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第17話 「い」が抜けてた?
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辺境伯とシュバイツァー、そして本軍と呼ばれる兵士たちが駆けて行ったあと、後続を待って停車していたメリルの乗った馬車もゆっくりと動き出した。
平坦な道と行っても荷を引く馬3頭が2頭になり、荷馬車を押す兵士も5人が2、3人になれば負担も大きい。先ずはメリルの馬車と数台の馬車を屋敷に。その後折り返して馬と人を増やし数台の荷馬車を順に向かわせるため兵士が動きだす。
――こんな荷物が無ければ人も馬も負担はないのになぁ――
感覚はあくまでも平民のメリル。
これでも一国の王女の輿入れ。国の見栄もある。
過去には隊列が数キロになった王女もいるので少ない方。
「偉い人の考えてる事はわからないわね」
馬車の中で独り言ちるメリル。
どんどんと屋敷に近づいて大きな外門をくぐった。
窓越しに騎乗して並走する兵士が声を掛けた。
「間もなく到着致します。屋敷には第5王子殿下の細君、フェデリカ様とそのご息女カレドア様がいらっしゃり到着を待っているとの事です」
「判りました。私は何をすればよいでしょう」
「主からは国が違えば勝手も違う。今日明日で合わせようと気負う必要はないので寛いで頂くようにと。詳細はフェデリカ様が伺っておられるかと」
「そうなんですね。お気遣いいただきありがとうございます」
そうは言われても、言葉通りに行動する事も出来るはずがない。
田舎の村娘経験16年のメリルでも世の中には「本音と建て前」がある事は判る。
ただ、辺境伯もシュバイツァーもさっきの兵士も共通しているのは「屋敷の者の指示に従え」という事なので、出来るだけ粗相のないようにしようとメリルは考えたのだった。
辺境伯の雰囲気が柔らかかったので、気を抜いていた部分があったのは否めない。
馬車の扉が開かれ、兵士に手を借りて足を地面に落とすと口元を扇で隠した女性が2人近づいて来た。メリルでも解る歓迎の空気は一切ない。
その後ろに控える使用人達も表情がなく、誰一人メリルを見ていなかった。
――うわぁ。これはちょっとキツいかも?――
メリルは警戒をした。
表情に出てしまったのかフェデリカは更に1歩近寄って来た。
「そなたが、ブートレイア王国から来た王女かぇ?」
「はい、ご挨拶が遅れました。メリル・ブートレ――」
「名など不要。うっかり名乗られてはあとあと面倒な事にもなろうしな?」
「え…はぃ・・・そうなのですね。失礼いたしました」
キツい物言いのフェデリカだったが、その隣にカレドアが大きめの腹を撫でながら並んだ。
「他人の夫となる男を国を盾に奪い取ろうとする泥棒猫の名前など。恥も外聞もないとはまさにブートレイア王国の王女なだけあるわね」
「泥棒?!あ、あの・・・この結婚は国同士の――」
「そう、国同士の政略によるもの。だからと言って男と女の気持ちまで奪い取れると思わぬよう。カレドアの腹には間もなく生まれるシュバイツァーの子もおる。何と言われてここに来たのか。どうせ正妻の座につき、モーセットをその手にと思ぅたのだろうが・・・残念じゃの?そなたは妾、解るかぇ?妾じゃ。書面上だけの妻で扱いは妾ということじゃ」
「妾・・・」
「残念だったわね?解った?貴女の事は妾とするとシュバイツァーも約束をしてくれたの。何も聞いてないの?」
何も聞いてないのかと言われてメリルはシュバイツァーの言葉を思い出した。
【戻ったら言いたいことがある】その時に、今ではダメなのかと問えば【今はここにない】と言ったが、慌てていた時だったし、外の風も強かった。
――「ここにない」じゃなくて「ここにいない」だったんだわ――
ハッと何かに気が付いたメリルは考えた。
シュバイツァーには女性がいたことは会話で知っている。
国と国との約束があるからどうしても自分をモーセット国内に引き込む必要がモーセット王国にあったんだ!だから同行者の数を!!こういう事だったのね。
あれ?そうなると「お飾り妻すら実はする必要がない?」って事かしら?
