王妃?そんなものは微塵も望んでおりません。

cyaru

文字の大きさ
10 / 10
番外編

本当の幸せ☆ベリルダ②

しおりを挟む
「ベリルダ、どうしたの?」


修道院長から声をかけられて、窓を拭く手が止まっていた事に気が付いた。
「何でもありません」と返事をしてまた窓を拭く手が動き出す。

雪が本格的に降り始めると村から寄付される野菜は1週間に1度が2週間に1度になり、一番雪が降る月は月に1度となる。クルトが来なくなって今日で3週間目。
本当なら先週来るはずだったのに予定が伸びているのだ。

何かあったのだろうか。風邪を引いて寝込んでしまったのだろうか。

ベリルダは気が付けばクルトの事を考えてしまう日が続いた。
修道院に来て10年になるが、反省のために送られたベリルダはまだ修道女としては認めてもらえていない。そんなベリルダを修道院長は優しく見守った。



ガラガラと音がすると片づけの途中でベリルダは勝手口に走った。
修道院長が「まぁ」と口に手を当てて、クスリと笑った事にベリルダは気が付かなかった。

「遅くなってすまない。今年もあまり収穫はなくて集めるのに時間がかかった」

寄付なので無理に集めるものではないのだが、集めたという野菜は大半が雪の下で春を待つ野草だった。降り積もった雪をどかしてようやく見えた土肌をクルトが掘り起こして採ってきたのだろう。

「クルトさんに春が来たのかしら?」

修道院長の声にベリルダは振り返った。
箱の中の野草を手に取り、修道院長は指先で湿った土を掃うと大げさに溜息を吐いた。

「出来るだけ新鮮な物を食べさせてあげたいと思う心は神もお見通しですよ?」
「あっ…いや、俺は何も…」
「雪深いのにその熱で雪が融けてしまったのかしらね?ウフフ。ベリルダ。今日の奉仕は終わり。クルトさんに温かいお茶を淹れて差し上げて」

修道院長は箱を抱えると調理場に向かって歩き出した。
ベリルダがクルトを案内しようと顔を向けると、腕で顔を隠すクルトが見えた。

「どうなさったの?」
「いや、何でもない…何でもないが…」
「クルトさん。あの野草は寄付ではないのでしょう?」
「寄付だよ。集めた俺が言うんだから間違いない」

そう言うクルトの肘は凍えるような雪の中、何度も鍬を振るったのだろう。
皮膚が擦れて、少し血が滲んでいるようにも見えた。

「ありがとうございます」

ベリルダの謝意にクルトは顔を綻ばせた。

「スープに入れると体が温まると昔婆さんに聞いたんだ。ほら女性は冷え性が多いと言うだろう?」
「まぁ…確かに…」
「あんたに風邪なんかひいてほしくな――」

堪らずクルトの腕にそっとベリルダは自分の手をあてた。
自分のためにこんなになるまでと思うと、申し訳なくて涙が頬を伝った。

「うわっ…どうした?泣くなよ…あんたが泣いたら俺は…」
「ありがとう…クルトさん」
「うん、まぁ…このくらいなら」
「でも無理はしないでくださいませ。こんな傷になって…」
「こんなのは傷のうちに入らないよ」


薬と言っても薬草を乾燥させたものしかない。
ベリルダは温かい湯で布を濡らし、ゆっくりと優しくクルトの腕を拭いた。

「気持ちいいな。俺は布が絞れないから濡らして擦りつけるだけなんだ」

そう言う割にはクルトからは嫌な臭いはしなかった。
聞けば修道院に配達に来る日は適当な温度の【水】をかぶり、身を清めていると言う。

「風邪を引いてしまいます!」
「引かないよ。俺は風邪はひかない男なんだ」
「でも、やめてください!クルトさんが来ない日は心配で何も手につかないんです」
「えっ?」

ベリルダは心の中にしまっておくつもりだった思いが言葉になってしまい、布を落としてしまった。



〇●〇●〇

雪解けの頃。フキノトウなどを入れた小箱をクルトが運んできた。
帰りの道のりはフキノトウを入れた小箱のあった場所にベリルダの荷物が積まれていた。

クルトには全てを打ち明けた。
何故修道院に来たのか。自分がどんな過ちを犯し愚かだったのか。
クルトは全てを受け入れた上でベリルダに求婚をした。

「貧乏で辛い思いはするだろうけど、一緒に幸せになろう」

煌びやかな宝石も豪奢なドレスも何もない。
しかし、クルトの溢れる思いはベリルダを温かく包んだ。


「本物の愛を知った貴女なら大丈夫。神はいつでも2人を見守っていますよ」


ゆっくりと走り出した馬車を修道院の皆が見送ってくれた。
ベリルダは修道院に来た3日目に村に帰って牛を追うといった少女と同じようにみんなの姿が見えなくなるまで後ろを向いて手を大きく振り続けた。


「俺なんかで良かったのかな」
「クルトだからいいの。クルトじゃなきゃ嫌なの」
「俺、滅茶苦茶期待されてるな…でも貧乏だぞ?引き返すなら今のうちだ」
「引き返してほしいの?(うるっ)」
「そんなわけっ!!…ないだろ…」


