小切手を拾っただけなのに~それは侯爵子息の溺愛の始まりでした~

cyaru

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第42話  人生最大の無駄

「ダァァァーッ!!エルフィンキィィーック!」

2階の窓からエルフィンは庭に飛び降りたが、垂直に飛び降りたのではなくまさか、まさかのアリアとアリアを羽交い絞めにする男めがけて弾みをつけ、飛び降りてきた。

落下の加速度もついたエルフィンの体はエルフィンキックと技の名前まで叫んだのにNO直撃。しかし至近距離に落ちたため、避けようとして畝のくぼみに足を取られた男をアリアごと転倒させた。

「今よ!取り押さえなさいッ!」

夫人の号令に集まってきた使用人は一斉に男に向かってとびかかり、男は7、8人の使用人たちの下敷きになった。

「アーちゃんっ!!ケガは?何ともない?」
「だ、大丈夫です」
「大丈夫じゃないわ、こんなに土が…絶対にどこかケガをして…ああぁっ!!首が赤くなって!!」
「これは羽交い絞めにされたので首がちょっと締まっちゃって」
「大変!直ぐに王宮の御殿医を呼ぶわ」
「いえいえ。そんな大げさな。揉んでおけば治ります」
「ダメよ。よくも私の大事な娘に!!そこをお退き!私が手ずから串刺しにしてくれるッ!」

(あの、夫人、手にしてるの鍬なので殴打になっちゃいます)

夫人の手が離れると今度はエルフィンがよろよろしながらアリアを抱きしめた。

「アリア。生きた心地がしなかった」
「2階から飛び降りるなんて無謀もいいところです。足を挫いたのでは?」
「挫いていない。折れただけだ。こんなのアリアのケガに比べればどうってことない」
「折れた?!折れたってどこが?!」
「心が」
「・・・・・(〆ていいかな)」
「アリア、嘘じゃない、アリアが他の男に酷い目に合わされてると思うと」
「はいはい。判りましたー。でも飛び降りたりするのは危ないからもうしないで」
「アリアの頼みならそうするよ」

立ち上がり、土を払っていると使用人たちに取り押さえられた男も縄で縛られて立ち上がらされた。
アリアもエルフィンも随分と汚れてしまっているし、無精ひげだらけだったがその男がダリオンだと気が付いた。

侯爵夫人に鍬の柄で散々に叩かれたダリオンもゆっくりと顔を上げると、そこにアリアがいることに気が付いた。

「アリー!助けてくれ。忍び込んだのは悪かったが腹も減ってどうしようもなかったんだ。こんなの不可抗力だろ?判るよな?俺とアリーの仲だろ?」

エルフィンはアリアの前に体を寄せてダリオンの視界からアリアを消そうとしたが、アリアは「大丈夫」とエルフィンの腕を掴んだ。

「ダリオン。貴方って何から何まで最低だわ」
「何を言ってるんだ。そうか。言わされているんだろ?俺には判る。アリーの事は俺が誰よりも一番よく知ってるからな。安心してくれ。この状態がそもそも間違いなんだ。俺は悪くない。辛い思いをさせたのもデリスが俺を騙したからだ。でもちゃんとアリーが俺の事を愛していると判っているから俺が最後に拠り所とするのはアリーなんだ。捕縛は間違いだからすぐに迎えに来る。待っててくれ」

饒舌に語るダリオンにアリアは言葉が口から飛び出るたびに得体のしれない不気味さと気持ち悪さ、そして吐き気を覚えた。

「違うわ。貴方の事なんか愛してない。私の何が判ると言うの?何にも知らないくせに知った風なことを言わないで。今となっては貴方と付き合った時間が人生最大の無駄だとはっきり言えるわ」
「判ってる。判ってる。この場じゃそういうしかないよな。俺は寛容だかーー」

ダリオンは1から10まで全て判っているとでも言いたげに目を閉じ、軽く空を見上げてダリオンの考えが正しいのだ、アリアは脅迫されてそう言うしかないと決めつけてかかった。

「何が寛容よ。聞いて呆れるわ。私は誰にも言わされていないし、全部私の本心を言葉にしてるの。貴方を待つことも無ければ思うことも無い。処刑台に送られようが懲役刑になろうが知った事ではないわ。認めたくないでしょうけどね」

面倒くさくなりアリアはこの先ダリオンが受けるであろう処分を敢えて口にした。
ダリオンなりに判ってはいるのだろうが虚勢を張って自分を誤魔化しているのを指摘され垢黒い顔が耳まで真っ赤になった。

「アリーッ!俺を怒らせてどうしたいんだ!!」
「怒ろうか笑おうがお好きにどうぞ。貴方は私の人生には不要なの。存在が不快だわ。でも大丈夫。貴方にはデリスっていうお似合いの妻がいるじゃない。デリスが貴方を騙したのなら貴方も私を騙したの。他人はダメで自分は許されるなんて思い上がりもいいところよ」

縄で縛られた上に使用人にも腕を掴まれているのにダリオンは残る力を振り絞って自由になろうとしたが如何せん人数もあって抗えない。せいぜい吠えるのが精いっぱいだった。

「アリー!愛してるんだろ?助けろよ!俺無しで生きて行けるのか?今なら許してやる!助けろ」

ダリオンの叫びなどアリアはもう聞く気もなかった。

「エルフィン様。行きましょう。あ~ぁ。折角お義母様が白菜くれるって言ったのに。残念だわ」
「白菜なら屋敷にもある。好きなら調理長にメニューに入れてもらうが?」
「判ってないわねぇ。お義母様の白菜だから欲しいの」
「そうなのか?」

その日の夕食はエルフィンの両親と一緒に取ることになったが、初見となる侯爵の他に次期侯爵のエルフィンの兄も恋人と途中から食卓を囲んだのだった。
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