第3騎士団長は愛想なし令嬢を愛でたい

cyaru

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第22話♥エンリケの執務室

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ポケットマネーで開襟シャツLLサイズを購入したガウルテリオ。
早速着替えて国王エンリケの執務室に向かった。


「陛下、お呼びと伺いガウルテリオ・アージュ参上致しました」
「来たか。そこに掛けてくれ」


エンリケはガウルテリオをソファにいざなうと人払いをする。まさか従者も下げさせると思わなかったガウルテリオは背中に緊張が走る。
夜会の警護に人員を出せと言うのなら人払いは必要がない筈だ。


「陛下、いったい…」
「少々聞かれたくはない話でね」


執務机の引き出しから何も書かれていない紙を1枚。ペンを2本手にしたエンリケはガウルテリオの向かいに腰を下ろし、間のテーブルに紙を置いた。

「筆談?」っとガウルテリオは手で文字を書く仕草をするとエンリケは頷く。
部屋の中を見回すが、国王エンリケの動向なども諜報の対象となっているのかと先程背中に走った緊張がより高まった。


エンリケは紙にペンを走らせ、書き終わるとガウルテリオのほうにクルリと紙を向ける。


【6年前。襲撃。再始動】

そう書かれた紙にガウルテリオの目は見開き、エンリケと目が合った。
また文字を書きながらエンリケは言葉も口にする。


「どうだい?そろそろ結婚も視野に入れて動いているのか?」
「いえ、まぁ…それなりに・・・」
「同棲を初めてそれなりにもなろうというのに、手を出していないのか?!」
「無理やりには…。彼女の気持ちが大事です」
「大事に思うのは良い事だが、騎士にしては珍しく牛歩戦術だな」


確かに騎士は兎に角「手が早い」のは間違いない。
婚姻前に関係を持つことに問題視をされるのは王族か高位貴族。
当主となる者もそれに付随するが、両家にとっては醜聞とも受け取られるため懐妊の兆候が出た時点で結婚し産み月を誤魔化す者も多い。


「リオも今度の夜会には参加と聞いて、一先ずは安心した。そういう関係と捉えられても問題はないな?」


エンリケの言葉に対しての返答に窮するガウルテリオ。
少し考えて、先程の指先キスを関係の深さに含める事にした。


「あると言えばあるんですが…まだ報告するに至っておらずで」
「物を買い与えるだけではダメだ。言葉と態度にしないとね」
「それ‥‥はっ?…(うぐっ)そうなんですけれども」


ガウルテリオの言葉が途切れるのは、エンリケがペンを走らせ残った文字にマリーの名がある事、そしてその首謀者とも言える名を見た事が原因。

「様々な事情。理由は本人のみぞ知る…と言ったところか」

口角を上げて上目遣いでガウルテリオを見るエンリケ。
首謀者の考えと、ガウルテリオとマリーの関係。2つを同時に示唆するが誰が聞き耳を立てているかも判らず、発する声はガウルテリオに惚気を促すもの。

ガウルテリオは震える手で名を書いた文字を指でなぞった。

「リオが妻を娶る。その事は一部の貴族にはある種の衝撃になるだろう」
「いや、一足飛びにそこまでは…」
「そう思うか?当人が思う以上に周りは動向に注意している。前回はトンビに掻っ攫われたが…今度はしっかり掴んでおけよ?後悔をしないように」

「後悔…まさか…」

「そのまさかだ。気を抜けば持ってるぞ?」


膝の上に置いたガウルテリオの手がギュッと力を込めて固い拳になる。
エレナ―リナはカルロスのお手付きとなり、ガウルテリオの手から離れたがそれに掛け合わせて、今度はマリーの命が危険に晒されている。エンリケは真剣な眼差しでガウルテリオに伝えてきた。