祖母と暮らしていた家は決して大きな家ではないが、部屋の中はまさに男の1人暮らしの惨状。クルトが少ない荷物を下ろすとベリルダは腕まくりをして竈に火を入れて湯を沸かし、大掃除を始めた。

大きな桶は埃を被っていたが、水で洗い湯を張ってシーツを入れてクルトが踏み洗う。
その間に部屋の掃除を始めたベリルダ。

仲良くシーツを干して簡単に作った遅い昼食を2人で食べていると村人たちが細やかな祝いの品を持って訪れてきた。平民には結婚をしても届ける先などはない。せいぜいお披露目くらいである。

「良かったねぇ」

口々に村人たちはクルトとベリルダの結婚を祝ってくれた。




「凄い…綺麗な寝台なんて何時ぶりだろう」
「嫁いだ日に大掃除した花嫁なんてきっと私くらいよ?」
「いや、片付けたつもりだったんだが…すまない――痛っ!」

ベリルダはクルトの頬を軽く抓った。

「夢じゃない!」
「いや、それ、俺のセリフだからな!」
「クルト…夢じゃない…ありが…う…」
「あぁっ!もう泣くなって。泣いたらどうしていいかわからないだろう!」

生活は決して楽ではなかったけれど、お互いを思い合って助け合う2人。
翌年には小さな命が誕生した。


「うわぁぁん!!ありがっ…ありがとう!ベリーっ‥うぅぅっ」
「もう!パパが泣いたらこの子もどうしていいかわからないでしょう?!」


ベリルダは生まれたばかりの子供を抱いて号泣するクルトを見て思った。


あわよくば王妃!なんて思ったけれど、ならなくて良かった。
クルトとでなければここまで幸せな気持ちにはなれなかっただろう。と。

Fin
しおりを挟む
感想 51

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(51件)

ココナツ信玄

本編はもちろん最高にスカッとして面白かったのですが、やらかしちゃった後の女の子達がちゃんと更生して幸せになっていてほっこりしました。
ありがとうございます。癒されました。
面白かったです。

2024.10.16 cyaru

コメントありがとうございます。<(_ _)>

本編の中でアンネマリーは更生したところが出て来るので番外編でも少しになってしまいましたけども、アンネマリーもベリルダもブイブイ言わせている時には蔑んでいたような人たちに救われました(*^_^*)
親もディートリヒの隣にいる時はちやほやで何も言わなかったのに、捨てられたら手のひら返し。

アンネマリーはコンステンツェが夫人を介して支援している事は知らないのですけども、多くの人の助けがあって立っていられる事を貧しい人に教えを与え、育てる事で恩返し(*^_^*)
教え子が最初の女性文官に成れたのにはものすごく嬉しかったかも。

アンネマリーとは違い修道院に送られたベリルダは迎えをずっと待っていたけど誰も来ないのに絶望します。
しかし同僚を助けるために全ての指を失ったクルトの生き方にやっと自分を見つめ直すことが出来て心からの反省が出来ました(*^_^*)

2人とも加害者ではありますが被害者でもあるので、してしまった事の償いは並大抵では無理。
でも、本物の愛に触れて真っ当に生きることで更生も出来るかなと。
やらかし側を更生させる話は稀~に書くことがあるんですけども、この2人に注目していただきありがとうございます(*^_^*)
お言葉を頂けて番外編、追加してよかった~♡と感謝感激で御座います(*^_^*)

ラストまでお付き合いいただきありがとうございました<(_ _)>

解除
玄未マオ
2023.09.20 玄未マオ

ヒロインが女王でもかっこよかったけど、多忙なうえに重責を担う立場ですからね。

ベルリタとアンネマリーのその後が良かったです。

2023.09.21 cyaru

コメントありがとうございます<(_ _)>

国のトップとなると制約も多いですしね(;^_^A
中身も判っているからこそ「お断り」とも考える事が出来るかな(*^-^*)

アンネマリーとベリルダはそのあたりを知らない?ところもありました。
国王となる人に寵愛を受けていればそれでいいし、好きな事だけやっていればいい‥浅はかですけども「知らない」からこそ夢も見られたかな(*^-^*)

力があると思ったディートリヒは最初から見限られてた?!
まぁ、足らない所を補えるようにと周りが考えても当の本人が判らなかったら意味がない(;^_^A

アンネマリーもベリルダもやらかしてしまって、落ちてしまいましたが自分の居場所を自分で「作る」事を覚えます(*^-^*) 与えられるのではなく自分で作ったり掴み取るには一朝一夕では無理ですし、苦労もする事や、自分の愚かさを目を背けずに知るって向き合う事も大事かな~と(*^-^*)

アンネマリーは教え子の第一号が文官になりますし、ベリルダも生涯の伴侶を得て子供にも恵まれます。落ちぶれてからは苦労した2人ですけども、この2人にもコメント頂けてとても嬉しいです(*^-^*)

