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第04話  2人の関係

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ビヴァリーとチャールズの関係はもう5年になる。
チャールズがシェイナと婚約をするよりも、ビヴァリーがケインと婚約するよりも出会いは早かった。

お互いが自分自身の美しさを自覚していて、自分に見合う人間を物色していた。
お互いの噂は聞いてはいたものの、なかなか会う機会には巡り合えなかった。
だからこそ、一目会った瞬間に運命を感じた。

ビヴァリーが17歳、チャールズが16歳の時である。

ビヴァリーはチャールズの見目麗しいかんばせと容姿に。
チャールズもまたビヴァリーの美しさと儚さも兼ね備えたその肢体に望んだ相手だと思ったが、一線を超えるには至らなかった。

当時の2人の関係は性別を超えた大親友とでも言うのだろうか。

そんな2人は過去に一度だけ数年距離を置く時間が出来た。

「婚約するんだって?」
「そうなの。だからこの関係は終わり。距離を置きましょう」

友人だと言ってもそろそろなお年頃。異性であれば周囲は好奇の目で見て好き勝手に噂をし始める。距離を置くのが最善だとビヴァリーは考えた。


「ハッ。ケインねぇ…あの堅物の何処か良いんだか」
「ふふっ。チャールズ?男はね?見た目も大事だけどもっと大事なものがあるの」
「体だろ?俺たちそろそろ試しても良いんじゃないか?」
「男って直ぐにそう言う発想するのね。子供だわ。違うわよ。立場とコレ」

ビヴァリーは「コレ」と親指と人差し指で輪を作り金を示した。

チャールズは美丈夫だったがそれだけ。家は男爵家だし経営は青色吐息。
曾祖父はそうでもなかったので爵位を賜ったが、祖父も父も遊び人。金は国が与えてくれる「選ばれた人間」なのだとあるだけ使って家を傾かせた。

学びを得ようにも学園に入学するだけの金もなく、チャールズは試験を突破出来るだけの学力もなかった。

ビヴァリーがから一線を越えなかったのはそこに理由がある。スレム家はビヴァリーの兄が継ぐので小姑となるビヴァリーは何時かは嫁いで家を出ねばならない。その時にチャールズは選択肢に上がらない。

どんなに美丈夫でも家は貧乏で頭の中身はスカスカ。贅沢どころか食べるものに困る生活など真っ平ごめんである。

チャールズも家が貧乏であることや自身には学がない事も理解していた。その埋め合わせに生きていくための処世術を身につけた。

金を持っている未亡人の話し相手になるだけで小遣いが貰える。体も喜ばせてやれば欲しいものは何でも買って貰える。そんな誰にも褒められる訳でもなく、自身ですらうっかり口にする事も出来ない処世術を。

その上で腐れ縁でも続いていればビヴァリーが何処かに嫁いでも、後々金蔓に出来るのではないかと考えていた。仲が良ければ人に知られたくない秘密も1つや2つは提供してくれると睨んでいたのだ。


「他人様のお金をアテにしなきゃならないアナタはもうお呼びじゃないの」

けんもほろろにチャールズは一度ビヴァリーに距離を取られてしまった。


その後、会う事もなかった2人だったが、関係が復活した。
そのきっかけは…。


「あ!ビヴァリー。紹介するわ。先月婚約をしたの。ガネル男爵家のチャールズ様よ」

2週間に一度。お互いの事を知るために双方の家を行き来して行われる茶会。その日はチャールズがエスラト男爵家を訪問する日だった。

ビヴァリーも婚約後にはハッセル伯爵家の仕来りなどを覚えるために忙しい日々を過ごしていて、シェイナと会う時間も取れなかったのだが、その日はハッセル伯爵夫人の実母が倒れたと連絡があり訪問は中止。偶々家にいた。

暇だからシェイナと茶でも飲もうかと訪れて再会となった。
初見だと勘違いしたシェイナ。2人の関係を知るはずもなかった。


「びっくりしたわ…昔のこと、気付かれないでよ?」
「判ってるさ。まぁ…家が隣同士なのは知っていたが…よく来るのか?」
「来るも何も。シェイナは妹みたいなものよ。ね?この後、時間ある?」
「あるにはあるが、なんだ?」
「ちょっと相談があるのよ」

関係が以前とは少し違った形で復活するのに時間など関係なかった。

あの頃と違って2人はもう大人まであと一歩。
心も体も成長していた。

男女の友情など気心が知れているからこそ成り立たない。頭でしっかりと理解をしていた。

娼館に行き発散しようにもチャールズには自由になる金はなかったし、手ごろに遊べそうな令嬢はいたが付き回られるのも困る。そうこうしているうちにシェイナと婚約となり発散できない日々がこの先も続くと思うとやりきれなかった。

ビヴァリーもケインが堅物なのは解っていたが、ケインの体温を感じるのはダンスの時とエスコートの時だけ。一切触れても来ないし、挑発するような装いで2人きりになってもケインは手を出してこなかった。

そして気が付いてしまったのだ。王女殿下に呼ばれ訪れる茶会でケインの視線の先を。
ビヴァリーには向けた事のない優しい目でケインが見つめていたのは王女殿下だった。

――馬鹿馬鹿しい!王女より私の方が美人だしスタイルもいいのに!――

苛ついている事を表に出す事も出来ず、不満が蓄積されていく一方。
それでもケインと共に夜会に出れば羨望の眼差しで誰もがビヴァリーを見る。気持ち良かった。

だから考えたのだ。
ケインにとってビヴァリーとの婚約、そして結婚はケインを王家と繋ぐ必要な手段。
愛のない結婚は構わないが、ビヴァリーも人間であり女。当然欲もある。

見た目がよく、立場も金もあるケインを手放す気など毛頭ない。
誰もが羨む立場をそのままに、愉しめないだろうかと。

幸いチャールズは、シェイナとの婚約がダメになればその先は平民落ちが見えているから必死。秘密を共有する人数は少なければ少ないほど露呈し難いもの。

2人は一線を越えてしまった。

「これからも楽しいコトだけ共有しましょうよ」
「そうだな…‥次は後ろ向けよ」
「せっかちね。シェイナにあげちゃう前に子種を打ち尽くしちゃダメよ?」

エスラト男爵家に使用人がいないのは解っていた。だから最初は留守の際に庭で楽しんだが、どうせ留守なのだからと勝手知ったる何とやらで鍵のありかも知っている。部屋のあちこちで楽しみ、最近ではシェイナの部屋で落ち着いていた。

2人が散々に使った後、何も知らないシェイナが部屋を使っていると思うと笑いが止まらなかった。

シェイナがチャールズの事を相談してきた時に、的外れな事をし右往左往するシェイナを見るのは愉しかった。チャールズもビヴァリーに内緒で相談した事を知られているとは思わずに振舞うシェイナを見て笑いを堪える。

関係を怪しまれないためにケインも引っ張り出し、2組のカップルは仲が良いというのも周囲に見せつけた。


チャールズとビヴァリーにとっては全てが上手く行っているはずだったのだ。
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