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第21話 愛の告白はシチュエーションが大事
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ファルグレイドはデスホースの背から降りるとルツィエがデスホースの背から降りるのを手伝った。
繋いでおかなくても「主」「飼い主」と認めた者には絶対の服従をする律義なデスホースは足元に生えている草を食べ始めた。
「枯れた沢というのは、まさにこれなんだ」
ファルグレイドがしゃがみ込んで拳一つ分の深さで幅は片手の手の平を広げた沢の石を拾って放り投げた。
沢は昨日、今日枯れたものではなく、すっかり石もそこに落ちた葉も水気を失っていた。
「年々流れてくる量が少なくなったとは報告を受けていたんだが」
ファルグレイドが困っているのは今は時間はかかっても岩から染み出している他所の水も枯れるのではないかと言う事だった。
領民の生命線でもある水の枯渇は領の死を意味するに等しい。
ルツィエは周囲を見渡し、意識を研ぎ澄ませた。
さっき大きな木のあたりで聞こえたコポコポとした水の音はこの付近では全く聞こえないし、木があるので多少の水分は空気にも含まれているのだろうが玉に出来るほど水の気配も感じなかった。
「ごめんなさい。辛いことを言うようだけどこの辺りには水の気配がないわ」
「そうか…うん。まぁ、仕方ないか」
「でも…ファルグレイド様、さっきの木。あの大きな木の近くにもう一度連れて行ってくださいます?」
「いいけど…水の音はあの付近ではするってこと?」
「確かめてみたいの。もしかすると井戸を掘れるかもしれないし」
「井戸?!そりゃ無理だよ。前にも言ったようにその辺を掘ればいいってものでもないんだ」
「だからなの。確かめてみたいの。お願い」
斜面になった道をデスホースには乗らずにゆっくりと降りていく。ルツィエはその途中でも水の気配を感じないかと周囲に中を払ったが、「あるにはある」程度で領民たちが期待する結果は産めないと感じた。
大きな木まで戻ってくるとやはりこの辺りは水の音がする。
この大きな木が青々と葉を茂られているのも水脈が地下にある事を示していた。
――問題は根っこがどこまで張っているかにもよるわね――
ルツィエは木の周りをぐるりと回った後、少し離れた所まで足を延ばした。ルツィエの後をファルグレイドもゆっくりとついてくる。
――ん?ここって――
意識を集中すると足元の土はカラカラに干からびているものの、感覚としてはズルっと滑りそうなくらいにぬかるんでいた。
いつもは空に向かって手をあげるのだが、ルツィエはもし自身の魔法が水を集め、そして水の玉にしているのなら地中からも吸い上げることが出来るのではないか。そう考えた。
足元の部分までは木の根も張っておらず、もし何もなくても木が傷んだり倒れる事もない。
「ここで魔法を展開してみるわ」
「ここで?!何もないが…何か感じるのか?」
「足元が凄くぬかるんでいるの」
「ぬかる・・・え?そうか…君には見えるんだな。判った。何かあっても僕がどうとでもする。やってくれ」
「判ったわ。1つお願いがあるの」
「なんだい?」
「私、空気中の水分を集める魔法は使っているんだけど地中は初めてなの。だから大きな穴が開いてしまうかも知れないし、上手く行けば水が噴き出るかも知れない。どうなるか判らないって事を・・・」
ファルグレイドは「そんなこと」と笑い飛ばした。
「俺が全て責任を負う。ただ…無理だと思ったらやめてくれ。魔力の使い過ぎは文献で読んだだけだが命を落とす危険もある。君にそこまでさせられない」
「そこそこは大丈夫」
「そこそこじゃだめだ。俺は君になにあったら生きていけない」
「大丈夫よ。お兄様もそれを理由に怒ったりし――」
「違う!クレセルは関係ない。君に無理をさせるくらいなら領民を他の領に引き取ってもらってここを捨てた方がましだと言ってるんだ」
「もう・・・ファルグレイド様はそうやって。あのね!言っておくけど出戻りの私だから流せるのよ?そんな言葉は他の女の子に言っちゃうと求婚でしかないから!期待させる言葉を言っちゃダメよ」
「き、き、求婚だ!そう思ってくれていい。俺はルツィエ!君を失うくらいなら他を全部捨てていい!俺の為に・・・いやこんな鄙びた領の為に命の危険のあるような事はしてほし――」
パチン!!
