それは、とても些細なことでしょう?

cyaru

文字の大きさ
3 / 7

刺激される劣等感

しおりを挟む
「ナイアッド様は頑張ってると思うんですぅ」

「そう言ってくれると嬉しいよ」

「でもぉ…神様って不公平ですよねっ」

「不公平?どうしてそう思うんだ?」


ファデリカが母の王妃に呼ばれて早退した日。他の生徒会のメンバーよりも早く生徒会室に来て書類を纏めていたナイアッドだったが、突然開いた扉に目を向けた。

そこにはヴェリアが顔が半分扉に隠れるようにして覗き込む姿があった。
特に気にする事もなくまた書類の枚数を数えだしたナイアッドにヴェリアは【えへっ♡見つかっちゃいましたぁ】とはにかみ乍ら生徒会室に入ってきた。

ナイアッドを手伝う事もなく、テーブルを挟んだ向かいに体を倒し、肘をついて顎を手のひらに乗せ、片足をトントンと床に当てながら、ヴェリアはナイアッドを見つめた。
書類から顔をあげれば、両肘で側面から寄せられた胸の谷間がどうしても目に入る。

ギョッとしたのは、素肌にそのままブラウスを着ており、2つの双璧の頂点が薄く見えていた事だ。
生々しい女性の性を見せつけられたナイアッドの心は揺れ動いた。



王族であるナイアッドは座学ではあるが房事の教育も受けていた。
ただ、ナイアッドはファデリカと共にその教育を受けた。
実技は国王に直接断りを入れ、座学だけを2人揃って学ぶのは異例だったが、共にお互いが最初で最後の相手だと認識していたから実現したのである。

性行為には子供という次の世代を担う者を生み出す行為でもあるが、単なる欲を発散させる行為である事も学んでいる。当然それを生業とする者がいる事も知っている。

「ファデリカ‥‥その‥‥子供は欲しいと思うんだが…」

「そうですね。出来れば男の子と女の子と授かれれば…でも…」

「うん。だけど、俺はそれだけじゃなくてファデリカを…なんて言ったらいいんだ。とっとにかく!たまには子供を作るだけじゃなくっ…ただ愛しあいたい…と…イウカ…」

「判っております。ナイアッド。先生も仰ってましたでしょう?愛を確かめる行為でもあると」


平気を装っていても、耳までは誤魔化せないファデリカに胸が苦しくなった。
初めて男性としてファデリカを腕の中に包み込むと、その体は力を入れれば折れるのではないか、息が出来ないのではないかと儚さも感じた。



ファデリカに感じた事のない気持ちの昂ぶりを気取られないように書類を数える事に没頭するナイアッドにヴェリアはまた囁いた。


「ナイアッド様は頑張ってると思うんですぅ」


ナイアッド自身も学院の最高学年となり卒業後は王族としての立場に恥じぬようにと、夜も休みの日も公務や執務に寝食を忘れて取り組む日が増えていた。
素直にそれを【評価】してくれた事が嬉しいと感じたのも事実だった。


しかし、ヴェリアは頬を膨らましながら更に続けた。

「でもぉ…神様って不公平ですよねっ」


書類を数えるナイアッドの指が止まった。すぐにまた枚数を数えだしたがヴェリアは俯くナイアッドを見てニヤリと笑って続けた。

「ナイアッド様は、こんなに頑張ってるのに王太子になれないなんて不公平ですぅ」

「ナイアッド様の頑張りをどうしてみんなもっと褒めないのかなぁ」

「ナイアッド様ならもう何もしなくたって完璧だと思うんですよぉ」

「ファデリカ様って全然ナイアッド様の事、認めてないんじゃない?って思う事あるんですぅ。なんだかぁ、わたくしの方がもっとやってますわよ?って感じでぇ。見下している気がするんですよぉ」


ナイアッドも心の隅に感じた事がないわけではない。
第三王子という立場は十分に理解をしている。上の兄2人は兎に角出来るというのも理解をしている。

そして、【どんなに頑張っても国王にはなれない】事も理解をしている。

いや、理解をしなければならないと心を抑えつけたのだ。
ヴェリアの言葉で心を抑制していた重りが1つ、2つと外れていく気がした。

――ファデリカに褒められた事などあったか?――

ヴェリアの言葉はナイアッドの心の小さな隙間に入り込み、ゆっくりと浸透していく。


「私ぃ、ナイアッド様の事、心配してるんですぅ。でも…判ってるんですよぉ。ってありますからぁ。しなくちゃいけないんですよねぇ。でもぉ…どうしてだめなんだろぉって思うと我慢できなくってぇ」


心にしみ込み、広がっていく思いにナイアッドは【良くない考えだ】と首を横に振った。
書類を数える手はすっかり止まってしまい、抑えていた気持ち欲望が頭を擡げもたげた。


「陛下もぉ、皆も認めるべきだと思うんですよぉ。だってぇ第一王子殿下も第二王子殿下もぉ、ナイアッド様と同じ年齢の時ってあった訳じゃないですかぁ。先に生まれただけってズルいと思うんですぅ」


どうして自分は王太子に、国王になれないのだろうと考えた事は何度もあった。ただ兄がいるから当たり前だと思っていた。今の自分と同じ年齢の時の兄上に自分の何が劣ると言うのだろう。


――どうして俺は父上に認めてもらえないんだ?――


その日以来、2人は誰よりも早く生徒会室を訪れるようになり、ナイアッドは【今の自分】をとにかく褒めて持ち上げて【認めて】くれるヴェリアに傾倒していくようになった。

ファデリカにすら伝えた事のない劣等感を抱えていたナイアッドは堕ちてしまった。
しおりを挟む
感想 59

あなたにおすすめの小説

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

最難関の婚約破棄

灯倉日鈴(合歓鈴)
恋愛
婚約破棄を言い渡した伯爵令息の詰んでる未来。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

毒姫の婚約騒動

SHIN
恋愛
卒業式を迎え、立食パーティーの懇談会が良い意味でも悪い意味でもどことなくざわめいていた。 「卒業パーティーには一人で行ってくれ。」 「分かりました。」 そう婚約者から言われて一人で来ましたが、あら、その婚約者は何処に? あらあら、えっと私に用ですか? 所で、お名前は? 毒姫と呼ばれる普通?の少女と常に手袋を着けている潔癖症?の男のお話し。

婚約破棄されてしまいました。別にかまいませんけれども。

ココちゃん
恋愛
よくある婚約破棄モノです。 ざまぁあり、ピンク色のふわふわの髪の男爵令嬢ありなやつです。 短編ですので、サクッと読んでいただけると嬉しいです。 なろうに投稿したものを、少しだけ改稿して再投稿しています。  なろうでのタイトルは、「婚約破棄されました〜本当に宜しいのですね?」です。 どうぞよろしくお願いしますm(._.)m

真実の愛を見つけたとおっしゃるので

あんど もあ
ファンタジー
貴族学院のお昼休みに突然始まった婚約破棄劇。 「真実の愛を見つけた」と言う婚約者にレイチェルは反撃する。

殿下と男爵令嬢は只ならぬ仲⁉

アシコシツヨシ
恋愛
公爵令嬢セリーナの婚約者、王太子のブライアンが男爵令嬢クインシアと常に行動を共にするようになった。 その理由とは……

貴族のテコ入れは大切です《完結》

アーエル
恋愛
愚かな貴族が現れると周りも迷惑です 他社でも公開

処理中です...