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刺激される劣等感
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「ナイアッド様は頑張ってると思うんですぅ」
「そう言ってくれると嬉しいよ」
「でもぉ…神様って不公平ですよねっ」
「不公平?どうしてそう思うんだ?」
ファデリカが母の王妃に呼ばれて早退した日。他の生徒会のメンバーよりも早く生徒会室に来て書類を纏めていたナイアッドだったが、突然開いた扉に目を向けた。
そこにはヴェリアが顔が半分扉に隠れるようにして覗き込む姿があった。
特に気にする事もなくまた書類の枚数を数えだしたナイアッドにヴェリアは【えへっ♡見つかっちゃいましたぁ】とはにかみ乍ら生徒会室に入ってきた。
ナイアッドを手伝う事もなく、テーブルを挟んだ向かいに体を倒し、肘をついて顎を手のひらに乗せ、片足をトントンと床に当てながら、ヴェリアはナイアッドを見つめた。
書類から顔をあげれば、両肘で側面から寄せられた胸の谷間がどうしても目に入る。
ギョッとしたのは、素肌にそのままブラウスを着ており、2つの双璧の頂点が薄く見えていた事だ。
生々しい女性の性を見せつけられたナイアッドの心は揺れ動いた。
王族であるナイアッドは座学ではあるが房事の教育も受けていた。
ただ、ナイアッドはファデリカと共にその教育を受けた。
実技は国王に直接断りを入れ、座学だけを2人揃って学ぶのは異例だったが、共にお互いが最初で最後の相手だと認識していたから実現したのである。
性行為には子供という次の世代を担う者を生み出す行為でもあるが、単なる欲を発散させる行為である事も学んでいる。当然それを生業とする者がいる事も知っている。
「ファデリカ‥‥その‥‥子供は欲しいと思うんだが…」
「そうですね。出来れば男の子と女の子と授かれれば…でも…」
「うん。だけど、俺はそれだけじゃなくてファデリカを…なんて言ったらいいんだ。とっとにかく!たまには子供を作るだけじゃなくっ…ただ愛しあいたい…と…イウカ…」
「判っております。ナイアッド。先生も仰ってましたでしょう?愛を確かめる行為でもあると」
平気を装っていても、耳までは誤魔化せないファデリカに胸が苦しくなった。
初めて男性としてファデリカを腕の中に包み込むと、その体は力を入れれば折れるのではないか、息が出来ないのではないかと儚さも感じた。
ファデリカに感じた事のない気持ちの昂ぶりを気取られないように書類を数える事に没頭するナイアッドにヴェリアはまた囁いた。
「ナイアッド様は頑張ってると思うんですぅ」
ナイアッド自身も学院の最高学年となり卒業後は王族としての立場に恥じぬようにと、夜も休みの日も公務や執務に寝食を忘れて取り組む日が増えていた。
素直にそれを【評価】してくれた事が嬉しいと感じたのも事実だった。
しかし、ヴェリアは頬を膨らましながら更に続けた。
「でもぉ…神様って不公平ですよねっ」
書類を数えるナイアッドの指が止まった。すぐにまた枚数を数えだしたがヴェリアは俯くナイアッドを見てニヤリと笑って続けた。
「ナイアッド様は、こんなに頑張ってるのに王太子になれないなんて不公平ですぅ」
「ナイアッド様の頑張りをどうしてみんなもっと褒めないのかなぁ」
「ナイアッド様ならもう何もしなくたって完璧だと思うんですよぉ」
「ファデリカ様って全然ナイアッド様の事、認めてないんじゃない?って思う事あるんですぅ。なんだかぁ、わたくしの方がもっとやってますわよ?って感じでぇ。見下している気がするんですよぉ」
ナイアッドも心の隅に感じた事がないわけではない。
第三王子という立場は十分に理解をしている。上の兄2人は兎に角出来るというのも理解をしている。
そして、【どんなに頑張っても国王にはなれない】事も理解をしている。
いや、理解をしなければならないと心を抑えつけたのだ。
ヴェリアの言葉で心を抑制していた重りが1つ、2つと外れていく気がした。
――ファデリカに褒められた事などあったか?――
ヴェリアの言葉はナイアッドの心の小さな隙間に入り込み、ゆっくりと浸透していく。
「私ぃ、ナイアッド様の事、心配してるんですぅ。でも…判ってるんですよぉ。立場ってありますからぁ。我慢しなくちゃいけないんですよねぇ。でもぉ…どうしてだめなんだろぉって思うと我慢できなくってぇ」
心にしみ込み、広がっていく思いにナイアッドは【良くない考えだ】と首を横に振った。
書類を数える手はすっかり止まってしまい、抑えていた気持ちが頭を擡げた。
「陛下もぉ、皆も認めるべきだと思うんですよぉ。だってぇ第一王子殿下も第二王子殿下もぉ、ナイアッド様と同じ年齢の時ってあった訳じゃないですかぁ。先に生まれただけってズルいと思うんですぅ」
どうして自分は王太子に、国王になれないのだろうと考えた事は何度もあった。ただ兄がいるから当たり前だと思っていた。今の自分と同じ年齢の時の兄上に自分の何が劣ると言うのだろう。
――どうして俺は父上に認めてもらえないんだ?――
その日以来、2人は誰よりも早く生徒会室を訪れるようになり、ナイアッドは【今の自分】をとにかく褒めて持ち上げて【認めて】くれるヴェリアに傾倒していくようになった。
