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あの子誰の子
「愚王、うぬの罪もだが王家の罪も愚息の罪も大概だな」
グラディアスの言葉に言い返す言葉もなく、ただ手を強く握りしめる事しか出来ない。
だが、王妃は違った。
「ア、アナスタシアが生きているのでしょう?なら何としてでも名誉を回復させて、そうね…まずは何処かの家に名前を変えて養女にしましょう!婚約をし直すのよ!直ぐに結婚すればいいわ。これで王妃になる者も出来る。執務も政務もうまく回る。側妃は何処かに下賜したという事にして、アナスタシアをこれまで通りにすればいいのよ」
そうでしょう?と国王の肩を揺する王妃。この状況を打破するに最善と信じ切っている。今すぐにでもアナスタシアをここに呼び、帝国との条約を丸く収めさせれば自分たちへの罰も受けなくて済む。一安心だとも言いたげである。
国王は教会がそれを認めない事を知っている。目の前の王妃もそれを知っているはず。
なのになぜと思うが、キラキラと自分を見つめる王妃を見てなるほどと悟った。
目の前の女は辛い事や、面倒な事がこれ以上なければそれでいいのだ。
事はさほどに簡単ではないというのに、目の前の現実から逃げる王妃を見て肩を落とす。
執務は圧倒的に王妃の方が出来るけれども、「最善」と思われる道を見つけるのは国王の方が優れているのだろう。小さくため息を吐いた国王。「そうでしょう?」と食い下がる王妃を再度見つめた。
「お前はバカか。廃妃としたものを…既に死んでいると皆が思っている者をどうせよと?お前が言うようにするには貴族や議会だけでなく民にも王家の失態を知らしめねばならない。私も退位するしか道はない。退位しシリウスが継ぐかとなればシリウスとて同罪。公爵家か侯爵家から新しい王を選ばねばならない。何故判らない?」
「黙っていればいいでしょう?民など知恵の足らないものばかり。何とでもなります」
それでいい、こうしようという王妃に対し国王は虚ろな目を返した。
そしてシリウスを見る。まだ項垂れていて何かをブツブツと呟いている。
ロザリアはグラディアスの足元に組み伏せられ、喚き散らしている。
何処から狂ってしまったのか。いや、もう狂っていたのだろうと諦めを付けた。
シリウスの髪を鷲掴みにして顔を上げさせるとグラディアスはそこにしゃがみこんだ。
「お前の最大の罪は何だか判るか?」
「罪‥‥あぁ…アナスタシアだ。全てアナスタシアのせいだ。子を成せず罪を罪と言わずに!僕の愛にも応えない。市井で見たような家族になりたかっただけなのにアナスタシアには何も判っていなかった。その上こんなインチキ女を掴まされるなんて‥」
「シリウス殿下。いやシリウス。お前の間違いを教えてやろう」
「僕は…間違ってなどいない。周りが無能すぎるだけだ!嘘つきばかりだから謀られただけだ」
「お前は1つづつ2つの大きな間違いをしでかした」
「どういう意味だ」
「1つ目。王太子妃として冤罪を被ってまで塔に入ったのならアナスタシアは毒杯を賜るべきだった。例え冤罪だとしてもアナスタシアはそれが【王太子妃】ひいては【王妃になる者】の最後の務めだと立派に果たしたはずだ。それをお前はただの男として欲を出し生かしてしまった。アナスタシアの矜持を踏みにじった。それが王太子ひいては国王となる筈だったお前の間違いだ」
「そんな…アナスタシアを殺す事など出来ないっ出来なかったっ」
「それが2つ目の間違いだ。ただの男としてアナスタシアを愛し、市井で見たという家族になりたかったのなら何が何でもお前が盾となって守り抜くべきだった。それで王太子という身分を捨てる事になったとしても【情】を交えるのなら徹底的に抗い、守るべきだった。だが守るどころかどちらにしても中途半端。公に私を混ぜ境界を曖昧にし風見鶏のように己の私欲に溺れた結果だ」
「ついでだから。心をちゃんと持って聞いて」
ディレイドが小悪魔のような笑みでシリウスの虚ろな目に映る。
「あの女が身籠った子供なんだけどね。父親はアンタだよ」
「えっ??」
シリウスだけではなく、床に伏せられたロザリアも動きを止め、王も王妃も動きを止めた。
「帝国にはね?魔法って便利なものがあるし、医学も発達してるんだよねぇ」
「だがどうやって…調べようがないだろう…まさか‥墓を?」
「まぁね。今は戻してあるよ。アンタとあの女の子供で間違いない」
「僕の子?!くそぉぉ!!ロザリア!許さないッ許さないぞ!」
「嘘よぉぉ!嘘っ!どうして?ならどうしてっ!イヤあぁぁ!!」
シリウスの怒りを受けながらロザリアは自身で頭を床に叩きつけ、額を割りながらも叫んだ。
王家の証は生まれた時に子供が持っているモノではなく授けられるもの!