エンリケは【民衆】【制圧】と書いた文字を指でさす。

「格段の配慮に手を抜くなよ」
「御意」

エンリケはシャシャっとマリーの名前を何重にもなるように円で囲う。

「何があっても手放さないよう」
「それは勿論ですが…陛下はどうされるのです?」
「そうだな。先生は何を望むと思う?」


エンリケが先生と呼ぶのが亡きウェルバーム侯爵であるのは確か。
最期を看取ったガウルテリオは息を飲んだ。

ウェルバーム侯爵に教えを乞うた事はないが、エンリケからはよく話を聞いていた。
だからこそ、聴取をする際頑なに否認をしていたのに自白したと聞いて耳を疑った。長期間の拘束に耐えかね楽になりたくて嘘の自白をする者は確かにいるが、そんな人物だとも思えなかった。


「人は他人の持ち物のほうが良く見えると言う。手に入れたと言う余裕が出来るからだろうか。持たざる者はそれが眩しくて仕方がないのだろう。だが、気持ちも功績も手に入れるのはそれに対し尽力した者だけ。私はそうかんがえているよ」

「はい。同感です」

「夜会ではしっかりな。安心しろ。お前の思い人を掻っ攫うほど私は愚かではない」


エンリケは身を乗り出し、まだ動揺が残るガウルテリオの肩を叩いた。




☆~☆

その日の退出後、若干重い腰を持ち上げて先にマリーが待つ仕立て屋に向かったガウルテリオ。

今までは支給される隊服と数着の私服があれば問題がなかった。
なので、採寸をするのは数年ぶりの事。以前に採寸をしてもらったのはマリーが着任する半年前だから、もうすぐ1年になる。

大人になればさほどにサイズが変わるわけでもないと思っていたが、マリーが屋敷に住まうようになって帰宅する事が多くなったガウルテリオは腕廻りと胸廻り、腰回りが若干大きくなっていた。
ポーリンは弁当の栄養も考えているのだとマリーは言ったがその通りで、日々の食事をきちんとバランスよく取る事で30歳まで僅かとなったガウルテリオはちょっとだけ成長していた。


「採寸は終わりです。お仕立てする布地は奥様のドレスのお色に合わせました」
「奥っ?!奥様っ?!」
「はい。あ、そろそろ試着が終わられたようですよ」

シャッと部屋を隔てていたカーテンが引かれると、濃い色合いではないが明るめの鶯色を基調としたドレスを試着したマリーがお針子達に囲まれて、両腕を水平にあげたり、軽く肘を追って挨拶前の直立の姿勢になったりとしている姿が現れた。


「お綺麗ですよね。背中のお肉をどうするか。大抵のご婦人は苦労するのですが奥様はとても綺麗なので、隠すよりも少し見せた方がエレガントを出せると思いまして。どうぞこちらに」

ガウルテリオはお針子に囲まれたマリーの元に歩いていくが…

――くっ!眩しすぎる!なんて神々しいんだ!――

自分の色を身に纏ったマリーを見たら驚くと言った使用人の言葉に嘘はなかった。

「女性のドレスは通常仕立てるのに3か月はかかります。今回は奥様のご意見を参考に既製品として誂えたドレスをリメイクすると言う形を取らせて頂く事になっております。今日はお化粧も薄く、髪も結われておりませんので…っと、ちょっと奥様失礼を致しますね」

女性はそう言ってマリーの後ろ髪を手でクルクルと丸めると後頭部に当てた。
露わになった白いうなじ。少し伏目がちな横顔。

――ファゥッ!!危険度が高すぎないかっ?!――

ガバっと口元を手で覆い、過呼吸を鎮めるガウルテリオ。
耳まで燃えるように熱い体温を感じる。

――これで宝飾品が付いたら人類史に残る伝説になるんじゃないか?――


そこに、今は勤務時間外。恋人のふりをする時間。
職務に忠実なマリーに深い意味はない。

「ウル。どうでしょうか。おかしくはありませんか?」


ドスッ!! ガウルテリオは動きを止めた。


「どうされましたー?おーい!こっちの世界にいますかー?」

仕立て屋の従業員にガウルテリオは強めにバシバシと背を叩かれるが、心は既に天国。
立ったまま気絶していたのだった。

☆~☆

今日はあと2話あります。20時10分、21時10分公開です <(_ _)>

レィディース・エェンド・ジェントルメェン!!
満を持してエドウィンとカテリーンが登場致しますよ~\(^▽^)/
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