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第35話   フラー犬も食べません★最終話

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「騙したわね」

メリルはギロリとシュバイツァーを睨むが効き目は薄い。

「騙してなんかいないぞ。使用人達が会いたがっていたのは本当だし、リルも湯殿で楽しそうだったじゃないか」
「そうだけど・・・なんだか手のひらで踊らされてる気がするわ」
「そんな事する訳がねぇだろ。踊ってるのは俺だっての。ほら、もう着くぞ」


辺境伯の本宅に到着すれば玄関にはあの日よりもほっそりとしたフェデリカ。カレドアはまだ産後1か月少しなので夫がメリルに深々と頭を下げていた。

「バルから話は聞いているが・・・本当に良いのか?処罰は望まないと聞いたが遠慮など要らないんだよ?今回の件ではブートレイア王国へも事実は伝えようと思っているんだ。失態を隠すのは後々に前例を作る事にもなるからね」

相変わらず優しい物言いで気遣いをしてくれる辺境伯なのだが、メリルは「おや?」とシュバイツァーの顔を見た。唇に指をそっと触れるか触れないか。

「父には言ってない事もある」という仕草だった。

――あ。田舎育ちだったって事は言ってないんだ――

今回の事はフェデリカ、カレドアのした事は許されるものではない。

通り一遍に事を片付けるのなら2人や関係者を処罰しブートレイア王国に侘びを入れるのが筋。しかし婚姻に際し、ブートレイア王国はモーセットに明かしていない事実がある。

ブートレイア王国の報告とは違う生き方をしてきたメリル。
シュバイツァーはメリルから出自の話を聞いてしまった。

国としてモノを言うならその事をモーセットのカードとして切る事になる。

メリルの知らない事実はまだある筈だが、何故メリルが知らないのかとなればブートレイア王国としては隠さねばならない事実だからとしか考えられなくなる。

そんな秘密が暴かれても話をするのは国と国。
一番傷つくであろう当事者は蚊帳の外の泥沼試合が始まるだけ。

シュバイツァーは藪をつついて蛇を出す事はしたくなかった。



シュバイツァーは辺境伯にメリルの「引き換え条件」を伝えた。

「父上、メリルは叔母上たちや今回の事に関係する者の処罰は望んでいません。ですが統治者として無かった事にするのも出来ないのは理解が出来る。今回の事は”個人”としてした事が”国”の問題になった事・・・いやしようとしているところです。幸い無事だっかたらという結果論であるのも否めません。が、無事だったからこそ本人の意向を第一に考えて頂きたい。言うなればメリルと叔母上の示談にしてくれという事です。国として腹の探り合いが拗れ、臓物の引き出し合いになって誰が得をしますか」

「示談か・・・そうなった時に何を望むんだ」

「現在住まいとしている家に多少手を入れて頂く事と住まう許可です」

「あの人形師の小屋をか・・・しかしここからは距離もあるし遠いぞ。手を入れる事も住まう事も構わないがそれではあまりにも罰が軽すぎる」

「そこで、です。アルバンが仕入れていた薬。あれはメリルが作っていたんです。薬の効能は父上もご存じかと。あの森でメリルだからこそ作れた薬です」

「あの薬・・・そうかメェちゃんというのはメリル殿の事だったか」

「罪が軽い。だとすれば加えて薬師として生業となるよう投資をして頂きたい」

「策士気取りの小童が…ハハハ。まぁいいだろう。2人で話が出来ているならこれ以上は野暮というものだ。相判った。フェデリカ良いな?」

フェデリカはカーテシーではなく臣下としての礼をメリルに向けた。

「全て仰せのままに」


辺境伯にもシュバイツァーが何か秘密を知ったのだろうということくらいは読める。それはおそらくメリルの矜持に関わる事で問い詰めても絶対に口を割らないであろうことも。

この先問題が起きた時に全てを自分が被るつもりでメリルの盾になっているのなら様子見をしてもいいか・・・と考えた。

シュバイツァーは痛いところを突く。
国と国との拗れた話の原因が個人でもその個人には確かに何の救済も無く、ただ公の場で何もかも丸裸にされるだけの末路である現実。

加害者に罰は与えられても被害者にはなにもない。
それが問題なのだと辺境伯に宿題まで投げつけた。



「それからこれは俺の個人的な事なんだが・・・俺は妾も愛人も持つつもりは無い。冗談だったとしても!叔母上、妾扱いとの発言は撤回してくれ」

冗談であっても信じる者はいるし、何よりフェデリカの口から大勢の前で謝罪をさせる事でメリルの立ち位置はフェデリカより上なのか、下なのか明確にする必要もあったし、シュバイツァー自身の宣言を聞かせるためでもあった。