ルツィエはファルグレイドの目の前て手のひらを打って音をさせた。
「蚊・・・飛んでたか?」
「飛んでないわよ!飛んでるのは貴方の頭!求婚ならもっと女心を考えて!とにかく今は水!それから・・・鄙びた田舎の領だなんて言わないで!私はお兄様に ”良いと思うまで王都に帰らなくていい” って言われてるの。この領で・・・ずっとみんなの・・・貴方の役に立ちたいと思ってるのに!そんな言い方しないで!」
「帰らない・・・」
「えぇ帰らないわ。生きている間に水の都と呼ばれるまで帰る気はないわよ!水の都になったら水の玉を降らせる大道芸人でもなって生きていくつもりよ」
「大道芸人って…じゃぁその前に・・・俺と結婚してくれ。贅沢はさせてやれないかもしれないけど幸せにする」
「だから!ムードがないの!いい?シチュエーションは大事なの!求婚は後にして頂戴」
「ダメだ。そんな事をしたらルツィエは無理してでも水を出そうとする。無理をして欲しくないんだよ!解った。許可しない!ここで魔法を使う事は禁止す―――ん??んん???」
目をぱちぱちと何度も瞬きをするファルグレイドだったが、人生最大の出来事が起こった。
ファルグレイドの口を塞いだのはルツィエの唇で、がっちりとファルグレイドの頭をホールドしたルツィエは「えぇい!ままよ!」とキスをしたのだ。
黙らせるのには効果覿面でファルグレイドは唇を離すとへなへなとその場にしゃがみ込んで顔を覆った。
――今だわ!――
いつもは空に向かって広げる手を大地に向けてルツィエは詠唱を始めた。
足元はぬかるんでいる感覚はあるが、水脈はかなり深い位置にある。
持てる魔力を槍をイメージした形に纏め上げて一気に魔法陣を貫くように放出した。持てる魔力が全て放出されていくとルツィエは自分の体も水になって溶けていく気がした。
ブワワー!!!
子供達に水の玉を出した時のような風ではなく、ルツィエを中心としたまるで竜巻のような風が舞い上がりファルグレイドは近寄る事も出来なかった。
風の中心でルツィエは地中深くから吸い上げてくる水滴が魔法と同じ。鋭利な槍の形をして下から沸き上がってくる。バチっバチっと体にあたると皮膚が裂け目を作っていく。
「ダメだ!ルツィエ!やめるんだ!!グワァッ!!」
ファルグレイドは魔法陣の中に入り込んでしまった。ルツィエが浴びているような水の槍がファルグレイドをも傷つけていく。
中心部につき上がる風の中にファルグレイドが手を入れてルツィエを抱きしめた時、地鳴りのような音がして足元から水が空に向かって吹き上げた。
「ルツィエッ!ルツィエッ!目を開けてくれ!」
ルツィエの魔法が消えた時、そこには空に届きそうなくらいに吹き上げる水が上がれる高さまで上がると今度は雨のように大地に降り注いだ。
大地に打ち付ける水滴を浴びてびしょびしょになりながらファルグレイドはルツィエを抱きしめて何度も名を呼んだ。
繋いでおかなくても「主」「飼い主」と認めた者には絶対の服従をする律義なデスホースは足元に生えている草を食べ始めた。
「枯れた沢というのは、まさにこれなんだ」
ファルグレイドがしゃがみ込んで拳一つ分の深さで幅は片手の手の平を広げた沢の石を拾って放り投げた。
沢は昨日、今日枯れたものではなく、すっかり石もそこに落ちた葉も水気を失っていた。
「年々流れてくる量が少なくなったとは報告を受けていたんだが」
ファルグレイドが困っているのは今は時間はかかっても岩から染み出している他所の水も枯れるのではないかと言う事だった。
領民の生命線でもある水の枯渇は領の死を意味するに等しい。
ルツィエは周囲を見渡し、意識を研ぎ澄ませた。
さっき大きな木のあたりで聞こえたコポコポとした水の音はこの付近では全く聞こえないし、木があるので多少の水分は空気にも含まれているのだろうが玉に出来るほど水の気配も感じなかった。
「ごめんなさい。辛いことを言うようだけどこの辺りには水の気配がないわ」
「そうか…うん。まぁ、仕方ないか」
「でも…ファルグレイド様、さっきの木。あの大きな木の近くにもう一度連れて行ってくださいます?」
「いいけど…水の音はあの付近ではするってこと?」
「確かめてみたいの。もしかすると井戸を掘れるかもしれないし」
「井戸?!そりゃ無理だよ。前にも言ったようにその辺を掘ればいいってものでもないんだ」
「だからなの。確かめてみたいの。お願い」
斜面になった道をデスホースには乗らずにゆっくりと降りていく。ルツィエはその途中でも水の気配を感じないかと周囲に中を払ったが、「あるにはある」程度で領民たちが期待する結果は産めないと感じた。
大きな木まで戻ってくるとやはりこの辺りは水の音がする。
この大きな木が青々と葉を茂られているのも水脈が地下にある事を示していた。
――問題は根っこがどこまで張っているかにもよるわね――
ルツィエは木の周りをぐるりと回った後、少し離れた所まで足を延ばした。ルツィエの後をファルグレイドもゆっくりとついてくる。
