ある日王女になって嫁いだのですが、妾らしいです

cyaru

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第03話   王都から近衛騎士、来る!

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「ふぅ~やっと終わった。出来たぁ!」

家の裏手で「湯あみ用人間桶」を製作中だったメリル。
村の人たちは夏場は川で水を浴びたり、冬は桶に入れた湯で体を清拭するだけだが、この家にはハンザお手製の人間が湯の中に浸かる大きな桶があった。

しかし「ないよりまし」な木の板に囲まれているだけで吹曝しに近かったため痛みもあった。ハンザが生きている時は補修をしてくれていたのだが、メリルはハンザを思い出し見様見真似で板を打ち付けて補修はした。

でも、この頃は湯を入れても板の隙間からぴゅーぴゅ―と水が噴き出して頑張ってもひざ下くらいしか湯が張れない。なので新しく製作中だったのである。

「さて、湯の前に水を入れてみようかな」

裏口を見て取れてしまったドアノブ部分に打ち付けた木の板も虫が食ってしまったのか穴だらけ。

「ここも直さなきゃね~。でも先に湯あみ!今日は湯あみよ~」

メリルは桶を手に表に回る。

すぐそこにはジョンが置いて行ってくれた野菜の入った籠が見えたが、玄関まわりは水浸し。日当たりもあまり良くない事から朝、井戸から汲んだ水をキッチンの水瓶に運んだ証がまだ消えていなかった。

「どうやっても零れるのよね。道理でキッチン周りはちょっと床が下がってるはずだわ」

野菜の籠に手を伸ばそうとした時、ドドドと足元から響く音にメリルは後ろを振り返った。

「何?なんなの?」

驚くのも無理はない。そこにはメリルの背丈よりも高い位置に背がある馬に騎乗した兵士の集団がいたからである。

1人の兵士が馬の背に跨ったままメリルに問う。

「女!ハンザ殿の住まいはここで間違いないかッ」

イラっとして、ムカッとして、コンニャロ!と思う事はいけないことだろうか。
メリルは決して短気ではないほうだと自負しているが、こめかみのあたりがギチギチと血管を膨張させている音が聞こえる。

「どちら様?人にモノを訪ねる時の態度がソレなの!」

リンダは言っていた。

『いいですか。メリル。何かを訪ねる、それは知らない事を教えてもらうという事です』
『知らないから聞くんでしょう?知ってたら聞かないもん』
『そうよ。だからそんな時に上から物を言うような言動はしてはなりません』

教えを忠実に守り、当時4歳のメリルは土に穴を掘ってアリと目線を合わせ『アリさん、どこ行くの?』・・・ハンザがメリルの体を持ち上げ『違う!違う!そういう事じゃない』と言ったのは言うまでもない。


しかし兵士は薄ら笑いを浮かべて「下女の癖に。聞かれた事に答えよ」と馬から降りる素振りもない。

手にした桶を投げつけてやりたいが今、家で使える桶は持っている桶とあと1つ。それも指の当て方に工夫をしないと底に空いた穴から水が漏れてしまうもの。なので投げつけることは出来ない。

「ハンザは亡くなったわ。3年前にね。リンダも8年前に亡くなったわ。ここには私しかいない。これでいい?こう見えて忙しいの」

「ま、まさか…」

「嘘じゃないわよ。名前は刻めなかったけど村はずれにある墓地に埋葬したわ。墓地にはフォンスさんという神父さんも兼ねた墓守がいるから聞いてみればいいわ」

「で、では・・・」

声を掛けてきた兵士は馬から降りると、メリルに向かって歩き「失礼を承知でお聞きする」前置きをした。

「貴女はもしやメリル様?」
「もしやも鍛冶屋もないわ。生まれた時からメリルよ」


ガチャガチャガチャ!!金属製の甲冑が音を立てて、中には馬から降りる際に落ちたのかドザっと鈍い音もする。

ザザッと音を立ててさっきまで騎乗で見下ろしていた兵士たちが一斉に片膝をついてメリルの前に伏せた。

――なっ!なんなのぉぉ?!――

「メリル王女殿下。私は近衛騎士団、団長を務めるマイケル・ジュイブ。知らなかったとは言え王女殿下に対しあるまじき言動の数々。責はここに居並ぶ一同の命を以て償わせて頂きます」

「命っ?!そんな事してもらわなくていいですしっ!王女殿下って誰のことっ?!」

「我々はシュルタス国王陛下のめいにより遣われた者。長きに渡りこのような辺鄙な地に王女殿下を捨て置いた事、陛下は心を痛めておられます」

「いえいえ、陛下の御事情は勝手にどうぞなんですけど、王女殿下って?!」

メリルは困惑してしまった。
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