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ペルセスの収監
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ベネディクトは騎士団から数人を連れてブロスカキ公爵家に出向いた。
それまでに見た事のない顔の門兵が出てきたが、王太子命令書を見せると慌てて通用口に駆け込んで行った。
「開門せよ。これは王太子命令に基づくものである」
屋敷に走った門兵が戻ってくるのを待たず、他の門兵達は開門するより術がなかった。
騎士団の兵を従えて、ベネディクトは久しく訪れる事の無かったブロスカキ公爵家の白い石を敷き詰めた門道をゆっくり馬に跨り進んだ。
玄関にはパトリシア公爵夫人が家令や執事と共に立っていた。
ベネディクトは馬から降りると先程門兵に見せた王太子命令書に基づく捕縛状の上下を手に持ち、夫人の前に広げ突きつけた。
「この程度で王太子命令とは畏れ入りますわ」
「罪は罪。出来れば私もこんな形で公爵家を訪れたくはなかった」
ペルセスは庭で芽が出た野菜に水やりをするディアセーラの持つ如雨露に水を補給するため桶に水を汲み往復をしていたが、ロープの付いた桶を井戸に放り込んだところで騎士団の兵に肩を叩かれた。
「王宮の備品。不法所持及び横領で捕縛する」
「えっ?どういう事です?」
「文書課の支給服。退職後、返却をせずにいるのではないか?」
「あ、あります。直ぐに返却を――」
「現時点では所持をしているのだな。押収させてもらう」
「返却をすると言っているではありませんか!」
「それは万引きをして見つかれば金を払うからいいだろうという理屈と同じだ。返却は勿論だが王宮の備品を不法に所持をしているのは罪に問われる。文官になった時の注意事項にあった筈だ」
ペルセスは肩を落としたが、うっかりであっても返却を未だに出来ていないのは怠慢であり横領と言われて仕方がない。支給服を着用していれば王宮への出入りはそれなりの位置まで出来る。
心無い者に売り飛ばしてしまえば、そのような輩が簡単に出入り出来てしまうのも事実なのだ。
なので、ボタン一つであっても紛失をすれば始末書を書かねばならないし、逆で拾った場合は届け出ると1食分の昼食代になる礼金が支払われる。古着屋などで見かけて通報すればそれも礼金の対象。
「初犯なんだ。返却をすれば数日の社会奉仕で済むだろう」
「はい、では先に支給服を取って参ります。その前に…今、菜園に散水をしているのです。水を運んでも良いでしょうか」
「無茶を言うな。散水などせずとも雨を待てばいいだろう」
騎士は待つことは出来ないとペルセスに告げた。
ペルセスは従うしかなく、玄関前で公爵夫人に菜園でディアセーラが水を待っているはずだと告げ、深く頭を下げた。
「直ぐに手続きをするから待っていて頂戴」
「ありがとうございます。ですが罰はしっかり受けてきます」
「こんな事で!本当にこの国は頭が腐れば末端まで菌が回るようね!」
騎士は公爵夫人の言葉に苦笑いを浮かべた。騎士たちも王太子命令まで出す程なのだからどんな重罪かと色めき立ったが罪状を聞いて自分の目と耳を疑った。
かの日、王太子ベネディクトがこのブロスカキ公爵家の令嬢を突き飛ばした傷害罪ならどんな命令書が出るんだと言った隊員もいたくらいだ。
しかし、騎士も軽微な罪である事や洗濯済みの支給服も返却された事で直ぐに釈放されるものだと思っていた。簡単な聴取だけだろうと聴取室で書面を作成していると、王太子付きの近衛兵がやってきた。
通常ならこれで騎士団の牢で1泊2食付きで帰されるはずが、ペルセスが収監されたのは処刑を待つ重罪人ばかりが天に召される日を待つ日の当たらない地下牢。
処刑は数日のうちに行われる事から地下牢にはいると水も食事も与えられない。
尤も、ランプの灯りが無ければどこに何があるかも判らない暗闇で食事を運んでも手探りで探す間に水の入ったカップは倒れるだろうし、パンは得体のしれない虫のエサになるだけだ。
「厳しすぎませんか?こちらの牢には空きもあります」
「王太子殿下の命令だ。通常捕縛ではないのだ。身柄はこちらで預かるとの事だ」
騎士たちの言葉も近衛兵にかき消され、ペルセスは暗闇の地下牢に放り込まれた。
辛うじて鉄格子の向こうに投げ込まれる時、薄くランプの灯りに独房である事が判っただけでも僥倖だろうとペルセスは湿気なのか沁み出てきた地下水なのか、背を預けた壁の冷たさを感じながら暗闇しか見えない天井を見上げた。