――ん?ここって――
意識を集中すると足元の土はカラカラに干からびているものの、感覚としてはズルっと滑りそうなくらいにぬかるんでいた。
いつもは空に向かって手をあげるのだが、ルツィエはもし自身の魔法が水を集め、そして水の玉にしているのなら地中からも吸い上げることが出来るのではないか。そう考えた。
足元の部分までは木の根も張っておらず、もし何もなくても木が傷んだり倒れる事もない。
「ここで魔法を展開してみるわ」
「ここで?!何もないが…何か感じるのか?」
「足元が凄くぬかるんでいるの」
「ぬかる・・・え?そうか…君には見えるんだな。判った。何かあっても僕がどうとでもする。やってくれ」
「判ったわ。1つお願いがあるの」
「なんだい?」
「私、空気中の水分を集める魔法は使っているんだけど地中は初めてなの。だから大きな穴が開いてしまうかも知れないし、上手く行けば水が噴き出るかも知れない。どうなるか判らないって事を・・・」
ファルグレイドは「そんなこと」と笑い飛ばした。
「俺が全て責任を負う。ただ…無理だと思ったらやめてくれ。魔力の使い過ぎは文献で読んだだけだが命を落とす危険もある。君にそこまでさせられない」
「そこそこは大丈夫」
「そこそこじゃだめだ。俺は君になにあったら生きていけない」
「大丈夫よ。お兄様もそれを理由に怒ったりし――」
「違う!クレセルは関係ない。君に無理をさせるくらいなら領民を他の領に引き取ってもらってここを捨てた方がましだと言ってるんだ」
「もう・・・ファルグレイド様はそうやって。あのね!言っておくけど出戻りの私だから流せるのよ?そんな言葉は他の女の子に言っちゃうと求婚でしかないから!期待させる言葉を言っちゃダメよ」
「き、き、求婚だ!そう思ってくれていい。俺はルツィエ!君を失うくらいなら他を全部捨てていい!俺の為に・・・いやこんな鄙びた領の為に命の危険のあるような事はしてほし――」
パチン!!
ルツィエはファルグレイドの目の前て手のひらを打って音をさせた。
「蚊・・・飛んでたか?」
「飛んでないわよ!飛んでるのは貴方の頭!求婚ならもっと女心を考えて!とにかく今は水!それから・・・鄙びた田舎の領だなんて言わないで!私はお兄様に ”良いと思うまで王都に帰らなくていい” って言われてるの。この領で・・・ずっとみんなの・・・貴方の役に立ちたいと思ってるのに!そんな言い方しないで!」
「帰らない・・・」
「えぇ帰らないわ。生きている間に水の都と呼ばれるまで帰る気はないわよ!水の都になったら水の玉を降らせる大道芸人でもなって生きていくつもりよ」
「大道芸人って…じゃぁその前に・・・俺と結婚してくれ。贅沢はさせてやれないかもしれないけど幸せにする」
「だから!ムードがないの!いい?シチュエーションは大事なの!求婚は後にして頂戴」
「ダメだ。そんな事をしたらルツィエは無理してでも水を出そうとする。無理をして欲しくないんだよ!解った。許可しない!ここで魔法を使う事は禁止す―――ん??んん???」
目をぱちぱちと何度も瞬きをするファルグレイドだったが、人生最大の出来事が起こった。
ファルグレイドの口を塞いだのはルツィエの唇で、がっちりとファルグレイドの頭をホールドしたルツィエは「えぇい!ままよ!」とキスをしたのだ。
黙らせるのには効果覿面でファルグレイドは唇を離すとへなへなとその場にしゃがみ込んで顔を覆った。
――今だわ!――
いつもは空に向かって広げる手を大地に向けてルツィエは詠唱を始めた。
足元はぬかるんでいる感覚はあるが、水脈はかなり深い位置にある。
持てる魔力を槍をイメージした形に纏め上げて一気に魔法陣を貫くように放出した。持てる魔力が全て放出されていくとルツィエは自分の体も水になって溶けていく気がした。
ブワワー!!!
子供達に水の玉を出した時のような風ではなく、ルツィエを中心としたまるで竜巻のような風が舞い上がりファルグレイドは近寄る事も出来なかった。
風の中心でルツィエは地中深くから吸い上げてくる水滴が魔法と同じ。鋭利な槍の形をして下から沸き上がってくる。バチっバチっと体にあたると皮膚が裂け目を作っていく。
「ダメだ!ルツィエ!やめるんだ!!グワァッ!!」
ファルグレイドは魔法陣の中に入り込んでしまった。ルツィエが浴びているような水の槍がファルグレイドをも傷つけていく。
中心部につき上がる風の中にファルグレイドが手を入れてルツィエを抱きしめた時、地鳴りのような音がして足元から水が空に向かって吹き上げた。
「ルツィエッ!ルツィエッ!目を開けてくれ!」
ルツィエの魔法が消えた時、そこには空に届きそうなくらいに吹き上げる水が上がれる高さまで上がると今度は雨のように大地に降り注いだ。
大地に打ち付ける水滴を浴びてびしょびしょになりながらファルグレイドはルツィエを抱きしめて何度も名を呼んだ。
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