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第16話 砦に向かう辺境伯
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あと峠を2つ超えれば辺境の街。
しかしここからが難所で1つの峠を越えるのに数日はかかる。
寒さも厳しくなってきた事から予定を更に早めて夜も進み、4日を3日にと休憩が数回減らすこと。馬だけでなく兵士たちは全員が荷馬車を降りて馬車を押したり引いたりして馬の負担を軽減することが決定された。
昼食後に伝令兵が辺境伯の言葉を伝えると兵士たちが一斉に動き出した。
「私も降りて馬車を押したほうがいいかしら」
「やめとけ。余計に手間がかかる」
「失礼ね!こう見えてもぬかるみに嵌った荷馬車を押したりしてたわ!」
「そういうのはしなくていいんだよ!」
「手が痛くなるだろう」と続けたかったがシュバイツァーは言葉を飲み込んでメリルを馬車に押し込んだ。人の力も加わってそれまでよりも小窓から見える景色の流れるスピードは速い。
気安く話も出来るようになったのだが、シュバイツァーは時々急に不機嫌になる事がある。今だってそうだ。メリルがやると言えば「邪魔になるなよ」と言いながらも野営の手伝いはさせてくれたのに、この頃は野営で洗い物をしていると別の兵士に交代をさせられてしまう。
今朝の朝食の時も・・・。
「なんか・・・モーセットに入って機嫌良くね?」
「そう?そうかなぁ」
「なんか面白い物でも見つけたとか?」
「全然?あっ!でも昨日野営したところで変わったキノコを見つけたわ」
「イロトリドリ?見る角度によって色が違うキノコ?」
「そう!それ。毒キノコらしくて触っちゃダメって言われちゃった」
と、言っただけなのに・・・。
「なんでそんな事言われてんだよ!」
「なんで怒ってるの?」
「怒ってねぇよ!」
と、シュバイツァーは怒りだしてしまう。
大人しく馬車に乗っていても、話しかけて来る兵士と小窓を開けて会話をしていると・・・。
「こんな所で風邪なんか引かれたらたまったもんじゃない!」
と強制的に会話は打ち切りになり、窓も閉められてしまう。
馬車の旅は長い。ずっと揺られていると体が痛くなってしまうものだが、シュバイツァーは輿入れ道具の1つ、衣類箱を開けてメリルの座面に敷き詰めた。
確かに柔らかくはなったのだが・・・。
「これ、ドレスよ?」
「いいんだよ。体が痛くなるよりマシだろう」
「そうだけど、我慢でき――」
「我慢なんかしてんじゃねぇよ。痛いときは痛いって言え!ドレスなんか腐るほど買ってやるよ!布切れだと思っとけばいい」
と、これまた怒り出してしまう。
兵士たちがメリルの事を「メェちゃん」と呼んだ時は突然その兵士の胸ぐらをつかみあげて「相手しろ」と打ち合い稽古を始めてしまった。
「もう!いったい何なの?」
お飾りの妻となったとしても、兵士たちとは交流もあった方が良いと思っていたのだが、シュバイツァーの干渉は日に日に強くなってしまって、最後の峠を越える日はメリルは馬車から下ろしてももらえず、食事も運ばれてくる始末。
そこにシュバイツァーの父親でもある辺境伯が来て話をしようとしたら「乗るな!」と一喝。辺境伯が「やれやれ。妬くのは魚にしとけばいいのに」と苦笑いをするがメリルには意味が解らなかった。
ようやく先頭が峠を越えて、後続を待っている時だった。
「伝令ーッ!伝令ーッ!」
2頭の馬に騎乗した兵士が声をあげ、隊列に向かって来たのだった。
「何かあったみたいだ。行ってくる。絶対に馬車を降りるなよ!窓も開けるな!」
「はいはい。わかりましたー」
何を会話するでもなく、向かい合って停車した馬車に乗っているだけ。
メリルをじぃぃっと見たかと思えば、目が合うと顔を逸らしたり目を閉じて寝たふりをしていたシュバイツァーだったが、緊急を知らせる声に顔つきも変わって、メリルに釘をさすと飛び出していった。
「何かあったのかなぁ」
小窓を開けたいがまたシュバイツァーが不機嫌になると面倒だし、馬車を降りてしまうと文句タラタラ。メリルは小窓に頬をぺたっとつけて兵士が走っていく方向をみた。
「ハーゼスの砦にクルキネス軍が攻撃を仕掛けてきましたっ」
