小切手を拾っただけなのに~それは侯爵子息の溺愛の始まりでした~

cyaru

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第06話  父はいるけどいない理由

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アリアの父親は王都から遠く離れたファヴァビーン伯爵家の領地で一人暮らしをしている。

尤も王都にいた頃から父親らしい事をしてもらったことは一度もなく、離れて暮らすようになってもう10年。その間に手紙のやり取りがあったかと言えば否。

祖母がもう長くないことをしたためた手紙は半年も前に出したが返事は来なかった。
大事な用件の手紙だけではない。そもそもで父親は「家族」がいる事すら概念がないのではないか?そう思える人間だった。


若い頃から研究、研究で先代国王が用意をしてくれた王城内にある研究室で寝食を行い、家に帰ることも無い。親も、妻も子も顧みることはなく祖父が亡くなった時に「爵位の引継ぎがある」と官吏を通じて連絡をすると面倒そうに帰ってきて手続きを済ませると研究室に戻って行った。

家にいたのは僅か数時間でアリアは祖母に「お父様よ」と教えてもらうまで「何処のおじさんだろう」と思ったくらい。

よくアリアを設けることが出来たなと思うが、それすら後継ぎが欲しい祖父母が金に物を言わせて嫁がせた準男爵家の女性と書面上の結婚をさせた上に無理やり父親を研究室から連れ戻し、妊娠するまで部屋から出さないと祖父母が監禁まがいな事をしたから出来たようなもの。

しかし、アリアの母は家にも帰らない夫を静かに待つ妻ではなくアリアを産んで産褥が癒えると金目の物をトランクに詰め、間男と手と手を取り合って駆け落ちしてしまい、今では生きているか死んでいるかもわからない。

母親の実家である準男爵家も娘の結婚で得た金で贅沢を覚え、忘れることが出来ずに借金塗れ。最後は夜逃げをしてしまいアリアは母方の親族にも会ったことがなかった。

そんな父が研究室に入り浸る生活に終わりを告げたのは12年前。
国王が生前退位をし、今の国王になってすぐの事だった。


年から年中研究に明け暮れて、先代国王の治世では研究室が王城内にあり研究費用も国費から出ていた。
地味な研究だったからこそ0を1にする苦労を知らない者には穀潰しにしか見えない。

理解のあった先代国王が退位をすると現在の国王は「国費の無駄使い」だと研究室を真っ先に閉鎖した。
つまりハース男爵は失職したのである。

失職した父親が家に戻ってきたとき、不幸中の幸いだったのは研究第一で食べるもの、着るものには無頓着で研究室に入り浸っていた期間の生活費は手つかず。職のない期間が数年だとしても生活できる額は残っていた。

しかし研究室が無くなった理由が「国費の食い潰し」とされたことで父親はどこに行っても門前払い。

好きな研究に没頭出来ていたから世渡りの処世術も必要がなかった父親は物言いにも問題があったし、人に頭を下げたりするのも「必要性を感じない」とバッサリ。

自分が「求職者」であるなんて概念すらなく新しい職に就くことが出来なかった。年数が経てばハース男爵もその分年を取り、再就職はより難しくなる。祖母の医療費も重なって貯えを切り崩すだけでは先が見えていた。

そんな折にハース男爵の研究に以前から興味を持っていたファヴァビーン伯爵が領地で農作物の指導をしてほしいと言ってきた。

ハース男爵が申し出を二つ返事で引き受けたのは、日の目を見るのももうすぐな時に断ち切られた研究は数年のうちに実地で検証をしてみようかという段階だったからである。

ファヴァビーン領は名前の通りソラマメと呼ばれる豆が特産品。

領地はソラマメの生産地だがソラマメは連作を嫌うので1度収穫をすると数年は土を休ませねばならず、当時の収穫量は底辺を這うような量しかなかった。

領地の土はハース男爵の研究の成果を見事花咲かせ、ファヴァビーン領だけで良質な豆類をはじめ芋など国内の6割が収穫されるようになったのはここ5、6年の事だが、遠い領地に向かう時ですら祖母やアリアに相談もなかった。

朝起きたら父親は出立した後で、どこに行ったか置手紙もなく知らせてくれたのはファヴァビーン伯爵家だった。


悲しいかな父親の生存を人伝手に、しかも成果を聞かされるついでに知る希薄も極まれりな親子関係。
きっとアリアが目の前の男性から求婚をされている、結婚をしたと手紙で知らせても父親は封を切ることすらしないかも知れない。

だからこそ、「父に相談をしていない」と逃げの手を打ったのに。
あっさりとかわされてしまったことにアリアは驚きを隠せなかった。
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