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第04話 ひとめ会ったその日から咲いた花
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良く晴れた日。
ゼスト公爵家のスカッドは仕立てて貰ったばかりの服に袖を通した。
幼い頃から王国1番と言われたスカッドは見目麗しい少年で、母親の開く茶会にはスカッド見たさに招待状を欲しがる夫人もいた。
成長が楽しみと誰もが口にする美少年がスカッドだったが、スカッドも年相応の少年。
かなりの悪戯っ子だった。
「いいですか?スカッド。女の子には優しく!庭の散策ではいつものように木に登ったり、虫を採ったり、池の中で鯉を捕まえようだなんてしてはいけませんよ」
公爵家子息とは言え、10歳のスカッドはじっと大人しく座って講師の話を聞く座学よりも、弟のスペリアーズと共に庭を所せましと遊びまわるのが好きだった。
同年代のよく一緒に遊んでいる子息の中にも婚約者が出来た者はいる。
「母上が五月蠅くって」といつも一緒に遊ぶメンバーも半分ほどになった時に、ついに自分にも婚約者が出来ると言う事に「面倒臭いな」と思っていた。
4つある公爵家のうちの1つであるゼスト公爵家は珍しく選民思考の薄い家だった。
なので、友達から「子爵家の女なんて奴隷と一緒だ。俺が躾も付き合ってやるよ」と殴る蹴るを身振りで示され言われたのだが、「そんな事しなくても」と今後の付き合いを考えねばと思ったくらい。
「ボーン子爵家のへリンちゃんよ。ほら、ご挨拶なさい!」
母親のゼスト公爵夫人は、挨拶の場でピクリともしなくなったスカッドの背をちょっとだけ強めに押した。
「ぼっ・・・僕、スカッ・・・スカッ・・・スカッドでぇす!」
何度も詰まってしまった上に声まで上ずってしまったスカッドは耳まで真っ赤になった。
「ボーン子爵家のへリンです。こんにちは公爵さま。こんにちはスカッドさま」
挨拶をすると「これで良かった?」とボーン子爵の顔を見上げるヘリン。
スカッドの目には陽光の中でキラキラと星の瞬きを背負っているかの如く輝いているヘリンが瞳の中をぐるぐると回る。見事なまでに一目で心を射抜かれてしまった。
「お庭を散策しておいでなさいな‥‥(ぼそっ)判ってるわね?スカッド」
粗相のないようにと母親から釘を刺されたスカッドだったが、右手と右足が一緒に出る上に、歩くために前に出した足の膝も真っ直ぐ。まるで王宮を巡回警備する衛兵のような歩き方だった。
「スカッドさまは何がお好きなんですか?」
「(へリン)・・・・・」
心では盛大に名を叫んでいても、声には出せないスカッド。
返事が返ってこない事にヘリンも家で両親や兄夫婦と何度か繰り返した練習には無かった事に、次の言葉も飛んでしまう。
「えぇっと…次は何を聞くんだっけ…えぇっと‥えぇっと‥」
隣で悩んでいるヘリンの髪が首を傾げるたびにふわりと揺れて、スカッドの心も揺れる。
まだ10歳のスカッドには「フォロー」という行動も起こす事が出来なかった。
初見は会話にならない会話となったが、スカッドは寝ても冷めてもヘリンの事で頭がいっぱい。この事がきっかけになり父親に「真面目に取り組まないと婚約は白紙する」と言われ、それはもう真面目に取り組んだ。
先に思春期を迎えたスカッドは大人になって行う行為も学び、講師に「不特定多数と関係を持つことを女性は嫌う」と教えられると言い寄る令嬢を退け、「ひ弱な男」と思われないように剣術の腕も磨いた。
へリンへの贈り物ですら、自分の瞳の色と同じ青い石の付いたネックレスを見て鼻血を噴き上げる。面と向かっては舞い上がってしまうので禄に会話も続かないが、クローゼットの中で「リンちゃん」と名付けたテディベア人形には聞いている方が赤面してしまうような愛の言葉を繰り返し練習した。
練習の成果は徐々に出始めて、会話もだんだんと続くようになった。
スカッドの中でへリンは心の全てを占めていて、2人の仲睦まじい様子は周囲も笑顔にした。
初めて手を握ったのはへリンが15歳で迎えたデヴュタントのダンス。
婚約して実に7年目の事だった。
自分の婚約者なのだと知らしめるために、へリンが父親と踊った後は周囲を威嚇しまくってダンスを踊り続けた。人の多い会場から出て、スタッドはへリンを噴水の近くに連れ出した。
「何曲踊ったかな…3、いや5曲だったか。足は痛くないか?」
「痛くないですよ。スカッド様、外は涼しいですね。風が気持ちいいです」
「そうだな…リン。今日はデヴュタントだから白いドレスだけど、茶会までにはドレスを贈るよ。着てくれる?」
「勿論です。でもあまり高価なドレスは・・・」
スカッドもヘリンもこの婚約の意味は知らされている。
期間限定の婚約で、10年目が来た時には白紙になるか、結婚を見据えての継続となるか。スカッドの心は決まっていた。
「リン。僕はリン以外の女性は考えられない」
「スカッド様・・・ですがこの婚約は・・・」
「判っている。だからだ。リンが20歳になった時、隣にいるのは僕だ。その先もずっと手を取り合っていくのはリンが良いし、リンじゃないと嫌なんだ。大好きだ。僕と結婚してくれる?」
「はい。スカッド様」
永遠の愛を誓いあう噴水の前でスカッドとへリンは互いに初めてとなるキスを交わした。
その翌月、スナーチェの登場により婚約して9年目。