その上、これが一番最上の手だと自分も苦しみながら子を流したのに!
流したのにそれは間違いなくシリウスの子だったなど到底受け入れられない!
何のために自分は罪を犯したのか!いったい何のために!
「ってわけで、この女は言ってみれば王族殺しってわけだ」
「知らないっ!だって!‥‥知らないわ!嫌よ。違うっ!」
王族殺しはもれなく死罪。斬首や絞首ではなく宙釣りにされた挙句に腹を裂かれ、息絶えるまで短い者でも3日は苦しむという刑が科せられてしまう。
ロザリアは泣き叫んだ。
床に足をダンダンと踏み鳴らすように叩きつけながらシリウスも叫ぶ。
「なら…アナスタシアに原因があったんじゃないか!くそぉぉ!!」
しかしディレイドは涼しい顔で、首をコテンと傾ける。
「は?何でそうなる訳?アナスタシア様とアンタに子が出来なかったのはアンタが原因だけど?」
「どうして!僕の子は出来てたんだろうが!アナスタシアは身籠らなかった!」
「当たり前じゃん?何言ってんの」
ディレイドは部下と思しき者を指でクイクイと呼ぶ。
一礼した部下は一旦下がり、再度部屋に戻って来た途端、シリウスの目の前に1人の男が転がってくる。スラッグだった。口枷をされているがシリウスを見て笑った気がした。
「この男がさ、アンタに毒を盛ってたんだよ。執務の時に薄いピンク色っぽい茶。飲んでなかった?お愉しみの前に用を足した時に量が多いなとか思わなかった?」
「そう言えば…」
スラッグに目をやるとさらに、ニィっと笑った気がした。
思い出せば執務の時には疲れが取れるといつもピンク色をした茶葉が出ていた。
夫婦の寝室に行く前に用を足した時、かなり量が多く感じたが茶を飲み過ぎたと思っていた。
どうしても夜を考えると火照ってしまって茶を多く飲んでいたからだ。
「これはね、精巣に作用して精子を殺してしまうんだよ。即効性があるけど排尿する事で精子と一緒に成分が出る。喉が渇くっていう副反応があるから多く水分を取ってしまうんだなぁ。執事だからって気が緩みすぎなんだよ。不妊はさ、女性だけが原因じゃないんだ。正直、墓の子はアンタの子じゃないと思ってたから、無精子症か逆行性射精かと思ってたけど…子供の判定見て久しぶりにびっくりしたよ」
そう言いながら部下から受け取った茶葉の缶を蓋を開けて転がす。
転がる度に床に広がっていく茶葉。
「劣化の具合から言って2年くらい前の茶だよね。もしもに備えて捨てなかった?いや、このテのやつはこういう成功の証は捨てないからね。外してやってよ。一言引導渡したいだろうし」
口枷を外されたスラッグに向かってシリウスは「どうして」と聞いた。
スラッグはいやらしそうな笑いを浮かべ、ヘラヘラとシリウスに言葉の毒を浴びせる。
「だって、バカの癖にいい女を嫁に出来て贅沢な暮らしが出来るって不公平だろうが。あの女もいけ好かない女だった。いつも澄ましやがって。いい気味だった。月のものがあったと報告が来るたびザマァミロと思ったよ。でも良かったじゃねぇか。程度は落ちるがその女がアンタにはお似合いなんだよ。もうちょっとで元王太子妃って女が手に入るところだったのに…いい乳してんだよな。ケツもいい。啼かせて――」
ザシュっと音がしたと同時にスラッグの首が飛んでいく。
ゴロンと転がった首が王妃の顔に当たり、王妃はそのまま叫ぶ事もなく気を飛ばした。
「殺すぞ…クソが」
「うわ……ダメじゃん!あいつフィラリアで遊ぼうと思ったのに!殺すぞって…事後だし!死んじゃったし!」
「いや、余りにも聞き捨てならない言葉が聞こえた気がしたら剣を抜いていた」
「気がした程度で抜いちゃダメ!あぁ~あ。世の中のワンちゃんを苦しめるフィラリアの薬を作ろうと思ってたのに!請求書水増しするからねっ!」
ディレイドはスラッグの口枷を外した事を後悔しながらも、「コレ、腐敗虫の依り代に出来るかな?」と帝国の文官たちを困らせたが、有効活用するようである。転んでもタダでは起きない15歳だった。
グラディアスの言葉に言い返す言葉もなく、ただ手を強く握りしめる事しか出来ない。
だが、王妃は違った。