ファデリカにすら伝えた事のない劣等感を抱えていたナイアッドは堕ちてしまった。
「そう言ってくれると嬉しいよ」
「でもぉ…神様って不公平ですよねっ」
「不公平?どうしてそう思うんだ?」
ファデリカが母の王妃に呼ばれて早退した日。他の生徒会のメンバーよりも早く生徒会室に来て書類を纏めていたナイアッドだったが、突然開いた扉に目を向けた。
そこにはヴェリアが顔が半分扉に隠れるようにして覗き込む姿があった。
特に気にする事もなくまた書類の枚数を数えだしたナイアッドにヴェリアは【えへっ♡見つかっちゃいましたぁ】とはにかみ乍ら生徒会室に入ってきた。
ナイアッドを手伝う事もなく、テーブルを挟んだ向かいに体を倒し、肘をついて顎を手のひらに乗せ、片足をトントンと床に当てながら、ヴェリアはナイアッドを見つめた。
書類から顔をあげれば、両肘で側面から寄せられた胸の谷間がどうしても目に入る。
ギョッとしたのは、素肌にそのままブラウスを着ており、2つの双璧の頂点が薄く見えていた事だ。
生々しい女性の性を見せつけられたナイアッドの心は揺れ動いた。
王族であるナイアッドは座学ではあるが房事の教育も受けていた。
ただ、ナイアッドはファデリカと共にその教育を受けた。
実技は国王に直接断りを入れ、座学だけを2人揃って学ぶのは異例だったが、共にお互いが最初で最後の相手だと認識していたから実現したのである。
性行為には子供という次の世代を担う者を生み出す行為でもあるが、単なる欲を発散させる行為である事も学んでいる。当然それを生業とする者がいる事も知っている。
「ファデリカ‥‥その‥‥子供は欲しいと思うんだが…」
「そうですね。出来れば男の子と女の子と授かれれば…でも…」
「うん。だけど、俺はそれだけじゃなくてファデリカを…なんて言ったらいいんだ。とっとにかく!たまには子供を作るだけじゃなくっ…ただ愛しあいたい…と…イウカ…」
「判っております。ナイアッド。先生も仰ってましたでしょう?愛を確かめる行為でもあると」
平気を装っていても、耳までは誤魔化せないファデリカに胸が苦しくなった。
初めて男性としてファデリカを腕の中に包み込むと、その体は力を入れれば折れるのではないか、息が出来ないのではないかと儚さも感じた。
ファデリカに感じた事のない気持ちの昂ぶりを気取られないように書類を数える事に没頭するナイアッドにヴェリアはまた囁いた。
「ナイアッド様は頑張ってると思うんですぅ」
ナイアッド自身も学院の最高学年となり卒業後は王族としての立場に恥じぬようにと、夜も休みの日も公務や執務に寝食を忘れて取り組む日が増えていた。
素直にそれを【評価】してくれた事が嬉しいと感じたのも事実だった。
しかし、ヴェリアは頬を膨らましながら更に続けた。
「でもぉ…神様って不公平ですよねっ」
書類を数えるナイアッドの指が止まった。すぐにまた枚数を数えだしたがヴェリアは俯くナイアッドを見てニヤリと笑って続けた。
「ナイアッド様は、こんなに頑張ってるのに王太子になれないなんて不公平ですぅ」
「ナイアッド様の頑張りをどうしてみんなもっと褒めないのかなぁ」
「ナイアッド様ならもう何もしなくたって完璧だと思うんですよぉ」
「ファデリカ様って全然ナイアッド様の事、認めてないんじゃない?って思う事あるんですぅ。なんだかぁ、わたくしの方がもっとやってますわよ?って感じでぇ。見下している気がするんですよぉ」
ナイアッドも心の隅に感じた事がないわけではない。
第三王子という立場は十分に理解をしている。上の兄2人は兎に角出来るというのも理解をしている。
そして、【どんなに頑張っても国王にはなれない】事も理解をしている。
いや、理解をしなければならないと心を抑えつけたのだ。
ヴェリアの言葉で心を抑制していた重りが1つ、2つと外れていく気がした。
――ファデリカに褒められた事などあったか?――
ヴェリアの言葉はナイアッドの心の小さな隙間に入り込み、ゆっくりと浸透していく。
「私ぃ、ナイアッド様の事、心配してるんですぅ。でも…判ってるんですよぉ。立場ってありますからぁ。我慢しなくちゃいけないんですよねぇ。でもぉ…どうしてだめなんだろぉって思うと我慢できなくってぇ」
心にしみ込み、広がっていく思いにナイアッドは【良くない考えだ】と首を横に振った。
書類を数える手はすっかり止まってしまい、抑えていた気持ちが頭を擡げた。
「陛下もぉ、皆も認めるべきだと思うんですよぉ。だってぇ第一王子殿下も第二王子殿下もぉ、ナイアッド様と同じ年齢の時ってあった訳じゃないですかぁ。先に生まれただけってズルいと思うんですぅ」
どうして自分は王太子に、国王になれないのだろうと考えた事は何度もあった。ただ兄がいるから当たり前だと思っていた。今の自分と同じ年齢の時の兄上に自分の何が劣ると言うのだろう。
――どうして俺は父上に認めてもらえないんだ?――
その日以来、2人は誰よりも早く生徒会室を訪れるようになり、ナイアッドは【今の自分】をとにかく褒めて持ち上げて【認めて】くれるヴェリアに傾倒していくようになった。
ファデリカにすら伝えた事のない劣等感を抱えていたナイアッドは堕ちてしまった。
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