もともと婚約を白紙にしようとした期日まであと1年を残すばかりとなった時に、婚約が白紙ではなく破棄となるだなんて誰も思わなかった。
ゼスト公爵家のスカッドは仕立てて貰ったばかりの服に袖を通した。
幼い頃から王国1番と言われたスカッドは見目麗しい少年で、母親の開く茶会にはスカッド見たさに招待状を欲しがる夫人もいた。
成長が楽しみと誰もが口にする美少年がスカッドだったが、スカッドも年相応の少年。
かなりの悪戯っ子だった。
「いいですか?スカッド。女の子には優しく!庭の散策ではいつものように木に登ったり、虫を採ったり、池の中で鯉を捕まえようだなんてしてはいけませんよ」
公爵家子息とは言え、10歳のスカッドはじっと大人しく座って講師の話を聞く座学よりも、弟のスペリアーズと共に庭を所せましと遊びまわるのが好きだった。
同年代のよく一緒に遊んでいる子息の中にも婚約者が出来た者はいる。
「母上が五月蠅くって」といつも一緒に遊ぶメンバーも半分ほどになった時に、ついに自分にも婚約者が出来ると言う事に「面倒臭いな」と思っていた。
4つある公爵家のうちの1つであるゼスト公爵家は珍しく選民思考の薄い家だった。
なので、友達から「子爵家の女なんて奴隷と一緒だ。俺が躾も付き合ってやるよ」と殴る蹴るを身振りで示され言われたのだが、「そんな事しなくても」と今後の付き合いを考えねばと思ったくらい。
「ボーン子爵家のへリンちゃんよ。ほら、ご挨拶なさい!」
母親のゼスト公爵夫人は、挨拶の場でピクリともしなくなったスカッドの背をちょっとだけ強めに押した。
「ぼっ・・・僕、スカッ・・・スカッ・・・スカッドでぇす!」
何度も詰まってしまった上に声まで上ずってしまったスカッドは耳まで真っ赤になった。
「ボーン子爵家のへリンです。こんにちは公爵さま。こんにちはスカッドさま」
挨拶をすると「これで良かった?」とボーン子爵の顔を見上げるヘリン。
スカッドの目には陽光の中でキラキラと星の瞬きを背負っているかの如く輝いているヘリンが瞳の中をぐるぐると回る。見事なまでに一目で心を射抜かれてしまった。
「お庭を散策しておいでなさいな‥‥(ぼそっ)判ってるわね?スカッド」
粗相のないようにと母親から釘を刺されたスカッドだったが、右手と右足が一緒に出る上に、歩くために前に出した足の膝も真っ直ぐ。まるで王宮を巡回警備する衛兵のような歩き方だった。
「スカッドさまは何がお好きなんですか?」
「(へリン)・・・・・」
心では盛大に名を叫んでいても、声には出せないスカッド。
返事が返ってこない事にヘリンも家で両親や兄夫婦と何度か繰り返した練習には無かった事に、次の言葉も飛んでしまう。
「えぇっと…次は何を聞くんだっけ…えぇっと‥えぇっと‥」
隣で悩んでいるヘリンの髪が首を傾げるたびにふわりと揺れて、スカッドの心も揺れる。
まだ10歳のスカッドには「フォロー」という行動も起こす事が出来なかった。
初見は会話にならない会話となったが、スカッドは寝ても冷めてもヘリンの事で頭がいっぱい。この事がきっかけになり父親に「真面目に取り組まないと婚約は白紙する」と言われ、それはもう真面目に取り組んだ。
先に思春期を迎えたスカッドは大人になって行う行為も学び、講師に「不特定多数と関係を持つことを女性は嫌う」と教えられると言い寄る令嬢を退け、「ひ弱な男」と思われないように剣術の腕も磨いた。
へリンへの贈り物ですら、自分の瞳の色と同じ青い石の付いたネックレスを見て鼻血を噴き上げる。面と向かっては舞い上がってしまうので禄に会話も続かないが、クローゼットの中で「リンちゃん」と名付けたテディベア人形には聞いている方が赤面してしまうような愛の言葉を繰り返し練習した。
練習の成果は徐々に出始めて、会話もだんだんと続くようになった。
スカッドの中でへリンは心の全てを占めていて、2人の仲睦まじい様子は周囲も笑顔にした。
初めて手を握ったのはへリンが15歳で迎えたデヴュタントのダンス。
婚約して実に7年目の事だった。
自分の婚約者なのだと知らしめるために、へリンが父親と踊った後は周囲を威嚇しまくってダンスを踊り続けた。人の多い会場から出て、スタッドはへリンを噴水の近くに連れ出した。
「何曲踊ったかな…3、いや5曲だったか。足は痛くないか?」
「痛くないですよ。スカッド様、外は涼しいですね。風が気持ちいいです」
「そうだな…リン。今日はデヴュタントだから白いドレスだけど、茶会までにはドレスを贈るよ。着てくれる?」
「勿論です。でもあまり高価なドレスは・・・」
スカッドもヘリンもこの婚約の意味は知らされている。
期間限定の婚約で、10年目が来た時には白紙になるか、結婚を見据えての継続となるか。スカッドの心は決まっていた。
「リン。僕はリン以外の女性は考えられない」
「スカッド様・・・ですがこの婚約は・・・」
「判っている。だからだ。リンが20歳になった時、隣にいるのは僕だ。その先もずっと手を取り合っていくのはリンが良いし、リンじゃないと嫌なんだ。大好きだ。僕と結婚してくれる?」
「はい。スカッド様」
永遠の愛を誓いあう噴水の前でスカッドとへリンは互いに初めてとなるキスを交わした。
その翌月、スナーチェの登場により婚約して9年目。
もともと婚約を白紙にしようとした期日まであと1年を残すばかりとなった時に、婚約が白紙ではなく破棄となるだなんて誰も思わなかった。
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