そうよね、そうよね。だって妾なんだもの。お飾りでも何でもないわ。
「うーん…うん?うーん…」1人悩みだしたメリルにフェデリカとカレドアは顔を見合わせた。
「判りました!では妾らしく大人しく国に帰る・・・というのは無理なんですよね?」
「国にっ?!ここから1人で帰るというのっ?!」
カレドアが叫ぶような声をあげるが、メリルは顎に手を添え、さもありなん。
「そうですよね。建前として国の政略もありますし帰っちゃうと不味いですよね。どうすればいいでしょう?」
「あ、貴女ね!自分の立場が判ってる?あぁもういいわ!これっ!妾にはお似合いの小屋!小屋を用意してあげたわ!感謝しなさいッ」
カレドアはメリルに紙に簡単に書いた地図を差し出した。
その地図を受け取ると、メリルはまた思い出した。
辺境伯もシュバイツァーも兵士も言った「屋敷にいる者の言う事を聞いておけばいい」という言葉。
「はい!判りました。長い道中でしたしこれ以上兵士の皆さんの負担になるのもどうかと思います。私は馬車移動でしたので疲れもあまりありませんし、歩く事には自信もあります。地図もありますし、こちらに向かいます」
「は?歩いていくというの?供も連れずに?!正気?!」
「えぇ。先程も言ったように皆さんお疲れなので。地図もありますし行けます」
村でも村人のお使いで何度か山を越えて隣の領に行った事もある。
貧しい村では持ちつ持たれつ。行った事のない所にいくというワクワクもあってメリルは引き受ける事も多々あった。
輿入れ道具はまだ全てが到着していないけれど、「小屋」なら全部は入りきらないだろうしこの先の生活費として換金してもらえれば金銭的な負担も辺境伯家にかける事もない。
「すみません。その馬車の屋根に括りつけて置いたトランクはどちらに?」
呆気にとられるフェデリカとカレドアに背を向けると、順に到着する荷馬車から荷を下ろしている兵士にメリルは声を掛け、「そこに置きました」と指差すトランクに駆け寄った。
城のメイド達が「捨てますか?」と言ったのだが、メリルが稼いだ僅かな金で買った衣類や、リンダの服を手直しした服が入っていて捨てられず、ここまで持って来てしまったのだ。
「では、こちらに向かいます。ご丁寧にありがとうございました」
メリルはフェデリカとカレドアにペコリと頭を下げ、くるりと踵を返した。
平坦な道と行っても荷を引く馬3頭が2頭になり、荷馬車を押す兵士も5人が2、3人になれば負担も大きい。先ずはメリルの馬車と数台の馬車を屋敷に。その後折り返して馬と人を増やし数台の荷馬車を順に向かわせるため兵士が動きだす。
――こんな荷物が無ければ人も馬も負担はないのになぁ――
感覚はあくまでも平民のメリル。
これでも一国の王女の輿入れ。国の見栄もある。
過去には隊列が数キロになった王女もいるので少ない方。
「偉い人の考えてる事はわからないわね」
馬車の中で独り言ちるメリル。
どんどんと屋敷に近づいて大きな外門をくぐった。
窓越しに騎乗して並走する兵士が声を掛けた。
「間もなく到着致します。屋敷には第5王子殿下の細君、フェデリカ様とそのご息女カレドア様がいらっしゃり到着を待っているとの事です」
「判りました。私は何をすればよいでしょう」
「主からは国が違えば勝手も違う。今日明日で合わせようと気負う必要はないので寛いで頂くようにと。詳細はフェデリカ様が伺っておられるかと」
「そうなんですね。お気遣いいただきありがとうございます」
そうは言われても、言葉通りに行動する事も出来るはずがない。
田舎の村娘経験16年のメリルでも世の中には「本音と建て前」がある事は判る。
ただ、辺境伯もシュバイツァーもさっきの兵士も共通しているのは「屋敷の者の指示に従え」という事なので、出来るだけ粗相のないようにしようとメリルは考えたのだった。
辺境伯の雰囲気が柔らかかったので、気を抜いていた部分があったのは否めない。
馬車の扉が開かれ、兵士に手を借りて足を地面に落とすと口元を扇で隠した女性が2人近づいて来た。メリルでも解る歓迎の空気は一切ない。
その後ろに控える使用人達も表情がなく、誰一人メリルを見ていなかった。
――うわぁ。これはちょっとキツいかも?――
メリルは警戒をした。
表情に出てしまったのかフェデリカは更に1歩近寄って来た。
