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第23話♥エドウィンとカテリーンの失態①
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迎えた夜会の日。
その日はガウルテリオ、マリーとも終日勤務は休みとなるため前日は少し残業をした2人。朝食をいつもより早めの時間に取ると、女性使用人達がマリーを連れて早々に食堂兼リビングを後にする。
「あの…俺は?」
「男の身支度など、髭を剃って頂いていれば5分です」
あっさりと捨ておかれる当主。
そんな当主を尻目に使用人達は気忙しい。
やっとマリーの為に揃えた化粧道具などが活用される日がやってきた。
化粧台の前にはワゴンが幾つも置かれ、髪結い用、化粧用、装飾用とその時を待つ。
マリーはと言うと朝食を終えた後、少し胃の中が落ち着くのを待って先ずは湯あみ、そしてマッサージをしてさらに軽く汗を流す程度の湯に浸かり、ドレスの着付けが始まる。
いつもより女性使用人が多いのは、元々の使用人の娘たちも含まれているからでその中には裕福な商家の娘に化粧の専属係として雇われている者もいる。
「フッフッフ…隣国で発売されたばかりのファンデーションです」
「何が違うの?同じに見えるけど…」
「実はこれ…汗をかいても化粧落ちしないんですっ!(どやぁ)」
小さなコンパクトケース1つで平民の2か月分の給料に匹敵するファンデーション。一般の女性にはそうそう手が出るものではなく、流行に敏感な高級娼婦ですらパトロンにオネダリするお品。
「旦那様が金に糸目はつけないって仰ったのでぇ!!買っちゃいましたー!」
夜会まであと12時間以上あるのだが、女性の支度と言うのは時間がかかる物だと改めて知るガウルテリオ。一緒の休日で同じ屋敷内にいるのにする事もなく、ただ部屋をウロウロ、庭をウロウロ。
昼食もマリーは軽食になると一口サイズの小さなサンドウィッチが幾つか。
夕食のメインほどではないとは言え、チキンにナイフを入れるガウルテリオは背徳感すら覚えてしまう。ガウルテリオが身支度をする為の湯を浴びたのが17時過ぎ。
屋敷の中は「誰かコットンの予備を持って来て!」「ピンが足らないわ!」「持ち物の最終点検終わってる?!」次々に飛び交う怒号にも似た悲鳴。
チャポン…湯船の中でガウルテリオはそれまでの経験上、マリーを見た後に湯あみの方が汗が流せるんじゃないかな~っと暢気に考えていた。
髭と眉を揃えて、着替えを済ませる。最後に髪を整えた使用人が「あ、旦那様」小さく声を出した。
「なんだ?」
「1ポポハゲが出来てますね。隠しておきます」
「それは右耳の斜め後ろにあるやつだろう。ハゲじゃない。火傷だ」
頑なにハゲだとは認めたくない間も無く三十路。
お洒落以上に抜け毛が気になる年齢なのだ。
「マリー様、準備出来ましたー!」
屋敷に響く声にガウルテリオは周りの使用人の顔を見る。
使用人達はうんうんと頷く。戦の最前線で敵を迎え撃つためにした時のように胸を拳でドンドン!っと叩き気合を入れた。今日は気絶するわけにはいかない。
「お待たせいたしました。団…ウル」
「ふぁぁい!(ドキドキ…ドキドキ)」
――不味い!非常~に不味い!――
ガウルテリオの色で染まったようなマリーを見て抱きしめたい衝動に駆られる。元々が整った顔をしていたし美人だったが別人になるわけでもない程度の化粧でもその美しさが更に際立っていた。
「リー…綺麗だ」
「ありがとうございます。ウルも素敵です」
「とっ隣に並んでもいいか?」
「隣に並ぶ前に、馬車に乗らねば間に合いません。馬車は向かい合わせです」
「そうだった。そうだったな…参ったな…毛穴から血液が吹き出しそうだ」
「毛穴から?血汗病でしょうか。休み明けに侍医に予約を入れておきます」
そうじゃない!と言いたかったが時間も迫る。
向かい合わせに馬車に座ると前を向けないガウルテリオ。