「ア、アナスタシアが生きているのでしょう?なら何としてでも名誉を回復させて、そうね…まずは何処かの家に名前を変えて養女にしましょう!婚約をし直すのよ!直ぐに結婚すればいいわ。これで王妃になる者も出来る。執務も政務もうまく回る。側妃は何処かに下賜したという事にして、アナスタシアをこれまで通りにすればいいのよ」
そうでしょう?と国王の肩を揺する王妃。この状況を打破するに最善と信じ切っている。今すぐにでもアナスタシアをここに呼び、帝国との条約を丸く収めさせれば自分たちへの罰も受けなくて済む。一安心だとも言いたげである。
国王は教会がそれを認めない事を知っている。目の前の王妃もそれを知っているはず。
なのになぜと思うが、キラキラと自分を見つめる王妃を見てなるほどと悟った。
目の前の女は辛い事や、面倒な事がこれ以上なければそれでいいのだ。
事はさほどに簡単ではないというのに、目の前の現実から逃げる王妃を見て肩を落とす。
執務は圧倒的に王妃の方が出来るけれども、「最善」と思われる道を見つけるのは国王の方が優れているのだろう。小さくため息を吐いた国王。「そうでしょう?」と食い下がる王妃を再度見つめた。
「お前はバカか。廃妃としたものを…既に死んでいると皆が思っている者をどうせよと?お前が言うようにするには貴族や議会だけでなく民にも王家の失態を知らしめねばならない。私も退位するしか道はない。退位しシリウスが継ぐかとなればシリウスとて同罪。公爵家か侯爵家から新しい王を選ばねばならない。何故判らない?」
「黙っていればいいでしょう?民など知恵の足らないものばかり。何とでもなります」
それでいい、こうしようという王妃に対し国王は虚ろな目を返した。
そしてシリウスを見る。まだ項垂れていて何かをブツブツと呟いている。
ロザリアはグラディアスの足元に組み伏せられ、喚き散らしている。
何処から狂ってしまったのか。いや、もう狂っていたのだろうと諦めを付けた。
シリウスの髪を鷲掴みにして顔を上げさせるとグラディアスはそこにしゃがみこんだ。
「お前の最大の罪は何だか判るか?」
「罪‥‥あぁ…アナスタシアだ。全てアナスタシアのせいだ。子を成せず罪を罪と言わずに!僕の愛にも応えない。市井で見たような家族になりたかっただけなのにアナスタシアには何も判っていなかった。その上こんなインチキ女を掴まされるなんて‥」
「シリウス殿下。いやシリウス。お前の間違いを教えてやろう」
「僕は…間違ってなどいない。周りが無能すぎるだけだ!嘘つきばかりだから謀られただけだ」
「お前は1つづつ2つの大きな間違いをしでかした」
「どういう意味だ」
「1つ目。王太子妃として冤罪を被ってまで塔に入ったのならアナスタシアは毒杯を賜るべきだった。例え冤罪だとしてもアナスタシアはそれが【王太子妃】ひいては【王妃になる者】の最後の務めだと立派に果たしたはずだ。それをお前はただの男として欲を出し生かしてしまった。アナスタシアの矜持を踏みにじった。それが王太子ひいては国王となる筈だったお前の間違いだ」
「そんな…アナスタシアを殺す事など出来ないっ出来なかったっ」
「それが2つ目の間違いだ。ただの男としてアナスタシアを愛し、市井で見たという家族になりたかったのなら何が何でもお前が盾となって守り抜くべきだった。それで王太子という身分を捨てる事になったとしても【情】を交えるのなら徹底的に抗い、守るべきだった。だが守るどころかどちらにしても中途半端。公に私を混ぜ境界を曖昧にし風見鶏のように己の私欲に溺れた結果だ」
「ついでだから。心をちゃんと持って聞いて」
ディレイドが小悪魔のような笑みでシリウスの虚ろな目に映る。
「あの女が身籠った子供なんだけどね。父親はアンタだよ」
「えっ??」
シリウスだけではなく、床に伏せられたロザリアも動きを止め、王も王妃も動きを止めた。
「帝国にはね?魔法って便利なものがあるし、医学も発達してるんだよねぇ」
「だがどうやって…調べようがないだろう…まさか‥墓を?」
「まぁね。今は戻してあるよ。アンタとあの女の子供で間違いない」
「僕の子?!くそぉぉ!!ロザリア!許さないッ許さないぞ!」
「嘘よぉぉ!嘘っ!どうして?ならどうしてっ!イヤあぁぁ!!」
シリウスの怒りを受けながらロザリアは自身で頭を床に叩きつけ、額を割りながらも叫んだ。
王家の証は生まれた時に子供が持っているモノではなく授けられるもの!
