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VOL.23  家令カール、最後の仕事

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「ごめんなさい!だってレオンはお腹を痛めて産んだ子なのよ?!放逐する意味は判っているわ。でも!でも親としてレオンがお腹を空かせたり、寝る場所も無かったり!!スラム街の下郎のようになるのはどうしても!!どうしても我慢が出来なかったのよぅーっ!!あぁぁーっ!ハァァーッ!!フグゥゥっ…」

「だからどうした!レオンのした事がどんな事なのか判ってそうしたのか!」

「だって!だって、レオンは私達の子供なのよ?貴方はレオンが可愛くないの?我が子なのに愛していないというの?!」

「そんな感情はとっくに犬に食わせたわ!!お前がレオンにした事でルーベス侯爵家が窮地に陥った事をどう考えているんだ!今、我が家と取引をしてくれるのはトビー商会だけだ!それも食料や日用品、その程度の物を現金取引に限っての事だ!ルーベス侯爵家の息子はハリスだけだ!レオンなど知った事か!」

「そんなっ!嘘でしょう?どうしてっ」

「どうして?その減らず口がまだ言うか!新体制に移行した後ならいざ知らずとあの日集まった者達が言っていただろう。レオンのした事は侯爵家を足元から揺るがす大事態、大失態だ!今まで通り、何処でどんな死に方をしようが縁を切って放逐せねば周りが納得をする筈がないだろう」

「待って‥‥取引してくれる商会がトビー商会だけって事は…」

「あぁ、もう領地の農作物や加工品を売る場所はないし、買い取ってくれる商会も無い。収入源が断たれただけじゃなく!それまで融通を利かせて領民の行き来のあった隣の領地も今後は通行料を支払わねば領民も動く事が出来なくなった。もうここで食い止めるために、きっちりとした対応をせねば間に合わないんだ!」

「じゃぁ先日買った宝飾品の支払いは?ドレスを仕立てたけれど届かないかもって事なの?」


侯爵夫妻の声を聞いていた使用人達は呆けてしまいそうだった。
ルーベス侯爵の言葉を後ろで聞いていた家令のカールは心で思う。

――旦那様、もう手遅れだと思いますよ――

そんな家令カールの後方では音を立てないように従者達が控室に戻り、自分の荷物を手に動き始めた。幸いに直近で給金が支払われたのは5日前の事だ。

その後3、4日は無償で働いた事になるが、そこをケチってルーベス侯爵家に残る事の方が損害が大きい。


――明日の朝、何人残っているだろう――

そう思う家令のカールでさえ、同時に実家のある領地に向けての幌馬車が次に出立するのは何時だったかと考えたが、夫人の発した言葉に恐らく生きて来て一番の驚きを覚えた。


「カール!カールはいる?!」
「はい。奥様、何で御座いましょう」
「レオンにあてがった屋敷を売り払って頂戴。雇った使用人はもう来なくていいと」
「構いませんが…権利証などはどちらに」
「部屋に来て頂戴。全部揃ってるわ。お金を払わないと宝飾品もドレスも届かないじゃない。もうレオンの面倒見ている場合じゃないわ。あぁそうだ。ハリスの予算も削ってたから元に戻して頂戴」

「お前…そんな事まで!ハリスは次期当主なんだぞっ!」
「判ってるわよ!だから元に戻すと言ってるでしょう!どうりでドレスの出来上がりが遅れていると思ったのよ!どいてよ!一刻を争う事態なのよ!」


先ほどまで涙を流して「母として」レオンを語っていた侯爵夫人は何処にもいなかった。どこにそんな力があったのか馬乗りになったルーベス侯爵を撥ね退けて侯爵夫人は自室に向かい、カールに権利証などを手渡した。

――ハリス様には申し訳ないが、最後の仕事にしよう――


カールはレオンの住まう家屋の売却手続きや、使用人を解雇する手続きに着手した。
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