体の中心部が起き上がらないように必死で素数を数えようとするが、マリーの髪に結いこまれた宝飾品を見て数を数えるのすら危険な状態に陥ってしまった。
王宮に馬車が止まると、ガウルテリオが先に馬車を下りる。
後から下車をするマリーに手を差し出し、手が乗せられると周りの視線も感じる。
ガウルテリオ自身が滅多に夜会に出席しない事もあり、「誰だ?」と注目する者もいれば女っ気のないガウルテリオがどんな女性をエスコートしているのかと話題のネタにしようとする者、そして相手がマリーだと知っているものは没落した上に、あのウェルバーム家の人間がどんな顔でやって来たのかと侮蔑の目を向ける者も。
マリーが最後に夜会に出席をしたのはもう7年も前の事。
少女と大人の切り替わりの18歳頃のため、今のマリーを見て男性陣は口をあんぐりと開き、女性陣はギッと睨みつけたり、その装いに頬を染める者と分かれた。
「みんなが見てるな。くそっ。忌々しい」
「ウルが夜会に出席をするのが珍しいからではありませんか?」
「違う、あの目は俺を見てるんじゃない。リーを見てるんだ」
「そうでしょうか?気にし過ぎでは御座いませんか?」
フーフーと鼻息も荒くガウルテリオは周りを威嚇する。
伯爵位となれば入場時間は早く、まだ高位貴族も王族もホールにはいない。
見知った顔を探すガウルテリオだったが、一瞬警戒の気持ちが途切れた。
まだ距離はあるが、男爵家であるファルコンの姿を見つけたのだ。
「ファルコンたちの元に行こう」とマリーに声を掛けようとしたが、小さく夫人の声がその声を飲み込ませた。同時に不愉快な音がしてガウルテリオとマリーを中心に周囲の目が集まる。
「きゃぁ!」 ガシャッ。カチャン!パリン!
「申し訳ございませんっ!!」給仕が声を上げる。
振り返ってみればガウルテリオのいる反対側。マリーのドレスにウェルカムドリンクが数杯分しっかりと浴びた状態で真っ青な顔の給仕が膝を付き震えていた。
「大丈夫か?」
ガウルテリオはマリーに声を掛けたが、マリーはしゃがみ込んで給仕を立たせた。
到着したばかりのドレスは見るも無残な有り様。
別の給仕がやって来て床に割れて転がるグラスやしみ込んだドリンクを清掃し始めるが、給仕を立たせたマリーに今度は言葉が浴びせられた。
「やだ…今年のドレスの流行は一部が汚れたものだったかしら?」
「本当ですわ。流石。侯爵家から子爵家となかなか出来ない経験をされた方は違いますわね」
「わたくしには到底真似が出来ませんわ。なんて斬新なドレスなのかしらね」
クスクスと扇で口元隠し、半月形をした目を向けていたのはカテリーンとその取り巻き夫人。モール伯爵夫人となったカテリーンは男爵家などの夫人を従えて参加をしていた。
一歩前に出ようとしたガウルテリオをマリーは手で制した。
「いいのか?」
ガウルテリオはマリーにそっと耳打ちをした。
そっと扇を開いてマリーも口元に扇を寄せ、ガウルテリオに囁いた。
「今の状態では自己紹介をされておりませんので、わたくしは話す事は出来ません。中央のモール伯爵夫人が発言を促すまでは動けません」
「そう言う事か。では任せろ」
ガウルテリオも知らなかったわけではないが、貴族社会は縦社会。爵位が1つでも上ならば発言を許されるまで言葉を掛ける事は失礼に当たってしまう。
彼女たちの言葉は仲間内に話しかけたものだと言われればマリーが礼を失した事になる。連れの2人が男爵夫人だとしても伯爵夫人のカテリーンの連れなのだから、カテリーンに紹介されるか、同列若しくは上の爵位の者が来なければ話しかける事も出来ない。
ならばと伯爵位のあるガウルテリオはマリーを庇うように前に出た。
「これはモール伯爵夫人。相変わらず目を疑うような装いでいらっしゃる」
「え?‥‥あっ!貴方はあの時のっ!」
白塗りをしている顔が真っ赤になり、カテリーンは慌て始めた。
よく考えれば支払いが出来ずにガラス張りの部屋にプレートを首にかけていたのはガウルテリオたちが去った後なのだから知られていないと判るのだが、人間慌てると色々な記憶が歯抜けになってしまう。