その上、これが一番最上の手だと自分も苦しみながら子を流したのに!
流したのにそれは間違いなくシリウスの子だったなど到底受け入れられない!
何のために自分は罪を犯したのか!いったい何のために!
「ってわけで、この女は言ってみれば王族殺しってわけだ」
「知らないっ!だって!‥‥知らないわ!嫌よ。違うっ!」
王族殺しはもれなく死罪。斬首や絞首ではなく宙釣りにされた挙句に腹を裂かれ、息絶えるまで短い者でも3日は苦しむという刑が科せられてしまう。
ロザリアは泣き叫んだ。
床に足をダンダンと踏み鳴らすように叩きつけながらシリウスも叫ぶ。
「なら…アナスタシアに原因があったんじゃないか!くそぉぉ!!」
しかしディレイドは涼しい顔で、首をコテンと傾ける。
「は?何でそうなる訳?アナスタシア様とアンタに子が出来なかったのはアンタが原因だけど?」
「どうして!僕の子は出来てたんだろうが!アナスタシアは身籠らなかった!」
「当たり前じゃん?何言ってんの」
ディレイドは部下と思しき者を指でクイクイと呼ぶ。
一礼した部下は一旦下がり、再度部屋に戻って来た途端、シリウスの目の前に1人の男が転がってくる。スラッグだった。口枷をされているがシリウスを見て笑った気がした。
「この男がさ、アンタに毒を盛ってたんだよ。執務の時に薄いピンク色っぽい茶。飲んでなかった?お愉しみの前に用を足した時に量が多いなとか思わなかった?」
「そう言えば…」
スラッグに目をやるとさらに、ニィっと笑った気がした。
思い出せば執務の時には疲れが取れるといつもピンク色をした茶葉が出ていた。
夫婦の寝室に行く前に用を足した時、かなり量が多く感じたが茶を飲み過ぎたと思っていた。
どうしても夜を考えると火照ってしまって茶を多く飲んでいたからだ。
「これはね、精巣に作用して精子を殺してしまうんだよ。即効性があるけど排尿する事で精子と一緒に成分が出る。喉が渇くっていう副反応があるから多く水分を取ってしまうんだなぁ。執事だからって気が緩みすぎなんだよ。不妊はさ、女性だけが原因じゃないんだ。正直、墓の子はアンタの子じゃないと思ってたから、無精子症か逆行性射精かと思ってたけど…子供の判定見て久しぶりにびっくりしたよ」
そう言いながら部下から受け取った茶葉の缶を蓋を開けて転がす。
転がる度に床に広がっていく茶葉。
「劣化の具合から言って2年くらい前の茶だよね。もしもに備えて捨てなかった?いや、このテのやつはこういう成功の証は捨てないからね。外してやってよ。一言引導渡したいだろうし」
口枷を外されたスラッグに向かってシリウスは「どうして」と聞いた。
スラッグはいやらしそうな笑いを浮かべ、ヘラヘラとシリウスに言葉の毒を浴びせる。
「だって、バカの癖にいい女を嫁に出来て贅沢な暮らしが出来るって不公平だろうが。あの女もいけ好かない女だった。いつも澄ましやがって。いい気味だった。月のものがあったと報告が来るたびザマァミロと思ったよ。でも良かったじゃねぇか。程度は落ちるがその女がアンタにはお似合いなんだよ。もうちょっとで元王太子妃って女が手に入るところだったのに…いい乳してんだよな。ケツもいい。啼かせて――」
ザシュっと音がしたと同時にスラッグの首が飛んでいく。
ゴロンと転がった首が王妃の顔に当たり、王妃はそのまま叫ぶ事もなく気を飛ばした。
「殺すぞ…クソが」
「うわ……ダメじゃん!あいつフィラリアで遊ぼうと思ったのに!殺すぞって…事後だし!死んじゃったし!」
「いや、余りにも聞き捨てならない言葉が聞こえた気がしたら剣を抜いていた」
「気がした程度で抜いちゃダメ!あぁ~あ。世の中のワンちゃんを苦しめるフィラリアの薬を作ろうと思ってたのに!請求書水増しするからねっ!」
ディレイドはスラッグの口枷を外した事を後悔しながらも、「コレ、腐敗虫の依り代に出来るかな?」と帝国の文官たちを困らせたが、有効活用するようである。転んでもタダでは起きない15歳だった。
感想 178
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