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第24話♥エドウィンとカテリーンの失態②
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「エドっ!助けて!」
縋りついてくるカテリーンだが、目の前の男は髪から雫を滴らせている。状況が飲み込めなかったが、その後ろにいるマリーを見て胸が高鳴る。
――へぇ。捨てるには惜しかったが、愛人とするには申し分ない――
ニヤリとほくそ笑んだ。
だが、エドウィンもカテリーンと同じ。平民には家名はないのにあの日の事は遥か彼方の記憶になっている。縋るカテリーンに「平民」如きがと鼻を鳴らした。
「可哀そうに。少々金があるからとこのような場に。場違いとも考えずにのこのこ出向くとは呆れ果てて物も言えない。やはり平民は教育が足りていない事が証明された。みんな!聞いてくれ。私の妻がこの平民に虐げられてこんなに震えている。この場で手打ちにしたところで問題はなかろう!」
ハッとカテリーンが顔を上げる。
――こいつ、何言ってんの?――
その目が訴えるが悦に入ったエドウィンの饒舌は止まらない。
「常々思っていたんだ。その平民男の後ろに隠れている女。今は秘書官と言う役があるようだがそもそもだ!女の分際で男と同列に扱ってもらいたいためだけに学問などするだろうか?人と変わった事をしていると目を引き、色々な男を物色するただの手段に等しいと思わないか?そんな女どもを付け上がらせる陛下の政策。これこそに問題がある。そう思わないか」
選民思想も強く、女は男より劣っているのが当たり前と思っているエドウィン。遂には政策批判まで始めてしまった。
更にざわざわし始める人だかり。その中から一人の男がエドウィンの肩を叩いた。
その場に最初からいて、事の一部始終を知る男は「そうじゃない」とエドウィンを黙らせた。
「そもそもで、君の細君が原因だよ?」
「何を言ってるんだ。カテリーンが悪いだと?」
「そうさ。君の細君が給仕を故意に突き飛ばしアージュ伯爵の連れに粗相を働いたんだ」
「伯爵?誰が?」
男は手のひらを上にして、ガウルテリオがその人だよとエドウィンに示す。
まさに青天の霹靂。エドウィンは縋るカテリーンを引き剥がした。
「本当なのか?」
「判らないけどっ!その人が伯爵なのは本当みたい…」
「いやいや、その前にお前が給仕を?」
「突き飛ばしたんじゃないわ!背中を押しただけよ」
「なら問題ないな」
――いやいや、問題しかないだろう?!――
周囲の目が2人のやり取りに驚きと言うスパイスも加わってさらに向けられる。
だがエドウィンの残念さはそこで終わるようなものではない。
爵位が同じなら男を相手にするのは分が悪いと矛先をマリーに変えた。
「水も滴るイイ男となってご満悦だろうが、その後ろにいる女。それは元々俺の婚約者だった女だ。昔は野暮ったかったが垢ぬければ見られるようになったじゃないか。ここに婚約者を探しに来るには聊か薹が立っている。まぁ、愛人としか需要はないだろう。アージュ伯爵の手を煩わせずとも俺が躾てやろう」
周囲の目は更に輪の中心に釘付けになる。
ガウルテリオがその女性とどういう関係なのか。
知っている者、知らない者。
最高の話題に心が躍ってしまう。
「その配慮は不要だ。彼女は私と結婚をするのだからな」
「結婚?!これは驚きだ。だがアージュ伯爵、見る目はあると言っておこう」
「それはどう言う意味だ」
「お飾りとしては申し分ない。見抜ける君は良い目をしていると褒めたんだ」
「お飾りだと?」
「そう、他に女がいようと文句も言わない。何かを強請る事もない。面白味には欠けるがな」
ガウルテリオはエドウィンを殴りつけたい衝動を堪える。
握った拳を震わせながら、平静を装ってエドウィンに問うた。
「だから婚約をしている間も、その女と?」
「無粋な事を。妻のカテリーンとの付き合いはその女と婚約を結ぶ前からの事だ。当時は侯爵家だったか?ははは。高位貴族である事を盾に俺との婚約を捩じ込んできたと言う訳」
ザワっと周囲がどよめく。
それに気が付かないカテリーンではない。エドウィンの袖を引っ張り余計な事を言うなと首を振るがエドウィンはカテリーンを見向きもしない。
「では婚約期間中もその女性と?まぁ結婚までしたくらいだから褒めるべき?なのかも知れんが、関心はしないな。婚約をするのは家と家との契約。通常、懇意にしている異性がいる状態で継続はあり得ないと思うが」
「だからさ。言っただろう?他に女がいようとその女は嫉妬の一つもしやしない。面白味が欠けると」
「その話、なかなか面白い。じっくり聞かせてくれないか」そう言いながら人の輪を掻き分けて、老人男性を抱えるようにやってきた男性がいた。
老人はコメカミあたりをハンカチで押さえての登場。
男性の手にはグラスが握られていた。
ヒィっと小さくカテリーンが息を飲む。
老人は爵位こそ伯爵だが、先代国王の異母弟。元王子だった。
支えているのは婿養子となった伯爵家で生まれた子息。万が一に万が一が重なり、さらに万が一となった時には王位継承権を持つ。
カテリーンが放り投げたワイングラスが落ちた先に頭があった。ワイングラスが降ってくるなど思いもしない事から避ける事も出来ず直撃したのだった。