滅多に夜会に出ないガウルテリオの事を知っているはずもなく、突然話しかけてきた事に近くを歩く給仕のトレイからグラスをブン取ると、「ばしゃっ!」直接グラスの中身をガウルテリオに引っかけた。
「平民の分際でこのような場所に。ここは貴族、爵位がある者が呼ばれているのよ?どうやって紛れ込んだのかしらね。そこのあなた!さっさとつまみ出して頂戴!」
カテリーンと共にいる夫人は夜会では見た事は無くても、下っ端騎士を夫に持っているためガウルテリオの顔は知っている。給仕を突き飛ばしマリーのドレスを汚した時は後ろ姿だったので気が付かなかったが、今はもう…気付いてしまった。
「モ、モール伯爵夫人‥‥お止めになって?ね?」
「何を仰ってるの?貴女も男爵夫人なんだからこういう時は正しい方向に物事を導かないと!」
「カテリーン様、それが…その…」
蒼白になっていく2人の子分。カテリーンはそれも気に食わず苛立った。
「あの時、私は名を名乗った筈だが?お忘れのようだ。ガウルテリオ・アージュ。申し訳ないが平民と言うご指摘に頷く事は出来ない。何故なら陛下から伯爵位という爵位を賜っているからな」
「えっ?伯爵‥‥」
カテリーンは馬鹿だが、世渡りの旨さで生き抜いてきた面がある。
上の者には媚び諂い、下の者は顎で使う。
伯爵夫人とは言っても当主は夫であり、目の前のガウルテリオも当主となれば伯爵夫人の立ち位置はそれよりも下位になり、手にしていたグラスに気が付くと「キャッ!」放り投げてしまった。
「も、申し訳ございません…勘違い、そう!勘違いなのです。隣にいる女がわたくしに無礼を働き、ついカッとなってしまいまして」
「カッとなる前から私の妻となる女性にやらかしてくれていたようだが?」
「そっそれは‥‥そうです!この男爵夫人が面白半分に給仕を突き飛ばしたのです!」
「モール伯爵夫人!酷いですわ!わたくしがやったと?‥‥違います!アージュ伯爵。わたくしは無実です。確かにモール伯爵夫人とは歓談はしておりました。それは認めます。ですが給仕を突き飛ばしたのはわたくしではありません!」
小さな騒ぎは大きくなり、二重,三重に人の輪が出来る。
中で騒いでいるのが自分の妻だと指摘をされた夫たちが人を掻き分けて輪の中心にやってきた。
「エドっ!助けて!」
縋りついてくるカテリーンだが、目の前の男は髪から雫を滴らせている。状況が飲み込めなかったが、その後ろにいるマリーを見てニヤリとほくそ笑んだ。
その日はガウルテリオ、マリーとも終日勤務は休みとなるため前日は少し残業をした2人。朝食をいつもより早めの時間に取ると、女性使用人達がマリーを連れて早々に食堂兼リビングを後にする。
「あの…俺は?」
「男の身支度など、髭を剃って頂いていれば5分です」
あっさりと捨ておかれる当主。
そんな当主を尻目に使用人達は気忙しい。
やっとマリーの為に揃えた化粧道具などが活用される日がやってきた。
化粧台の前にはワゴンが幾つも置かれ、髪結い用、化粧用、装飾用とその時を待つ。
マリーはと言うと朝食を終えた後、少し胃の中が落ち着くのを待って先ずは湯あみ、そしてマッサージをしてさらに軽く汗を流す程度の湯に浸かり、ドレスの着付けが始まる。
いつもより女性使用人が多いのは、元々の使用人の娘たちも含まれているからでその中には裕福な商家の娘に化粧の専属係として雇われている者もいる。
「フッフッフ…隣国で発売されたばかりのファンデーションです」
「何が違うの?同じに見えるけど…」
「実はこれ…汗をかいても化粧落ちしないんですっ!(どやぁ)」
小さなコンパクトケース1つで平民の2か月分の給料に匹敵するファンデーション。一般の女性にはそうそう手が出るものではなく、流行に敏感な高級娼婦ですらパトロンにオネダリするお品。
「旦那様が金に糸目はつけないって仰ったのでぇ!!買っちゃいましたー!」