ラストまでお付き合いいただきありがとうございました<(_ _)>

解除
sagadai
2023.08.30 sagadai

番外編が特に好きです。二人の女性は更生しましたね。それに比べて王と王子はどうしようもない、、、

2023.08.30 cyaru

コメントありがとうございます。<(_ _)>

なかなか自分が愚かだったと認めて受け入れるのは直ぐには出来ないので、アンネマリーもベリルダも時間はかかりましたけども、更生を致しました(*^-^*)

欲の塊のようになってしまうのも仕方ない所はあるんですけども、特にベリルダの場合は生きるにも厳しい修道院に放り込まれそこで両親や王子が迎えに来てくれると信じて待つんですが…。
捨てられてしまったので誰も迎えには来ないんですよね。

近くの領地の子が行儀見習いでやって来て、帰っていく姿を見て最初は「ふんっ!」って感じでまだ反省の色は見えませんけども、段々と現実を受け止めて諦めとなった時に1人の男性に出会ってそこから本当の愛を知っていきます(*^-^*)

愛だけじゃ食べてはいけないけれど、貧乏でもお互いが助け合って信頼し合って暮らす事は出来ると、お金以上に大事なものを見つけた2人でした(*^-^*)

ま‥‥王子と国王はコメント頂いている通りどうしようもないんですけどね(笑)

長い話を読んで下さり感謝!!
ラストまでお付き合いいただきありがとうございました<(_ _)>

解除

あなたにおすすめの小説

王家の面子のために私を振り回さないで下さい。

しゃーりん
恋愛
公爵令嬢ユリアナは王太子ルカリオに婚約破棄を言い渡されたが、王家によってその出来事はなかったことになり、結婚することになった。 愛する人と別れて王太子の婚約者にさせられたのに本人からは避けされ、それでも結婚させられる。 自分はどこまで王家に振り回されるのだろう。 国王にもルカリオにも呆れ果てたユリアナは、夫となるルカリオを蹴落として、自分が王太女になるために仕掛けた。 実は、ルカリオは王家の血筋ではなくユリアナの公爵家に正統性があるからである。 ユリアナとの結婚を理解していないルカリオを見限り、愛する人との結婚を企んだお話です。

結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。

しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。 友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。 『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。 取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。 彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。

次代の希望 愛されなかった王太子妃の愛

Rj
恋愛
王子様と出会い結婚したグレイス侯爵令嬢はおとぎ話のように「幸せにくらしましたとさ」という結末を迎えられなかった。愛し合っていると思っていたアーサー王太子から結婚式の二日前に愛していないといわれ、表向きは仲睦まじい王太子夫妻だったがアーサーにはグレイス以外に愛する人がいた。次代の希望とよばれた王太子妃の物語。 全十二話。(全十一話で投稿したものに一話加えました。2/6変更)

愛されない妻は死を望む

ルー
恋愛
タイトルの通りの内容です。

あの、初夜の延期はできますか?

木嶋うめ香
恋愛
「申し訳ないが、延期をお願いできないだろうか。その、いつまでとは今はいえないのだが」 私シュテフイーナ・バウワーは今日ギュスターヴ・エリンケスと結婚し、シュテフイーナ・エリンケスになった。 結婚祝の宴を終え、侍女とメイド達に準備された私は、ベッドの端に座り緊張しつつ夫のギュスターヴが来るのを待っていた。 けれど、夜も更け体が冷え切っても夫は寝室には姿を見せず、明け方朝告げ鶏が鳴く頃に漸く現れたと思ったら、私の前に跪き、彼は泣きそうな顔でそう言ったのだ。 「私と夫婦になるつもりが無いから永久に延期するということですか? それとも何か理由があり延期するだけでしょうか?」  なぜこの人私に求婚したのだろう。  困惑と悲しみを隠し尋ねる。  婚約期間は三ヶ月と短かったが、それでも頻繁に会っていたし、会えない時は手紙や花束が送られてきた。  関係は良好だと感じていたのは、私だけだったのだろうか。 ボツネタ供養の短編です。 十話程度で終わります。

貴族の爵位って面倒ね。

しゃーりん
恋愛
ホリーは公爵令嬢だった母と男爵令息だった父との間に生まれた男爵令嬢。 両親はとても仲が良くて弟も可愛くて、とても幸せだった。 だけど、母の運命を変えた学園に入学する歳になって…… 覚悟してたけど、男爵令嬢って私だけじゃないのにどうして? 理不尽な嫌がらせに助けてくれる人もいないの? ホリーが嫌がらせされる原因は母の元婚約者の息子の指示で… 嫌がらせがきっかけで自国の貴族との縁が難しくなったホリーが隣国の貴族と幸せになるお話です。

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

嘘の誓いは、あなたの隣で

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢ミッシェルは、公爵カルバンと穏やかに愛を育んでいた。 けれど聖女アリアの来訪をきっかけに、彼の心が揺らぎ始める。 噂、沈黙、そして冷たい背中。 そんな折、父の命で見合いをさせられた皇太子ルシアンは、 一目で彼女に惹かれ、静かに手を差し伸べる。 ――愛を信じたのは、誰だったのか。 カルバンが本当の想いに気づいた時には、 もうミッシェルは別の光のもとにいた。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。