小切手を拾っただけなのに~それは侯爵子息の溺愛の始まりでした~

cyaru

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第36話  ギリギリ寝てる

「えーっと。結婚中の生活はお互いを尊重し、問題があれば話し合いで解決すること。…当然ですよね」
「そうだな」
「エルフィン・パミル、アリア・パミル共に私室は個人で利用し…え?」
「(どうしよう…どうしよう)…どうした?」
「エルフィン様、就寝は夫婦の寝室ってありますけど」
「ん?そう書いてあるな」
「今、私室で寝てますよね。私室の寝台は使っちゃいけないんですか?」
「それね…撤去の予定なんだ」
「撤去?!私室の寝台を撤去?!交互に床で寝るんですか?ソファ?寝袋ってありましたっけ?」

執事は未だにアリアに伝わっていないエルフィンの気持ちを思い、目頭を押さえた。

メイドは「一緒に寝るって考えないのが奥様らしい」と窓の外を見た。

「い、一緒に寝ればいいんじゃないかな」

今日は冷え込みが一段と厳しい日だが、エルフィンの額には汗が玉のように吹き出て頬を伝う。

「一緒に?」
「そう。一緒に」
「うーん…でも私、寝相がそんなに良いと思えないんですよね。寝ているので見た訳じゃないんですけど朝起きると足元までシーツがぐしゃぐしゃの時もあって。コロコロ転がってると思うんです」

アリアの考えの中にいい年をした男と女が1つの寝台で寝るのにの心配はまるでない。

(私は夫…いや男としてアリアに認識されているんだろうか)

エルフィンは心配になったが、ここは押さねばならない。
「判りました」と言ってくれればそれでいいのだ。後は野となれ山となれだ。

「大丈夫だ。転がるときは私を超えていけ」
「いいんですか?寝てる最中に裏拳飛んでくるかも知れないんですよ?」
「そのくらい受け止めてやる。ドーンと来い」
「ふむ…ではちょっとそこのソファに横になってくれます?」
「ソファに?なんでだ?」
「超える山の高さを確認しようと思いまして」

(本当に私を超えるのか?超えてしまったら寝台から落ちるぞ?)

茫然とするエルフィンをアリアは「さぁさぁ」
3人掛けのソファに寝転がれと誘う。

エルフィンは仕方なくソファに横になるとアリアは背凭れ側から覗き込んだり、前にしゃがみ込んだりでキッチリと確認をしていく。

そしてしゃがみこんだ姿勢で顔を至近距離においてエルフィンに問うた。

「エルフィン様っていつも横向きに寝てるんですか?」
「え?(そっちの心配?)…多分だが仰向けだな」
「じゃぁ仰向けになってください。違う寝方だと判らないじゃないですか」
「そうだったな。すまない」

寝付くまではアリアを見るために横向きだよと言いそうになったが、真顔で高さを調べているアリアには言えなかった。

ひじ掛けを枕に仰向けになったエルフィンをアリアは「こんな感じかな」体をグイっと押し付けてきて転がるであろう予行練習を始めてしまう。

「ア、アリア。すまない。あまりに密着すると昼間なのにきてしまう」
「え?起きてるじゃないですか」
「起きてるんだが、今はギリギリ寝てるんだ」
「どういうこと?」

アリアはエルフィンの言葉の意味が判らず振り返って執事とメイドを見た。
執事もメイドも窓の外を見て気を飛ばすのに必死でアリアと目が合わない。

エルフィンはこれ以上誤魔化すのは無理だと判断し、執事たちを見てもう一度エルフィンのほうを見たアリアをガバッと起き上がって抱きしめた。

「どうしたんです?気分悪くなったんですか?」
「違う。聞いてくれアリア」
「遺言を?!ちょ、ちょっとお待ちください」
「遺言でもいい。うんと言ってくれ」
「内容によります」

エルフィンは抱きしめるのに使っていた力がスルンと抜けて、アリアの肩を押さえ少しだけ距離を取った。

「私が死んだら私の財産はアリア、全部君の物だ」
「そうですね。今は夫婦ですし」
「そうなんだが、そうではなくてだな。私は契約婚ではなく、アリア、君と本当に夫婦になりたいんだ。私を看取ってくれるのはアリアがいいし、本当の最後は並んだ墓で眠りたいんだ」
「エルフィン様、本当も何も国が認めたんですから夫婦ですって。契約婚なのはお互いの取り決――」
「それを撤廃してくれ。好きなんだ!どうしようもなくアリアが好きで好きで堪らないんだ」

少々混乱したアリアはまたもや執事とメイドを見た。

(私、もしかして結婚してるけどプロポーズされてる?)

目で問いかけてみた。
2人とも今度はアリアとエルフィンを見ていて胸の前に軽く折った手を「今だ!そこだ!」的に構えている。

エルフィンを振り返れば…。

「愛してるんだ」

(怖っ!!待って。これって現実?)

アリアはつい、エルフィンの頬をギュッと抓ってしまった。

いひゃい痛いよ」
「ご、ごめんなさい。ちょっと浮世離れ、じゃなかった現実が見えなくなってまして」
「うんって言ってくれ」
「え?…うん」
「ありがとう!アリアーッ!!」
「グエッ!!ぐ、ぐるじ…」

抱きしめる力にアリアは現世界から祖母のいる世界に飛びそうになった。
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