公爵令嬢ディアセーラの旦那様

cyaru

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家名の由来を娘の言葉で知る

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頬にまで土をつけて、痩せたという畝にすきを入れ簡単に掘り返し、くわで畝を作り直していく。その後は堆肥を混ぜ込み、落ち葉をかけて布で覆う。
風で飛ばないように布の端を土にピンで差し込んでいく。


楽し気な笑い声が聞こえる庭を帰宅したブロスカキ公爵は「何があった?」と従者に問えば、従者はディアセーラとペルセスが土いじりをしていると答えた。

ブロスカキ公爵家の庭は草木が好きなディアセーラが至る所に色々なものを植えている。
敷地の中にビワの苗木を植えた時は、当時まだ生きていた先代公爵に「縁起の悪い木だから」と引き抜かれ、ディアセーラが大泣きした事もあった。

ブロスカキ公爵は敷地の外ならいいだろうと塀にそって柵を作りそこにビワの木を植え替えた。
桃栗3年柿8年ビワは13年と言われているように、今では立派な実をつけるようになったが、ディアセーラが好んでいるのはビワの葉だった。

昔からディアセーラは変わった子で、王子妃教育、王太子妃教育の傍ら、何とか時間を作ると土をいじり色々なものを育てていた。
簡単なのはハーブ系のペパーミントやバジルなどだが、放っておくとその辺り一面ハーブだらけになってしまう。ディアセーラが公務や執務、政務で時間が取れない時はブロスカキ公爵自身が庭師と共に生え過ぎたハーブを引き抜いた。

屋敷と王城を往復する間に、時折馬車を止めて奇妙な雑草を持ち帰る事もあった。

「それは何だ?」
「オオバコよ。可愛いでしょう?」

タンポポも花を採って来る事もあったがほとんどは「葉っぱ」だった。
何をするかと言えば煎じたり、乾燥させたり、時に煮汁をとったり。薬草となるものを作ったりもしていた。茶を淹れる時にブレンドをするのはその効能をまず考えてのものである。

「お家の名前がブロスカキでしょう?きっと庭にいっぱいある柿はそのせいね」

ブロスカキ公爵は自分の家名の由来など考えた事もなかったが、ディアセーラに言われて古い文献を屋敷の書庫で調べると確かに書いてあった。

ディオスプロス・カキ、神の食べ物と言われた「柿」で人々を救った先祖が当時の国王から賜った家名だったのである。当時は紙がなく、木簡などに記載をしており伝聞が主だったがどこかで、短くブロスカキとなった。


「楽しそうだな。父さんも混ぜて欲しいんだが?」
「あら?お父様。お帰りなさいませ。でも残念。ペルセスさんが手伝ってくださったのでもう終わってしまいましたのよ?お父様が作ってくださった畝より高さがあるの。でも他から土は持って来ていないのよ?」

隣ですきを持ったペルセスがペコリと頭を下げた。
2人とも顔まで土だらけになっている。

――案外、似合いの夫婦になるかも知れないな――

ふとブロスカキ公爵はそう思った。


「では助っ人はまた今度だな。夕食にしよう。2人とも着替えてきなさい」

ブロスカキ公爵の言葉にペルセスはハッとした。
そのままで公爵家に来たので唯一ある私服は寮にある。今着ている服は文官の支給服である。

しかし、ディアセーラの兄が着ていた服があるからと不安げなペルセスの背を押してブロスカキ公爵はペルセスと並んで歩きだした。

先に行くと走って行ったディアセーラの背が小さくなるとブロスカキ公爵はペルセスに声を掛けた。

「捻じ曲がらずに育った娘だと思うんだがな」
「そうですね。とても真っ直ぐな女性だと思います」
「だろう?私の自慢の娘なんだ。ただ…ずっと我慢を強いてしまった。あ、いやいや返事を急かすつもりはない。ただ娘もだが、いましばらくは君の身の安全を私にゆだねて欲しい」

「はい。お世話をおかけいたします。そのお礼にはならないのですが暫くの間、農園を手伝わせて頂きます」
「農園‥‥うーん。私は今でもあれは菜園にしたほうが良いと思っている」