夜会まであと12時間以上あるのだが、女性の支度と言うのは時間がかかる物だと改めて知るガウルテリオ。一緒の休日で同じ屋敷内にいるのにする事もなく、ただ部屋をウロウロ、庭をウロウロ。
昼食もマリーは軽食になると一口サイズの小さなサンドウィッチが幾つか。
夕食のメインほどではないとは言え、チキンにナイフを入れるガウルテリオは背徳感すら覚えてしまう。ガウルテリオが身支度をする為の湯を浴びたのが17時過ぎ。
屋敷の中は「誰かコットンの予備を持って来て!」「ピンが足らないわ!」「持ち物の最終点検終わってる?!」次々に飛び交う怒号にも似た悲鳴。
チャポン…湯船の中でガウルテリオはそれまでの経験上、マリーを見た後に湯あみの方が汗が流せるんじゃないかな~っと暢気に考えていた。
髭と眉を揃えて、着替えを済ませる。最後に髪を整えた使用人が「あ、旦那様」小さく声を出した。
「なんだ?」
「1ポポハゲが出来てますね。隠しておきます」
「それは右耳の斜め後ろにあるやつだろう。ハゲじゃない。火傷だ」
頑なにハゲだとは認めたくない間も無く三十路。
お洒落以上に抜け毛が気になる年齢なのだ。
「マリー様、準備出来ましたー!」
屋敷に響く声にガウルテリオは周りの使用人の顔を見る。
使用人達はうんうんと頷く。戦の最前線で敵を迎え撃つためにした時のように胸を拳でドンドン!っと叩き気合を入れた。今日は気絶するわけにはいかない。
「お待たせいたしました。団…ウル」
「ふぁぁい!(ドキドキ…ドキドキ)」
――不味い!非常~に不味い!――
ガウルテリオの色で染まったようなマリーを見て抱きしめたい衝動に駆られる。元々が整った顔をしていたし美人だったが別人になるわけでもない程度の化粧でもその美しさが更に際立っていた。
「リー…綺麗だ」
「ありがとうございます。ウルも素敵です」
「とっ隣に並んでもいいか?」
「隣に並ぶ前に、馬車に乗らねば間に合いません。馬車は向かい合わせです」
「そうだった。そうだったな…参ったな…毛穴から血液が吹き出しそうだ」
「毛穴から?血汗病でしょうか。休み明けに侍医に予約を入れておきます」
そうじゃない!と言いたかったが時間も迫る。
向かい合わせに馬車に座ると前を向けないガウルテリオ。
体の中心部が起き上がらないように必死で素数を数えようとするが、マリーの髪に結いこまれた宝飾品を見て数を数えるのすら危険な状態に陥ってしまった。
王宮に馬車が止まると、ガウルテリオが先に馬車を下りる。
後から下車をするマリーに手を差し出し、手が乗せられると周りの視線も感じる。
ガウルテリオ自身が滅多に夜会に出席しない事もあり、「誰だ?」と注目する者もいれば女っ気のないガウルテリオがどんな女性をエスコートしているのかと話題のネタにしようとする者、そして相手がマリーだと知っているものは没落した上に、あのウェルバーム家の人間がどんな顔でやって来たのかと侮蔑の目を向ける者も。
マリーが最後に夜会に出席をしたのはもう7年も前の事。
少女と大人の切り替わりの18歳頃のため、今のマリーを見て男性陣は口をあんぐりと開き、女性陣はギッと睨みつけたり、その装いに頬を染める者と分かれた。
「みんなが見てるな。くそっ。忌々しい」
「ウルが夜会に出席をするのが珍しいからではありませんか?」
「違う、あの目は俺を見てるんじゃない。リーを見てるんだ」
「そうでしょうか?気にし過ぎでは御座いませんか?」
フーフーと鼻息も荒くガウルテリオは周りを威嚇する。
伯爵位となれば入場時間は早く、まだ高位貴族も王族もホールにはいない。
見知った顔を探すガウルテリオだったが、一瞬警戒の気持ちが途切れた。
まだ距離はあるが、男爵家であるファルコンの姿を見つけたのだ。
「ファルコンたちの元に行こう」とマリーに声を掛けようとしたが、小さく夫人の声がその声を飲み込ませた。同時に不愉快な音がしてガウルテリオとマリーを中心に周囲の目が集まる。
「きゃぁ!」 ガシャッ。カチャン!パリン!