フェデリカの謝罪でメリルはモーセット王国では今後の実質統治者の妻なのだと王族でもあるフェデリカに釘を刺す事が出来る。

フェデリカはメリルの前に出てくると片膝を地につけて跪き謝罪と発言の撤回を申し述べた。その後でメリルはフェデリカに手を貸し立ち上がらせた。


「本当にごめんなさい。配慮の欠片もなかったわ。愚かでした」
「いいんです。案外楽しかったですよ?商店街に雑貨屋さんも見つけましたし今度ご一緒しましょう。徒歩ですけど」
「とっ徒歩‥‥判ったわ。体力をつけておくわ」


その後は「食事でもしていかないか」という辺境伯の申し出を「また今度」とあっさり蹴ったシュバイツァーはメリルを馬車に押し込むと新居に移動した。


「いいの?あんなこと・・・生まれの事とか言ってよかったのに」
「さぁ何の事だかな~?」
「それに薬師なんて無理よ。趣味に毛が生えた程度なのよ?」
「そんなのしなくていいって。それくらいのこと言っとけば父上も嫌とは言わねぇからさ。それより着替えたいだろ?屋敷で着替えるといい。そう言えば歩き方が変だったな。足、見せてみろ」
「嫌よ!何考えてるの!」
「いいから!見せてみろって。俺の目は誤魔化せないからな」
「ヒールが久しぶりだっただけ!!何ともな・・・やぁぁ!!やめてぇ!」

メリルの両足首を掴んだシュバイツァーは片足を肩に、もう片足はヒールを脱がせて長靴下の「ホース」を引き抜くとメリルの足を点検。片方が終わればもう片方もくまなく点検。

「なんともねぇな」
「当たり前でしょう!何考えてるの!」
「面白いこと~」

そのまま手を滑らせてシュバイツァーはメリルの膝上まで手を伸ばしてきたが・・・。

バッチィィン!!!

メリル渾身の張り手がシュバイツァーの手に炸裂したかと思いきや、シュバイツァーは直前でかわしメリルは自分の太ももを思い切り叩いてしまった。

「痛たぁぁい!直前で手を抜くなんてズルい!」
「へぇ?避けられるくらい遅いからさ」
「うぅぅーっ!もう家に入れてあげないんだから!」
「残念だな?聞いてなかったか?あの森にある家は手を入れるんだぜ」
「そこは本当だったの?!」
「当たり前だ。あの狭さじゃ2人で転がる寝台が入らねぇじゃねぇか。水も引くぞ。俺が遠征中に風邪でも引かれちゃかなわねぇからな」


シュバイツァーの言葉は本当で、新居で動きやすい服装に着替え、悔しいかなシュバイツァーとの相乗り騎乗で小屋に戻ってみれば・・・。


「あー!!壁がない!部屋の中が丸見えじゃない!!って先に工事させてたの?」
「ま、いんじゃね?」


東側の壁がすっぽりと取り払われていて、暖炉が消えていた。
畑はそのままだが垣根が出来て門柱も立っている。
そして工事の邪魔になるからとフラーけんが門柱の天辺に乗せられて番犬オブジェになっていた。

「1、2週間は俺の部屋にいればいいさ」
「嫌よ。壁が1面なくたってあと3面あるわ」
「嘘だろ?雪降ってんだぞ?一晩中抱いてろってことか?!」
「なんで抱いて・・・て、いうか…貴方が泊り前提なの?」
「言っただろ?離さないって」
「いいわよぅ!!妾で良いんだから好きにさせてよ!」


お喋りは出来ないけれど体はしっかり固定してもらったフラーけん
首を傾げた向こうに見える2人を見てこう思っただろう。

「うーん。夫婦喧嘩は不味い!もう一杯!」


本編Fin
★~★

初日と2日目に追加公開したので、最終日はその後の2人の番外編を22時40分にお送りします<(_ _)>
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