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VOL.22 侯爵夫妻の喧嘩
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玄関が騒がしくなると、ルーベス侯爵は「チッ」
盛大に舌打ちをして部屋を出た。
ドカドカと足音をさせながら廊下を歩き、玄関ホールで従者にあれやこれやと用事を言いつけている妻の声を遮るように大声を張り上げた。
「そんな事はどうでもいい!お前たちは持ち場に戻れ!」
いきり立ったルーベス侯爵の声に従者たちは動きを止めて、一つ礼をすると足早に散って行った。
「なんですの。大声を出してみっともない」
「みっともないのはお前だ!いったい何のつもりだ!」
「何をいきなり。意味が解りませんわ。叫ぶだけのお話ならわたくし、次の茶会に呼ぶ方々の選定をしなければなりませんの。疲れてもいますし気持ちを一晩でも二晩でも落ち着けてからにしてくださいまし」
ふいっとルーベス侯爵に背を向け、夫人が部屋に向かって歩き始めるとルーベス侯爵は夫人に駆け寄り、思い切り結い上げた髪を掴んだ。
「ギャァァーッ!!痛いっ!何をなさいますの!放してくださいませっ」
「この大バカ者が!私が何も知らないと思っているのか!」
「何の事なのです!痛いから離してッ!」
「あぁ、洗いざらい話せば離してやるとも。お前、レオンに金を流しているのは本当か!」
ルーベス侯爵の声に夫人は叫んでいた声を飲み込んだ。
そしてゆっくりと引っ張られる髪に痛みを感じながらも首を傾け夫の顔を見た。
「本当なのか。それを聞いているんだ」
「あなた…それは…違うのよ」
「何が違うと言うんだ。お前のおかげで折角沈静化した噂がまた再燃しているんだぞッ!それだけならまだいい!今度はありもしない尾ひれまで付いて流れ始めているんだ」
「兎に角、手を離して?ね?あな―――ギャッ!!」
髪を掴んだ手を振り払うようにしたものだから、侯爵夫人は勢いよく床に倒れ込んだ。
肩で息をしながら、顔を真っ赤に怒張させ目も血走らせたルーベス侯爵は夫人に馬乗りになり、その胸ぐらを掴みあげた。
「貴様、いったいレオンに幾ら流した!」
「幾らって…知りませんっ!」
「惚けるな!家をあてがい、騎士団にも金を流している事は知っている。放逐の意味を解ってそんな事をしているのかと聞いてるんだッ!」
全てがバレていると侯爵夫人は悟った。
ルーベス侯爵は本来は気の弱い性格だが、一旦激昂すると手が付けられない。
結婚して、妻である自分が手をあげられた事は一度もなかったが、失態を犯した使用人は動けなくなるまで鞭打ち、雨の中放り出したのも知っているし、最近ではレオンを思い切り殴りつけた。しかもその手には銅製の花瓶が握られていて、形が変わるまで侯爵はレオンを打ち据えたのだ。
――まさか。わたしを?――
侯爵夫人は、目の前の怒りが拳と共に自分に浴びせられるのではと恐怖に震えた。
こうなってしまうに、確証がなく激昂するルーベス侯爵ではない。
下手な言い訳や、嘘で逃げようとすれば取り返しがつかなくなると夫人は腹を決めた。
腹を決めた上で、行う事は「泣き落とし」だ。
手をあげられた事は無くても、夫婦喧嘩は今まで何度もあった。
その度に、泣きだした夫人にルーベス侯爵は「次から気を付けろ」と話を打ち切ってきた。今回もそうなる。夫人の心の中には根拠のない自信があったからである。
盛大に舌打ちをして部屋を出た。
ドカドカと足音をさせながら廊下を歩き、玄関ホールで従者にあれやこれやと用事を言いつけている妻の声を遮るように大声を張り上げた。
「そんな事はどうでもいい!お前たちは持ち場に戻れ!」
いきり立ったルーベス侯爵の声に従者たちは動きを止めて、一つ礼をすると足早に散って行った。
「なんですの。大声を出してみっともない」
「みっともないのはお前だ!いったい何のつもりだ!」
「何をいきなり。意味が解りませんわ。叫ぶだけのお話ならわたくし、次の茶会に呼ぶ方々の選定をしなければなりませんの。疲れてもいますし気持ちを一晩でも二晩でも落ち着けてからにしてくださいまし」
ふいっとルーベス侯爵に背を向け、夫人が部屋に向かって歩き始めるとルーベス侯爵は夫人に駆け寄り、思い切り結い上げた髪を掴んだ。
「ギャァァーッ!!痛いっ!何をなさいますの!放してくださいませっ」
「この大バカ者が!私が何も知らないと思っているのか!」
「何の事なのです!痛いから離してッ!」
「あぁ、洗いざらい話せば離してやるとも。お前、レオンに金を流しているのは本当か!」
ルーベス侯爵の声に夫人は叫んでいた声を飲み込んだ。
そしてゆっくりと引っ張られる髪に痛みを感じながらも首を傾け夫の顔を見た。
「本当なのか。それを聞いているんだ」
「あなた…それは…違うのよ」
「何が違うと言うんだ。お前のおかげで折角沈静化した噂がまた再燃しているんだぞッ!それだけならまだいい!今度はありもしない尾ひれまで付いて流れ始めているんだ」
「兎に角、手を離して?ね?あな―――ギャッ!!」
髪を掴んだ手を振り払うようにしたものだから、侯爵夫人は勢いよく床に倒れ込んだ。
肩で息をしながら、顔を真っ赤に怒張させ目も血走らせたルーベス侯爵は夫人に馬乗りになり、その胸ぐらを掴みあげた。
「貴様、いったいレオンに幾ら流した!」
「幾らって…知りませんっ!」
「惚けるな!家をあてがい、騎士団にも金を流している事は知っている。放逐の意味を解ってそんな事をしているのかと聞いてるんだッ!」
全てがバレていると侯爵夫人は悟った。
ルーベス侯爵は本来は気の弱い性格だが、一旦激昂すると手が付けられない。
結婚して、妻である自分が手をあげられた事は一度もなかったが、失態を犯した使用人は動けなくなるまで鞭打ち、雨の中放り出したのも知っているし、最近ではレオンを思い切り殴りつけた。しかもその手には銅製の花瓶が握られていて、形が変わるまで侯爵はレオンを打ち据えたのだ。
――まさか。わたしを?――
侯爵夫人は、目の前の怒りが拳と共に自分に浴びせられるのではと恐怖に震えた。
こうなってしまうに、確証がなく激昂するルーベス侯爵ではない。
下手な言い訳や、嘘で逃げようとすれば取り返しがつかなくなると夫人は腹を決めた。
腹を決めた上で、行う事は「泣き落とし」だ。
手をあげられた事は無くても、夫婦喧嘩は今まで何度もあった。
その度に、泣きだした夫人にルーベス侯爵は「次から気を付けろ」と話を打ち切ってきた。今回もそうなる。夫人の心の中には根拠のない自信があったからである。
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