「申し訳ございませんっ!!」給仕が声を上げる。
振り返ってみればガウルテリオのいる反対側。マリーのドレスにウェルカムドリンクが数杯分しっかりと浴びた状態で真っ青な顔の給仕が膝を付き震えていた。
「大丈夫か?」
ガウルテリオはマリーに声を掛けたが、マリーはしゃがみ込んで給仕を立たせた。
到着したばかりのドレスは見るも無残な有り様。
別の給仕がやって来て床に割れて転がるグラスやしみ込んだドリンクを清掃し始めるが、給仕を立たせたマリーに今度は言葉が浴びせられた。
「やだ…今年のドレスの流行は一部が汚れたものだったかしら?」
「本当ですわ。流石。侯爵家から子爵家となかなか出来ない経験をされた方は違いますわね」
「わたくしには到底真似が出来ませんわ。なんて斬新なドレスなのかしらね」
クスクスと扇で口元隠し、半月形をした目を向けていたのはカテリーンとその取り巻き夫人。モール伯爵夫人となったカテリーンは男爵家などの夫人を従えて参加をしていた。
一歩前に出ようとしたガウルテリオをマリーは手で制した。
「いいのか?」
ガウルテリオはマリーにそっと耳打ちをした。
そっと扇を開いてマリーも口元に扇を寄せ、ガウルテリオに囁いた。
「今の状態では自己紹介をされておりませんので、わたくしは話す事は出来ません。中央のモール伯爵夫人が発言を促すまでは動けません」
「そう言う事か。では任せろ」
ガウルテリオも知らなかったわけではないが、貴族社会は縦社会。爵位が1つでも上ならば発言を許されるまで言葉を掛ける事は失礼に当たってしまう。
彼女たちの言葉は仲間内に話しかけたものだと言われればマリーが礼を失した事になる。連れの2人が男爵夫人だとしても伯爵夫人のカテリーンの連れなのだから、カテリーンに紹介されるか、同列若しくは上の爵位の者が来なければ話しかける事も出来ない。
ならばと伯爵位のあるガウルテリオはマリーを庇うように前に出た。
「これはモール伯爵夫人。相変わらず目を疑うような装いでいらっしゃる」
「え?‥‥あっ!貴方はあの時のっ!」
白塗りをしている顔が真っ赤になり、カテリーンは慌て始めた。
よく考えれば支払いが出来ずにガラス張りの部屋にプレートを首にかけていたのはガウルテリオたちが去った後なのだから知られていないと判るのだが、人間慌てると色々な記憶が歯抜けになってしまう。
滅多に夜会に出ないガウルテリオの事を知っているはずもなく、突然話しかけてきた事に近くを歩く給仕のトレイからグラスをブン取ると、「ばしゃっ!」直接グラスの中身をガウルテリオに引っかけた。
「平民の分際でこのような場所に。ここは貴族、爵位がある者が呼ばれているのよ?どうやって紛れ込んだのかしらね。そこのあなた!さっさとつまみ出して頂戴!」
カテリーンと共にいる夫人は夜会では見た事は無くても、下っ端騎士を夫に持っているためガウルテリオの顔は知っている。給仕を突き飛ばしマリーのドレスを汚した時は後ろ姿だったので気が付かなかったが、今はもう…気付いてしまった。
「モ、モール伯爵夫人‥‥お止めになって?ね?」
「何を仰ってるの?貴女も男爵夫人なんだからこういう時は正しい方向に物事を導かないと!」
「カテリーン様、それが…その…」
蒼白になっていく2人の子分。カテリーンはそれも気に食わず苛立った。
「あの時、私は名を名乗った筈だが?お忘れのようだ。ガウルテリオ・アージュ。申し訳ないが平民と言うご指摘に頷く事は出来ない。何故なら陛下から伯爵位という爵位を賜っているからな」
「えっ?伯爵‥‥」
カテリーンは馬鹿だが、世渡りの旨さで生き抜いてきた面がある。
上の者には媚び諂い、下の者は顎で使う。
伯爵夫人とは言っても当主は夫であり、目の前のガウルテリオも当主となれば伯爵夫人の立ち位置はそれよりも下位になり、手にしていたグラスに気が付くと「キャッ!」放り投げてしまった。
「も、申し訳ございません…勘違い、そう!勘違いなのです。隣にいる女がわたくしに無礼を働き、ついカッとなってしまいまして」
「カッとなる前から私の妻となる女性にやらかしてくれていたようだが?」
「そっそれは‥‥そうです!この男爵夫人が面白半分に給仕を突き飛ばしたのです!」
「モール伯爵夫人!酷いですわ!わたくしがやったと?‥‥違います!アージュ伯爵。わたくしは無実です。確かにモール伯爵夫人とは歓談はしておりました。それは認めます。ですが給仕を突き飛ばしたのはわたくしではありません!」
小さな騒ぎは大きくなり、二重,三重に人の輪が出来る。
中で騒いでいるのが自分の妻だと指摘をされた夫たちが人を掻き分けて輪の中心にやってきた。
「エドっ!助けて!」
縋りついてくるカテリーンだが、目の前の男は髪から雫を滴らせている。状況が飲み込めなかったが、その後ろにいるマリーを見てニヤリとほくそ笑んだ。
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