか――
迷うハリソンだったがアレイシャは違う。自分の持ち物なのだから何とかしろと隣で喚き散らした。
本宅に戻ってもいいのだ。ただ、今はとても住めるような状態ではないし何より金がない。
今日の夕食ですらありつけるかどうかも判らない。
迷った末にハリソンが出した結論は‥‥。
「すまなかった。勘違いをしていたよ。どうぞ、この家は売ったものだから君たちのものだ」
「何言ってるの!ここはアタシにっ!」
「アリィ。ここよりも広くて大きくて立派な侯爵家の本宅をあげるよ。君にはこんな狭い家は似合わないからね」
「え?あの家‥‥要らないんだけど」
「そう言うなよ。住めば都、愛の巣は大きいほどいいだろう?」
「じゃ、今度はちゃんと権利証を見せて。アタシの名前になってないなら別れるわ」
「そんな酷い事を言わないでくれよ。手続きには時間がかかる」
「何とかしなさいよ!侯爵でしょう!」
ハリソンはアレイシャを宥めながら、なんとか「これは彼女の私物」として優男に取られそうになったアレイシャの荷物だけは守る事が出来た。
そうでもしなければ愛しいアレイシャを失ってしまう。
屋敷で雇っていた使用人達に「先に行って掃除をしておくように」と命じるとアレイシャのドレスなどをトランクや麻袋に詰め込み、馬車は後で返すと優男に約束をして馬車に積み込んだ。
馬車は侯爵家の本宅で荷物を降ろせば優男の持ち物になる。
暗澹とした気持ちになりながらも愛の住処となるはずだった家を後にし、本宅に向かったのだった。
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