「砦は?」
「現在防戦。敵数2万と見ております。ここからのご指示を!」
クルキネス王国は好戦的な国で国境線の位置が度々変わる。
辺境伯がブートレイア王国に向かえば、短くても4、5カ月は主が不在となる。
そのため辺境伯の隊列はブートレイア王国までの往路をなんと1か月で走り抜けた。復路はメリルもいて荷物もあるが、天候を考えず75日と言われていたのに今日で61日目。かなり短縮をした。
それだけ主が不在であるという事は危険だという事でもある。
砦を守る兵士も命令があるまでは防戦で耐える。そこから反撃をするのか、籠城のように籠るのか。指示は全て辺境伯が出すのである。
「2万か。砦は450人だったな。判った。近場の砦は現状維持。中距離にある砦の兵を向かわせよ。本軍もハーゼスに向かう」
「御意」
伝令兵たちが命令を伝えるために次々に馬に跨り、駆けて行く。
そんな中、メリルの馬車に辺境伯がやって来た。
「すまないね。屋敷までは半日もあれば到着する。ここからは平たんな道だから馬の数を減らしても問題はない」
「そうなんですか。私は構いませんが・・・」
「数日でケリは付くが、私とシュバイツァーも向かわねばならない。屋敷の者にはもうこの位置まで来ている事は伝わっているから迎え入れる準備も終わっているはずだ。自分の家のように寛いでくれて構わない」
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせて頂きます」
急を要するのか用件を伝えると辺境伯は兵士たちを砦に向かわせるものと、屋敷に向かわせるものに分け始めた。
「そっか・・・辺境伯なんだから・・・そうよね」
不安と言えば不安だが、今は言われたように動くしかない。
辺境伯の声がどんどん小さくなってくると、こんどはシュバイツァーが馬車の扉を叩いた。
「砦に行くとさっき聞いたんだけど」
「あぁ。でもすぐに戻る。戻ったら言いたいことがあるんだ」
「今じゃなくて?」
「今は・・・ここに・・・ないから」
「判りました。先にお屋敷に行くようにと言われてるから待つようにします」
「勝手も判らないだろうし、屋敷にいる者の言うようにしてればいい」
それだけ言うとシュバイツァーも以前に乗せてくれた馬に颯爽と跨り、「じゃ」と言葉を残して駆けて行ってしまった。
しかしここからが難所で1つの峠を越えるのに数日はかかる。
寒さも厳しくなってきた事から予定を更に早めて夜も進み、4日を3日にと休憩が数回減らすこと。馬だけでなく兵士たちは全員が荷馬車を降りて馬車を押したり引いたりして馬の負担を軽減することが決定された。
昼食後に伝令兵が辺境伯の言葉を伝えると兵士たちが一斉に動き出した。
「私も降りて馬車を押したほうがいいかしら」
「やめとけ。余計に手間がかかる」
「失礼ね!こう見えてもぬかるみに嵌った荷馬車を押したりしてたわ!」
「そういうのはしなくていいんだよ!」
「手が痛くなるだろう」と続けたかったがシュバイツァーは言葉を飲み込んでメリルを馬車に押し込んだ。人の力も加わってそれまでよりも小窓から見える景色の流れるスピードは速い。
気安く話も出来るようになったのだが、シュバイツァーは時々急に不機嫌になる事がある。今だってそうだ。メリルがやると言えば「邪魔になるなよ」と言いながらも野営の手伝いはさせてくれたのに、この頃は野営で洗い物をしていると別の兵士に交代をさせられてしまう。
今朝の朝食の時も・・・。
「なんか・・・モーセットに入って機嫌良くね?」
「そう?そうかなぁ」
「なんか面白い物でも見つけたとか?」
「全然?あっ!でも昨日野営したところで変わったキノコを見つけたわ」
「イロトリドリ?見る角度によって色が違うキノコ?」
「そう!それ。毒キノコらしくて触っちゃダメって言われちゃった」
と、言っただけなのに・・・。
「なんでそんな事言われてんだよ!」
「なんで怒ってるの?」
「怒ってねぇよ!」
と、シュバイツァーは怒りだしてしまう。
大人しく馬車に乗っていても、話しかけて来る兵士と小窓を開けて会話をしていると・・・。
「こんな所で風邪なんか引かれたらたまったもんじゃない!」
と強制的に会話は打ち切りになり、窓も閉められてしまう。