夕食はペルセスが年に1度食べられるかどうかのブ厚い肉料理。
ナイフを入れるとナイフの必要があるのだろうかと首を傾げるほどに柔らかい。
パンも「綿」を触っているのかと思えるほどにフカフカ。

しかし、それは公爵家でも特別な料理なのだと食後に教えてもらった。
日頃は平民と差のない食事で、パンも固いものを温めているのだという。

「私達は領民に生かせてもらっているからね」

ディアセーラの着ていたワンピースも公爵夫人が帝国から嫁ぐ際に持ってきた衣類を手直ししたものだと言う。豪華なばかりではなく、質素な生活が基盤となっているブロスカキ公爵家の秘密をペルセスは知って高位貴族は贅沢三昧だという考えを上書きした事だった。




「昼間にも話をしたが、ディーの婚約は破棄となった。まぁ王家はまだ何かしら手を打って来ると思うから暫くの間は屋敷から出ない方がいいだろう。勿論それはリーフ子爵子息殿も同じだ」

「事業の式典の日も近いですわね。そちらは出なくても良くなりましたの?」

「あぁ、行かなくていい。人数も増えてこれまでにない斬新な式典になるだろうがブロスカキ公爵家は不参加だと伝えている」

「あら?そうなるとガラッシ侯爵家はどうされるのかしら?」

「ディーは気にしなくていいの。ビアンカにも手紙は出したし明日にもガラッシ侯爵が訪ねてくるわ」


ペルセスは事の重大さをジワジワと感じ始めた。
今日、明日ではないがいずれは枯渇する鉱山資源。気候によって収穫物の増減があるジェラティッド王国は文官をしていたペルセスも書類を精査する時に何とかならないものかと考えた事もあるが、諸外国からの輸入に日々の食料を頼っている現実もある。

ベネディクトの愚行は、愚行そのものも褒められたものではないが時期が悪すぎる。
この事業が頓挫するとなれば国へのダメージは計り知れない。


「主催となるガラッシ侯爵家も欠席と言う事ですか?」
「そうなるだろう。まぁ、そこも王家がどうするかお手並み拝見だ」
「ですが、民が困るのではありませんか?」
「良いところに気が付くね。うんうん。賢い子は好きだよ」
「いえ、学業はさっぱりでして…」

「賢さと言うのは学問の出来、不出来ではない。どこに視点が向くかだ」
「そうそう。言われても気づけない者が上に立つ。民にとってそんな不幸はないわね」

ディアセーラは何も言わずに食後の菓子をポリポリと齧っている。
ペルセスにはそんな何処にででも見かける女の子らしい行動もディアセーラが行えば新鮮に見えた。

「食べます?」

見られている事に気が付いたディアセーラが菓子を一つ差し出してきた。
甘いものは苦手だが、断るのもどうかと受け取った菓子を一口齧った。

「ん?‥‥んん??」

不思議な味だった。苦みがあるのだが薬ではない。

「ジンジャークッキー。ショウガを摩り下ろして混ぜ込んでいますのよ?体も温かくなるし甘くないので男性使用人もよく食べてくださいますの」

「よく食べてって…まさか、まさかの…」

「えぇ。作るのはわたくしです。調合、配合具合が難しいんですのよ。入れすぎるとエグくなってしまいますし、少ないと水の分量をその分減らしているのでパサパサ。摩り下ろす時の水分量なんかも見ていないとベチャベチャになってしまうんですの。加熱時間も小麦と分離してしまう事もありますし、繊維分が多いと…ほら、お父様の食べているジンジャーケーキ。失敗作だから歯に繊維片が挟まって取るのが大変なの」

ディアセーラが語ると菓子がまるで実験で作る成果品のように思えるのは何故だろうか。
まだ手を付けていないジンジャーケーキ。確かに細い繊維が髭のようにピョンピョンと飛び出している。食べきったのは良かったが、奥歯から数えて3つ目と4つ目に細い糸のようになったショウガの繊維が挟まってしまったペルセス。歯磨き前の爪楊枝と歯磨き後の糸楊枝の偉大さを実感したのだった。
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