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VOL.8  責め立てられるレオン

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ルーベス侯爵家ではレオンが1人立たされ、急ぎ呼び集めた親族が顔を揃えていた。

嫡男はレオンだが子供はレオンだけではない。
サンルクル王国では後継者を嫡男とする、男児に限るなど制限はしていないが貴族であれば「血の継承」は強制とも言える縛りがあった。

伯爵位をも含め高位貴族に対し平民との婚姻を厳しく制限をしていたのも、伯爵位以上となれば王家と姻戚関係となる権利があるため、とどのつまり王家の血筋を守るためでもあった。

過去には平民と結婚し籍を抜けた者もいるが、それまで起きてから眠るまで誰かの介助が必要だった生活、下手をすれば執務をする用紙も、ペン先にインクを浸すのでさえ使用人が行っている場合もあることから全てを己がこなさねばならない生活は想像するのは簡単だが実際は精神を病み、早世する者も多かった。


「エマは‥‥僕の最愛なんだ。サシャリィでは足らない部分を全て兼ね備えて…僕を助けてくれる。サシャリィでは僕と侯爵家を支えていくのに力不足なんだ。数年前の学問の知識より最新の知識を持っているエマの方がどう考えても相応だと思うだろう?!公私ともにサシャリィでは…何もかもが足らないんだよ。同じアガントス伯爵家の人間なんだから、ならばエマの方が力量がある。そんなエマが僕の最愛で、エマも僕を愛してくれている。どうしてここまで責められなきゃいけないんだよ!」


レオンの叫びを面々は冷めた目で右から左に受け流した。


「最愛と?ほっほぅ。エマと言う娘。聞けば夫人の方の人間だそうじゃないか。レオンは兄上に本当~に丁寧な教育をされているんだと感心すら覚える。血の継承は直系。夫人方は夫人方の直系でありアガントス伯爵家の直系ではないのだが、どんな曲線を描いて直系と思えるのか。呆れて笑いも出やしない」

「でも従姉妹だと!」

「だから従姉妹だとして母方だと言ってるんだが?理解も出来ない脳筋か?それに新しい知識と言ってもサシャリィ嬢が首席で卒業したのは昨年だ。しかも父親は法務大臣補佐。たった1年でそこまでの違いがあるのか?それ以前に新体制を一番理解している令嬢がサシャリィ嬢だと思えないその思考に驚きしかないよ」


嫌味ったらしくルーベス侯爵を褒めて貶すのはルーベス侯爵の実弟。
生まれが2年遅かっただけで家を継いだのが自分ではなかった事を未だに根に持っている。

先代のルーベス侯爵は【貴族とは】と真っ先に言葉を発するほどに貴族としての立ち振る舞いには殊の外五月蠅かった。それぞれの兄弟妹が婚姻をする時も相手の家は間者を雇ってまで調べ上げ、「忌わしい血」が混じっていないかと婚約締結まで5年の歳月をかけていた。

レオンはがっくりとその場にへたり込んだ。


「どっちにしてもそのエマって子は平民なんでしょう?懲罰金も広がる噂もお兄様が責任をもってなんとかしてくださいませね?我が家はやっと大きな事業に参入出来たばかりなの。そのために幾ら使ったと思ってるの?パーになったらどうしてくれるのよ。こっちは生活がかかってるのよ」


ルーベス侯爵の実妹が苛立った声を上げると周りは「そうだ」同調する。


「兄上、最愛は結構だが勿論レオンは放逐するんだろうな?そのままなんて冗談はやめてくれよ?この時期にそんな事をされてみろ。殿下が即位した時に総スカン食らってしまうだろうが。全く・・・こんな時期になんて事をしてくれたんが。最愛云々と2年も付き合っていたなんて…あと1年待てなかったのか?殿下が即位をした後なら…こんな集まりすら不要だったんだぞ?」

「判っている。レオンは籍を抜きエマと言う娘と好きにさせる。噂はアガントス伯爵側も広まるのは良しとしないだろうから手を打つだろうが、こちらも出来る限りの事はするつもりだ」

「当たり前だろうが。兄上はだいたいが遅すぎなんだよ」

「無理よ。息子のの心配までしなきゃならないんだもの」

「本当に申し訳ない。後継は次男のハリスとし…レオンの処分に付いてはこれから貴族院に出す書類を纏めて明日の朝に――」

「嫌だ!待ってくれよ!」


力なく椅子に座りこんでいたレオンは突然大声をあげて立ち上がると、叔父や叔母の前に行き、床にひたいを擦りつけて泣きながら「籍を抜くこと」と「放逐」は勘弁してくれと懇願した。


「エマとは別れる!サシャリィには心から詫びてこれからの人生を捧げると誓ってくる!やっと・・・やっと第一騎士団への入団試験を受ける資格を認めて貰えたところなんだ。貴族籍を失ったら受けられない。醜聞が知られれば警護団にすら入団は認めて貰えなくなってしまうよ!」

「良い心掛けだが、それはこうなる前に理解をしていて欲しかったものだ」

「そうよ。覆水盆に返らずってね。平民女の口車に乗せられて世話ないわね」

「でもっ!だけどエマが言ったんだ。サシャリィの従姉妹だと!」


レオンの頭に扇を突き立ててルーベス侯爵の実妹は蔑んだ目で見ながらレオンに問うた。


「で?その言葉の裏は取ったの?取った上で従姉妹だと確信をしたという事かしら?」

「うっ…それは…エマの言う事は真実だと…」

「あらやだ。真実と事実は違うのよ?その平民女の真実は平民女の中では嘘偽りがなくても、現実の事実とは違うの。貴族でこんな大それた事を仕出かすのなら…裏は取るべきだったわね?」

「いやいや、それ以前の問題だ。アガントス伯爵令嬢の名前が出ているのに付き合いを続けたなんて、もう詰んでるだろうが。最善の策はその平民女が従姉妹だとのたまった時に切るべきだったのさ。若しくは新体制に移行した後で事を興すべきだった。ま、それも全て後の祭り。今更どうにもならないだろう」


突っ伏したまま号泣する声だけがレオンから発せられる。
ルーベス侯爵はそんなレオンを黙って見つめ、侯爵夫人は窓の外を見てレオンの姿を見ようともしなかった。


「レオン、部屋に行って荷物を纏めなさい。カール。レオンの荷づくりを手伝ってやってくれ。くれぐれも温情を掛けたと思われるような品の持ち出しをさせないようにな」

「畏まりました」

家令のカールは幼い頃から、いや、レオンが産声を上げたその日から成長を見てきた1人。突っ伏したまま動かないレオンを従者に起こさせ、担ぐように退出をしていった。
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