婚約破棄になったのは貴方が最愛を選んだからです。

cyaru

文字の大きさ
9 / 32

VOL.9  充実のエマ、全力の笑顔

エマはいつも通り辻馬車を使い、居候をしている屋敷に戻った。


責められるかと思ったのだが、屋敷の中はいつも通りだった。
違ったと言えばアンジー夫婦が留守であることだけで、使用人は帰宅したエマに夕食の時間を告げた。

――なんだ、心配したけど損しちゃった――

軽い足取りで与えられた部屋に入る。
ゆっくりと住み慣れた部屋を見回すと、「ふふっ」声が漏れた。

――まるでお伽噺のお姫様みたいだわ――

記憶にある一番古い家はもう鮮明には思い出せないが、いつも暗くて汚れた灰色の壁があった。そこで殴られる母親。それは鮮明だったが、他の事はあまり思い出せない。

領主の義父ジェームズと母が結婚して専用の部屋が与えられた。
最初は母親と一緒だったが、7歳、8歳だっただろうか。部屋を貰ったのだ。

『なんでも好きにしていいんだよ?壁紙から選ぼうか』

ジェームズは色取り取りの模様が入った本を開いてエマに壁紙を選ばせた。
飽きれば別の壁紙に張り替えてくれた。

田舎なので夜会などはなかったが、最新のワンピースを着ているのはいつもエマでジェームズは強請れば月に2、3着のワンピースを買ってくれた。
付近にいる女の子の中で一番のお洒落をしているのはエマだったし、男の子に一番人気があるのもエマだった。

田舎にいる時は、ここで幼馴染の誰かと結婚をして子供を産んで死んでいくのだろうと考えていた。そこ以外を知らなかったエマにはそれ以上の欲も無かったし納得をしていた。


「でも‥‥王都に来た時はこの部屋も凄いなって思ったけど…きゃっ♡侯爵夫人だなんてぇ~」

寝台に横たわり、枕をレオンに見立てて抱きしめ転がった。2回転目をすると寝台から落ちてしまうので何度も往復し体を転ばせた。


だが、ふっと動きを止めた。

「わっすれてた!大変っ!」

あと3カ月もすれば学園を卒業するのだ。今は最終試験を待つ時期。
登校そのものはもう自由登校にはなっているが、最終試験は3年間の集大成とも言えて今までの試験のように出題される範囲が限定はされていない。
学んだ事の中から出されるため、前の2学年を復習しておかねば最後の最後で順位を落としてしまう。


「最後で何とか20位以内に入ればジェームズ叔父さんも養子縁組をしてくれるわ。そうすれば伯爵令嬢だもの。レオンに嘘を言った事にならないように頑張らなくっちゃ」


自学をしていると侍女が夕食だと呼びに来た事でもう夕刻になったのだと窓の外を見た。


「おば様はもう?」
「旦那様も奥様も食堂でお待ちで御座います」
「わっ。待たせちゃったのね。直ぐに行きます」


食堂までの廊下でエマはもしかするとアンジーにはもう話が聞こえているかも知れないと緊張をしていた。だが、それも杞憂に終わる。
アンジーもその夫も夕食の最中はいつもと同じで何を聞かれる事も、何を咎められる事も無かった。


――サシャリィは何も言ってないのかしら?だとしたらまだ婚約中?――


2人の様子を伺いながら口に入れる食事は味がしなかったが、貴族の婚約は一両日中にどうにか出来るものでもないのかも知れないとエマは自分で自分を納得させた。

――そう、私はレオンが来るのを待っていればいいの――


翌日も、その翌日もアンジー夫婦がエマに何かを問う事はない。
問うとすれば、自由登校である今、どこかに出掛けるのなら行き先と帰宅時間を侍女に伝えておくようにといういつもと同じの言葉だけだった。

そんな日を10日、いや11日目だっただろうか。
朝食を終えたエマの耳に「これから出かける」と使用人に告げたアンジーが続けて言葉をかけた。


「エマさん?試験勉強をしているの?」
「はいっ!最終試験なんです。集大成って感じで」
「そう。困っている事はない?」
「ないです!全て順調で。今までで一番充実しているかも知れません」
「良かったわね」


エマはアンジーの問いかけに全力の笑顔で答えた。
感想 97

あなたにおすすめの小説

婚約破棄が国を亡ぼす~愚かな王太子たちはそれに気づかなかったようで~

みやび
恋愛
冤罪で婚約破棄などする国の先などたかが知れている。 全くの無実で婚約を破棄された公爵令嬢。 それをあざ笑う人々。 そんな国が亡びるまでほとんど時間は要らなかった。