馬車の旅は長い。ずっと揺られていると体が痛くなってしまうものだが、シュバイツァーは輿入れ道具の1つ、衣類箱を開けてメリルの座面に敷き詰めた。
確かに柔らかくはなったのだが・・・。
「これ、ドレスよ?」
「いいんだよ。体が痛くなるよりマシだろう」
「そうだけど、我慢でき――」
「我慢なんかしてんじゃねぇよ。痛いときは痛いって言え!ドレスなんか腐るほど買ってやるよ!布切れだと思っとけばいい」
と、これまた怒り出してしまう。
兵士たちがメリルの事を「メェちゃん」と呼んだ時は突然その兵士の胸ぐらをつかみあげて「相手しろ」と打ち合い稽古を始めてしまった。
「もう!いったい何なの?」
お飾りの妻となったとしても、兵士たちとは交流もあった方が良いと思っていたのだが、シュバイツァーの干渉は日に日に強くなってしまって、最後の峠を越える日はメリルは馬車から下ろしてももらえず、食事も運ばれてくる始末。
そこにシュバイツァーの父親でもある辺境伯が来て話をしようとしたら「乗るな!」と一喝。辺境伯が「やれやれ。妬くのは魚にしとけばいいのに」と苦笑いをするがメリルには意味が解らなかった。
ようやく先頭が峠を越えて、後続を待っている時だった。
「伝令ーッ!伝令ーッ!」
2頭の馬に騎乗した兵士が声をあげ、隊列に向かって来たのだった。
「何かあったみたいだ。行ってくる。絶対に馬車を降りるなよ!窓も開けるな!」
「はいはい。わかりましたー」
何を会話するでもなく、向かい合って停車した馬車に乗っているだけ。
メリルをじぃぃっと見たかと思えば、目が合うと顔を逸らしたり目を閉じて寝たふりをしていたシュバイツァーだったが、緊急を知らせる声に顔つきも変わって、メリルに釘をさすと飛び出していった。
「何かあったのかなぁ」
小窓を開けたいがまたシュバイツァーが不機嫌になると面倒だし、馬車を降りてしまうと文句タラタラ。メリルは小窓に頬をぺたっとつけて兵士が走っていく方向をみた。
「ハーゼスの砦にクルキネス軍が攻撃を仕掛けてきましたっ」
「砦は?」
「現在防戦。敵数2万と見ております。ここからのご指示を!」
クルキネス王国は好戦的な国で国境線の位置が度々変わる。
辺境伯がブートレイア王国に向かえば、短くても4、5カ月は主が不在となる。
そのため辺境伯の隊列はブートレイア王国までの往路をなんと1か月で走り抜けた。復路はメリルもいて荷物もあるが、天候を考えず75日と言われていたのに今日で61日目。かなり短縮をした。
それだけ主が不在であるという事は危険だという事でもある。
砦を守る兵士も命令があるまでは防戦で耐える。そこから反撃をするのか、籠城のように籠るのか。指示は全て辺境伯が出すのである。
「2万か。砦は450人だったな。判った。近場の砦は現状維持。中距離にある砦の兵を向かわせよ。本軍もハーゼスに向かう」
「御意」
伝令兵たちが命令を伝えるために次々に馬に跨り、駆けて行く。
そんな中、メリルの馬車に辺境伯がやって来た。
「すまないね。屋敷までは半日もあれば到着する。ここからは平たんな道だから馬の数を減らしても問題はない」
「そうなんですか。私は構いませんが・・・」
「数日でケリは付くが、私とシュバイツァーも向かわねばならない。屋敷の者にはもうこの位置まで来ている事は伝わっているから迎え入れる準備も終わっているはずだ。自分の家のように寛いでくれて構わない」
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせて頂きます」
急を要するのか用件を伝えると辺境伯は兵士たちを砦に向かわせるものと、屋敷に向かわせるものに分け始めた。
「そっか・・・辺境伯なんだから・・・そうよね」
不安と言えば不安だが、今は言われたように動くしかない。
辺境伯の声がどんどん小さくなってくると、こんどはシュバイツァーが馬車の扉を叩いた。
「砦に行くとさっき聞いたんだけど」
「あぁ。でもすぐに戻る。戻ったら言いたいことがあるんだ」
「今じゃなくて?」
「今は・・・ここに・・・ないから」
「判りました。先にお屋敷に行くようにと言われてるから待つようにします」
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