それまでに見た事のない顔の門兵が出てきたが、王太子命令書を見せると慌てて通用口に駆け込んで行った。
「開門せよ。これは王太子命令に基づくものである」
屋敷に走った門兵が戻ってくるのを待たず、他の門兵達は開門するより術がなかった。
騎士団の兵を従えて、ベネディクトは久しく訪れる事の無かったブロスカキ公爵家の白い石を敷き詰めた門道をゆっくり馬に跨り進んだ。
玄関にはパトリシア公爵夫人が家令や執事と共に立っていた。
ベネディクトは馬から降りると先程門兵に見せた王太子命令書に基づく捕縛状の上下を手に持ち、夫人の前に広げ突きつけた。
「この程度で王太子命令とは畏れ入りますわ」
「罪は罪。出来れば私もこんな形で公爵家を訪れたくはなかった」
ペルセスは庭で芽が出た野菜に水やりをするディアセーラの持つ如雨露に水を補給するため桶に水を汲み往復をしていたが、ロープの付いた桶を井戸に放り込んだところで騎士団の兵に肩を叩かれた。
「王宮の備品。不法所持及び横領で捕縛する」
「えっ?どういう事です?」
「文書課の支給服。退職後、返却をせずにいるのではないか?」
「あ、あります。直ぐに返却を――」
「現時点では所持をしているのだな。押収させてもらう」
「返却をすると言っているではありませんか!」
「それは万引きをして見つかれば金を払うからいいだろうという理屈と同じだ。返却は勿論だが王宮の備品を不法に所持をしているのは罪に問われる。文官になった時の注意事項にあった筈だ」
ペルセスは肩を落としたが、うっかりであっても返却を未だに出来ていないのは怠慢であり横領と言われて仕方がない。支給服を着用していれば王宮への出入りはそれなりの位置まで出来る。
心無い者に売り飛ばしてしまえば、そのような輩が簡単に出入り出来てしまうのも事実なのだ。
なので、ボタン一つであっても紛失をすれば始末書を書かねばならないし、逆で拾った場合は届け出ると1食分の昼食代になる礼金が支払われる。古着屋などで見かけて通報すればそれも礼金の対象。
「初犯なんだ。返却をすれば数日の社会奉仕で済むだろう」
「はい、では先に支給服を取って参ります。その前に…今、菜園に散水をしているのです。水を運んでも良いでしょうか」
「無茶を言うな。散水などせずとも雨を待てばいいだろう」
騎士は待つことは出来ないとペルセスに告げた。
ペルセスは従うしかなく、玄関前で公爵夫人に菜園でディアセーラが水を待っているはずだと告げ、深く頭を下げた。
「直ぐに手続きをするから待っていて頂戴」
「ありがとうございます。ですが罰はしっかり受けてきます」
「こんな事で!本当にこの国は頭が腐れば末端まで菌が回るようね!」
騎士は公爵夫人の言葉に苦笑いを浮かべた。騎士たちも王太子命令まで出す程なのだからどんな重罪かと色めき立ったが罪状を聞いて自分の目と耳を疑った。
かの日、王太子ベネディクトがこのブロスカキ公爵家の令嬢を突き飛ばした傷害罪ならどんな命令書が出るんだと言った隊員もいたくらいだ。
しかし、騎士も軽微な罪である事や洗濯済みの支給服も返却された事で直ぐに釈放されるものだと思っていた。簡単な聴取だけだろうと聴取室で書面を作成していると、王太子付きの近衛兵がやってきた。
通常ならこれで騎士団の牢で1泊2食付きで帰されるはずが、ペルセスが収監されたのは処刑を待つ重罪人ばかりが天に召される日を待つ日の当たらない地下牢。
処刑は数日のうちに行われる事から地下牢にはいると水も食事も与えられない。
尤も、ランプの灯りが無ければどこに何があるかも判らない暗闇で食事を運んでも手探りで探す間に水の入ったカップは倒れるだろうし、パンは得体のしれない虫のエサになるだけだ。
「厳しすぎませんか?こちらの牢には空きもあります」
「王太子殿下の命令だ。通常捕縛ではないのだ。身柄はこちらで預かるとの事だ」
騎士たちの言葉も近衛兵にかき消され、ペルセスは暗闇の地下牢に放り込まれた。
辛うじて鉄格子の向こうに投げ込まれる時、薄くランプの灯りに独房である事が判っただけでも僥倖だろうとペルセスは湿気なのか沁み出てきた地下水なのか、背を預けた壁の冷たさを感じながら暗闇しか見えない天井を見上げた。
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