「そなたが、ブートレイア王国から来た王女かぇ?」
「はい、ご挨拶が遅れました。メリル・ブートレ――」
「名など不要。うっかり名乗られてはあとあと面倒な事にもなろうしな?」
「え…はぃ・・・そうなのですね。失礼いたしました」
キツい物言いのフェデリカだったが、その隣にカレドアが大きめの腹を撫でながら並んだ。
「他人の夫となる男を国を盾に奪い取ろうとする泥棒猫の名前など。恥も外聞もないとはまさにブートレイア王国の王女なだけあるわね」
「泥棒?!あ、あの・・・この結婚は国同士の――」
「そう、国同士の政略によるもの。だからと言って男と女の気持ちまで奪い取れると思わぬよう。カレドアの腹には間もなく生まれるシュバイツァーの子もおる。何と言われてここに来たのか。どうせ正妻の座につき、モーセットをその手にと思ぅたのだろうが・・・残念じゃの?そなたは妾、解るかぇ?妾じゃ。書面上だけの妻で扱いは妾ということじゃ」
「妾・・・」
「残念だったわね?解った?貴女の事は妾とするとシュバイツァーも約束をしてくれたの。何も聞いてないの?」
何も聞いてないのかと言われてメリルはシュバイツァーの言葉を思い出した。
【戻ったら言いたいことがある】その時に、今ではダメなのかと問えば【今はここにない】と言ったが、慌てていた時だったし、外の風も強かった。
――「ここにない」じゃなくて「ここにいない」だったんだわ――
ハッと何かに気が付いたメリルは考えた。
シュバイツァーには女性がいたことは会話で知っている。
国と国との約束があるからどうしても自分をモーセット国内に引き込む必要がモーセット王国にあったんだ!だから同行者の数を!!こういう事だったのね。
あれ?そうなると「お飾り妻すら実はする必要がない?」って事かしら?
そうよね、そうよね。だって妾なんだもの。お飾りでも何でもないわ。
「うーん…うん?うーん…」1人悩みだしたメリルにフェデリカとカレドアは顔を見合わせた。
「判りました!では妾らしく大人しく国に帰る・・・というのは無理なんですよね?」
「国にっ?!ここから1人で帰るというのっ?!」
カレドアが叫ぶような声をあげるが、メリルは顎に手を添え、さもありなん。
「そうですよね。建前として国の政略もありますし帰っちゃうと不味いですよね。どうすればいいでしょう?」
「あ、貴女ね!自分の立場が判ってる?あぁもういいわ!これっ!妾にはお似合いの小屋!小屋を用意してあげたわ!感謝しなさいッ」
カレドアはメリルに紙に簡単に書いた地図を差し出した。
その地図を受け取ると、メリルはまた思い出した。
辺境伯もシュバイツァーも兵士も言った「屋敷にいる者の言う事を聞いておけばいい」という言葉。
「はい!判りました。長い道中でしたしこれ以上兵士の皆さんの負担になるのもどうかと思います。私は馬車移動でしたので疲れもあまりありませんし、歩く事には自信もあります。地図もありますし、こちらに向かいます」
「は?歩いていくというの?供も連れずに?!正気?!」
「えぇ。先程も言ったように皆さんお疲れなので。地図もありますし行けます」
村でも村人のお使いで何度か山を越えて隣の領に行った事もある。
貧しい村では持ちつ持たれつ。行った事のない所にいくというワクワクもあってメリルは引き受ける事も多々あった。
輿入れ道具はまだ全てが到着していないけれど、「小屋」なら全部は入りきらないだろうしこの先の生活費として換金してもらえれば金銭的な負担も辺境伯家にかける事もない。
「すみません。その馬車の屋根に括りつけて置いたトランクはどちらに?」
呆気にとられるフェデリカとカレドアに背を向けると、順に到着する荷馬車から荷を下ろしている兵士にメリルは声を掛け、「そこに置きました」と指差すトランクに駆け寄った。
城のメイド達が「捨てますか?」と言ったのだが、メリルが稼いだ僅かな金で買った衣類や、リンダの服を手直しした服が入っていて捨てられず、ここまで持って来てしまったのだ。
「では、こちらに向かいます。ご丁寧にありがとうございました」
メリルはフェデリカとカレドアにペコリと頭を下げ、くるりと踵を返した。
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