婚約破棄を謝っても、許す気はありません

天宮有
恋愛
 侯爵令嬢の私カルラは、ザノーク王子に婚約破棄を言い渡されてしまう。  ザノークの親友ルドノが、成績が上の私を憎み仕組んだようだ。  私が不正をしたという嘘を信じて婚約を破棄した後、ザノークとルドノは私を虐げてくる。  それを耐えながら準備した私の反撃を受けて、ザノークは今までのことを謝ろうとしていた。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

第一王子に婚約破棄されましたが平気です。私を大切にしてくださる男爵様に一途に愛されて幸せに暮らしますので・完結

まほりろ
恋愛
学園の食堂で第一王子に冤罪をかけられ、婚約破棄と国外追放を命じられた。 食堂にはクラスメイトも生徒会の仲間も先生もいた。 だが面倒なことに関わりたくないのか、皆見てみぬふりをしている。 誰か……誰か一人でもいい、私の味方になってくれたら……。 そんなとき颯爽?と私の前に現れたのは、ボサボサ頭に瓶底眼鏡のひょろひょろの男爵だった。 彼が私を守ってくれるの? ※ヒーローは最初弱くてかっこ悪いですが、回を重ねるごとに強くかっこよくなっていきます。 ※ざまぁ有り、死ネタ有り ※他サイトにも投稿予定。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」

誰ですか、それ?

音爽(ネソウ)
恋愛
強欲でアホな従妹の話。

(完結)あなたが婚約破棄とおっしゃったのですよ? 

青空一夏
恋愛
スワンはチャーリー王子殿下の婚約者。 チャーリー王子殿下は冴えない容姿の伯爵令嬢にすぎないスワンをぞんざいに扱い、ついには婚約破棄を言い渡す。 しかし、チャーリー王子殿下は知らなかった。それは…… これは、身の程知らずな王子がギャフンと言わされる物語です。コメディー調になる予定で す。過度な残酷描写はしません(多分(•́ε•̀;ก)💦) それぞれの登場人物視点から話が展開していく方式です。 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定ご都合主義。タグ途中で変更追加の可能性あり。

【完結】初恋の彼が忘れられないまま王太子妃の最有力候補になっていた私は、今日もその彼に憎まれ嫌われています

Rohdea
恋愛
───私はかつてとっても大切で一生分とも思える恋をした。 その恋は、あの日……私のせいでボロボロに砕け壊れてしまったけれど。 だけど、あなたが私を憎みどんなに嫌っていても、それでも私はあなたの事が忘れられなかった── 公爵令嬢のエリーシャは、 この国の王太子、アラン殿下の婚約者となる未来の王太子妃の最有力候補と呼ばれていた。 エリーシャが婚約者候補の1人に選ばれてから、3年。 ようやく、ようやく殿下の婚約者……つまり未来の王太子妃が決定する時がやって来た。 (やっと、この日が……!) 待ちに待った発表の時! あの日から長かった。でも、これで私は……やっと解放される。 憎まれ嫌われてしまったけれど、 これからは“彼”への想いを胸に秘めてひっそりと生きて行こう。 …………そう思っていたのに。 とある“冤罪”を着せられたせいで、 ひっそりどころか再び“彼”との関わりが増えていく事に──

皇太子殿下の御心のままに~悪役は誰なのか~

桜木弥生
恋愛
「この場にいる皆に証人となって欲しい。私、ウルグスタ皇太子、アーサー・ウルグスタは、レスガンティ公爵令嬢、ロベリア・レスガンティに婚約者の座を降りて貰おうと思う」 ウルグスタ皇国の立太子式典の最中、皇太子になったアーサーは婚約者のロベリアへの急な婚約破棄宣言? ◆本編◆ 婚約破棄を回避しようとしたけれど物語の強制力に巻き込まれた公爵令嬢ロベリア。 物語の通りに進めようとして画策したヒロインエリー。 そして攻略者達の後日談の三部作です。 ◆番外編◆ 番外編を随時更新しています。 全てタイトルの人物が主役となっています。 ありがちな設定なので、もしかしたら同じようなお話があるかもしれません。もし似たような作品があったら大変申し訳ありません。 なろう様にも掲載中です。