「これは、フリスビー伯爵。どうなされた。怪我を?」
暢気にヘラヘラと味方が増えたくらいの感覚で話しかけたエドウィンだったが、周りからの声に一瞬で蒼白になった。
縋りついてくるカテリーンだが、目の前の男は髪から雫を滴らせている。状況が飲み込めなかったが、その後ろにいるマリーを見て胸が高鳴る。
――へぇ。捨てるには惜しかったが、愛人とするには申し分ない――
ニヤリとほくそ笑んだ。
だが、エドウィンもカテリーンと同じ。平民には家名はないのにあの日の事は遥か彼方の記憶になっている。縋るカテリーンに「平民」如きがと鼻を鳴らした。
「可哀そうに。少々金があるからとこのような場に。場違いとも考えずにのこのこ出向くとは呆れ果てて物も言えない。やはり平民は教育が足りていない事が証明された。みんな!聞いてくれ。私の妻がこの平民に虐げられてこんなに震えている。この場で手打ちにしたところで問題はなかろう!」
ハッとカテリーンが顔を上げる。
――こいつ、何言ってんの?――
その目が訴えるが悦に入ったエドウィンの饒舌は止まらない。
「常々思っていたんだ。その平民男の後ろに隠れている女。今は秘書官と言う役があるようだがそもそもだ!女の分際で男と同列に扱ってもらいたいためだけに学問などするだろうか?人と変わった事をしていると目を引き、色々な男を物色するただの手段に等しいと思わないか?そんな女どもを付け上がらせる陛下の政策。これこそに問題がある。そう思わないか」
選民思想も強く、女は男より劣っているのが当たり前と思っているエドウィン。遂には政策批判まで始めてしまった。
更にざわざわし始める人だかり。その中から一人の男がエドウィンの肩を叩いた。
その場に最初からいて、事の一部始終を知る男は「そうじゃない」とエドウィンを黙らせた。
「そもそもで、君の細君が原因だよ?」
「何を言ってるんだ。カテリーンが悪いだと?」
「そうさ。君の細君が給仕を故意に突き飛ばしアージュ伯爵の連れに粗相を働いたんだ」
「伯爵?誰が?」
男は手のひらを上にして、ガウルテリオがその人だよとエドウィンに示す。
まさに青天の霹靂。エドウィンは縋るカテリーンを引き剥がした。
「本当なのか?」
「判らないけどっ!その人が伯爵なのは本当みたい…」
「いやいや、その前にお前が給仕を?」
「突き飛ばしたんじゃないわ!背中を押しただけよ」
「なら問題ないな」
――いやいや、問題しかないだろう?!――
周囲の目が2人のやり取りに驚きと言うスパイスも加わってさらに向けられる。
だがエドウィンの残念さはそこで終わるようなものではない。
爵位が同じなら男を相手にするのは分が悪いと矛先をマリーに変えた。
「水も滴るイイ男となってご満悦だろうが、その後ろにいる女。それは元々俺の婚約者だった女だ。昔は野暮ったかったが垢ぬければ見られるようになったじゃないか。ここに婚約者を探しに来るには聊か薹が立っている。まぁ、愛人としか需要はないだろう。アージュ伯爵の手を煩わせずとも俺が躾てやろう」
周囲の目は更に輪の中心に釘付けになる。
ガウルテリオがその女性とどういう関係なのか。
知っている者、知らない者。
最高の話題に心が躍ってしまう。
「その配慮は不要だ。彼女は私と結婚をするのだからな」
「結婚?!これは驚きだ。だがアージュ伯爵、見る目はあると言っておこう」
「それはどう言う意味だ」
「お飾りとしては申し分ない。見抜ける君は良い目をしていると褒めたんだ」
「お飾りだと?」
「そう、他に女がいようと文句も言わない。何かを強請る事もない。面白味には欠けるがな」
ガウルテリオはエドウィンを殴りつけたい衝動を堪える。
握った拳を震わせながら、平静を装ってエドウィンに問うた。
「だから婚約をしている間も、その女と?」
「無粋な事を。妻のカテリーンとの付き合いはその女と婚約を結ぶ前からの事だ。当時は侯爵家だったか?ははは。高位貴族である事を盾に俺との婚約を捩じ込んできたと言う訳」
ザワっと周囲がどよめく。
それに気が付かないカテリーンではない。エドウィンの袖を引っ張り余計な事を言うなと首を振るがエドウィンはカテリーンを見向きもしない。
「では婚約期間中もその女性と?まぁ結婚までしたくらいだから褒めるべき?なのかも知れんが、関心はしないな。婚約をするのは家と家との契約。通常、懇意にしている異性がいる状態で継続はあり得ないと思うが」
「だからさ。言っただろう?他に女がいようとその女は嫉妬の一つもしやしない。面白味が欠けると」
「その話、なかなか面白い。じっくり聞かせてくれないか」そう言いながら人の輪を掻き分けて、老人男性を抱えるようにやってきた男性がいた。
老人はコメカミあたりをハンカチで押さえての登場。
男性の手にはグラスが握られていた。
ヒィっと小さくカテリーンが息を飲む。
老人は爵位こそ伯爵だが、先代国王の異母弟。元王子だった。
支えているのは婿養子となった伯爵家で生まれた子息。万が一に万が一が重なり、さらに万が一となった時には王位継承権を持つ。
カテリーンが放り投げたワイングラスが落ちた先に頭があった。ワイングラスが降ってくるなど思いもしない事から避ける事も出来ず直撃したのだった。
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